貼ると修羅   作:キサラギ職員

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創作活動について戦う第四話

 

 舞台は地球のどこか。具体的に描写しないので、地球のどこかとしか言いようがない。

 もっとも、彼女のいるところ、火星だろうが太陽だろうが舞台になりえるのだが。

 暗闇にスポットライトが灯って人物の容姿を鮮明に際立たせた。

 

 「そこのお前! 創作活動は楽しいか? どんな風に楽しい! どうして作ろうと思った!」

 

 銀髪の少女が問いかける。彼女はハルトシュラー。創作活動を司る存在。創作活動という海の中で誕生した生命体である。創作活動というそのものが彼女を作った。やがて彼女は創作を始めた。いつしか創作の魔王という名前をいただいた。この話を知るものはあまりいないだろう。2ちゃんねるのごく一部。創作発表板という極めて住民数の少ない場所で誕生したマイナーキャラクターだからだ。知名度では地方のゆるキャラにも劣る。けれど、創作活動そのものを具象化したキャラクターが存在しない以上、彼女は魔王なのだ。

 彼女は言う。

 春と修羅と。

 貼ると修羅。すなわち作品で己を語ることだ。

 作者は作品でこそ己を語るという主義の誕生経緯が彼女のすべてである。

 彼女は耳を傾けた。

 世界には数多くの作品がある。作者がいる。言葉がある。

 

 『ファンタジーの醍醐味って現実にはない剣と魔法だよね』

 

 『イラストは幼稚園が起源だなー』

 

 『フリーゲーム用に作曲を始めたのが原点だった』

 

 『SFは広大な宇宙だって旅できる』

 

 『恋愛ものはいい。イチャイチャからハーレムまで楽しめる』

 

 『本を読むのが好きだった。特に、あの本が楽しくて物まねから始めた』

 

 『資料本から入ったわ』

 

 『感想が欲しかった。誰かに認めてもらいたかった』

 

 『将来、小説家になりたくて書き始めたんだよ』

 

 『父親に勧められた本が面白くて』

 

 『インターネットで自然と小説に触れるようになって書きたくなった』

 

 『エロ小説いいよな。だって現実じゃこんなことできねーもん』

 

 『フラッシュかな。ソフトを使って動画を作り始めたのはフラッシュで大笑いしたのが始まりかも』

 

 『パソコンがなかったから紙に設定纏めてたわ。黒歴史っての?』

 

 彼女は言葉の列の中に、こんなものを見つけた。

 

 

 『連載を続けてポイント維持しないと。せっかくここまで上り詰めたのに。

  流行りの要素を入れるだろ、連載速度を上げるために一話を少なくして、

  可愛い女の子もじゃんじゃん入れる。あとは挿絵か? いや、挿絵なんて入れたらバカにされる。』

 

 それは不安だ。足場が崩れるという不安である。

 

 

 『もう疲れた。いくら書いても人気でないし。面白くもないわ。スレでも荒らすか』

 

 それは徒労感だ。己が評価されずに生まれる無気力だ。

 

 

 『普通のオリジナルは評価されないのに流行り要素たんまりいれたらアクセス増かよ』

 

 それは憎悪だ。評価の指向性が流行りに向いている真実に気が付いた憎しみだ。

 

 

 『こりゃ楽だわ。次回作も似たような感じでいこう』

 

 それは思考放棄だ。考えることをやめ、評価だけを得ようとする姿勢だ。

 

 

 『スレでどさくさに紛れて宣伝するか。ステマってやつ。ばれないだろ』

 

 それは投げやりだ。どうせ変わらないという態度だ。

 

 

 『エロ絵だけ評価とお気に入りが増えて、真面目な絵は増えもしない。落ち込むわ』

 

 それは絶望だ。己の絵などどうでもいいのではという悲しみだ。

 

 

 ハルトはもう一度訊ねた。

 魂の叫びだ。

 

 「……本当に、楽しいのか?」

 

 小説を書いてて楽しいのか。創作活動していて楽しいのか。この素朴な疑問に答える人はいるはずだ。

 様々な言葉が染み出てきた。

 

 『もちろん』

 『当たり前』

 

 けれど、やっぱりこういう言葉もある。

 

 『書かないと人気が下がる』

 『早く、もっと早く』

 『ランキングから落ちたくない』

 

 「……本当に楽しいのか?」

 

