放課後の駅前は、今日も騒がしかった。
制服姿の高校生があちこちに固まって、笑い声を上げている。部活帰りの集団、スマホを覗き込みながら盛り上がる男女、コンビニの前でだらだらと時間を潰している連中。
その横を、俺は、なるべく人にぶつからないように歩いていた。
(……みんな、楽しそうだな)
別に、孤立しているわけじゃない。
クラスに友達はいるし、話しかけられれば普通に返す。昼休みも一人で過ごしているわけじゃない。
ただ。
楽しいか、と聞かれると、少しだけ言葉に詰まる。
楽しくないわけじゃない。
でも、胸を張って「楽しい」と言えるほどでもない。
電車に乗り、空いている席に腰を下ろす。イヤホンをつける気にもなれず、スマホを取り出した。
画面には、SNSのタイムラインが流れている。
誰かの模試の結果。
誰かの「志望校、そろそろ決めないと」という投稿。
誰かの「受験生って感じしてきた」という言葉。
スクロールするたび、胸の奥が少しずつ重くなる。
高三の夏。
そういう時期だ、と言われればそれまでだ。でも、分かっていても焦りは消えない。
(俺、何してるんだろ)
帰宅部になってから、もう一年以上が経つ。
昔は部活をやっていたけど、辞めてからは特に何かに打ち込むこともなく、なんとなく日々が過ぎていった。
大学には、行くつもりだ。
理由は、はっきりしていない。
とりあえず行った方がいいかな、とか。
どうせ行くなら、キラキラしてるところがいいな、とか。
自分でも思う。
(……浅いよな)
やりたいことがない。
夢もない。
なのに、いいところには行きたい。
そのことを、誰にも言えないまま、時間だけが過ぎていく。
気づくと、匿名の投稿画面を開いていた。
誰に向けるでもなく、ただ、指が動く。
>別に不幸じゃないのに、
>なんかずっと不安で。
>これって、俺だけなのかな。
送信。
少しだけ、胸が軽くなった気がした。
電車を降り、家までの道を歩く。
スマホが震えた。
通知。
誰かが、俺の投稿に反応している。
画面を開く。
短い返信だった。
>たぶん、私も同じ。
それだけ。
なのに、不思議と目が離せなくなった。
(……同じ、か)
名前も、アイコンも、よく分からない。
ただの匿名の誰か。
でも、その一言が、胸の奥にすっと入ってきた。
俺は、少し迷ってから、返信を打った。
>不安の理由も分からない感じですか?
すぐに返事が来る。
>うん。
>ちゃんと幸せなはずなのに、変だよね。
画面を見つめながら、小さく息を吐いた。
(……ああ)
俺だけじゃなかった。
理由もなく、不安を抱えているのは。
その夜、気づけば、俺たちは何通もやり取りをしていた。
学校のこと。受験のこと。どうでもいい話。
名前は聞かなかった。
聞かれもしなかった。
でも、言葉だけは、妙に噛み合った。
最後に、相手から一言。
>よかったら、DMでも話さない?
少しだけ、迷ってから。
俺は、その誘いを受け入れた。
この出会いが、何になるのかは分からない。
ただ。
(この人となら、もう少し話してみたい)
そんなふうに思ったのは、久しぶりだった。