Fate/stay night―Innocent   作:Saika

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亀更新ですいません。


◆〈第五話〉

Side弥音

 

「――Dual clutches fall a victim(重なり会い倒れゆく爪牙)

 

その名を告げるとともにアビスの両の手には漆黒と深紅の双剣が握られていた。

 

右の手には外側へ湾曲した漆黒の刀身の剣。左の手には内側に湾曲した深紅の刀身の剣。どちらも片側に湾曲しているのに

両刃である。

 

このふた振りの双剣は右が爪、左が牙を表すのだがそれは弥音の知る由はない。

 

アビスは目を開け右剣を順手、左剣を逆手に構え、いまだ佇むセイバーに告げた。

 

「さて、始めようか、セイバー。」

 

セイバーが構える――と同時に金属音が響き渡った。

 

「ッツ!?」

 

私は目を見張った。今だアビスは目の前にいるのに関わらずアビスはセイバーと激突していた。その後背に引きずるようにして残像が重なっていく。

 

私の目の前のアビスが陽炎のように揺らめいて消えた。

 

「……何なの今の」

 

本来、残像とは動く物体に対して肉眼の視認が追いつかず生じる実像のブレである。

 

残像として見えるということは、像が網膜に映り込んで視神経から脳に伝達されてはいるが、脳がそれを画像処理完了した時には既に元いた場所には物理的に存在していないという現象である。

例えばパラパラアニメで空白のコマが1つあっても、違和感を覚えることはない。この「空白の1コマ」がまさに虚像であり、残像だと言える。

 

すなわち、視覚的に把握し得る瞬間と、視覚で把握できない瞬間の落差が残像を生むのである。

 

理論的に言えば、もの凄い勢いで反復横跳びをすれば、左右の切り返しの瞬間のみが残像として見え、途中の跳んでいる瞬間は視覚では捉えることができないであろう。

 

 

しかし、今のアビスのそれは像のブレというよりまるで肉体から剥離したように感じた。

 

私の思考の間にもアビスはセイバーと剣戟を交わしていた。夜の冬木市の坂に響き渡る。残像を無数に引きずりながら双剣を振るうアビス、

それを一本の不可視の剣でなんとか凌ぐセイバー。

 

どちらが優勢かと言われれば私はアビスだと思う。まず手数が違う、アビスが双剣なのに対してセイバーは長剣一本だ、当然だろう。

 

私の目にはアビスの振るう剣の奇跡しか見えない。アビスには剣の軌道や長さが把握できるようだが私には不可能だ。

 

幾度となく交わされる無数の剣戟。その数はもはや20や30では足らず三桁に登ろうとしている。

 

私は坂から少しずれた壁に背を預けて二人の戦いを見ている。そこでふと思いついた――

 

「そうだ!アビスのステータスを見てなかった」

 

隠れるのと焦りで忘れていたが意外と重要なことだった。それで見てみると――

 

「え?宝具のランクが上がってる……B+からA-まで。これが位階に変動ってことなの?ってことはあの異能(イノセント)ってゆうのがアビスの宝具?」

 

ランクが変動している以上それしかないのだろう。

 

「何なんだろうあの宝具(イノセント)って」

 

まあ、終わって生きてたらアビスに聞いてみればいいだろう。まずは今はまだ射ってきてないがアーチャーから隠れるのが先決だ。

 

「――Generate(起動)

 

自らの魔術回路と刻印を起動する。そこに魔力を通し、魔術刻印というエンジンに薪をくべ、術に必要な魔力を組み上げる。

 

EOLH,(エオロー)Skt:Siimaabandha(別ち、隠せ)

 

地面にいつも持ち歩いている刃渡り5cm程の短剣で『保護』のルーンを刻む。それに組み合わせて即席の結界を貼る。

 

ルーンが光りそれに意味を持たせ、結界がそれに共鳴して薄い膜上の半球形の結界を形成した。

 

これが私の得意な術式だ。結界を貼り、その中にルーンを刻むことで意味を持たせ領域指定で効果を持たせる。あまり攻撃には向かないが穏陰や防御には便利だ。

 

「っと、これでまずは大丈夫かな?気休めだけど…」

 

私は援護はできないけど籠城は得意だ。魔力の量には多少は自信がある。だから――

 

「死なないでよ……」

 

ただ無事を祈るしかない。

 

Sideアビス

 

剣戟が100合を越えたあたりで――

 

「なッツ!?」

 

後方に飛びすさる相手のサーヴァント。

 

見れば先程まで不可視だった剣が刀身の中程からその鮮やかな銀色を覗かせていた。

 

「何故、私の風王結界(インビジブル・エア)が!?まさか――」

 

