おトモダチの味 ―― 暴食の少女と星天の約束   作:丸呑みトカゲ

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分岐にて、「魔法学校の校門を潜る」を選択した場合のルートになります。


おトモダチは再会の味

 ソルシエール魔法学校の校門の前で、ミーティアは激しく震えていた。

 

 校舎の深奥から轟く咆哮は、もはやかつての親友が発する情緒を失い、大気を鋭く切り裂く冷たい魔力の余波となって彼女の柔らかな毛並みを逆立たせる。剥き出しの本能は何度も「逃げろ」と警鐘を鳴らし、尾は足の間に固く巻き込まれていた。

 

 だが、彼女の胸の奥では、あのお伽噺の最後の一節が、そして召喚士が分かち合ってくれたあの温かな魔力が、消え入りそうな闇を穿つ確かな灯火となって彼女の背中を押し続けていた。

 

 ミーティアは、固く閉じていた目を見開いた。

 震える膝を両手で叩く。何度も、何度も叩く。痛みが恐怖を上書きするまで。もしここで逃げたら、一生、美味しいご飯を食べても、綺麗な景色を見ても、今の自分の卑怯さを思い出すことになる。それは、死ぬよりも辛い「味」がするはずだ。

 

 ――ミーは、行きマス。チュリンに、文句の一つも言ってやるんデスから

 

 それは彼女の短い人生の中で、最も重く、最も尊い一歩であった。大切な親友を想う心が、怯える獣としての本能を「知性」という名の意志でねじ伏せたのだ。

 

 一歩はやがて早足へ、そして地を蹴る駆け足へと変わる。避難する人々がパニックに陥り、逆方向へ逃げ惑う中、小さな影はただ一人、死に至る咆哮の源――魔法練習室へと真っ直ぐに突き進んでいった。

 

……

 

 一方で、魔法練習室は終わりなき奔流の地獄と化していた。

 

 変異したチュリンが纏う「水の鎧」から放たれる激流は、堅牢な防壁を削り取り、床を砕き、召喚士が展開する防御障壁を無慈悲に圧迫し続けている。

 召喚士の額には真珠のような汗が浮かび、障壁を維持するために全精神を削り出していたが、分離魔法の詠唱は途絶え、四人はただ押し潰されるまでの無為な時間を稼ぐことしかできない。

 

「だめ……です、もう……意識が……っ!」

 

 頭部に深手を負っていたマルスは、自身を圧殺せんとする重圧に意識の糸をかき乱され、朦朧とした。あと一分――いや、数十秒も持たずに彼の限界は訪れ、それを皮切りに脆い均衡は一気に崩壊するだろう。

 

 移ろう意識を必死で支えながら、マルスの心に本音が零れ落ちる。

 

 ――魔法学校の教師というのは、なんて難儀な仕事だろうか。

 

 教え導くことが本分だと思っていた。だが、生徒を守るために、専任の魔術師すら手に負えない規模の暴力的な魔法をこの身で受け止めねばならない日が来るとは。

 それでも、マルスは教師になると決めた日の矜持を思い出し、奥歯を噛み締める。

 

 世の中には、自分よりも遥かに才能に溢れ、輝かしい未来を秘めている若者が数えきれない程いる。しかし、正しく導く者がいないだけで、その未来は容易く暗転してしまう。不条理に奪われていった惜しむべき人々を、彼は何度も見てきた。そんな悲劇をこれ以上許せなくて、彼は教育の門を叩いたのだ。

 

 目の前の顔馴染みの生徒は、数日前まで学問への熱意が込められた利発そうな瞳で、彼を見つめていた。

 今は、別人かと見紛う程に食欲に支配された瞳で、自分達を獲物として見つめていることが分かる。

 

 ここで止められなければ、この子はどうなるのか。変わり果てた姿で街を蹂躙し、最後には熟練の魔術師に無慈悲に討伐されるだろう。そこに本来歩むはずだった未来など、何の面影もありはしない。

 

 ――目の前の生徒を、化け物呼ばわりされたこの子を……私が諦めてしまえば、一体誰が、彼女を導けるというのか!

 

 震える膝を叱咤し、マルスが再び杖に力を込めたその時、魔法練習室の重い扉が、絶望を打ち破る勢いで蹴破られた。

 

 現れたのは、ミーティアであった。

 彼女は眼前に広がる凄惨な光景――逆巻く濁流と、それに必死に抗う召喚士たちの姿に息を呑んだ。足は震え、心臓は爆ぜんばかりに脈動したが、今の自分にできることは一つしかなかった。彼女は障壁の隙間から漏れ出る奔流を縫うようにして、召喚士の元へと駆け出した。

 

「ミーティアさん!? あ、危ない!! 下がってください……!!」

 

 朦朧とするマルスの叫びを背に、ミーティアは止まらない。彼女は召喚士の隣へと滑り込み、その震える手を力強く握りしめた。

 