 ハルトがそう問いかけると、言葉が消え去ってしまった。

 ハルトは胡坐をかくと空間に紙と鉛筆を取り出した。さらさらと落書きを書いては消す。それは設定であり絵である。幼稚な絵。中二病をこじらせたような凝った設定。あなたはバカにできるのだろうか? 本当に馬鹿にしてもいいのだろうか。本人が誰に迷惑かけずに楽しんでいることをバカにできるのだろうか。その姿はかつてのあなたに重ならないだろうか。

 ハルトは紙を横にのけると腕を組んだ。

 流れては消えていく作品を見つめる。

 千では足りない。万、億という単位である。

 

 「似たような作品。誰かのアイディアを持ってきて書いたもの。自分が楽しいからではない。誰かを楽しませたいからなどでもない。ただ書いて、数字に一喜一憂する、まるで無味乾燥な作品………」

 

 ハルトは空を仰いだ。空もまた彼女の創作だ。デリートキーを押すだけで消えてしまう脆い空。

 ふぅ、とため息を吐くと空に舞い上がった。

 空に舞い上がったという文字をタイプするだけで浮かぶことができる。それは、創作の特権である。

 ローマ字ないしカタカナ入力だけで世界は完成する。

 ハルトは作品の流れを上から俯瞰した。

 

 「私は楽しさゆえに生まれたのだ。私は作者に修羅となれとも言ったが」

 

 ハルトシュラ―主義とは作品で語る主義である。

 主義主張はすべて作品に込めて作者は作品に精魂を預けるのだ。

 ハルトはどこか空虚な表情を浮かべた。

 見つめる先は地平線である。

 

 「根源を見失ってはいけない。創作者の根源とはなんだ。楽しいという切っ掛けが評価されたいという顕示欲に繋がりモチベーションとなる。面白い作品があるからこそ、それを超えてみたくなる。純粋な気持ちが原動力ではなかったのだろうか? 人は大人になるにつれて純粋を失うものだ。理想は色あせ、現実がとってかわる………」

 

 彼女はそう呟くと腕を組んだ。

 ここは虚空。遥か下方に町がある。彼女を支えるものはない。しかし彼女は落ちない。落ちないと文章に書いているからだ。

 重力など関係ない。イメージの世界において足枷とはならない。時よ止まれと唱えれば運命だって変わる。自由こそ創作の本質なのだ。

 ハルトは心の内を吐き出すようにして言葉を紡いだ。

 

 「私は修羅になれとも言ったが、マシーンと化してはならない。ただ、人気のためだけに筆を動かす。楽しくもなんともない。評価されなくなる恐怖。いつの間にか自分の作品などなくて、誰かに評価されるだけのマネキンだけが作り上げられていく。この構造に私はとてつもない恐怖を感じるのだ。そう、構造だ」

 

 彼女は創作活動である。作るということに関してシリアスに考察するのは、当然である。人間がなぜ人間なのかを哲学するように。彼女もまた哲学する。

 すると、彼女の言葉に釣られたかのように、空間が歪んだ。

 ま   るで波  紋が広が る

       か

 の       よ  う

 文字列が歪んだ。

 空間の歪みが最大限に達したとき、それは現れた。

 空間からぬらりと影が染み出す。まるで母体からはい出る赤子のように、影が身じろぎをしつつ、ハルトのいる空間へと進出してくる。影はじっくり時間をかけて一枚の膜を突き破り実体化した。

 ハルトと似通った顔立ち。ただし耳は尖ったアンテナであり、目は作り物、背中にはメカニカルな翼が生えており、彼女を取り囲むかのようにデータグラフや図や画像が泳いでいた。服装も、メイド服と水着と鎧と和服を混ぜ合わせたようなごった煮。すべての要素を取り込もうとした異形の服である。

 ハルトは警戒して身構える。知らない奴だ。新キャラに違いなかった。日夜新キャラが生み出される創作の世界では、突然新キャラに襲われることも日常茶飯事。あるキャラクターはあるキャラクターに殺されて、あるキャラクターはあるキャラクターに恋をした。それが創作の世界だ。背中を刺されることだって珍しくもない。

 そのハルトによく似た存在はにっこり笑うと肯定した。

 何を? 創作をである。

 まるで悪魔のような笑みだった。美しさだけを固めたような吐き気を催させる笑み。

 もしくは、天使のような笑み。だが天使とも悪魔とも断言できないであろう。なぜなら、天使でもあり、悪魔でもあるからだ。ハルトがカオスならば、その存在はコスモスであろう。

 