「そう、俺の剣の能力だ。対消滅――それが俺の宝具の能力だ。刃に触れた物体を消滅させる。俺の剣の密度を超えないあらゆる物体、物理事象は切断される」

 

セイバーには語らないが俺の爪牙双剣は物理事象は必ず消滅させる。異能(イノセント)は物理法則より優先される。だから自然現象の過程を省略して

発現している魔術はほとんど斬れる。ただし、発動された魔術に込められる魔力の密度が剣を超えていたらきれずに対消滅する。

 

「さて、セイバー。剣を鞘に収めたまま戦うとは舐めすぎではないのか?」

 

俺の挑発に――しかし、セイバーは乗ってこない。宝具の正体を見定められたくないのだろう。

 

「あなたを舐めてはいない。しかし、私はサーヴァントだ正体をおいそれと教えるわけにはいけない」

 

「そうか、なら奢ったまま死ね」

 

ほぼノーモーションで加速する。俺のこれは古武術で言う『無拍子』と『縮地』を合成させたものだ。相手の呼吸やタイミングの空白に動き、それに縮地で

高速移動で接近する。意図しないタイミングで動かれるのだから相手側から見れば消えたように見えるだろう。

 

「そうなんども喰らわない!」

 

俺の移動起動に重ねる形で剣を振るうセイバー。直感で動きを成功させる――天才というやつだろう。

 

しかしセイバーの攻撃を俺は内側に湾曲している左剣で巻き取るように流す。

 

そのままセイバーの左肩後方に縮地で移動する。しかし、それどもなおセイバーの剣はこちらを追撃する。

 

「もらった!」

 

セイバーの剣はアビスを袈裟斬りにするがそのアビスが陽炎のように揺らめいて消える。

 

「ッツ!」

 

セイバーは左後ろに何か感じたのかそのまま振り返る形で剣を振り切る――

 

「そうだよな――」

 

反応しちまうよな(・・・・・・・・)

そこにはアビスの残像が生じているのみ。

 

「ッラ!」

 

セイバーの前方(・・)から剣を交差さる形で振り下ろす。

 

血を散らせながら吹き飛ぶ眼前の少女。だがそれでも皮膚に刃が食い込んだ瞬間に後ろに飛んでダメージを最低限殺したのはさすがというべきだろう。

 

追撃するために踏み込もうとした瞬間――横合いから感じた風に悪寒を感じて、俺は力の限り後ろへ跳んだ――

 

直後――目の前で膨れ上がった爆発が俺を吹き飛ばした。

 

「がぁ!?」

 

坂から墓地まで吹き飛ばされ、墓石に背中を叩きつけられ呼吸が詰まる。骨折はないが左腕の筋肉が少しいったか。

 

「……なんだ、今のは…」

 

ちらっと視界に入ったのは捻れた矢のようなものだった。恐らくアーチャーだろう。

失念していた。だがなんだあれは?武器が自爆したように思えるが詳細は不明だ。

 

「(ちょっと!大丈夫なの!?なんか爆発したけど!?)」

 

頭の中にマスターの声が響いた。なんだ念話か?

 

「(まあ、大丈夫だ。ギリギリ直撃は交わしたからな)」

「そう…生きてるならいいけど…)」

 

マスターの声が僅かに震えていた。そう心配することでもないのに。

 

「(そう、心配するなよマスター。これくらいじゃ死なないから俺は)」

「(わかったわよ。けど絶対に生還しなさい。初日から死んだら目も当てられないわ)」

 

ああ、分かってるさ。いざとなったらAewith(至高)土地(ここ)ごと消滅させる。

 

「(ところで、マスター。今どこに居るんだ?)」

 

セイバーの鞘を割った時ぐらいに、少し後ろに感じていた弥音の存在感が薄れたのだ。

 

()られたのかと心配していたがこうして会話しているのだから大丈夫だったのだろう。

 

「(今は壁を背にして結界で隠れてるけど…)」

 

「(そうか、なら早くそこから自分の家にいけ。そこにいたら巻き込むかもしれんからな)」

 

先ほどの攻撃をあのアーチャーが何発打てるのかは知らないが、あれを何発も打てるのなら少し離れて隠れてても意味がない。

 

しかし、マスターは頑固だった。

 

「(馬鹿なこと言わないでよ!あんたおいて帰れるわけないでしょが!)」

 

と、マスターと不毛な言い争いをしていると気配が2つ近づいてきた。

 

「(マスター。話は後だ、お客さんが近づいてきたんで。とにかく巻き込まれるなよ)」

「(ちょ、まちな――)」

 

俺はマスターの答えを待たずにこちらから一方的に念話を断ち切った。

 

