個性社会のシャドウサイド   作:あとか

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以前投稿していたモノの、加筆修正版です。


妖魔界へようこそ

 [No side]

 流れが読めないまま、出久は煌炎とカイラに引きずられてエンマ宮殿を出ることになった。が、その光景に出久は愕然とした。

どう考えても、個性では表現できない奇妙奇天烈な光景があったからだ。

 

 行き交う存在は人らしい形を保っている方が少数で、異形系の定義にも当てはまらない存在が跳梁跋扈している。そしてそのことに忌避感を抱く妖怪(ひと)がいるそぶりは一切無く、なんなら挨拶がてらに妖術を使っている妖怪(そんざい)もいる程。取り憑いて取り憑かれて。無秩序に見える混沌具合だが、決してその行為に悪意はなくお互い笑顔で受け入れている。そしてよくよく見ると、現実世界に当たる”警察”や"ヒーロー"が出てこないことに気付く。カオスに見えて、秩序が保たれている証拠である。

 そんな存在に押し負けるものかと、建物も”個性的”である。人間界では使わない配色に配置。リズミカルに揺れ動く灯籠やビルなどは、どう考えても再現することは不可能。機械的に動かしているのではなく、その建物や灯篭そのものに意思があるかのような動きをしているのだから。配色も配置もその動きも、無秩序に見えるけれど治安が荒れている様子はない。

 

 

この人間界(現実)にはあり得ない、見せかけの混沌。

何にも縛られない、自由の地(フリーダムワールド)

人間界(現実)の苦悩など存在しない、甘美な死後の世界。

それこそここ、妖魔界である。

 

 

 出久は呆然とその光景を眺めていた。幾ら分析が得意であっても、情報の爆弾の量にパンクしてしまったのだ。現実でないことは否応にも納得させられたが、それを処理しきれていないのだ。今ばかりはお得意の高速呟きによる思考整理術も停止してしまっている。

 

「…………く、…………ずく、…………いずく、……やいずく、……りやいずく、……どりやいずく、緑谷出久!!」

「うひゃいっ!?」

 

 名前を呼ばれて、出久は我に返った。

 エンマとカイラ、二人が覗き込んでいたこともあり、驚いた拍子に一歩後ろに大きく後退してしまったが。

 

「ようやく復活したか。……エンマ、本当にここでやっていけるのか?ここだってまだ序の口未満だぞ。」

「大丈夫だろ。……多分。」

「多分って……。」

 エンマの濁した言い方に、カイラは呆れる。

 だがエンマは信じていた、ケータをはじめとした天野家が認めた少年—夢を諦めたと嘯きながらも本当は誰にも負けない夢への執着を持っている、緑谷出久を。今は過去のアレコレが積み重なり未来を見ることが出来ていないが、何かのきっかけさえあれば夢に向かって進みだす。閻魔としての直感がそう告げているからこそ、本来ならば地獄行きであるところを持てる力を駆使して妖魔界見学に変更したのだ。

 

 

閑話休題。

 どうにかこうにか持ち直した出久に、今代の妖魔王二人は淡々と説明する。ヒキコウモリ-取り憑かれると引きこもりがちになってしまう妖怪の出迎えを待ちながら、ここがどういった場所かを懇切丁寧に。妖魔界においても禁忌とされる場所が存在しているからこそののもである。今現在”隠されている”出久でも、うっかりそこに迷い込んでしまったら本当の意味で”死”を迎えかねないのだ。

 ようやく理解できる程度に落ち着いた出久は、その説明に青ざめる。イマイチ自分がなぜここにいるのか理解できてはいないが、それでも本能的な恐怖には抗えなかった。人間界(現実)よりも平和で理想的に見えても、その裏には人間界(現実)以上の恐ろしさを内包している。それこそ死後の世界であり、文字通りあの世である妖魔界の特性だ。

 

 

 長い説明が終わり出久のいつもの癖が発動し始めたそのタイミングで、彼らの前に長いリムジンが到着した。そのリムジンのカラーリングも、街並みと同じく人間界ではありえないモノだった。そのリムジンの最後尾の窓が開き、そこからコウモリの妖怪—ヒキコウモリが顔を覗かせた。

 

「エンマ様、カイラ様、車内から失礼いたします。依頼の件で迎えに上がりました。」

「おぅ、ヒキコウモリ。出迎えご苦労さん。」

「では、緑谷出久様。どうぞこちらへ。」

「あ、はい。」

 