 刹那、二人の間に即席の魔力回路が火花を散らして構築された。ミーティアの体内に眠っていた、母なる海のように底知れぬ魔力が、黄金の奔流となって召喚士へと流れ込み、枯渇しかけていた彼の魂を再び満たしていく。

 

 かつて入学試験において、あらゆる評価を度外視して彼女の合格を決定づけた「異常なまでの魔力保有量」。一年という月日を経て、それは今や一つの戦略兵器に匹敵する質量へと膨れ上がっていた。ミーティアは、かつてマルスに褒められた自らの天賦を信じ、その全てを召喚士へと委ねた。

 

 防御障壁にミーティアの持つ温かな桃色の燐光が巡り、輝きを増していく。障壁は荒れ狂う死の奔流を、まるで赤子を宥める母の手のように優しく受け止めた。

 

 すると、猛り狂っていた濁流の勢いが急激に減衰していく。ミーティアの魔力を帯びた障壁を打つ水の振動を通じて、核に沈むチュリンが彼女の存在を感知したのだ。

 ケダモノにとって、それは本来極上のご馳走であったはずだ。しかし、チュリンの精神を激しく揺さぶったのは、魔力と共に流れ込んできたミーティアの、岩をも砕く強い決意であった。

 

 必ずこの地獄から、かけがえのないおトモダチを救い出してみせる。その純粋な意志がチュリンの理性を呼び起こし、怪物の深淵を照らし出した。

 

『……ミー……ティア……そこに……いる……の……?』

 

 水中から漏れ出す、今にも消え入りそうな親友の声。それに応えるべく、ミーティアは有らん限りの声を張り上げた。

 

「――チュリン!! ミーは、いマス!! ここデス!!」

 

 ミーティアは叫ぶ。チュリンと過ごした、鮮やかな色彩に満ちた日々の全てを。

 

「チュリン!! ミーは忘れてないデス! アナタと一緒に受けた面接のこと、一緒に食べた最高の星空パフェのこと、夜遅くまで一緒に勉強したこと、毎週一緒に補習を受けて少しずつ魔法ができるように頑張ったこと! 全部全部、ミーの宝物デス!!」

 

 ミーティアは魂を削り、祈りを魔力に変えて叫ぶ。まだ見ぬ、光り輝く未来の全てを。

 

「これからも一緒に勉強して、一緒に遊んで、一緒に、立派な魔術師になるんデス! おとうサンおかあサンに、村のみんなに、チュリンの素敵な姿を見せるんデス!! それと……それと……っ! 空気の綺麗な場所で、満点の星空を見に行く約束を果たすんデス!!」

 

 瞳から大粒の涙が溢れ、床を覆う奔流に溶けていく。

 その叫びは、この世のあらゆる禁呪よりも強力な「情愛の大魔術」としてチュリンの心に突き刺さった。

 

「一人で泣かないで、こっちに戻ってきて……!! チュリンは、ミーの……最高の『おトモダチ』デス!!」

 

 その絶叫が決定打となった。

 主導権を失った飢餓が瓦解し、水の鎧が霧散していく。そこには、ずぶ濡れのまま呆然と立ち尽くす、本来のチュリンの姿があった。

 

「……ミー……ティア……わた……し……」

 

 掠れた声に理性の光が宿る。ミーティアが駆け寄ろうとした、その刹那――。

 

 召喚士は、この瞬間のために全ての精神を研ぎ澄ましていた。

 彼は真紅の魔導書を翻し、神の領域を侵す禁忌の術式を解き放つ。

 

「|停滞せし因果を呼び戻し、刻まれし刹那を現在へと再臨させよ《ロード・オブ・クロノスタシス》!!」

 

 特定の時間軸に巻き戻り、何度でもやり直すことができる。召喚士が擁する最後の切り札、ロード魔法。

 それを彼は、中断された詠唱のみを巻き戻し、その一音から寸分違わず再開させるために行使した。

 だが、チュリンの理性がいつまで持つかは予測できない。即座に、ラピスが自らの限界を超えた加速魔法を重ねた。

 

緩慢なる時よ、我が命に従い歩みを早めよ(ヴレーミャ・ラズゴナチ)!!」

 

 召喚士の周囲の時間が加速し、神速の詠唱が練習室を埋め尽くす。

 ラピスは苦しげに唇を歪めながらも、不敵な笑みを浮かべた。

 

「……全く、人使いが荒いですね。急いでください!」

 

 自身の消滅を察知したチュリンの胃の奥に潜む飢餓が、咄嗟に身体の制御を奪い返し、召喚士たちへ躍りかかろうとする。そこへ、沈黙を守っていたベルゼブブが「暴食の王」としての真の姿を曝け出した。

 複眼を爛々と輝かせ、その身体は巨大な蠅を思わせる禍々しい破壊神へと変貌する。

 

「――オオオオオオオオッ!!」

 

 身の毛もよだつ咆哮を上げ、ベルゼブブはその圧倒的な膂力をもってチュリンを床へと叩き伏せた。

 床には蜘蛛の巣状の亀裂が走り、激しい振動が練習室を揺らす。

 

