ウルク産地のアルトリア顔の女神様 作:へっぽこ女神
なんとか全部種火を食べ終えて、子ギルに引っ張られ戦闘訓練の出来るシミュレーターへ。
ギルガメッシュ相手だと手加減しにくいし、戦闘というよりは子ギルの放つ攻撃をいなす防御訓練と言った方がいいかもしれない。
離れた場所から楽しそうにこちらを見ている子ギル。部屋で会った時からずっと上機嫌な彼は、数種類の財宝を私へ遠慮なしに飛ばしてくる。
手の平に乗せるは太陽の権能。
一時的に顕現した剣で思いっきり振り払う。それは普通の武器であれば消し飛ぶほどの熱風。王の財宝であるからこそ、子ギルから放たれた武器は弾き飛ばされ壁へ突き刺さる。
「こうやって遊ぶのも久しぶりな気がしますね、シャマシュ」
「遊ぶっていうには本気すぎません?」
「この程度で本気って勘違いしたら困るなー?」
数秒。
否、一瞬だ。
可愛らしい小悪魔みたいな声で言った子ギルは、王の財宝から放たれる武器を増やし、神性特攻たる天の鎖を私へ伸ばしてきた。
武器も当然ながら神性特攻。
足を止めれば心臓や頭へ突き刺さると確実に分かる挙動。
神殺しへ至るそれらを見て、私はギルガメッシュに失言してしまったのだと理解した。
瞬時に跳躍し、天の鎖から離れつつ明らかに殺しにかかってくる数々の剣を斬り飛ばした。
「すみません私が勘違いしてました。まだ余裕そうですねっ──」
子ギルの殺意は濃い。
一度でも手を止めれば私は串刺しとなるだろう。
エルキドゥと遊んでる時みたいに思ってるのかもしれない。
この程度の攻撃でシャマシュは死ぬわけではないだろうと。
きっと、全盛期のギルガメッシュが目の前に立っていたなら数千と武器を射出した可能性すらあるほどに。
──不意に、子ギルの手が止まる。
もちろん私も立ち止まり扉の方を見た。
「派手にやってるかと思いきや、またアルトリア顔が増えたんですかぁ!!」
「新米か? それにしてはあの青セイバーとかいうのに似すぎてないかのぅ?」
「アンパンの新しいパンみたいに増殖するのやめてくれません!?」
「沖田ぁ~新しい顔じゃよぉ~」
「あぁー! 裏声なんか使っちゃって! ジャムなおじさん気取ってるんですかふざけないでくださいよノッブおじさん!」
「誰がおじさんじゃオキタンマン!」
興が削がれるほどに、少女二人の軽快な言い合いは続く。
というか、二人のうち片方の見た目が私に似てる気がする。
「ちょうど良かった! そこの桜セイバーさんに頼みたいことがあります!」
子ギルの顔を見て、嫌な予感がした。
あれは、悪巧みを考えていた時の顔。
生まれた頃から守ってきたギルガメッシュだからこそ私には分かる。あの可愛らしい笑顔は裏があると。
私がちゃんと期待通りに守ってくれるか試すために何度かやらかしてきた時の表情だ──!
「あの、ギルガメッシュ。何をする気ですか……?」
「この桜セイバーさんと戦って欲しいだけですよ」
「戦う……?」
なんだそれだけか。
戦うならなんとかなるかな。
そう思っていた私は、やる気満々な桜セイバーさんとやらが「いいですよやってやりますよ! 今ならアルトリア特攻スキルつけられます──ごはぁ!」と盛大に血を吐くのを見て大丈夫かなとちょっと心配になった。
──まあ、杞憂だったけれど。
・・・・・
「……のう、そこの金ピカ」
「はい、なんですか?」
「あれ大丈夫なんか? 沖田にやられまくっとるぞあれ。そろそろ細切れにされそうじゃぞ?」
織田信長と子ギルが見ている先にあったのは、斬り合いというにはいささか度が過ぎたもの。
青ドレスごと肌を切り裂かれ、太ももや胸やら際どい部分が見えそうなほどにボロボロな姿のシャマシュ。
首を狙い斬ることを躊躇わない沖田。
弱点たる部位を斬られぬように守っているが、明らかに戦いにくそうに沖田を見ている。
そんなシャマシュに、ちょっと苛ついたような様子の沖田。
「戦ってみれば分かると思いますが、アレは人間相手には手加減しか出来ないポンコツなんです。自分の肉や骨が斬られても構わない馬鹿ですよ。この先、サーヴァント相手にはちゃんと戦ってもらわなきゃなので」
「それで沖田を利用したと」
「はい。ポンコツの相手には人斬りさんはちょうどいいと思いまして」
──ちょっとそこ! 聞こえてますよ!