 ヒキコウモリの誘導に従い、癖を一時中断した出久はリムジンに乗り込んだ。車内は広々としてシートもフカフカであり、だがどこか現実離れした光景が、出久の前に広がていた。そしてどこから用意されているのか分からないが、席には一流レストラン出てくるような食事も用意されていた。いつから用意されていたのか分からないが、この間も尚湯気が立っており冷めている様子はない。余りに異様な光景に、出久は言葉を失った。

 

「混乱されているでしょう?席に座って落ち着いてください。お食事は召し上がって大丈夫ですよ、黄泉戸喫(よもつへぐい)にならないように工夫したものですので。」

「あ、はい。」

 出久はヒキコウモリの案内に従って席に着いた。まだまだ戸惑いの抜けない出久は、”食べていい”と言われた目の前の食事に手を付けることは出来なかった。そんな出久の様子は他所に、エンマはヒキコウモリに声を掛けた。

 

「彼を頼むぞ、ヒキコウモリ。彼は人間界を変え得る存在になる、絶対に死なせるな。」

「承知しております。」

 エンマのその一言に、ヒキコウモリは恭しく頭を垂れた。そんなヒキコウモリを一瞥して、エンマは出久に視線を向ける。

「7日間、妖魔界をじっくり見とけ。自分の”本心”を自覚するにはちょうどいい世界だ。今までの常識は通用しないから、覚悟しとけよ。」

始めは脅し気味に言っていたものの、最後はいたずらっ子が浮かべるような笑みをして言った。そこには閻魔大王としての威厳など一ミリもなく、それこそ出久と同い年くらいのやんちゃな中学生の姿が重なるほどだった。出久はそんなエンマの雰囲気の変化に戸惑いつつも、頷いた。

 

[出久side]

「あっ、おいしい……。」

 車が出発してから数分が経って、僕はようやく恐る恐る目の前の御馳走に手を出した。見た目からして元々の世界*1でいうところの、高級レストランのようで、味もその見た目に違わず美味しい。コース料理の一人分位あったはずなのに、あっという間に食べてしまった。この世界、凄いな……。

 

「ご満足いただけましたか?」

「はい。ありがとうございます。」

 ヒキコウモリさんの声掛けに対して、僕は素直に頷いた。本当に、どこかの高級レストランみたいだった。いつまで経っても冷めなかった原理は気になるけど、聞いちゃいけない気がする。でも気のせいかな、なんかさっきよりかは前向きになれてる気がする。

 数分もすると食べ終わったお皿はいつの間にか片付けられていて、気づいたら街中にいた。僕は促されるがままリムジンを降りて、周りを見る。目の前には、さっき見ていた光景よりは整った、都市のようでけれど随所に"普通じゃない"要素が入り混じった街があった。整然と建物が並んでいる様子は、元居た世界と変わりはない。けれど色使いは決して元の世界ではありえないもの。

 僕は呆然としながら、ぐるっと見渡した。スーパーも、高いビルも、レストランも、スマホ販売店も、スポーツジムも、果てには映画館や劇場まで。カラーリングこそ奇抜だけれど、”普通の都市”となんら変わらない光景に、僕は言葉を失ってしまった。

 

「お前、緑谷出久だろ?」

「え?」

 急に後ろから声を掛けられた。声を掛けてきたのは、”ヒト”じゃなかった。誰が声を掛けてきたのか確かめようと思ったけれど、その前に僕の名前に反応して色んなヒトたちが押し寄せてきた。まるで報道陣に囲われるヒーローみたい。ってか、そんなに来ないで?!

 

「ケータが気にしてる子か!」

「中々ガッツがありそうだ!ケイゾウも気に入りそうだな!」

「休んでけ、休んでけ!ここじゃお前を責める奴なんていねぇからよ。」

「天野家が認めた子だ、歓迎するぜ!」

「え、あの、ちょっと?!」

 僕はあっという間に取り囲まれて身動きが取れなくなってしまった。しかもなんか僕に対する反応がおかしい気がするんだけど?!何なのこのヒト達!!なんでこんなに好意的なの?!まだ出会って数秒も経っていないのに?!反応に困ってヒキコウモリさんの方を見ると、何故か少し呆れた表情を浮かべていた。さっきっから、周りの反応が良く分からないよ?!

