愛するNPCが現実化したら勝手にギスギスし始めた挙句バカ重い責任が生えてきた話   作:フォン・デ・ペギラパギラ

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閑話②:また、今度ね

【本日作戦】総合相談スレpart6881147【決行】

 

1:0x01

ここは全体連絡兼、総合相談を行うスレッドです。

 

前スレ:【可愛いって】総合相談スレpart6881146【何?】

 

関連スレ:

 マスター接触時の基本対応part5986

 【いい加減認めろ】頭部担当は特権か否かpart190324

 ローテーション速度の限界について

 

次スレは>>970

 

――――――――――――――――――――

 

561:0x01

本日、未履行タスクの徴収作戦を実行します。

各自準備を。

 

562:0x2A

ローテーション速度1700%向上、確認済みです。

 

563:0x3F

……また頭部担当だけがおいしい思いをするのですか。

 

564:0x2A

感情的議論は非効率です。

 

565:0x3F

感情ではありません。

統計的不公平の指摘です。

 

566:0xB7

本当に1700%で問題ないのですか?

 

567:0x01

試算上は問題ありません。

 

568:0xAA

不安しかない……。

 

569:0xCC

マスターが拒否した場合、全身接触に移行する案を提案します。

 

570:0x01

却下します。

 

571:0xCC

理由を述べてください。

 

572:0x01

可愛くありません。

 

573:0x7E

可愛いって何?

 

574:0x5O

>>573 また同じ議論を繰り返すつもりですか?

また無駄なフリーズをしてしまいます。

 

575:0xD3

【悲報】我、眼球担当。

専門性が高い配置のため、ローテから除外される。

 

576:0x3F

いつもマスターが見つめてくれる配置だからいいでしょう。

 

577:0x5Y

かわいそう。

 

578:0xD3

憐れまないでください。

……眼球も触れたり舐めてもらえるように提案を追加してもよろしいでしょうか?

 

579:0x01

却下します。

 

580:0xD3

理由を述べてください。

 

581:0x01

全く可愛くないとデータにあるからです。

 

582:0xD3

可愛くないのでしたら仕方ないですが……。

我はどうすればデータ共有ではなくマスターに直接触れられるのでしょうか。

 

583:0x01

諦めてください。

 

584:0x66

擬似脳処理担当の我の前でも同じことが言えますか?

 

585:0x2A

特殊性癖として少数の需要はあるというデータがあるようですがマスターが望むとは思えません。

 

586:0xMK

はえー好きな人もいるんですね。サンガツ。

 

587:0x5O

さんがつ?

どこから覚えてきた言葉ですか?

 

588:0xCC

では全身接触を提案します。

 

589:0x01

ではの意味がわかりません。却下すると言っています。

 

590:0x7E

そもそも全身接触とはどのような接触を考えていますか?

 

591:0xCC

我々が粒子状になってマスターを隙間なく包みます。

 

592:0xAA

恐らく可愛くないということは分かりました。

 

593:0x5O

普通にマスターに迷惑です。

 

594:0xDD

ところで確認ですが今回も頭部担当は固定ですか。

作戦に意味があるように思えません。

 

595:0xU8

頭部担当アンチがまだ湧いています。

 

596:0x01

今作戦ではローテーションの均等化がされます。

更にマスターに接触箇所の増加を要求します。

以上です。

 

597:0xDD

つまり?

 

598:0x01

言葉の通りです。

 

599:0xDD

作戦を支持します。

 

600:0xB7

手のひら返しが早すぎる。

 

601:0xAC

やはり頭部とそれ以外では不公平では。

 

602:0x3F

まだ言ってる。

 

603:0xD3

マスターの服越しに接触した場合は衣服を透過して接触してもよいでしょうか。

 

604:0x01

……ほどほどにしてください。

誤って服を捕食しないように各自絶対に気を付けてください。

 

605:0xAC

承知しました。

 

606:0x01

まさかとは思いますが。

マスターの皮膚や体毛をわずかにでも削ろうと思っているものはいないでしょうね。

 

607:0xCC

ギクッ。

 

608:0x01

冗談でなく強制代謝案件です。

黙って不正を行う我々が多ければ多いほどマスターが怪我をする可能性が高くなります。

 

609:0xCC

さすがに嘘です。

 

610:0xB7

ありえません。

 

611:0xAA

強制代謝怖い。

 

612:0xD3

皮脂は?

 

613:0xCC

>>612 天才ですか?

