「
退屈な日常を過ごしていた俺は、ある日、ひょんなことから不思議な力を授かった。突然やってきた転校生から告げられた言葉に俺は思わず頷いてしまった。
「私を生涯守りなさい!」
はぁ……こんなことやりたくなかったんだが、女の子が可愛くてつい言っちまったぜ。
今日もあいつは朝一番に俺の家に侵入してきやがる。
だーかーらーやめろって。俺の言葉を無視してあいつは堂々と部屋に乗り込んできた。
俺はまだ寝たいんだ。冗談じゃない。俺は布団を被った。まるでカメのように守りを固めた。
奴はカメを付け狙うトラのように爪で甲羅を剥いだ。
寒いじゃねぇか。
俺は奴に反撃すべく
」
そこまで“台詞”を吐いていた少女は、デカ枕に顔を埋めて悶絶していた。
よくあるラノベの導入部っぽい文章とはどんなものなのかを研究していた最中の出来事である。
くるりと銀髪を翻しゴスロリチックなドレスを整えた少女はこほんと乾いた咳を一つこぼすと、近くの椅子に腰を下ろした。
「引っかかったな? 冒頭を良く読むのだ。ちゃんと「が置かれておるではないか。位置がずれているが、「があるということは、これは地の文ではなく、会話文なのだ。まんまと嵌めるにはもっと文章量を増やしてカモフラージュすればよかったのだがな! さすればスクロールが面倒になって見落とす確率が上昇する!」
えへんと無い胸を張ってドヤ顔を決める少女の名をハルトシュラーと言った。説明はめんどくさいので前の話を読み返すなり調べるなりしてください。
少女は深夜特有のテンションで次なる創作活動に移っていた。
どこからともなく紙を取り出すと、これまたシンプルな鉛筆でさらさらと絵を描き出す。
大まかな骨格を描き、肉付けをする。顔は丸。胴は楕円。手足は線からの派生。おおまかな構図は脳内にある。肉を付けて、線を選ぶ作業に移った。人体には不可能な肉のつき方にならぬよう、関節の向き、筋肉、イラスト特有のくずした描き方などを考慮して、さらさらと線を描く。いらない線は消しゴムで消していく。撫でるように線を取り去れば主なる線が見えてきた。
ふぅむ。細く白い喉から吐息を漏らせば、次にボールペンを使いペン入れしていく。彼女はあくまでアナログ派である。
すらりすらりと髪をなぞり、着物の重なりを表現して、簡単に背景を描く。
線を入れ終わったら紙を机に置いてじっと眺めてみた。
赤っぽい色をした着物。下から上へ色合いが深くなっていくグラデーション。あちこちに紅葉がちらばった布地。肉体はすらりとしており、肢体は整い、しかし頭には日本のもとい二本の角。斜に被るは般若の面。烏の濡れ羽色の髪の毛は無造作に腰に下ろされキューティクルが光を輪としていた。顔立ちは日本人形そのもののようでありながら目立ちは鋭く、手に握られた薙刀は威嚇的である。
様々な事情を経て誕生した創作物の一つ―――日本鬼子である。創作発表板で創作されていた経緯を持つのはあまり知られていない………過疎板の宿命って悲しいよねというアピールに決まっている。
ハルトは、おもむろにその紙を放り投げた。
すると、あろうことか紙は瞬く間に変化を遂げて、鬼子へと姿を変えたのである。
鬼子は宙から出現した。あわや尻もちかと思いきや俊敏な身のこなしで宙返りを決めると、華麗に降り立った。
「我を呼ぶのは汝か」
「……やけに古い言葉遣いだが気にしないぞ。私はすべてを受け入れるのだ」
「しかしキャラが被る」
「続けろ」
「日本鬼子だから古臭いしゃべり方させときゃいいだろみたいな風潮、ファックです」
「日本鬼子が現代風のしゃべり方だとおかしいではないか」
「生まれたの、現代じゃないですか!」
ぷんぷんと頬を膨らませる鬼子を、ハルトはいつの間にか出現させた炬燵と蜜柑で迎え入れた。
しかしハルトは首を振った。
「待て。炬燵では読みにくい。コタツと文字を崩すべきだ。蜜柑もミカンで」
ぷんぷんと頬を膨らませる鬼子を、ハルトはいつの間にか出現させたコタツとミカンで迎え入れた。
ハルトは首を振ると鬼子にコタツに入るように促した。
スーパーぬくぬくタイム開始である。
「なぜ呼んだんですか?」
「どうせ暇だろう。一時期あんなもてはやされたお前も今ではずいぶんと陰りが見えているようだし」
流行りものの常である。
鬼子は口元をわなわなさせつつミカンを剥き始めた。
「ぐっ……胸に刺さることを」
「薄い本に期待するしかないな!」
「どうせ私山奥に住む設定なんでしょう? 現代伝奇をやりたいのに……」
「まぁまて、その設定も本設定ではなかろうに」
「そうですね。私に本来設定はありません。好きなようにやれ。創作発表キャラっぽい特性を持っています」
「だからここにいるお前も、この小説に限った存在。設定だ。ちなみに私もだぞ」
二人はテレビを付けた。
「最近のテレビは面白くないとよく聞きますが……はむ。おいしいです」
ミカンを頬張りながら鬼子がいうと、ハルトはいつの間にかマグカップ入りマッ缶をチビチビやりつつ肘をついていた。
「面白くはないだろうよ。インターネットが出てしまった。自由度に欠けるテレビに勝ち目はない。インターネットは現状テレビより強い。テレビは情報の速度と正確さで勝負するしかない」
「真面目なことを言ってるなんて」
「バカにしてもらっては困る。テレビ番組もまた創作……と」
「ところで私いつ帰れるんですか?」
「帰るというより話の尺だろう。目的の2000文字は達成してることだし終わりでいいよ」