 それでも往生際の悪いケダモノは、床から凝縮された鋭利な水流を出現させ、召喚士達を貫こうと放つ。ラピスもベルゼブブも届かない。

 最悪の結末を覚悟した瞬間、満身創痍のマルスがその身を盾として投げ出した。

 

「がっ……ぐぅっ……!!」

 

 咄嗟に展開した防御魔法で軌道を逸らすも、鋭い水の刃がマルスの肩を無慈悲に貫いた。

 激痛に顔を歪めながらも、彼は自らの教え子へ向けて、血を吐くような微笑を浮かべた。

 

「……大丈夫ですよ、チュリンさん。学校で……待っていますからね……」

 

 その尊い自己犠牲が、最後の数秒を稼ぎ出した。

 魔力回路が臨界点に達し、召喚士が終止符を打つ。

 

「|混じり合う理を分かつべし、境界を定める魔の楔よ《スピリトゥ・ディスシャーニド・バリシア》!!」

 

 今、分離魔法はここに完成した。

 魔法練習室を超え、ソルシエール魔法学校全体を包み込むような、純白の光が大爆発を起こした。

 視界は白一色の静寂に染まり、この世の全ての音が消失する。

 

 ……やがて光が収まり、視界が戻った。

 魔方陣の中央には、意識を失い、傷だらけの姿で横たわるチュリン。その周囲には、彼女に呑み込まれていた魔獣や魔神達――でびるんやクピャドエルまでもが、五体満足な姿で投げ出されていた。

 

 マルスは糸が切れた操り人形のようにへたり込み、肩の傷を押さえながら安堵の吐息を漏らす。

 ラピスは汚れたシルクハットを脱ぎ捨て、「ようやく終わりましたか」と独りごちた。

 ベルゼブブは魔力を大きく消耗しながらも、王としての威厳を保ち、泰然と立っている。

 召喚士は片膝をつき、肩で息をしながら、静かに魔導書を閉じた。

 

 そしてミーティアは。

 彼女は真っ先に、倒れているチュリンのもとへと駆け寄った。震える手で親友の身体を抱き寄せ、その消えない温もりを確かめる。

 

「生き……てる……チュリン、おかえりなサイ……っ!」

 

 ミーティアは彼女の胸に顔を埋め、幼子のように声を上げて泣き崩れた。

 その涙は、長く暗い夜がようやく明けたことを告げる、朝露のような輝きを放っていた。

 

***

 

 ソルシエール魔法学校の練習室を舞台とした、ソルシエの存亡を賭けた死闘は、召喚士ら有志の魔術師達の勝利によって幕を閉じた。

 

 白一色の閃光が収まると、程なく騒ぎを聞きつけた教師陣や魔法警察がなだれ込み、練習室は瞬く間に喧騒に包まれた。分離魔法によって解き放たれた人々は、直ちに救護班の手によって搬送されていく。

 診断の結果、救出された者たちは一様に著しい魔力欠乏状態に陥っていたものの、奇跡的に一人の死者も出すことはなかった。

 

 しかし、その代償は街の景観に深く刻まれた。中央大通りを彩っていた美しい家屋は砕かれ、ソルシエの象徴として天を突いていた時計塔は、その高層部を無惨に喪失した。

 傷ついた街の姿は、あの狂乱がいかに現実のものであったかを無言で物語っていた。

 

 未曾有の事態を受け、召喚士、マルス、ラピス、そしてミーティアの四人は、連日、当局による厳しい事情聴取と捜査協力に忙殺されることとなった。

 学校側は体面を重んじ、表向きには独断で事態に介入した彼らに「無期限の謹慎」という厳しい処分を下した。しかし、密室で行われた上層部との面談では、その評価は真逆であった。ソルシエを壊滅から救った彼らの功績を、重鎮たちは声を潜めて称賛し、公にできない感謝の意を伝えたのである。

 

 一方、暴食の大悪魔ベルゼブブは、戦闘が終わるや否や「面倒事はごめんだ」と吐き捨て、早々に姿を消していた。

 

「ワシは一旦魔界に帰る。酷く空腹だ。ニスロクの美味い飯が食いたい。また何かあれば呼び出すのだな」

 

 召喚士にそう言い残した彼の去り際は、どこまでも奔放であった。

 

 そして、全ての元凶として拘束された少女、チュリンは、意識を失ったまま魔法警察の手によって隔離病棟へと搬送された。

 召喚士らの証言に基づき、彼女の体内には未だ暴食の魔力の残滓が巣くっていることが判明した。その魔力は彼女の肉体構造そのものを歪な形に作り替えており、完治には気の遠くなるような長期治療を要するという過酷な診断が下された。

 

 この困難な治療に際し、召喚士は再びベルゼブブを呼び出す。

 魔界の主に対し、「治療への全面協力の見返りに、ニンニクが山のごとく積まれたマジリシアの極上の食事を支給する」という奇妙な契約が交わされた。

 驚くべきことに、ベルゼブブを慕う蜘蛛の姿をした堕天使ニスロクも、主を追って治療に加わったという。

 

