聖戦士シャーロイル~名探偵になりたかったのに、何故かヒーローになってしまった~ 作:XX(旧山川海のすけ)
★★★藍沢市子視点です★★★
タクシーの後部座席に座って、私は膝に手帳を広げていた。
ペンを握って、窓の外に流れる東京の夜景をちらっと見る。
さすが首都。
建物がどれも立派だ。
私はマーシアハ教会の東京支部にタクシーで向かっていた。
こんなことを書きながら。
「14才のカワイイ男性信者と結婚させろ」
「毎日のご飯は中華料理と韓国料理、フランス料理と和食のローテーションで」
「おやつを1日5回寄越せ」
「毎日のエステとスポーツジムを要求する」
「最高級のタブレットとスタイラスペン、イラストソフトをくれ」
「私の言うことを何でも聞く召使いをくれ」
そして……
「教祖の娘の天京光莉に会わせろ。会わせない限り入信しない」
……何様だよこいつ。
書きながら思わず笑ってしまった。
金に目が眩んだ下種を演じるのだから、相応しい準備が要る。
だからネタ出しをしてたんだ。
……思いつく限り、欲望丸出しだろと思われるラインナップを。
そしてそこに、本命の願い「天京光莉、つまり法王バイルに会わせろ」も混ぜ込む。
パッと見一番楽そうだし、本人的にもやらなきゃならないことだし。
通りやすくなるんじゃないのかな? そう思いつつ。
……しかし。
こういう風に、対話のネタ出しで思い出すのは……
就職対策したときかな。
面接対策で。
私、新卒で大手の探偵社に就職したんだよね。
……あのとき御幸君が「立派な私立探偵になるために、まずは修行をしなければ」と、大手の探偵社に履歴書を出したんだよ。
私はそれに付き合ったんだ。
……絵で食べていくのは無理だと思ってたから、どうせなら小学校からずっと知ってる御幸君と同じところを受けようかなぁ、という動機。
でまぁ、2人とも採用され。
そこから2人、新米社会人として必死で自分の仕事を覚えて。
3年経ったとき。
御幸君が「私立探偵を始めるための元手が貯まったのと、自分が探偵のイロハが理解できたと判断した」ため、独立する目的で辞表を出した。
そして私はそこについて行ったんだ。
……なんか、嫌だったんだよね。
大手の探偵社で事務仕事をするのは、安定はしてて不安無かったのに。
私も辞めると言ったときに御幸君「別に付き合わなくても良いぞ?」って言ってくれたけど、私は無視して同じ日に辞表を出した。
そして今、ここにいる。
(私の人生、御幸君と一緒の期間が多いなぁ……本当に)
窓に映る自分の顔を見ながら、そう思った。
何でそうしたんだろう?
探偵になりたかったわけじゃないし。
でも、御幸君が探偵社に入るって聞いたとき、心が動いたんだ。
辞めるときも、同じだった。
「……あ」
小さく声が漏れた。
今更ながら、気づいてしまった。
私……
「私、結局御幸君のこと好きなんだろうな」
今まで友達としてしか見てないつもりだったけど。
ナラッカに攫われて監禁されてたときも、御幸君が助けに来てくれるって信じてたから耐えられたんだ。
あのとき、それがなければきっと私は法王バイルに感謝して、彼女のことを神様か何かだと思って言いなりになっていただろう。
明らかに状況が変なのにね。
あの聖戦士の館で、囮になるって決めたときも、御幸君が守ってくれるって確信があったから踏み出せた。
何も怖いことは無いって。
でも「好き」って言葉にすると、ちょっと恥ずかしい気がする。
今更だし。
タクシーが信号で止まった。
私は手帳を再び開いて、さっきのリストを見直した。
「14才のカワイイ男性信者と結婚させろ、か。御幸君が聞いたらドン引きするかな?」
小さく笑って、手帳を閉じた。
演技だけど、ひょっとしたらやりすぎかも……?
そんなことを思い、苦笑する。
そして
「よし。やっちゃおうか」
タクシーが再び動き出し、マーシアハ教会の東京支部が近づいてきた。
『宗教法人マーシアハ教会東京支部』
看板が見えて来る。いよいよだ。
私は大きく深呼吸した。