聖戦士シャーロイル~名探偵になりたかったのに、何故かヒーローになってしまった~   作:XX(旧山川海のすけ)

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第100話 人間なんてそんなもの

★★★法王バイル視点です★★★

 

 

 聖母体質のレアモノ、藍沢市子が奪還されたと報告が入ったのは、数時間前のこと。

 

 ワタクシたちの手から、あの最後の鍵が奪い返されてしまった……。

 その際、あの将軍ベルゼブが聖戦士に倒されたという知らせも届き。

 

 信じられなかったです。

 

 ベルゼブは最強のナラッカの戦士だったのに。

 ……万全の状態の陛下を除けば。

 

 彼に勝てる可能性がある者がいるとすれば、それはゼイモンくらいしかない。

 聖戦士に負けるなんてあり得ない……

 

 そう、思っていたのに。

 

 そんな彼が負けるなんて……!

 

「……ワタクシでは絶対に勝てない」

 

 薄暗い部屋で、ワタクシは一人呟きました。

 人間の姿……天京光莉としての顔が、鏡に映っています。

 長い紫色の髪を指で梳きながら、冷静に状況を考えました。

 

 ベルゼブを倒したのは紫色の聖戦士だそうで。その正体は……

 

「瀬名御幸」

 

 ……藍沢市子の仕事の相棒です。

 

 まさかあの男が聖戦士だったなんて。

 それ自体が驚きなのに、その上……

 

 僅か数日でベルゼブの奥義「魔光壁」を破る技を編み出して来るなんて。

 

 あり得ないです。

 ベルゼブは修行に10年掛けたと言ったのに、僅か数日でそれを破る技を編み出す……?

 

 どう考えてもおかしいですよ!

 まるでベルゼブ自身に指導を受けて、的確な修行を積んだみたいな……。

 

 ワタクシはあの男が恐ろしくてたまりません。

 そんなあり得ないことをやってきたあの男に。

 

 腕のいい探偵だってこと以外、普通の男だったはずでしょう……?

 

 

 そんな男と戦ったら、ワタクシは確実に倒される。

 その確信がありました。

 

 ……だが、ワタクシは陛下をお呼びする最重要の仕事を任されている身。

 

 死ぬわけにはいかないのです。

 

 ならば逃げ回るしかないですよね。

 解決の手段がこちらに整うまで……!

 

 ……影武者を作るのですよ。

 

 この姿に似通った女性信者に、現在整形手術を受けさせています。

 数カ月もすれば、瓜二つに仕上がると教団付きの医者は言っていました。

 

 ……藍沢市子が私の正体に勘付いている可能性があったから、代わりにそいつを身代わりに立てるのです。

 それで疑いを晴らす。

 この姿を手放せない以上、それが最善の手段。

 

 幸い、資金なら腐るほどあります。

 マーシアハ教会の教祖の娘として、ワタクシには逃げ回る手段がいくらでもあるのです。

 隠れ家を転々としながら、そうして機を待つのが賢明でしょう。

 

 そう決意した、そのときでした。

 

 ワタクシの飛ばしの携帯端末が震えたのです。

 画面を見ると、東京支部の職員からでした。

 

 ……何でしょうか?

 

 ワタクシは眉を軽く上げて、通話ボタンを押しました。

 

「もしもし、どうしたのですか?」

 

 ワタクシの声は穏やかですが、内心では苛立ちが滲んでいます。

 この大変なときに。

 

 すると

 

「光莉様、東京支部で妙な入信希望者が暴れてまして……その、対応に困ってます」

 

 職員の声が少し震えていました。

 ……妙な入信希望者?

 

「妙とは?」

 

 ワタクシが訊くと、職員が慌てて説明を始めます。

 

「そいつ、自分を『藍沢市子だぞ!』って名乗ってまして……『天京光莉に入信したら贅沢三昧させてくれると約束して貰った! ここに連れてこい!』とか叫んでるんです。おやつに『たいがーやの最高級羊羹を要求する!』とか、『14才の可愛い男の子と結婚させろ!』とか、騒ぎ立ててまして……」

 

「……何?」

 

 ワタクシは一瞬、言葉を失いました。

 藍沢市子? あの聖母体質の女が? 東京支部で暴れてる? 

 

「そんな約束はしていないと思いますが……」

 

 そう言いかけたとき。

 

 ワタクシは気づいたのです。

 

(……全てを知って、ワタクシの下につくことによるメリットを自覚し、聖戦士を裏切った……?)

 

 その可能性に。

 

 市子が聖戦士に奪還されたのは確かです。

 

 だが、彼女が自分が我々ナラッカの目的……天魔王陛下召喚の鍵であることを知ったとしたら? 

 そして、ワタクシが金を自由自在に動かせ、何でも言うことを聞く人間を多数抱えていることも理解したとしたら? 

 

 聖戦士に忠義を尽くして懸命に戦うより、ワタクシに逆らわずに出産し、その引き換えに贅沢三昧を享受する方が利口だと気づいたのではないでしょうか? 

 

「……ふふ」

 

 小さく笑いが漏れました。

 人間とはそういうものですよ。

 欲望に目が眩めば、仲間も自分の正義も簡単に捨てる醜い生き物。

 ワタクシはその手の輩を何人も見てきました。

 この姿の戸籍上の父親のように……!

 

 市子がそうであったとしても、何の不思議もないです。

 

 そして彼女の言い分を、ワタクシは信じることにしました。

 

 ……聖母体質の女が自らワタクシの下にやってくるなら、こんな好機はないです。

 これは千載一遇のチャンスですよ。

 陛下をお呼びすることへの道が、一気に開けるかもしれないのですから。

 

「会いましょう。丁重にもてなしておくのです」

 

 念のため、その女の写真を送付した上、GPSや隠しマイクなどの秘密の通信機器の所持を確認しろと職員に命じ。

 ワタクシは隠れ家にいる世話係に、車の準備を命じるため大きく手を叩いたのです。

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