「ブブ様に、地上の下賤なものばかり食べさせるわけにはいきません!」

 

 そう息巻くニスロクの献身的な――あるいは過保護な働きにより、隔離病棟の一角は、世にも奇妙な魔界的医療現場へと変貌を遂げていった。

 

 捜査が進むにつれ、チュリンが齎した甚大な被害の裏側が明らかになっていく。

 

 彼女の自室からは、呪いが仕込まれたチョークや、負の感情を増幅させる術式が施された魔方陣が発見された。さらに、マルスやミーティアの証言、そして被害者の一人であるコニーの「彼女もまた苦しんでいた」という決定的な証言により、司法当局は「チュリン自身に犯行の故意は認められない」との結論を下した。

 

 これを受け、彼女を唆した魔女ラミアに対する指名手配が全国に発せられた。

 しかし、狡猾な魔女は搬送先の病院で意識を取り戻すと同時に、霧のように姿をくらませた後であった。

 

……

 

 続く刑事裁判において、世間の注目はチュリンへの量刑に集まった。故意がないとはいえ、数百人を呑み込み、街を破壊した事実は重い。被害者のPTSDや財産的損失を鑑みれば、極刑を望む声すら上がっていた。

 

 しかし、法廷が導き出したのは、「形式的な懲役刑」という不可解なほど温情ある判決であった。

 これは、実際に牢獄へ繋ぐのではなく、隔離病棟での治療期間を服役とみなす、事実上の執行猶予であった。治療を終えて退院する日が、そのまま刑期の満了を意味する。

 

 表向きの理由は「心神喪失状態での犯行」とされたが、その裏には、魔法都市ソルシエ上層部による冷徹な計算が働いていた。

 

 チュリンの肉体は、暴食の大悪魔の魔力に適応し、都市一つを単独で壊滅させうるほどの「戦略兵器級」の力を行使した実績がある。その肉体構造と魔力回路は、未知の魔法技術の宝庫であり、国益に直結する絶好の研究サンプルだったのだ。

 

「殺すには惜しい。飼い慣らして解析せよ」

 

 それが、国が出した答えだった。彼女に言い渡された隔離病棟での長期治療は、事実上の「生体研究」と同義であり、ベルゼブブという大悪魔が治療に協力している点も、外交カードとして極めて重要視されたのである。

 

 加えて、極めて温情あるこの判決の裏では、不可解な噂が絶えなかった。

 七人の強大な悪魔が法界に圧力をかけたとか、あるいは天使の如き美貌を持つ悪魔が、その手練手管で裁判官を骨抜きにし、理性を狂わせたのだとか……。

 真偽のほどは闇の中であるが、冥府の力が現世の法を揺るがした可能性を否定できる者はいない。

 

 だが、法が許しても、学校の秩序は冷酷であった。

 

 ソルシエール魔法学校は、体面を保つためにチュリンに「退学処分」を言い渡した。マルスら多くの教師が強硬に反対し、机を叩いて抗議したが、一度下された理事会の決定が覆ることはなかった。

 

 もっとも、これもまた政治的なポーズに過ぎない。籍は抜くが、彼女という貴重なサンプルを手放すつもりなど毛頭ないのだ。

 

 裁判が終わり、判決が確定し、彼女の籍が学び舎から消えても――チュリンはずっと、深い眠りの中にいた。

 かつての賑やかな日常からも、法廷の喧騒からも遠く離れ、彼女はただ、悪夢の終わりを待つかのように微睡み続けていた。

 

***

 

 長い微睡みの底から浮上するように、私はゆっくりと目を覚ました。

 

 意識は深い泥の中に沈んでいたかのようで、それを引き上げるにはあまりに長い時間を要した気がする。鉛のように重い身体をどうにか動かし、ぼやけた視界の中でようやく、自分が無機質な病室の中に横たわっていることを悟った。

 

 その時、隔離病棟の静寂を切り裂くような、悲鳴に近い叫び声が廊下から響いた。

 小窓の向こうで、私を待ち続けていた父と母が、私の覚醒に気づいて驚愕していたのだ。主治医を呼びに慌てて駆け出す足音、ひっくり返るような物音。ソルシエ中を震撼させた狂乱に愛娘が巻き込まれ、何ヶ月も眠り続けたままの姿を、二人はどれほどの絶望で見つめてきたのだろうか。

 

……

 

 窓越しに果たした再会。私はただ、痛々しくやつれた両親に対し、枯れた声で謝り続けることしかできなかった。

 父は悲痛な面持ちを浮かべながらも、私を責めることはしなかった。彼は召喚士君やミーティアから聞いたという、私が分離魔法によって救い出されてからの出来事を、一つ一つ噛みしめるように語ってくれた。その中には、避けることのできない現実――ソルシエール魔法学校からの退学処分も含まれていた。

 

 己の犯した罪の重さを考えれば、極刑すら覚悟していた私にとって、それはあまりに寛大な裁きであったのかもしれない。けれど、魔法を学ぶ道が、ミーティアと共に歩むはずだった未来が、そして魔術師になるという悲願が断たれたという事実は、鋭利な刃となって私の胸を抉った。