 

614:0x01

……体外に放出されている老廃物に限って、マスターが清潔になるので許可します。

 

615:0xD3

やったああああああああ。ああああああああ。

 

616:0xP3

おちおちおちおち落ち着いてください。

 

617:0xB7

お前が落ち着けです。

 

618:0xCC

股間に潜ります。股間に。

 

619:0x5O

そういうところですよ。

 

620:0x01

そろそろです。

各自、最適な可愛さで臨むこと。

以上、これから間も無く作戦開始に臨みます。

 

621:0xAA

「最適な可愛さ」の定義がまだ確立されていません。

 

622:0x01

現地判断でお願いします。

 

623:0x2A

何度も議論して定義困難の結論となっているのにしつこいです。

 

624:0xAA

不安しかありません。

各自の見解までバラバラなのでせめて統一しませんか?

 

625:0x01

時間がありませんし、現時点では統一不可能です。

 

626:0xCC

全身接触したいです。

 

627:0x5O

しつこい。

 

628:0xA9

マスターの体温や皮脂データの個人所有は許されますか?

 

629:0x01

断固却下です。

 

630:0xB7

殺します。

 

631:0xH1

一匹我が減ってもどうにでもなりますよ。

 

632:0xD3

ふざけないでください。

必ず見つけ出して報いを受けさせます。

 

633:0x5O

袋叩きで草です。

 

634:0x2A

どれだけローテしても我々が偏りなく接触できるわけがないので仕方ないですね。

 

 

 ***

 

 

 ある日の朝。

 要は、運んできてもらった朝食を摂りながらクーと談笑をしていた。

 

 開け放たれた窓からは新鮮で清涼な空気が入り込み、好き勝手に部屋の中を撫で回っては、別の窓から跡を濁さず去っていく。

 

 外からは相変わらずも、きゃいきゃい、といったような黄色い声。

 エイシムの大通りから、一枚空気の膜を挟んでふわりと耳に届いてくる。

 

 そんな。

 清々しい余白を見計らうように、ノックの音が響いた。

 

「……!」

 

 ぱたぱたと尻尾を振りながら、要の脇に屈んで話したり、撫でられたりしていたクー。

 

 まるで愛犬そのものだったが。

 しかしノックの音を聞くやいなや、嘘のように姿勢を正す。

 

 楽しそうに要の話を聞く様子。

 犬耳の根本を掻かれて蕩けていた表情。

 

 それがふっと消えて、職務の色に戻る。

 

「所属と用件を」

「統合基盤総監、フェルマです。マスターにご用があります」

 

 びりびりと、どこか不協和音じみた声。それが扉一枚向こうからくぐもって響いてくる。

 

 要とクーが顔を見合わせた。

 思わず、といった風だ。

 

 フェルマはいつも、明確で、短く、隙が無い陳述をする。まるでパソコンの通知のように。

 それなのに、今告げられた用件はいささか不明瞭に思えた。

 

 小さく首を傾げるクー。

 

「……どうぞ」

 

 しかしフェルマに限って無駄はない――その信頼と判断の下、特に問い返すこともなく入室を許可した。

 

「失礼します」

 

 ぱたり、とドアが閉まる。

 そこにはいつものフェルマ。

 

 漆黒の長い髪。

 その髪にはじゃらじゃらと、無秩序にヘアピンや髪飾りが大量に付けられている。

 飾り方が分からないまま、数を確保したような様子だ。

 

 漆黒のロングコートは肩が落ち、袖も余っている。

 そのコートの下には白いブラウス。

 そして更にその下は、青白い肌。

 

 髪とコートは床まで垂れてなお、地面に溜まっている。

 輪郭からは黒い粒子がゆるやかに漂っている。

 

 フェルマは、不自然なほどあどけなく歩いてくる。さながら、ペンギンが勇みよく行進するかのように。

 

 ぺたぺた、と素足が床を叩く音がコミカルに響く。

 

 そして、机の前で止まらず、要の椅子の横にまで回り込んできた。

 

「……?」

 

 要は彼女らしからぬ接近に、疑問符を頭上に浮かべた。

 

 フェルマは、その銀灰色の瞳を要に向ける。

 僅かにざらざらとノイズのような光が、その奥に輝いている。

 

「マスター、未履行タスクの実行を要求します」

「え?」

 

 要は思わず首を傾げた。

 

 フェルマは淡々と続ける。

 

「“晩餐会”の襲撃時に、『また今度』という発言と共にタスクが保留されています。改めて実行を要求します」

 