近づく気配が2つ増える。恐らくセイバーとアーチャーのマスターだろう、感じる氣の大きさからして人間だ。

 

「……あれを受けて五体満足とは君は存外頑丈だな」

 

暗がりの墓地に響き渡る低い男の声。

 

俺から20m程離れた墓地の入口に長身で白い髪をした褐色の肌の男が立っていた。

 

「アーチャーか、何故接近してきたんだ?遠くから狙撃したほうが有利だろう。弓兵の名が泣くぞ」

 

「私の弓は連射には向かないのでね。それに君はどうやら氣の概念で私の弓を感知できるようなので近づいたほうが理にかなっている」

 

そしていつの間にかその手には黒白の双剣が握られていた。

 

「近接戦を行う弓兵か、しかし、待たなくていいのか?セイバーを。」

 

俺としてはアーチャーが近づいてきてくれたのは好都合だ。もし眷器だけで追いつかないなら二人共Aewith(至高)で一気に()れる。

 

まだ完全に二人の戦闘力を確かめたわけじゃないが、俺の居た世界(あっち)よりは基本的にこっちの世界の戦闘力は高くはない。

 

「いや、私とセイバーは同盟を組んでいるわけでは無いのでな、まつ必要はない。それに先ほどの傷と爆発の余波で少しの間は動けまい」

 

「成程、だから俺ごと射ったわけね。」

 

しかし――

 

「墓地の外にいる二人は?お互いのマスターだろう、一緒にしといていいのか?」

 

弓兵は僅かに顔をしかめたが『私のマスターの方が強いので問題は無い』と答えた。

 

「そうかよ。なら始めるか――第二ラウンドだッ!」

 

俺はまた双剣を構え無拍子と縮地の合技――『無拍(むはく)』で接近する。

 

衝突する双剣と双剣。しかしお互いの色も硬度もちがう。

 

「ぬッ!?」

 

切り結んで三合でアーチャーの剣は軋みをあげる。刃こぼれには至っていないが仮にも宝具である双剣がたった三合で悲鳴を上げるのである

アビスの双剣の消滅能力の高さが伺えるだろう。

 

体をコマのように回転させて振るわれる二仭。それを双剣を交差させ切り払うことで受ける弓兵。

 

十合、二十合、と積み重なる連続的に響く金属音と剣戟は加速する。

 

しかし、三十を数えるその寸前でアーチャーの右剣に亀裂が走る――そこを見逃すアビスではない。追い打つ形でアビスの左剣が衝突する――

 

パリンッ!っと澄み切った音を立ててアーチャーの右剣が砕け散った。

 

「はッ!」

 

すかさずアビスは右剣でアーチャーの左剣を流し死角の右側から斬撃を放つ。しかし、必中のはずの斬撃はまるでそこにあったかのように握られていた

白刃に止められる。

 

そしてまた始まる斬撃の応酬。しかし、今度は弓兵の左剣が砕け散るもまたいつの間にかアーチャーの左手にはあの陰険が握られたいた。

 

「――」

 

アビスは交差させた斬撃の衝撃を利用してアーチャーと間合いを離す。

 

「……なんだその剣は。一体何本持ってる?」

 

アビスは弓兵の体を見渡すも剣を隠しているようには見えない。しかし、あの時確かに剣は折れていた。

 

MDBSか?しかし、この時代にはMDBSは存在しないはずだ。だとしたらなんだ?転送術(アポーツ)か?いや転送ならあんなに瞬間的にならないはずだ。

 

「不可解だな。それがアンタの能力か?」

 

「さあね、そうかもしれないし違うかもしれん」

 

どうやら答える気はなそそうだ。

 

「まあ、出てくるなら出てくるで出てきただけ消すだけだ」

 

両者の殺気が膨れ、そして動こうとした瞬間――アビス達が先程までいた坂で轟音が響いた。

 

「なんだ……この氣は…」

 

その方向から感じるのは巨大な氣とそれに対して小さな氣だった。

 

小さい方は恐らくセイバーだが、大き方は――なんだ?人にしては大きすぎる。

 

「っち、襲撃か」

 

アーチャーも同じことを思い当たったのだろう。こちらを向いていった。

 

「一時休戦だ。君もマスターをほうってはおけぬだろう?」

 

確かにそうだ。マスターには逃げろと言ったが、あの弥音のことだ恐らく残っているだろう。

 

「わかった。今回はここまでだ。」

 

アーチャーは『世話のかかるマスターだ』と言って坂へ戻って行った。

 

そこに関しては全くの同意である。

 

「マスターが死なない内に俺も行くか」

 

アビスは坂へと疾走した。

 

 

 




すいません。二部構成になってしまいそうです。(_^_)
感想があったら、いただけると嬉しいです。
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