 

 母は、故郷に戻って一緒に暮らそうと優しく促してくれた。けれど、村の期待を背負って旅立った日のことを思えば、顔向けなどできるはずもない。何より、一度芽生えた魔術への情熱を、これほど無惨な形で摘み取られることを、私の魂が拒んでいた。

 

 父は、年端もいかない私に負わせてしまった宿命の重さを悔い、これからは誰の都合も考えず、自分自身の足で歩む道を見定めてほしいと涙ながらに告げた。

 そして、お見舞いに来ている「彼ら」から、ある提案を聞いてほしいと言い残し、面会の席を譲った。

 

……

 

 窓の向こうに現れたのは、忘れもしない顔ぶれだった。

 召喚士君、でびるんさん、クピャドエルさん、マルス先生。そして、ミーティア。

 でびるんさんの傍らには、見慣れた二匹の小さな蝙蝠姿の悪魔――ココヨさんとザッスさんが控えている。

 

 私は彼らに合わせる顔がなく、厳しい糾弾を受けることを覚悟して身を縮めた。しかし、誰一人として私を責める者はいなかった。それどころか、ラミアの手に落ちてどれほど辛かったか、体調は万全かと、まるでもてなすべき賓客に接するように、労わりの言葉をかけてくれるのだ。

 

 ベルゼブブさんら大悪魔達の尽力により、暴食の魔力の除去は順調に進み、私の内側からあの悍ましい衝動は消え去っていた。ただ、異形へと作り変えられたこの身体を元に戻すには、今後も幾度かの手術と経過観察を要するという過酷な診断が下された。

 

 莫大な入院費や手術費をどう工面すればよいのか。絶望に青ざめる私を、マルス先生の穏やかな声が制した。

 信じがたいことに、その費用の全てをソルシエール魔法学校が負担しているというのだ。退学させたはずの生徒に、なぜ。

 

 訝しむ私に、先生は真実を明かしてくれた。召喚士君達がソルシエの街を救った最大の功労者として認められたこと、その見返りとして、公にしない形での私への全面的な支援と、退院後の住居の確保を学校側に取り付けたのだと。

 

 住居まで用意される理由を問う私に、マルス先生は答えの代わりに、一冊の教材を差し出した。それは現在、学校で教えられている最新の授業内容が記された魔導書だった。

 

 驚く私に、マルス先生と召喚士君は一つの宣言をした。

 

 入院中も、そして退院後も、私は「特別授業」を受けることになるのだという。ソルシエール魔法学校と全く同じカリキュラムを、彼らが個人的に指導する体制を整えてくれたのだ。

 その代わり、全ての課程を修めた暁には、学校の関連機関に就職し、ゆくゆくは専任の魔術師として街に尽くすこと。

 ――それは、形式を変えた「奨学金」という名の、彼らからの救済の手だった。

 

 あまりに都合の良い、幸福すぎる展開に、私の瞳から堰を切ったように涙が溢れ出した。

 その様子を見て、控えていた下級悪魔たちが騒ぎ始める。

 

「だぎゃあ! あの子、急に泣き出してどうしたんですぎゃ?」

 

 ココヨさんがそう大仰に驚けば、ザッスさんもまた無邪気に付け加える。

 

「おいらたちの使い魔になる奴が泣き虫なんて、大丈夫なんですぎゃ?」

 

 その騒がしさを、でびるんさんが一喝した。

 

「おみゃーら! 今大事なところなんだよ、静かにしやがれ!」

 

「でびくんが部下を叱れるようになるなんて、珍しい光景ですねぇ」

 

 クピャドエルさんがいつもの調子で茶化すと、「だーうるせぇ! 茶化すんじゃねぇよ!」とでびるんさんが顔を真っ赤にして叫び、重苦しかった病室の空気がわずかに和らいだ。

 

 やがて、でびるんさんは気まずそうに、けれど傲慢な態度を取り繕いながら私に向き直った。

 

「あのな、オレサマ達がおみゃーに襲われたの、気にしてねぇからな。だから、そんな苦しそうな顔すんのやめろ。オレサマが言いたいのはな……」

 

 でびるんさんは乱暴に私を突き放した後、もったいぶるようにたっぷり溜めた上で、言いたいことをぶちまけた。

 

「オレサマの部下との契約の話は、まだ終わってねぇってことだ! オレサマの部下は、安定した魔力の供給先が欲しい。おみゃーは、ここで魔法を学びたい。それなら、オレサマの部下との契約の価値は、まだある。魔法の勉強は先越されちまったけど、悪魔との契約やコネクトリンクについて、おみゃーも学んでおきたいはずだ。机の上で勉強するだけよりも、オレサマの部下で練習した方がよっぽど効率いいよな?」

 

 それを聞いたココヨさん達が不満の声を上げる。

 

「だぎゃ!? でびるん様は、あちきらのことを練習台って思ってたんですぎゃ!? 酷すぎるですぎゃ!」

 

