聖戦士シャーロイル~名探偵になりたかったのに、何故かヒーローになってしまった~ 作:XX(旧山川海のすけ)
俺はアジトの裏庭で、念動力で木を引き抜く修行に没頭していた。
何日も、来る日来る日も、イメージを繰り返す。
シャイタンの念動力を超えるためだ。
汗が額を流れ落ちる。
……だが、諦めるつもりはない。
そのとき、背後から足音が聞こえた。
振り返ると、市子が駆け寄ってくる。
目が赤くて、涙声だ。
「御幸君!」
彼女が俺の腕を掴んで、声を震わせた。
「この国が、私たちの世界がどんどんおかしくなってるよ!」
その声は絶望に染まっていた。
「このままじゃ、世界が取り返しがつかないくらい崩壊しちゃう……どうしよう、御幸君、私こんなの嫌だよ!」
市子の言葉が胸に突き刺さった。
彼女の涙が、俺の服にポタポタ落ちる。
「……市子」
俺は……
思えば最初、俺は聖戦士になることを拒否していた。
当然だ。いきなり何の義理もないのにチカラを押し付けられたんだから。
通りすがりで、義理どころか、恩を与えたのはむしろこっちだ。
救急車を呼ぼうとしたんだから。
そしたら、タケルさんに一方的に鎧を継承させられたんだ。
でも……
ナラッカって存在が、人に対して好き勝手に悪行を重ねてるのが許せなくて、今の俺がある。
……何でだろう?
何で俺はこんなことになったんだ?
後悔は全くない。
だけど、考えた。
最初は……
人間の犯罪者の罪は人の法で裁かれるのに、ナラッカの罪は聖戦士以外裁く者がいない。
そしてあの状況で、ナラッカを裁けるのが俺しかいなかったからやったんだ。
悪魔が悠々と人間の人生を破壊してる世界が、気に入らなかった。
だからこの世界に踏み込んだんだ。
……そして今は?
何で今、こんな無茶な修行を続けてる?
何日も木を引き抜くイメージをし続けて。
何でこんなことを……?
そして、気づいた。
……結局、最初の気持ちと大差ないんだ。
単に、俺が認識していた世界が無くなってしまうことが嫌でたまらないからだ。
この国が、俺の知ってる日常が、ナラッカに支配されて違うものになることが我慢ならない。
そしてその思いは──
きっと市子も同じだ。
多分、タケルさんも。
ガルザムやゼルノスだって、そうだろ。
……そういう思いを持ってる人は、きっと他にも沢山いる。
「世界のために」なんて大げさなもんじゃない。
単に自分が幸せに生きたいだけ。
……結局は自分のためなんだよ!
その瞬間、何か力が繋がった気がした。
同じように自分のために祈ってる人が、力を貸してくれた気がしたんだ。
「うおおおっ!」
俺は雄叫びをあげ、念動力を全開にした。
目の前の古木に意識を集中させる。
すると──
地鳴りが起きる。そして
地面が震え、土が撒き散らされながら、木がゆっくりと引き抜かれ始めた……!
「……えっ!?」
絶対にできないと思われてたことが、目の前で起きている。
根っこが土を裂き、太い幹が宙に浮かび上がる。
1本の木が、完全に地面から離れて、俺の目の前で浮いてる。
市子が驚きのあまり、放心していた。
口を開けて、涙が止まったまま俺と木を見てる。
俺は笑った。
「どうだクソッたれ……! できたんだよ! 見たか!」
シャイタンに向けて叫んだつもりだった。
胸が熱くなって、拳を天に突きあげた。
これで戦える……!
シャイタンに戦いを挑めるんだ……!
引き抜いた木を念動力で投げ捨てて。
その地響きを無視して
「市子、見ててくれ。俺、絶対にこの世界を取り戻す」
俺は振り返り、彼女に言う。
俺のその言葉に。
放心していた彼女が、微笑んだ。