そんな風に沖田からの怒声が聞こえるが、織田信長と子ギルは気づかぬふりをした。
そうして沖田は、抜刀していた剣をしまい、低く体勢を整えた。
「あっ」
織田信長の小さな声が聞こえてしまうほどの、静かな瞬歩。
「ムカつきますね、その涼やかな顔」
目前にいたはずの沖田の姿はいつの間にかシャマシュの背後にいた。
沖田の舌打ちがされた瞬間に、それらは舞い散る。
「っ──!」
鮮血がばらまかれる。
まるで花火のように周囲へ飛んだ血は多く、その肉片の一部すら吹き飛ばし、惨状を示す。
目を瞬いたシャマシュは、いつの間にか己の片腕を沖田に斬り飛ばされたことに気づいた。
しかしシャマシュはそれを痛がることもせず。
怯えた様子もなく。敵対心を見せず。
なるほどと、頷いてみせたのみ。
「人間にも神に届くものがいるのですね。……すみません桜セイバーさん。私はギルガメッシュとは違うというのに、彼と同じように慢心したようだ」
「はい?」
「いえ。────少し、安心しました」
切り落とされた片腕を手に取ったシャマシュが、その切断部分をくっつけて、炎を顕現した。
火が消えるのと同時に見えるは、人外のそれ。
青ドレスが鮮血に濡れて赤くなった衣装に身を包み、切り落とされたはずの素手を動かしてみせた、アルトリアに似た顔をした、人成らざるもの。
「もう一度お願いします。……今度は燃やされないようお覚悟を」
目を見開いた沖田が、愉しそうにその目を細めその口を舐めた。
「うん、これでもう安心かな」
部屋の隅っこで呟いた子ギルを、織田信長はチラリと横を見る。
「のう、金ピカの小さいの」
「はい」
「金ピカは青セイバーが好きと聞いたが、あれは同類ではないのか。奴がボロボロになることに愉悦を感じる性癖なのかおぬしは」
「少なくともボクはそんな変態じゃないですよ」
心外だなぁとばかりに、子ギルは言った。
「それにセイバーはセイバーであってアレは別物ですよ」
「うむ、それは見て分かるぞ……あれ神の類いなんじゃろ? ワシ神性特攻持っとるから分かるんじゃがな」
「ええ、そうですよ。アレは神なのでボクの嗜好には向きません。愛でて慈しむものじゃない」
「ならばあれが人間であったならどうなんじゃ?」
「あはは。あれが人間であったならなんて……そんなありもしない可能性に縋るほどボクは過去を軽視してないんですよ。馬鹿げたことを聞かないでくださいね」
微笑んだ目は笑っておらず。
織田信長が地雷踏んだかと考える程度にはピリピリとした威圧を放つ。
「あれ……?」
「おっ?」
不意に、シャマシュの周りに閃光がまばゆく走る。
まるでそれは、召喚のそれ。
3本の閃光ではない。
令呪にも似た赤い光と共に、シャマシュの姿が消えた。
「マスターじゃな」
「マスターに呼び出されましたね」
「ちょっとぉ! 私との勝負はどうなるんですかぁ!!」
──令呪をもって命ずる!
──ごめんなさいプリテンダー! ちょっと来てくれ!!
そんなマスターの声が頭に響いたかと思えば、よく分からぬ場所へ飛ばされた。
なんか懐かしい背景と、何故か私を見て驚いた様子のマスター。
「プリテンダー!? なんか服とか身体とかボロボロだよ!?」
「あの、戦闘訓練をしていまして……」
「戦闘訓練にしては血だらけなんだけど!?」
慌てているマスターをどうにか落ち着かせようとして、彼に手を伸ばした。
でもそれは、無理だった。
背後から聞こえてきた鼻で笑ったかのような声に身体が硬直する。
「気にするな雑種。これは人間相手には攻撃できぬ程度に傲慢な性質を持っている。おおかた塵にもならぬのと戦って出来た自業自得な傷であろう」
心臓がドキドキする。
子ギルと同じく、彼と会ったときと変わらないその感覚は。
まさか。なんで。今はまだ会おうとは思ってなかったのに。
恐る恐る背後へ振り返ってみれば、そこにいたのは全盛期の彼。
「──ギルガメッシュ」
「なんだその腑抜けた面は。……貴様また権能を落としたな?」
眉をひそめたギルガメッシュが目前にいて。
血濡れな私を心配するマスターが側にいて。
なにこの状況。どういうこと?