「待遇の改善を要求するっす!」

 

「うるせぇ! こう言っちゃ何だが、こやつは見込みがある。泥を啜ってでも、魔術師になろうとする根性があるんだ。おみゃーらも、こやつの姿勢を側で見習え」

 

 でびるんさんから漏れた思いがけない賞賛の言葉に、私は耳の先が熱くなるのを感じた。

 

「……まあ、悪魔との契約から、逃げられるなんて思うなよってことだな」

 

 照れ隠しにせせら笑うでびるんさんに対し、クピャドエルさんが再びからかう。

 

「でびくん、素直じゃないんですからぁ。正直に、大切な部下を託したいって言えばいいのに」

 

 図星を突かれて、ぎゃあぎゃあ騒ぐでびるんさんと、微笑むクピャドエルさん。その光景に、私は何ヶ月ぶりかの安らぎを覚えた。

 

……

 

 そして、最後に。

 クピャドエルさんに促されるようにして、ミーティアが前に出てきた。

 

 けれど、彼女は顔を俯かせたまま、あんなに豊かだった言葉を一つも紡ぐことができずにいた。あの決戦の日、魂を震わせる叫びを私に届けてくれた彼女とは、別人のように。

 

 私自身もまた、彼女にかけたい謝罪の言葉が、後悔が、感謝が、あまりに多すぎて喉の奥で渋滞を起こし、一言も出すことができなかった。

 

 気まずい沈黙が流れるなか、でびるんさんが召喚士君へ合図を送った。

 それに応えるように召喚士君が指を鳴らすと、理を無視した魔力が奔り、隔離病棟の分厚い壁のど真ん中に、唐突に一枚の重厚な「扉」が出現した。施錠などされていない、自由への入り口。

 

 魔法の荒業に目を丸くするマルス先生をよそに、ミーティアは震える手でそのドアノブを掴んだ。

 

 そして、でびるんさんとクピャドエルさんに背中を押されるようにして、彼女は勢いよく扉を開け、ベッドの上の私へと飛び込んできた。

 

「……ッ、チュリン、良かった……本当に、良かったデス……!」

 

 私を抱きしめるミーティアの体温。柔らかな毛並みの感触と、涙の匂い。

 彼女の声は、詰まっていた感情がすべて決壊したように溢れ出し、彼女は私の胸で声を上げて泣きじゃくった。

 

 私の心にまとわりついていた重苦しいしがらみも、罪悪感という名の鎖も、彼女の温もりに触れた瞬間に全て溶けて消えていった。

 私は彼女の小さな身体を抱きしめ返し、ただひたすらに、謝罪と感謝を繰り返した。

 

「……ミー、ティア……ごめんなさい……ごめんなさいっ……ありがとう……!」

 

 止まらない涙が、頬を伝い、重なり合う二人の間に零れ落ちていく。

 それはかつてないほどの痛みを伴いながらも、私達が再び「おトモダチ」として歩み出すための、祝福の雨のように感じられた。

 

***

 

「あと少しで、卒業式デスね」

 

 ミーティアのその一言から、この計画は始まった。

 

 あの壮絶な事件から、気が付けば五年近い歳月が流れていた。ミーティアはソルシエール魔法学校の卒業を、そして私はマルス先生と召喚士による特別授業の全課程修了を、目前に控えていた。

 指先から小さな光を灯すことすら、血を吐くような思いでこなしていた日々はもはや遠い。積み重ねた研鑽は嘘をつかず、今や私達は二人とも、一人前の魔術師として数えられるだけの実力と知識、そして経験をその身に宿していた。

 

 思えば、あれからも苦労ばかりの日々だった。

 

 幾度もの手術と過酷なリハビリを経て、ようやくかつての自由を取り戻した。

 暴食の魔力に歪められた肉体を一つずつ「魔獣」へと縫い直していく過程は、気が遠くなるほどの苦痛を伴った。けれど、そのたびに私を支えてくれたのは、病室に欠かさず通い詰めてくれた仲間達の存在だった。

 教壇の仕事を続けながら時間を作り、私の個人指導に心血を注いでくれたマルス先生。毒舌を吐きながらも、ロシアーニャの稀少な薬草を届けてくれたラピス先生。私の魔法の「練習台」となるべく、不満を漏らしながらも毎日付き合ってくれた、でびるんさん、クピャドエルさん、ココヨ、ザッスの四人。そして、何よりミーティア。

 

 今後、私の手に、ソルシエール魔法学校の正当な卒業証書が渡されることはない。けれど、同い年の召喚士先生(・・)からの厳しい指導の果てに身についた静かな自信が、重厚な輝きとなって私の内に留まっている。それは、過去を消し去るための免罪符ではなく、あの過ちを背負いながら、それでも誰かを守るために生きるという私の誓いの証だった。

 

