"個性の設定"がこうなっているのは、妖魔界とつなげるためです。”あの一件”については、別話で取り上げます。
後書きのところに重大なネタバレを含みます。妖怪ウォッチ4及び4++、映画妖怪ウォッチFoever Friendsの内容を知らない方はご注意ください。ネタバレに関する責任は負いません。
[No side]
「あぁっ……また行っちゃった。最近はずっとこうで、嫌になっちゃう。」
色とりどりに光る魂を仕分けていた彼女は、魂について行った微かな光を見てため息を吐いた。微かな光は、本来まだ人間界に行くべき存在じゃない。なのに、毎回毎回他の魂にくっついて行ってしまう。彼女が必死に止めようとしても、光が強固に魂に引っ付いていて引き離すことが出来ないのだ。
「おかげで”本来の仕事”が出来ないじゃない。私の担当は縁結びなのに。」
彼女はブツブツと文句を垂れる。この空間にいるのは彼女だけなのだから、全く問題はない。というより、この空間の主は彼女であり、基本彼女以外がこの空間に入ることは許されないのだ。
閑話休題。
「あぁ~サボりた~い!!止めたって無駄なんだから、良いよね?そう言えば、あの時の子が来てるんだったはず。呼んでもらおうかな!」
やけになった彼女—ククリ姫は、見た目と同じような幼い仕草で”彼”を呼び出すための根回しを始めたのだった。
「流石に疲れた……。」
出久はそう言いながら、用意されたベットに倒れ込んだ。疲れて当然のことである。妖魔界の住人である”妖怪”のこと、”妖怪ウォッチ”のこと、そして身近で世話になっていた家族の知られざる裏の顔。出久の今までの常識から外れた事ばかり起きていて、その整理に神経を使っていたのだから。
「”妖怪ウォッチ”……か。」
出久はベットに寝っ転がりながら、Yフォンmodel.Iを手に取って呟く。妖怪を友として召喚することが出来る力。その力を使って大事件を幾度となく解決していた友達の家族。
「ふふっ」
出久は展示の映像を思い出して軽く笑う。出久の知っている彼ららしくなくとも、その行動の節々には出久が今まで体験したものが含まれていて。そんな彼らの優しさを享受していた幸せを改めて感じていた。
「会いたいな........」
出久はふと呟いたが、すぐに首を横に振った。気まずいにも程がある。結局ナツメとは喧嘩別れのままだったのだから。ナツメの活動の裏を知った今となっては、ただただ謝りたかった。しかしながら出久は人間界への帰還方法など知らない。
出久は少し寂しい気持ちを抱きつつも、疲労とベッドの柔らかさに誘われて、深い眠りについたのだった。
[出久side]
「どこだろう、ここ……」
確実に布団に入ったはずなのに、僕は暗い空間にいた。暗いと言っても真っ暗じゃなくて、色とりどりの光る大きな塊があって、少し幻想的だ。その雰囲気に圧倒されてその場に留まっていると、小学一年生にもならないような小さな女の子の姿が見えた。こんな空間に女の子?と思って声を掛けようとした瞬間、彼女の方から駆け寄ってきた。
「私はククリ姫!あなたのこと、待ってたの!!」
「えっ……」
僕は彼女の格好を見て固まった。白を基調とした着物を着ていて、巫女さんっぽさがある。けれど、帯の位置が不自然に高かったり、白と赤だけじゃない袖や帯の色が不自然に見えているのに違和感がなかったりしている。髪の毛だって、綺麗な大きな輪の形に結われていて、前髪を抑える飾りも紅白の紐で出来ている。それに加えて、僕よりも見た目は明らかに年下のはずなのに、この空間を優しく包み込んでいるような寛容さと神秘さがあって。僕は直感で、”ここが彼女の領域なんだ”と悟った。
「緑谷出久君だよね!”余計なの”を突っぱねた綺麗な子だったから、すっごい印象的だったの!!」
