個性社会のシャドウサイド   作:あとか

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次でそろそろ女郎蜘蛛と遭遇。


知る者と知らぬ者

 目撃された子供たち―つまりナツメたち妖怪探偵団は高所のビルを片っ端から当たっていった。

 

伝説のウォッチ使いとして前世で忘れることのできない栄光を遺し、今世でもエンマ大王が敢えて特別な役職であり自身の化身である”地蔵菩薩”の名を明け渡したほど妖怪たちの信認を得ているケータ

 

そのケータから友達妖怪を()()()()ナツメにとって、高いビルを絞っていくことは造作もなかった。高そうなビルを狙い、うんがい鏡で飛ぶ。慎重に周辺を探し、いなかったったらまたうんがい鏡で飛ぶ。

 

歩く手間がない分、前世より捜索が捗ったのは言うまでもないが、相手も巧妙になっており中々見つけることが出来なかった。

 

ようよう辿り着いた場所には、前世とは違い人は誰もいなかったのだから。

 

 

「恐らく、ここで間違いないはずなんですが……。」

ケータの祈りの籠った言葉をしっかり聞いていた天野家憑きの妖怪執事・ウィスパーがそう呟く。妖怪たち全員がウィスパーの言葉に頷き、ナツメたちもまた直感でここが怪しいと感じていた。

 

「手分けして探すか?」

アキノリの提案に、ナツメやトウマは考え込む。

 

相手はあの女郎蜘蛛。しかもこれほど凶悪ということは、考えたくはないが”同じ”である可能性を否定できない。

 

そんなヤバい相手に一人で立ち向かうのには、やはり勇気がいる。だが”前世の悪夢を繰り返さないこと”が彼らの中で最優先事項である以上、苦渋の決断だった。

 

ナツメとアキノリ、ケースケとトウマに別れてビル内を捜索することとなった。勿論、喚べる妖怪たちは全員喚び、半々に別れて行動するのを条件として。

 

全員覚悟を決め、敵のアジトに足を踏み入れた。

 

中の惨状は、あの時よりも酷いものだった。女郎蜘蛛に魂を食われる直前に抗った人たちの残骸があちこちに散らばっていたからだ。

 

「っ!これは……」

「酷いな……。」

 ナツメたちは全員揃って険しい顔を浮かべる。

 

状況は前よりも最悪だ。

 

必死に抗った人たちの残りのせいで、安全な場所を確保するのにすら苦労する状況だからだ。

こんな状況で元凶である女郎蜘蛛を探し出すとなると骨が折れる。

 

しかしやらねば被害が拡大するのは目に見えている。

より一層覚悟を決め、妖怪探偵団は元凶探しをスタートした。

 

ナツメは、前世での勘を活かして探しアキノリは実家で鍛えられた感覚とアキノリの祖母・ミツエが開発した妖魔レーダーを基に探す。

 

女郎蜘蛛が辺りにまき散らす妖気のおかげか、幻魔に対する制限が緩和されているトウマは分析に優れた幻魔・義経を憑依し、ケースケは父・ケータの友達妖怪の中から現状に合った妖怪を数体喚んで行動する。

 

その数分後、ナツメたちは更なる絶望の光景を見ることとなった。

 

 


 

 ナツメたち妖怪探偵団を追いかけ始めたヒーローたち。

しかし、ナツメ達がうんがい鏡であちこちワープするため常に行動を追跡することは困難だった。視界にとらえたと思ったとたん、あっという間にいなくなってしまうからだ。

 

余りにも移動が速いために移動系の個性を疑うが、それにしても副作用がないのはおかしい。そう考えた彼らは、ワープ先であろう場所を手分けして追いかけることにした。

ただ、追跡しながら思い出すのは先ほど見た光景だ。

 

「子供……だったのか。」

 子供たち。新人ヒーローと比べても一回り程離れてるように見える子供たち。普通この場合家にいるはずの、守られるべき未来の宝。

 

であるはずなのに、彼らは恐怖するそぶりも見せず真剣な表情でこの街を駆け抜けていた。今回の事件とどう関わっているのか想像できないが、あの光景はヒーローたちに衝撃を与えるには十分だった。

 

 

 『個性』と呼ばれる特殊能力を持つ人間が多く存在するこの世界。個性を悪用する敵・ヴィランの数は一向に減る気配はない。

 

これでも平和の象徴と謳われるNo,1ヒーロー・オールマイトがいるおかげでマシなのだが。

そうとは言え、個性犯罪に対処できるのは特殊な鍛錬を積んだヒーローがするべきことであり、またヒーローにしかできないことである。

 

だから、ヒーローになるための学校であるヒーロー養成高等学校に通えないはずの子供たちがこの場にいるのは不自然極まりないのだ。

 

ヒーローたち彼らの後を追いながらは首を捻る。

普通であるならここにいないはずの子供たち。

守られるべき存在であるはずの彼らがこんな事件に関われば、いらぬ不安要素となる。

 

考える時間はあまりない。

とても”普通”とは言い難い状況。何が起こるか分からないのだ。

 

ならば自分たちヒーローがなんとかするしかない。彼らの眼には決意の光が宿っていた。

 

そんな彼らの決意は、全く以って無意味であったのだが。

 


 

 ヒーローたちの心配を他所に、ナツメたちは女郎蜘蛛の痕跡を探していた。しかし、そう簡単には見つからない。

 

よほどナツメたちのことを警戒しているのか、普通なら元凶に近づくにつれて濃くなるはずの妖気が万篇無く拡がっているのだから。

 

険しい表情を浮かべていたが、ナツメはふと思い当たった。

”普通”じゃない状況。なら、”普通”に戻せばいいのではないか。

一瞬戸惑いを見せるも、ナツメは覚悟を決めて、現状を改善できる友を喚んだ。

 

 

ほんの一瞬、されど一瞬。

ナツメが喚んだ存在のおかげで、妖力が一か所に集中する。

 

ビルは”普通の怪奇案件発生場所”に戻ったのだ。

怪奇案件発生場所に普通も何もないのだが、そうとしか表現のしようがないのでどうしようもない。

 

閑話休題。

妖気が一か所に固まれば、特定するのは容易い。妖怪探偵団の面々は頷き合い、一番妖気の濃い場所へと足を踏み入れた。

 




【今回の妖怪大辞典】
うんがい鏡
由緒正しい古い鏡に霊魂が宿り、妖怪になった姿。鏡と鏡の中の空間をつなげる不思議な能力がある。その能力は、個性では再現できない。

幻魔・義経
上位妖怪でありトウマのみが憑依できる幻魔の中で、最も分析力に長けた存在。その見通しは、予知系個性をも凌ぐ。
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