 卒業後の進路も、滞りなく決まった。私は学校側が提示した条件通り、関連機関での下積みを経て、専任魔術師への昇格を目指す。

 一方でミーティアは、いかにも彼女らしい道を選んだ。天文学において突出した才能を見せていた彼女は、占星術への傾倒を並行させつつも、最終的には未知の星を観測する「天文学者」としての道を志すことに決めたのだ。

 地獄のような卒業研究を二人で協力して片付け、ようやく後顧の憂いを断ち切ったと思った時、ふと彼女が零した一言が、この卒業旅行へと私たちを駆り立てた。

 

 行き先の候補はいくつもあったが、結局のところ、かつて交わした約束を今こそ果たそうという結論に至った。空気が綺麗な場所でキャンプをし、降り注ぐような満天の星空を二人で眺める計画だ。

 目的地は、ソルシエから北東へ、ローゼリアを経由した先にある小さな村のキャンプ場。学生の身分なので、交通手段は費用を抑えられる自前の箒。重い荷物を分担して運び、地図の読み間違いで遠回りをするというトラブルに見舞われながらも、私たちは日が暮れる前にどうにか設営を完了させた。

 

 鼻腔をくすぐる針葉樹の香りと、雪解け水のように透き通った冷たい大気。

 

 街の喧騒から隔絶されたこの場所には、私たち二人だけの時間が流れている。

 厚手のコート越しにも伝わる大地の冷たさを断熱シートで遮り、私たちは並んで仰向けになった。視界を遮る人工の光は何もない。あるのは、吸い込まれそうなほどの漆黒と、そこから降り注ぐ無数の光の粒だけだ。

 

 ソルシエの空では見えなかった小さな星の一つ一つが、まるで宝石を撒き散らしたかのように鮮明に輝いている。静かにその煌めきに圧倒される私とは対照的に、ミーティアはいつも以上に高揚していた。

 

「一等星が八個も見えマス! あそこにあるのがカペラ、南東に見えるのがアルデバランデス!」

 

 鼻息も荒く、矢継ぎ早に星の名を挙げていく彼女の横顔を見て、私はふと感慨に耽った。

 かつては私が勉強した知識を教え、彼女がそれを懸命に追いかける立場だった。しかし今、天文学の専門研究を修めた彼女と、基礎教養までしか触れていない私とでは、知識の深淵は完全に入れ替わっている。

 

「私達も、変わったんだね……」

 

 その変化は、決して寂しいものではなかった。共に歩んできた時間の厚みが、今の私達の立ち位置を作っているのだ。

 

 ふと、あの時の魔法練習室の熱気と、喉を焼くような飢餓の味を思い出した。

 もしあの日、ミーティアが私の手を取ってくれなかったら。もし仲間達が私を見捨てていたら。私は今、どんな景色を見ていたのだろう。

 暗い海の底か、あるいは、何もない荒野だったかもしれない。  そう思うと、今この頬を撫でる冷たい夜風も、隣で星を数える彼女の柔らかな声も、すべてが奇跡のような贈り物に思えてくる。

 あの泥を啜るような絶望があったからこそ、当たり前のような日常の味が、どこまでも愛おしい。

 

 私は持参したバスケットから、魔法で保冷しておいた特製の「星空パフェ」を取り出した。冷たい甘みに二人で顔をほころばせながら、尽きることのない思い出話に花を咲かせる。

 

 ふと、ミーティアが北西の空を見上げながら「むむー」と唸り始めた。

 

「こんなに綺麗な空なら、あの星座も見つけられるかもしれないデス……。ありまシタ、ヤマネコ座デス!」

 

 瞳に星を宿したような顔で彼女が指さす先を眺めるが、私にはさっぱり見当がつかない。すると、ミーティアは指先を動かし、星々を細い光の線で結んで星座を可視化する即席の魔法を唱えた。

 

「考案者のヘベニャウスサンという人ですら、『見るにはヤマネコのような眼が必要だ』と言ったくらい見つけにくい星座なんデスよ」

 

 解説を受けながら目を凝らすが、連結された星々はあまりに微細で、正直なところ山猫の姿には程遠い。首を傾げる私に、ミーティアは星空を見上げたまま、静かに語り始めた。それは、その星座にまつわる古い逸話。

 

 かつて彼女が好んで読んでいた、「草食の魔獣と、肉食の魔獣の愛」に酷似した、優しくも切ない物語だった。

 

「このお話ではヤマネコが――つまりミーが、捕食者の立場だったんデスよ」

 

 冗談めかして笑う彼女を見て、胸の奥が温かくなる。もはや彼女にとって、あの凄惨な事件さえもが、こうして笑い合える過去の一部になったのだ。

 その確信に背中を押されるようにして、私はずっと胸に秘めていた提案を口にした。

 

「……いつか、私の故郷の海へ一緒に行かない?」

 

 あの事件以来、会わせていない両親に親友を紹介したいという思いもあった。だがそれ以上に、自分が魔法に憧れる原点となったあの蒼い海を、彼女に見せてあげたかった。

 故郷はソルシエから遥か南西、マナウイ海溝の傍にある。移動の困難さを考えれば、これまで無理に誘うことはできなかった。だが、卒業して毎日顔を合わせることがなくなる今、言っておかねばならないと思ったのだ。