「”余計なの”?」
「そ、”余計なの”。人間界じゃ”個性”って持て囃されてるけど、アレの何がいいのか分からないわ。」
彼女の言葉は衝撃だった。だって、僕は物心ついた頃からずっと、”個性”は人間が進化した証だと教えられてきた。学校でもそう習ったし、周りを見渡せば”個性”を持っている人の方が当たり前だった。だから、僕は虐められたし夢を真剣に認めてもらうこともなかった。もう社会の根底にもなっている”個性”が”余計なモノ”だなんて、到底信じられない。
「あ、あの……”個性”が余計なモノってどういう事、ですか?」
だからか、そう聞く自分の声がうわずっていることをぼんやりと感じていた。さっき聞いた言葉が、聞き間違いであるように願いながら言っていた気がする。でも、その願いはあっさりと返された。
「そのまんま。ほーんと嫌になっちゃう。どんだけどんだけ阻止しても、ついて行っちゃうんだもの。最近なんて、止められたのはホンの数人分だけ。元居た世界が恋しいのかもしれないけれど、いずれはやってくる転生の時を待てないからって、自ら魂でいることを諦めて他人の能力の一部に成り下がるなんて。」
その淡々としていて、こんなかわいらしい見た目なのにどこか冷徹ささえ感じる言葉に、僕は思わず息を飲んだ。
「ちょっと考えてみて?他人の能力の一部になったら、感じることも喋ることも感動することも動くこともできないんだよ?そもそも、カケラになってしまったら意思を持つことすら叶わない。ただ相手に使われるだけ。そんなのって、虚しいだけじゃない?」
無邪気な問いかけのように思えるこの言葉に、僕は言葉を詰まらせた。
個性を持っている人たちが、個性を”正しく使えている”なんて決して言えない。世の中に”正しく使えている”人だけがいるのだとしたら、ヴィランなんて存在しない。そしてそれを取り締まるヒーローだって。
「それにカケラになってしまったら、例え”個性の宿主”が死んでも輪廻の輪に乗れない可能性が出てくるの。カケラになってしまったら、魂としての形を取り戻さないと転生できない。でもね。カケラってね、すっごい不安定なの。ちょっと力が強い妖怪のオーラで吹き飛んじゃうくらい。だから転生間近な魂にくっついちゃう。で、繰り返し。そんな状態で、本当に魂の形に戻れると思う?転生して、次の命を全うできると思う?」
その言葉に、僕は静かに首を振る。無理だ、とすぐに理解できる。カケラの状態から元に戻ろうと耐えられるのなら、きっと最初の段階で自分の転生の順番を待てるはずだから。
「”あの一件”があってから、皆堪え性が無くなっちゃったの。皆”我先に”って転生したがるし、待ち切れなくて”カケラ”になっちゃう。
……だから私、君のこと憶えてるんだ。だって、とっても印象的だったもん。」
彼女はそう言って、僕の方を真っ直ぐ見る。その目は綺麗で優しくて、さっきまでの淡々として冷たく感じていたのにギャップに困惑した。
けれど、僕は内心恐れながらも、しっかりとした口調で言った。
「”個性を突っぱねたから”、ですか?」
「そう。君の魂は、転生を焦らずじーっとずーっと待ってたの。早く転生したがる周りを気にせずにね。そして、君がお母さんのおなかの中に宿った日。君の魂は、くっ付いてこようとするカケラを一蹴したの。誰も寄せ付けない、綺麗な光で。今の君の目と髪色、それと同じ深緑色で。」
僕は彼女の言葉を黙って聞いた。
今までずっと、”個性”が欲しかった。”個性”があれば虐められないし、夢のヒーローだってなりやすかったから。でも、個性の本質を知ってはそんなことは言えない。元々は同じ人間で早く人間界に戻ろうと先走った結果、エイエンに人として生きる術を失った存在なのだと、悟ってしまったのだから。きっとそのことに、ここにいた僕は