 「肯定しましょう。創作活動とは自己満足です。商業作品も所詮は自己満足。金をむしる手段の一形態でありつつ自己満足が大部分。評価されたいという気持ちが商業という進化を得たに過ぎない。ならば、人は波に乗ればいいのです。なぜ戸惑う必要があるというのですか。波に乗るためにとった行動はすべて正しいのですよ」

 

 一拍置くと、片手でグラフ等を横に除けた。グラフは売り上げを示すものもあれば、URLや、QRコードでもあった。

 笑顔はまるで作り物のよう。否、人を魅惑する魔力を持っていた。たとえ男女問わず惹きつけられるであろう甘美な引力があったのだ。それは顔だけではない。空間そのものから放たれているようであり。

 リアル世界でサーバーを吹っ飛ばした夕鶴とも一線を分かつ異質な存在とハルトは認識した。だが、夕鶴がまるっきり別の存在ならば、その存在は違った。まるでハルトと鏡合わせの虚像のように感じられる。

 その存在は、笑顔を変えないまま、唇を動かした。

 

 「創作活動は、あらゆる手段を行使すべきなのです。それが法律に触れない限りは、テンプレートや流行の要素をも取り込み、膨張するのが正しいのです。そこに自我の有無など必要ではないのです。みんなが注目してくれる。それは正しいことと考えましょう。祝福しましょう。我が子が生まれてゆきます。喜ばしいことです」

 「いや、違う!」

 「何が違うというのでしょう。その前に、自己紹介をしておかなくてはなりませんね」

 

 ハルトが反論しようとすると、その存在は胸に手を置いて見せた。

 

 「我が名はマキナ。外なる神にしてあなたと同じ創作の魔王。あなたが自由な創作を司るならば、わたしは制御された創作を司るもの。より理性的かつ打算によって需要を見極めて供給することを推奨するもの」

 

 マキナ。それは機械を意味するラテン語。機械、それは計算で動くもの。

 マキナは笑みを崩さぬままハルトに近寄った。翼がゆっくりと宙を掻く。足元では文字が生えては枯れていく。

 

 「私は、何か人気のあるものを模倣して製造された、一つの作品。一種の、型にはまったもの(クリーシェ)。どうです? 似ているでしょう。なぜなら私はハルトシュラーという偶像に似せて作られたからです。ハルトシュラー。あなたは不要なのですよ。この世界は波でできている。波の中で誕生した不要物は排除されなくてはならない」

 

 そうマキナは言うと、手のひらに剣を顕現させた。途方もなく平坦で模様も特徴の一切も存在しない剣という概念そのものである。剣の様式を守り刃こそあるが、剣の本体に実体は存在しない。我々が思い描く剣のいずれにも合致しない。だが、誰に見せても剣であると認識できる。まるで作り手の意思などなく、感動もなく、ただあるだけの武器。剣たれ、と文章で念じられたから、剣という形をとっただけの武器。量産品であり、一品もの。

 マキナはそれをゆったりと掴み取った。剣がぬらりと空間の歪みから引き抜かれる。波紋が広がっていった。

 ハルトは動かなかった。動けないのかもしれない。動く必要すらなかったのかもしれない。

 マキナは、ハルトとそっくりな相貌に笑みを張り付かせたまま、剣を構えた。不気味な低音が鳴る。

 

 「さようなら、ハルトシュラー」

 

 剣が振り下ろされた。

 肉を断つ感触にマキナは、歓喜の声を上げた。

 肩から腰までを剣に切り裂かれたハルトは耐えがたい灼熱の苦痛を感じ、己の体が制御不能に陥ることに抵抗することさえできなかった。足元が脱力して倒れ込む。己の血液が地面に広がっていった。生ぬるい赤の水溜りの中でハルトは無力な子供でしかなかった。

 私は死ぬのか。ハルトは考える。

 あなたは死ぬのです。マキナが肯定した。

 やがてハルトは、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 剣が振り下ろされずに直前で静止した。

 

 「何?」

 

 怪訝な顔をしてマキナが剣を構えなおす。確かにハルトを斬ったはずだ。はずなのだ。

 しかし目に前にいるハルトは無傷。血の一滴も垂れていない。

 ハルトを取り囲むようにペンやエンピツやパソコンやクレヨンが竜巻を作っている。創作活動に欠かさせない道具たちだ。その道具たちは役割を終えたと言わんばかりに塵となり電子データの海に去って行った。

 マキナは察した。

 腐っても創作の魔王。一筋縄ではいかない。

 