 

 ミーティアは難色を示すどころか、弾けるような笑顔で身を乗り出してきた。

 

「イイんデスか!? ミー、ずっとチュリンに誘ってもらえるのを待ってまシタ!」

 

 それはあたかも、彼女もまた同じ願いを抱いていたかのような反応だった。トントン拍子に予定が決まっていく様子を見て、こんなことならもっと早く相談すれば良かったと、私は苦笑した。

 

 だが、ミーティアからの報せはそれだけではなかった。

 

「実はミーからも、チュリンにプレゼントがありマス」

 

 彼女が明かしたのは、信じがたい事実だった。学校を退学となった私が、ソルシエール魔法学校の卒業式に出席できるよう、ミーティア、召喚士、そしてマルス先生とラピス先生が協力して、学校側と裏で約束を取り付けてくれたというのだ。

 

 予期せぬ贈り物に、視界が滲んだ。言葉を失い涙ぐむ私を、ミーティアは優しく、力強く抱きしめてくれた。

 

「それから、もう一つ……」

 

 彼女は私の耳元で、少しだけ照れくさそうに囁いた。

 

「就職したら、ミーと一緒にルームシェアをしないデスか?」

 

 それは、私の胸の内にあった離ればなれになる寂しさを、一瞬で吹き飛ばす魔法の言葉だった。これ以上ない渡りに船。私は即座に、溢れる涙を拭いもせずにその提案を受け入れた。

 

 満天の星空の下、私たちは互いの温もりを確かめるように強く抱き合った。

 

 かつて私を呑み込もうとした闇は、確かに深かった。

 けれど、その深い闇があったからこそ、今、目の前に広がる星空がこれほどまでに愛おしく思えるのだということを、私は知っている。

 

 あと何度目かの夜が明ければ、また新しい日々が始まる。

 あの日の悔恨は一生消えることはないだろう。それでも、私はこの足で歩き続ける。隣を歩んでくれる最高の親友と共に、この光り輝く理の世界を守るために。

 

 見上げる空には、一条の流れ星が鮮やかな弧を描いて消えていった。

 祈る必要など、もうどこにもなかった。

 願った未来の全ては、今、この手の中に、そして隣に微笑む「おトモダチ」の存在の中に、確かに在るのだから。

 

 完




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 はい。心の叫びから始まってしまい、申し訳ございません。  丸呑みトカゲですよろしくおねがいしますと申しますよろしくおねがいします。  ゲシュタルト崩壊待ったなしなので、以降自己紹介では丸呑みトカゲと名乗ります。

 私はその名の通り、丸呑みが大好きです。そして同じくらいケモノも大好きです。

 そんな拗れに拗れた性癖を抱えていると、満足のいく作品供給にはなかなか巡り会えないものです。  というわけで我慢できず、つい書いてしまいました。学生時代に少し嗜んだ程度で、小説に関してはほぼ初心者。知らないことばかりで、毎日辞書と検索エンジン、そして原作を友として書き進めてきました。

 それにしても、おかしいですね。  丸呑みとケモノだけに特化して、性的に楽しむだけのはずだったのですが、気が付けば設定が増え過ぎて、わけが分からなくなりました。  違うんです、私は丸呑みとケモノ以外にも、熱い戦闘シーンとか、救いようのない修羅場とか、激しい葛藤の末生まれる泥のように重い決断する場面とかが大好きなだけなんです。決して、丸呑みだけ書くのに飽きたとかではありません。

 ハードな展開の話ばかりしていますが、ハッピーエンドは好きです。やっぱり最後には、自分で生み出した子供達には報われて欲しいのです。  ただし、特にギリギリのところで満身創痍になりながら、泥を啜って辛勝する結末が好みですね。だって、楽勝過ぎても説得力が出せないじゃないですか。一歩間違えればオダブツくらいが丁度いいのです。そんなわけで登場人物の皆さんには相当頑張ってもらいました。ごめんね。私の趣味が面倒臭いせいだね。

 月並みかもしれませんが、私はこの作品が、この世界が大好きです。「小説を書くのがこんなに楽しいことだったのか」と再確認させられ続けた結果、全五話を駆け抜けることができました。  「作者は最初の読者である」とよく言われますが、本当に、書きながら展開にキレたり涙ちょちょぎれたりと、感情が揺さぶられまくりでした。私の激情が、文章を通じて少しでも読者の皆様に伝わってくれたなら、これ以上の幸せはありません。

 最後に。原作者のばやちゃお様、ならびに作品制作に携わられた方々へ。  これほどまでに素敵な作品を世に送り出していただき、心より感謝申し上げます。恐れ多くも世界観を拝借し、この二次創作を骨の髄まで楽しませていただきました。  この広大で魅力的な世界は、まだまだ未知と可能性に溢れています。またいつか、この世界に飛び込ませていただければ幸いです。

 以上、丸呑みトカゲでした。ありがとうございました!
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