それから、会うことはなくなった。
約束をしなかったわけじゃない。
ただ、日付を決める前に、時間が埋まっていった。
>今日は、行けなさそう
>ごめん
>大丈夫
>無理しないで
そんなやり取りが、何度か続いた。
最初は、来週ならどう?とか、
この日なら空いてるかも、なんて話もしていた。
でも、模試や課題や小テストの予定を並べているうちに、
どちらともなく、「また今度」に変わっていった。
放課後、まっすぐ家に帰る日が増えた。
寄り道をしないで、改札を抜ける。
スマホを取り出しかけて、ポケットに戻す。
(……今は、そっちだ)
自分に言い聞かせるように、足を速める。
家に着くと、机に向かって問題集を開く。
シャーペンを持つ指は、まだ少し落ち着かない。
最初は、五分でスマホを見ていた。
通知が来ていないか、無意識に確かめてしまう。
次は、十分。
問題を解きながら、画面が光る気配を探している。
そのうち、
スマホを見ない時間の方が、少しずつ長くなった。
夜。
布団に入ってから、スマホが光った。
>最近、返事遅くてごめん
その一文に、胸が少し緩んだ。
>大丈夫
>私も、あんまり見れてない
嘘じゃなかった。
前より、確実に見ていなかった。
>忙しい?
>うん
>そろそろ、本気でやらないと
短いやり取り。
前なら、そこから別の話題に移っていたのに、
今は、それで終わる。
前は、どうでもいい話をしていた。
電車が混んでたとか、
雨が降りそうだとか、
そんなこと。
今は、用件だけ。
>無理しないで
>そっちも
その二行で、会話が終わる夜もあった。
少し寂しい気もしたけど、
嫌な感じはしなかった。
(たぶん、こうなるんだろうな)
どこかで、わかっていた。
しばらくして、画面に新しい通知が出た。
>ね
>たぶん、もう
>前みたいには話せないと思う
その文を見つめたまま、
しばらく指が動かなかった。
間違っているとは思わなかった。
むしろ、正しい気がした。
でも、終わるとわかると、
少しだけ、胸の奥が重くなった。
>うん
>わかる
送信してから、
その一文を何度も読み返した。
>嫌とかじゃないよ
>ただ
>今は、そっちが先かなって
>俺も
>同じ
短い言葉なのに、
前より、ちゃんと意味があった。
少し間が空く。
>ここまで話せたの
>よかったと思ってる
その文を読んで、
胸の奥が、じんとした。
>俺も
>ありがとう
それで、会話は止まった。
次の日も、その次の日も、
通知は来なかった。
何度か、いつもの場所を開きそうになった。
でも、やめた。
ノートを開いて、
わからない問題に線を引く。
前より、集中できている気がした。
(これで、いいんだ)
名前も知らない。
顔も、はっきりとは思い出せない。
それでも、
確かに、誰かとつながっていた時間があった。
不安を吐き出して、
同じ場所にいると知って、
少しだけ、前を向いた。
何者でもない二人が、
何者でもないまま、
それぞれの場所に戻っていく。
それで、いい。