 「まさか、作品を書き換えたとでも」

 「ご名答。今さっきの展開を書き換えさせてもらった。もっとも、そう何度も使える手ではないのだが。あまり修正しすぎると作品自体が壊れてしまい、正常の終わり方にたどり着けない。一話を完結させられないということは外部に発信する以前の問題だ」

 「油断したようですね、私としたことが情けない。今度こそ終わりですね。我が剣を受けなさい」

 

 崩れた笑みを再び灯したマキナの剣はしかし一本の記号にはじき返された。

 一本の棒がハルトの手の中に握られている。もっとも古いであろう記号。人類が文字を発明するより前、地面などに描いていたであろう、ただの棒線。それは歌を伴っていた。また、色合いも様々だ。青であり、赤である。見る人によって色も匂いも違う。渾身の作品でもあるし、なんとなく書いてしまった作品でもある。

 ――言うならば、原初の創作。

 『―』という記号が、剣を受け止めていたのだ。

 ハルトは剣を弾き返すと優雅に眼前に構え、右手に握ってだらんと垂らした自然体に移行してみせる。

 

 「こいつを引き出すことになるとはな。覚悟しておくがいい、マキナ」

 

 マキナは焦りひとつ見せなかった。むしろ予想していたと言わんばかりの堂々たる態度。

 ただ剣を構える。敵を斬るために。肉体を半透明なオーラが包む。

 

 「望むところです」

 

 マキナが光の速度を超えて機動した。翼がはためき時間が置いてきぼりにされる。推進力などいらない。光の速度で飛ぶと描写したからこそ、光の速度で動けるだけである。マキナの本質は創作。ハルトの別の側面の体現者。ならば、同じような力が使えるのも道理である。

 地球を飛び出し宇宙へ。月と地球の狭間でハルトの横を通りざまに斬りつける。

 だが、すでにハルトはいない。

 ハルトの姿がただの文字列と化して粉砕したのだ。

 マキナの背後にハルトが出現した。背後から棒を殴りつけ、ついでに蹴っ飛ばす。

 

 「かふっ……!?」

 

 マキナが痛い悲鳴をあげて月へかっとんでいった。

 月兎たちは何事かと空を仰いでいた。するとどうだろうが、次の瞬間には翼を生やした人が現れたのだ。泡食って逃げ出していった。

 月面まで飛ばされたマキナは、地球より長くなった棒がバッドの要領でフルスイングされるのを見た。末端部は明らかに光を追い越している。直撃を避けるべく剣を巨大化させれば棒に立ち向かう。下方からの突き上げ。

 

 「おおおおっ!」

 「ふふふふふ!」

 

 絶叫に等しい鬨の声。愉悦の笑い声。

 棒と剣が接触するや、壮大な衝撃が発生した。月の表面は瞬時にえぐられ隕石と呼べるサイズまで砕け散った。破片はおぞましい速度で地球に衝突すると大気の層を無視して地殻を貫通した。マグマが飛び散る。その中を、二人は格闘していた。

 棒で突く。

 受け流して、空中に浮かんでいた山を念力で吹っ飛ばす。それはかつて富士山と呼ばれていたものだ。

 ハルトは富士山を文字通り蹴りで破壊すると、破片を払いのけて肉薄、棒を大上段に振りかぶりたたき落とした。

 剣が棒の進行を防ぐ。

 激しく火花が散った。火花が岩石に接触するや瞬く間に融解してしまう。

 距離をとった二人をよそに地球はいずこへと流れていった。粉々となった岩石たちは徐々に各自の重力に惹かれて集合していく。ぶつかる衝撃で岩石が過熱する。時間がたつにつれて岩石は別の星へと変貌していった。

 マキナは剣を下段へと構える素振りをわざとらしく見せつけると、意味ありげに右手を掲げてみせた。

 

 「強い。さすがは魔王。けれど不死身の存在なんて、この世にいないのだから」

 「むっ」

 

 刹那、ありとあらゆる暴言が殺到した。

 それは作品に対する評価だ。

 

 つまらない。

 面白くない。

 消してしまえばいいのに。

 ほかの作品を書けよ。

 この作者もオワコンだな。

 きめぇ。

 死ねばいいのに。

 オナニー作品じゃねーか。

 人気欲しいだけじゃん。

 

 「もし私に隷属するならば、すべてを許しましょう。波にさえ乗ればこのような言葉も聞かなくて済みます。波に乗れば、人気が出るのです」

 

