個性社会のシャドウサイド   作:あとか

10 / 17
魔導鏡使いの矜持

 ナツメたちが部屋に入ってすぐ目にしたものは、前世のものよりも酷い光景だった。

 

女郎蜘蛛の体の後ろに積まれた、この街の人たち。

女郎蜘蛛を倒そうとして捕まった男性ヒーローたち。

そして彼らを救い出そうと奮闘して息を切らしている女性ヒーローたち。

 

ナツメは、その光景に一瞬息を吞んだ。

前世の光景がフラッシュバックし、足がすくむ。

だが、今はそんな時ではない。

ナツメは、女郎蜘蛛に向き直る。そして堂々と宣言した。

 

「また逢うだなんてねぇ~。」

 女郎蜘蛛は憎々し気に目の前に立つ4人の子供を見る。

前にも自分を倒した存在。

異世界に行けば見逃してもらえると思っていたのに、と内心歯ぎしりする。

 

「逃がさないよ。」

「有星家の名に誓って、必ずお前を倒す。」

「必ず捕まえる。絶対ムゲン地獄に送ってやる。」

ナツメだけじゃない、トウマ・アキノリ、

そして前回は怯えっぱなしだったケースケですら強い意志を示す。

その様に、女郎蜘蛛は苛立ちを隠せない。

 

「このっ!クソガキ共!」

「行きなさい!」

女郎蜘蛛が襲い掛かると同時に、ナツメの合図が飛び出す。

その瞬間、ナツメの後ろに控えていた数多の妖怪達が女郎蜘蛛に襲い掛かる。

 

一撃や必殺技に強い火力を持つナツメの友達と、

一体一体は強くないものの精神的ダメージを食らわせるケータの友達。

なにぶんケータの友達は数が多い。

 

必然的に女郎蜘蛛に襲い掛かる妖怪たちの数は、以前の倍以上である。

そのせいで、女郎蜘蛛は注意すべき存在を見落としていた。

 

 

「雷鳴鉄槌切り!」

 背中に走る強烈な痛みを感じながら、悔し気に地へ降りていく。

振り返った先に見えるのは、不動明王。

 

その身に封珠鏡の力を宿したトウマには、無言で剣武魔神を憑依するという手法が取れる。

 

しかし同じ相手に同じやり方では攻略されるだけ。

女郎蜘蛛は悪あがきで不動明王に向けて糸を放とうとした。

 

が、それは鋭く飛んできた妖気弾に弾かれた。

「トウマ!選手交代だ!」

いつの間にか朱雀を召喚していたアキノリのセリフで、トウマは憑依を解く。

そして今度は玄武を憑依し、ヒーローや被害者たちと女郎蜘蛛を繋ぐ糸を断ち切る。

 

そしてすぐさま憑依を解く。被害者たちは意識を失ってはいるものの、命に別状はない。

そのことを確認すると、トウマはホッとため息を吐いた。

 

 

 

「えっと、これは?どういうことかな?」

 女郎蜘蛛の糸から解放され、息を立て直したNo,1ヒーロー・オールマイトがトウマに声を掛ける。

 

が、トウマは無言で戦況を見つめる。

トウマは分かっているのだ、説明しても無駄であることを。

目の前にいるのは妖怪、幾ら個性持ちであろうとも普段は目に見えない存在。

まさしくあの世にいるべき、厄介な強敵。

 

そんな存在のことを伝えたところで、彼らにできることなどない。

この場では個性無個性関係なく、等しく力のない人間なのだから。

 

「オールマイトさん。」

「なんだい、少年。」

「この場から引いてください。オールマイトさんだけじゃないです。ヒーロー全員、この場から引いてください。」

 

 トウマは彼らのことを心配し、その一言だけを告げた。

その言葉の意味をそのまま捉えることが出来ず、彼らヒーローはその場で棒立ちになる。

そしてトウマの真剣な表情を見て、ようやく事態を把握できるようになった。

 

今暴れているのは凶悪な敵。

そんな敵を目の前にして逃げるなど、彼らのヒーローとしての矜持が許さなかった。

 

「……それは、できない。」

「ヒーローとしちゃあ、敵前逃亡なんて出来ないさ。」

 

エンデヴァーのセリフに続き、次々にヒーローたちが声を上げる。

しかし、トウマはその全てを切り捨てた。

 

妖怪のよの字も知らないような世の中で生まれ育った人たち。

そんな人たちが妖怪の、しかも何かを企てている(ようかい)に向かっていくなど、自殺行為でしかない。

 

実際に男性ヒーローたちが捕まっていたのだから、同じ過ちを繰り返すことは元封珠鏡の所有者であり、ナツメたち天野家と揃って現代の妖魔王から地蔵菩薩の任を任されているトウマにとって、

とても承服しがたいことであった。

 

「アレは、普通の人が敵う相手じゃない。

幾ら個性という特殊能力を持っていたとしても、個性を使って戦うことに慣れていても、アレは貴方達の言うヴィランとは別物。

本来この世にいるべきではない、人ならざるモノだ。

厄災となる前に暴れる妖を対処するのは、僕達魔導鏡の使い手にしかできない。

 

だから、引いてください。

魂を吸い取られ、敵の―女郎蜘蛛の力にされるくらいなら。

この世を混乱に貶める奴に利用されるくらいなら。」

 

 

 トウマの真剣な表情に、全員押される。

雰囲気とトウマの冷静で淡々とした説明に、否を唱えることはできない。

 

しかし、自分たちがヒーローである以上、逃げることは出来ない。

何もできないかもしれないが、助けを求める市民を、守る人を救わないで何がヒーローか。

 

そう言った葛藤がヒーローたちに渦巻く。

数秒か、数分か。

 

お互い無言で向き合い答えに悩んでいると、盛大な音が部屋中に響き渡った。

ハッとして音がした方に振り返ると、前世と同じく小さくなった女郎蜘蛛の姿があった。

 

トウマが玄武で人質を解放したためか、妖力が足りず自身の体を保つことが出来なったのだろう。

 

トウマは一呼吸置くと、呆然としているヒーローたちを置き去りにして、ナツメたちのところに合流した。

 

ヒーローたちは唯々子供らしくないトウマ達の行動を呆然と眺めることしかできなかった。




【今回の妖怪大辞典】
剣武魔神・不動明王
妖聖剣の一本である『フドウ雷鳴剣』に封印された激しい力を持つ剣武魔神。手に入れようとする者の心に問いかけ、自らの力を貸すのに相応しい者かを見定めてくる。現在トウマのみが憑依召喚できる。

剣武魔神・玄武
海をも断ち割るといわれる斧状の妖聖剣『ゲンブ法典斧』に宿る剣武魔神。そのパワーは朱雀を上回り、さらにゲンブ法典斧自体も、蒼天十字衝を切り裂いて無効化するほどの切れ味を持ち、玄武が言うには切れない物はない。現在トウマのみが憑依召喚できる。

幻獣・朱雀
妖聖剣『朱雀蒼天斬』に封印された剣武魔神であり、大きな翼で宙を自在に舞う幻獣。力を認めた者を背中に乗せどこまでも飛ぶことができる。現在アキノリのみが召喚できる。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。