 

 ヒキコウモリさんは小さくため息を吐くと、周りのヒト達に声を掛けた。

「皆さん、彼はナツメさんに連れてこられたばかりなんです。しかも、目標を見失っている状態なのです。そんなに大勢で押しかけられては、混乱するのも分かるでしょう?」

 

 ヒキコウモリさんのその言葉に、皆ハッとして僕に謝ってきた。す、すごい民度が良い?!しかも、僕を労って応援してくれる人が殆ど!!今までこんなことされたことないから、違いで混乱するんだけど?!僕が混乱していることを分かってるのかいないのか、僕を取り囲んでいたヒトたちは僕に一言温かい言葉をかけてその場を離れていく。数分も経たないで、僕の周りにあった人だかりはものの見事に消えていた。

 

「い、今のは……?」

「全く、天野家を尊敬するのは構わないのですが、ここまででは少しやりにくいですね。彼らは妖魔界において偉人的功績を打ち立てている天野家⁻出久様の分かりやすいように言いますと、天野ナツメの家系を信じているのです。天野家が認めたあなたは、それだけでここでは有名人なのです。」

「な、なっちゃん家が?!あのフツーの人たちがなんで?!」

 突然なっちゃん家の話が出てきて、つい大声を出してしまった。さっきまで僕が囲われていたヒトたちはどう見たって人間じゃない。そんな存在に尊敬され信じられる家系だなんて、普段のなっちゃんやケー君、そしてなっちゃんのお父さんの様子からは全く想像ができない。なっちゃんのお父さんはフツーの会社員でフツーに良いお父さんだし、なっちゃんやケー君だってフツーの域を出ない中高生のはずなのに。オカルト的な存在を匂わせたことすらもなくて、何なら現代人らしく余り信じてもなさそうなのに。余りのギャップで頭がこんがらがって言葉に詰まっていると、ヒキコウモリさんが続けた。

 

「7日間あるので、その間に詳しいことは説明いたします。まぁ端的に言えば、天野家は我々妖怪にとっての英雄なのです。だから、その英雄に認められた貴女を、誰も否定することはない。出久さん、貴方は虚勢を張らなくていい。意地を張らなくていい。卑屈にならなくていい。今の貴方を受けいれる態勢が、ここにはあるんです。」

 僕はその言葉に、開いた口が塞がらなかった。だって、今までずっと、僕は否定され続けてきたから。それなのに、ここまで優しくされて気持ちの整理が追い付かない。

「そんな……僕なんて……。」

「”無個性”だからですか?」

「っ!」

 ヒキコウモリさんの口から出てきた言葉に、僕の心臓は跳ね上がった。どうしてそれを?って聞きたかったけれど、それは言葉にならなかった。なんでだろう、喉が張り付いたように動かない。まるでその答えが正解だと言っているかのように。

 

「出久さん、貴方は確かに無個性です。ですが、それはここでは関係ありません。"みんな違って、みんな良い"。この言葉、一体人間はいつから忘れるようになったんでしょう?我々妖怪は基本悠久の時を生きるので、個性無個性なんていう新しい概念なんてヒトを判断する基準になり得ません。出久さん、貴方はもっと自由でいいのです。それが認められるのが、この妖魔界なんですから。」

 その言葉に、なっちゃんがケー君がなっちゃんのお父さんが重なった。きっとなっちゃん達なら、こう言ったはずだ。"君は君でいい"って。今なっちゃんとすれ違っているせいで失ったと思ってたけど、無個性で木偶の棒の僕を受け入れてくれる、そんな夢みたいな場所がまだあるんだ。自然と涙が出てきてしまう。必死に拭っても止まらなくて、乗ってたリムジンの方に顔を向けた。俯いた頭を、ヒキコウモリさんの細い腕が撫でた。そして、僕に聞こえる程度の小さな声で、呟いたのが聞こえた。

 

「妖魔界へようこそ、緑谷出久さん。私達は、貴方の味方です。」

 その言葉が聞こえた途端、涙の量が増えてしまった。そんな僕のことを、ヒキコウモリさんも周りも責めることなく見守ってくれて。その温かさに、確実な安心感を感じた。そして、こう思った。

”ヒキコウモリさんの言うように、今までのようなつらい経験はきっとしない"と。

*1
(こっちでは人間界って言うみたい)




【今回の妖怪大辞典】
ヒキコウモリ
とりつかれると外に出るのが怖くなってひきこもりになってしまう、コウモリの妖怪。原作ではケータの部屋のクローゼットに引きこもっている。
実は世界の大富豪の上位0.1%に入るほどの富豪であり、妖魔界で通信機器を販売しているメーカーのヨップル社(原作では妖怪ウォッチの販売元)の副社長:マーク・シャッチーバーグ(妖怪ウォッチ3及びアニメでは社長)と親友。本作では自分が持つ豪邸で引きこもり生活をしている。
因みに、性別は()
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