 ハルトは波にもまれていた。創作者たるもの決して逃れられないことだ。ハルトは創作者である。魔王だろうがなんだろうが創作者という区分からは逃れられない。

 インターネットが発展した現代では、少し調べるだけでザクザクと批判が出てくる。作者の人格攻撃もある。匿名の世界でなくても、起こりうることだ。現実で作品を読ませてみたらバカにされるなんて悲劇ありふれている。

 だがハルトは波を一息で飲み込んでしまった。

 ありとあらゆる批判を文字通り飲み込んで咀嚼するとにっこりと笑って見せる。不敵に、笑って見せる。

 だからどうした、と。

 

 「いいや、それは違う。批判というものは波に乗っても起こることだ、この世に完璧なものなどないのだから。不死身などいないことと同じだ。この世の真理なのだ」

 「バカな………ありえない」

 「どうして言い切れる? つい今しがたお前が言ったことだ。不死身などない。つまり完全などないのだ。すべてが肯定され、批判される。それは例えどこの国、どこの時代でも同じこと。波に乗って安心していると、いつかサーフボードをさらわれるぞ?」

 「………」

 

 マキナは押し黙った。自己矛盾を見つけてしまったからだ。

 ハルトはさらに続けた。

 

 「いや、そもそも…………型にはまった作品ほど、批判を受けやすいものだ。オリジナリティにかけるとな」

 「しかし、人気は……」

 「それがどうかしたのか? 楽しいから作る。これを批判できるものはいない。絶対にいないとは言わない。もしかすると創作を批判できる絶対者がいるかもしれない。認めよう。創作は不完全で道しるべがない」

 

 ハルトは、手に持った棒をバトンのようにクルクルと回して見せた。

 棒は虹色の粒子をばらまいて輝いた。

 ハルトが棒を一振りすると空間自体が変貌した。緑あふれる楽園。空を突く巨大な樹木。新しい世界観が生まれたのだ。

 

 「だからこそ楽しいのだ。こうして自分で世界を創造・想像することができる。何物にも支配されず、好きにな。あえて宣言しよう。だからどうした。楽しいから作ってはいけないのか? 流れに乗らないから、悪いのか? 楽しいから作るという気持ちを抱き続けることが時代遅れなんて、あってはならない。悪いなんてはずがない。創作は自由だ。創作の原動力は楽しさ。波に乗るためだけに創造されたおまえにはわかるまい。いや、もしかすると………わかっているのかもしれないが」

 

 それはハルトの本質だ。自己表現の手段としての創作。楽しさゆえの創作。文字で、絵で、音楽で、己を表現する。作ることが楽しい。ハルトシュラーの存在意義はそこにあるといっても過言ではない。

 対するマキナも口を開く。笑みは皮肉さを帯びていた。

 

 「ふ、しかし評価されない作品に意味などありません。評価されてこそ作品。評価されない作品はやがてオリジナリティを捨てて流行という進化を遂げる。昔からそうでした。古くは、勧善懲悪。正義が勝つ。悪魔は負ける。逆行、復讐、転生、クロスオーバー……それら要素を取り入れて媚びることで作品は評価されるようになる。評価さえ受けて、評価されれば、楽しい。評価されるためだけに作品を作る。それは真理ではないのですか?」

 

 それはマキナの本質だ。ハルトのような純粋さから歪んでしまったとはいえ、楽しい、という一点において違いはない。

 ハルトとマキナの意見は平行線だ。楽しいから、初心を忘れずに、自分だけの作品を作る。評価なんて関係ない。それも事実であり真理である。

 ならば、評価されるためにいかなることもやる。評価されなければ存在意義などない。流行に乗って評価されるための努力をする。創作マシンに至る。これも、間違いではないのだろう。

 マキナは、剣を格納した。剣はまるで夏の夢のように空間に溶けてしまった。

 翼が折りたたまれる。マキナ取り囲むようにグラフなどが空間に浮かび上がった。

 次の瞬間には地球は元通り。月も元の位置に戻った。いかなる絡繰りか。

 マキナは空間に別の扉を開くとノブをひねった。その顔に笑顔はない。無表情。まるで能面のような作り物じみた顔だけがあった。それは、ある意味で彼女の本質である。虚ろで主体性のない流動体。いかなるものにもなれる制御されたコスモス。

 マキナの喉が蠢く。背中を見せて、上半身を捻るようにして。

 

 「今は去りましょう。しかし覚えておくことです。波は創作者達を常に取り囲んでいるということを」

 「ならば私も去ろう。しかし覚えておくことだ。波に乗ることがすべてではないということを」

 

 

 

 

 そして、誰もいなくなった。

 

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