すれ違いの末
妖怪探偵団のメンバーが完全に集合してから数か月。
相変わらずナツメたちは世に隠れる怪奇案件を解決していた。そして前世でナツメたちが出逢ったのと同じように、一年が過ぎていた。
中学三年の春。
妖怪探偵団のメンツにとっては特別な意味を持つが、世間一般でも特別な意味を持つ時期。
すなわち、高校受験の受験校を決める時期であるということだ。
クラスメイト達が軒並みヒーロー科への進学を希望する中、ナツメは淡々と目標を告げた。
「私は、雄英高校に行きます。」
そう告げた途端、ブーイングの嵐となるクラス。
中には誹謗中傷も含まれているのだが、ナツメにとってそれは気にする程のものでもなかった。
クラスメイトは雄英高校=ヒーロー科の最高峰という認識でいるが、別にナツメはヒーロー科を目指しているわけではない。
そもそもナツメにヒーローになる意思はない。
なぜなら、ナツメは”今の役割”を全うすることに意義を感じており、長々と”友達”に関わることはできないと血縁の証言から察しているためだ。
それにわざわざ治安を守りに行くほどお節介でもない。
お節介焼きな部分があるのは認めるが、だからと言って世間のヒーローたちのように動き回るのはナツメの性分に合わなかった。
「なにについて騒いでるのか知らないけれど、私が行くのは普通科よ。そもそもヒーローになりたいだなんて一ミリも考えたことないんだから。」
ナツメのその一言に、クラスの騒ぎは収まる。
無個性が雄英高校のヒーロー科なんて行くわけないよなとホッとする者と、普通科でも偏差値高いことを知って嫉妬する者と半々。
そんなクラスメイトを一蹴し、偏見の目で見てくる教師を蹴散らし、ナツメは堂々と学校を去った。
「なっちゃん!」
校門に向かうと、隣の中学の制服を着た出久がいた。ナツメは家族や妖怪探偵団にしか見せない笑みを浮かべて、出久の隣に立つ。
お互い無個性同士。
ナツメの方は本当は”召喚”と”鬼姫”という力を持ってはいるが、個性届を出していないため”社会的に無個性”である。
「なっちゃんは何処に進学するの?」
出久の純粋な視線に、ナツメの笑みがこぼれる。
一つ下なだけなのに、なんかこう庇いたくなるような無邪気さ。
ケースケと方向性は違うのに、まるで弟みたい。
そんなことを考えながら、ナツメは端的に答える。出久はナツメの志望校を聞いた途端、目をキラキラ輝かせて質問攻めしてくる。
「普通科よ、普通科。」
ナツメは好奇心旺盛に質問を投げかけてくる出久に、苦笑いしてそう答える。
「ヒーロー科に行かないの?」
「行かないわよ。そもそもヒーローを目指してないし……引き際は守らないと。」
すっかり同じヒーローを目指しているのだとばかり思い込んでいた出久は、その言葉に驚きを隠せなかった。
そして、ナツメがぼそりとこぼした言葉を聞き逃した。
「なっちゃん!なんでヒーロー科に行かないの!?」
「……またその話?何度も言ったでしょ、ヒーローになるつもりなんて無いって。」
志望校が雄英高校の普通科だと知った途端、出久は今まで以上に引っ付き虫状態でナツメに付きまとい、顔を合わせる度にそういうようになった。
余りのしつこさに、今傍にいないはずの”ストーカー鬼野郎”*1を思い出してしまい、ナツメは冷たい態度を取るようになっていた。しかし、そんなナツメの態度にもめげずに出久は付きまとい続ける。
流石に少し、勝己の気持ちが納得できたナツメだったが、
流石にいじめという手段に出ることはなかった。
お互い折り合いが悪くなったため、距離を置くようになった。出久はまた一人で、ナツメは妖怪探偵団のメンバーと一緒にいることが多くなった。
そしてそんな関係が一年弱続いていた。
ケースケは心配そうに二人のことを見ているけれど、どうすればいいのか分からずウロウロするだけに終始してしまう。
ケースケにとって出久は兄のようなものだからこそ、どうにか二人の間を取り持ちたくて、両親に相談するけれどケータもフミカも”今回は時間が解決してくれるよ”としか言わず、どうも悶々としていた。
「……って感じでさ~。」
どうもいたたまれない空気から逃げ出したくて、ケースケはアキノリの部屋に駆け込んで愚痴を零していた。あらましを聞いたアキノリは唸った。確かに対応が難しい案件だ。
「その出久って子は、ナツメのことをヒーローを目指している同士だと思い込んでたみたいだな。まぁナツメ自身も出久くんの夢を応援する立場に回っていて、それを理解してくれてると思ってたみたいだしな……。」
「いっそ、砂男くんをけしかける?」
「でも相手は姉ちゃんだよ?妖怪の気配ならすぐ気づくって。」
「ホントにこれはナツメちゃんのお父さんが言うように、時間でしか解決できないのかもね。」
三人寄れば……とは言うが、今回の問題は色んな人が関わろうとも、そう簡単に解決できそうにない。
何せ既に一年弱も引っ張っているんだ、”きっかけ見つけて仲直り”ができていれば、こんなに長く続いているはずがないんだから。
妖怪たちも解決策を上げることなく、その場には沈黙が流れた。
その何もできずにてごまいている間に、出久の心が折れかける事件が発生するなど、この場にいるメンツには想像できなかった。