本心で言うと、まだ混乱している。個性の真相がこんなに重く苦しいものだなんて想像すらしていなかったし、知ってしまったからこそ今までのような不満を漏らすことなんて出来ない。個性がないことで虐められていることが辛いし、ヒーローになるための入り口にすら立てないことが悔しい。何度周りの人を―個性を持っている”普通の人”を羨ましく思って、
僕は今までの話を振り返って、考え込んでしまった。”個性”が先走った人の成れの果て。だとしたら、本当にヒーローって良いものなのだろうか。”個性は力”―そう教わってきたけれど、この真相を知ってしまうと素直にそうとは思えない。確かにヒーローが社会の秩序を守っているのは、疑いようのない事実。だけれど、ヒーローが個性を使うことは結局どこかにいたはずの誰かを酷使していることになってしまう。それはヒーローが使う個性に限らず、個性を使うすべての存在がそうで。”個性”を使うことを肯定すれば、”
「……ホント、優しい子。でも、思いつめなくていいの。」
「でも……。」
僕が黙り込んでいると、ククリ姫さんが僕の頬に手を当てて慈悲深い笑みを浮かべてそう言った。けれど、僕はどうしても考えずにいられなかった。
「大本の原因は私達にあるの。だから、君は考えなくていい。........あっ、気分転換に君に嬉しい話をしようかな?」
気分の落ち込んでいる僕を励まそうと少し無理やりが過ぎる話題転換をされて、僕は少し呆然としてしまった。そんな僕を見て、彼女は面白そうに笑いながら話し始めた。
「君は私にとってヒーローなんだよ?」
「えっ........」
いきなり満面の笑みを浮かべてそう言われて、僕は言葉を詰まらせた。
「君たちの世代になってくると、カケラをくっつけていない魂なんてごく少数。なんとかカケラを引き離そうと試みているんだけれど、大抵失敗しちゃう。成功したって、そのカケラは他の魂にくっついちゃう。ホントは”縁結び”が専門なのに、業務外のことをずっとやらされてて疲れてたの。でも、君がくっ付こうとするカケラを追い返すのを見て、すっごく感動したし久しぶりに嬉しくなったの。”この子は周りのためを思って
君は、生まれる前から周りに気を使える優しい子。そんな子が、困っている人を放っておけるわけがない。……そう、君は生まれる前から助ける人—ヒーローなの。
彼女にそう言われて、僕はまた呆然としてしまった。ここまで僕のことを肯定してくれた
ふと、昔に言われた言葉を思い出した。
”ヒーローにとって大切なことは、”誰かを助けたい”って思いなんじゃない?”
”既に出久くんは持ってるんだよ、ヒーローとして大切な事。それさえ見失わないで努力すれば、きっと結果はついてくるさ。”
誰に言われたのか、しっかりと思い出すことはできないけれど。でもククリ姫さんが言っていることと同じだということは理解できる。あの時はお世辞としか思えなかった。でも、今なら本心で言ってくれていたって分かる。
素直にそう思った。
【今回の妖怪大辞典】
ククリ姫
可愛らしい見た目で、人と人との縁をやさしく結ぶ妖怪。
心まで癒してくれそうなヒーラー妖怪。
小さい女の子の姿をした妖怪。衣装は白を基調としていて巫女っぽさもありつつ、姫っぽさもあるもの。髪の毛は上部・右・左に三つの輪になるように大きく結われていて、残った部分は二つ結びになっている。前髪は、紅白の紐に金の飾りを両端にあしらったもので留めている。
本来は縁結びの力を持つ神様的妖怪なのだが、輪廻という妖怪と共に生まれ変わりに関与している。(以下ネタバレ) 原作では、エンマ大王(閻魔煌炎)の前世・高城イツキに、命を貸していた。(ネタバレ終了)