聖戦士シャーロイル~名探偵になりたかったのに、何故かヒーローになってしまった~ 作:XX(旧山川海のすけ)
第115話 天魔王のおやつタイム
★★★賢者アスタル視点です★★★
我は賢者アスタル。
天魔王陛下の忠実なる家臣「ノーブルクラス」の1人だ。
……人間としての名前は垂井明日花。
現在は総理大臣を務めている。
ここに来るまでは長かった。
まず権力欲に塗れ、何が何でも国会議員であり続けたいと考えていた浅ましい女政治屋・垂井明日花を襲って成り代わった。
この女は民衆の初期のイメージが最悪であったから、突如日本の政治家として真っ当な事しか言わない人間に変わっても
「改心したのか」
としか思われなかった。
……古巣の連中に突き上げを喰らったが、そこは配下のノーマルクラスたちに命じ
消したり。
失脚させたり。
もしくは我の人気取り工作をさせたり。
……本当に苦労した。
我にわざと火炎瓶を投げさせて、迫害される愛国の士を演出したり。
その犯人に対して恩赦を求めたり。
テロに対して全く怯まない様子を演じたり。
本当に、本当に苦労した。
そして副総理まで上り詰めた後。
最後の一押しで、天魔王陛下が降臨なさったときに我は現職の総理大臣を消した。
……非常事態で総理大臣が急死すれば、いちいち選挙などしない。
副総理が繰り上がることになっている。
そして
我は当初の予定通り、総理大臣になれた。
我の役目は陛下の威をこの国の人間たちに示した後、速やかに降伏させること。
しつこく、粘り強く戦われると無駄なプシュケーが失われ、さらにこの国の文明が壊れる。
……我は人間どもを一段低い生き物と見下しているが、彼らの築いた文明には価値を認めている。
それを壊すのは忍びない。
……ゼイモンに聞かれると、面倒なことになりそうだから仲間に話してはいないがね。
「陛下、アスタルが参りました」
そして今日も、我は陛下に謁見をする。
陛下に対する献上品を届けるためだ。
あと、その御意思の確認を。
……現在、国会議事堂はナラッカしか居ない場所になっている。
なので我も、人間のフリは止める。
人間の総理大臣・垂井明日花から、ノーブルクラス・賢者アスタルとして振舞うのだ。
衆議院議場が、今の陛下の玉座の間だ。
陛下に対するご挨拶の後、歩みを進め。
議長席のあたりの机に、脚を組んで美しく腰を下ろしていらっしゃる陛下に対し、膝を折って臣下の礼を示す。
「ご苦労。待っておったぞ」
さあ今日のおやつを寄越すが良い。
笑顔で陛下がそうおっしゃったので、我は持参した菓子の包みを両手で差し出し献上した。
……陛下は人間界のスイーツがいたくお気に入りで、謁見時には必ず持参するように我に命じておられる。
従う以外無い。
偉大なる天魔王陛下が仰るのだ。
陛下がお喜びになられるのだ。
陛下は受け取った箱を丁寧に開封され、包みをお剥がしになられた。
そして出て来たのは……ホールケーキだった。
イチゴのピンククリームケーキだ。
これは絶対に美味しい。
陛下に問題なくお出しできる……!
陛下は初めて目にするそれに、少し戸惑っておられた。
「この菓子、どうやって食うのだ?」
この前に献上したのは生シュークリーム。
あれは手づかみで食べるものだったが、聡明な陛下は、このホールケーキで同じことをすると手が汚れることにお気づきになったらしい。
流石は陛下だ……!
我は丁寧に一礼し、銀製の小さなフォークを差し出す。
「このフォークという食器をお使い下さい、陛下」
陛下はフォークを受け取り、それで早速クリームケーキを召し上がった。
「なるほど。これなら手が汚れぬな」
そして頬張り。
とてもお喜びになられた。
「美味い。実に美味いぞ、アスタル。これは何だ?」
我は答える。
当然、そういう御下問は想定している。
臣下の務めだ。
「これはこの国の兵庫県という場所にある、実績の高い店のものです。イチゴのクリームホールケーキといいます」
兵庫花鳥堂という老舗店。
本来なら予約が要るのだが、材料費やその他諸々、国費を積んで強引に作らせた。
天魔王が日本のスイーツを気に入っている。金に糸目はつけぬので、即刻作れと。
……まあ、店主が特に陛下に反発していなかったので、それですんなり要求が通ったのは幸いだったな。
人間の中には、死んでもお前の思う通りにはしないと言い出す者がまれに現れるので。
本当に、幸いだった。
「なるほど……ニンゲンたちは1万年の間に大きくなったものだ。素晴らしい」
見る間にホールケーキを丸々1個、お召し上がりになってフォークを置かれる。
我はそれを回収させていただき
「これからも引き続き献上せよ。よいな?」
そんな陛下の御言葉を聞き、そして
「畏まりました」
我は深々と頭を下げ、そう応えたのだ。