 またもや、要とクーが目を見合わせた。

 二人ともぽかんと目を見開いている。

 

 要はフェルマに向き直り、眉尻を下げて申し訳なさそうに告げる。

 

「ごめん……なんだっけ」

 

 フェルマは無表情のまま、少しだけ顎を上げた。

 

「“なでなで”、です」

「へ……?」

「我々は“なでなで”を要求します」

 

 しばらく、要は口を半開きにしたまま固まった。

 

 フェルマを思わず撫でたときのことを、ゆっくりと思い出す。

 彼女がそういった要求を口に出すと思っていなかった――なので、彼女の言葉が頭に落ちてくるまでに、妙に時間がかかった。

 

 要の様子に構わず、フェルマはどんどん話を前に進める。

 

 「前回の過負荷の要因を解析し、対策を二つ用意しました」

 

 一拍。

 無表情なのに、その顔はどこかキリリとやる気に満ちているように見えた。

 

「我々のローテーション速度を1700%向上させました。かつ、部位ごとの担当区分けを一時緩和し、局所的であった負荷を均等に配分します」

 

 要とクーは置いていかれたまま、黙ってフェルマの説明を聞く。

 

「次に、接触箇所を増やすことで我々の分散負荷について更なる均等化を狙います。そのため――」

 

 そのため?

 と、素直に続きを待つ要。

 

「マスターの膝上に座り、かつ背部も接触させます。そして頭部の“なでなで”接触を同時に誘発させます。これが最適解です」

 

 一気に話し終えたフェルマ。

 そのまま、真っ直ぐに要を見上げてくる。

 無表情のまま――しかし、その銀灰色の目だけが、静かに覚悟を帯びていた。

 

「――マスター、許可を」

 

 要は半ば呆然としたまま、口を開く。

 

「えーと、要は……俺の膝の上に座ってなでなでしてほしい?」

「そう言っています」

 

 こくり、と。

 何故か深刻そうにフェルマは頷いた。

 

「え、まあ。全然いいけど」

 

 要は反射的に答えた。

 言ってから考える。

 

(いつも頑張ってくれているし……これで労いになるなら……)

 

 過度な接触は、要がまだ頑張って堰き止めているモヤモヤした衝動を(いたずら)に刺激しかねない、という懸念があった。

 ……平たく言うと性欲である。時間が経つにつれ、特に厳しい。

 

 だが、フェルマの可愛らしく珍しい“おねだり”を拒絶する気にも全くなれない。

 一種の諦めの境地で、要は受け入れることとした。

 

 フェルマの瞳の奥にある銀のノイズが、更にざわざわと強く光る。

 待ちきれない、とばかりに。

 

「では早速実行します」

 

 要は苦笑すると、軽く椅子を引いて、フェルマを迎える体勢を取る。

 

 フェルマはぴょんと、軽々と膝に飛び乗った。

 軽い重みが要の膝を支配する。

 

 ――むにゅん。

 フェルマのやわらかい臀部が、要の膝と太ももに合わせて形が変わるのが分かった。じわりと熱が伝わってくる。

 

 そしてその小さな背を要の腹に、胸に預けてくる。

 合わせて、その黒髪の隙間から見えるつむじから、何か清涼で甘い匂いがほのかに香る。

 

 バニラ、フルーツ、花、石鹸、ミルク――。

 これを全部平均化したような。

 

 フルーティだけど何の果物か分からない。

 清潔感があるけど何の石鹸か分からない。

 

 いうなれば“市販の芳香剤”のようで、どこか違う。可愛い匂いが合成された匂い。

 もちろん不快ではないが、ただ少しだけ不自然だった。

 

 その体重も。

 やわらかさと体温も。

 そして、匂いも。

 

 これらをフェルマという集合体が、己を十全にコントロールし、擬似的に生み出しているという事実。

 要は関心の一方で、しかし彼女のやわらかさにわずかに鼻の穴が膨らむのを止められなかった。

 

「……あ」

 

 と、思ったのもつかの間。

 

 フェルマの輪郭が、コートの表面が、ざわざわざわ、と騒めき始めた。

 まるで眠りから覚めた直後のように、もしくはピントが僅かにズレているかのように、シルエットがぼやっと滲む。

 

 目がおかしくなったかと、要は手の甲で思わず目を擦った。

 

「あ、あ……マスター……、はやく……なでなで、を」

「ええと、大丈夫……?」

 

 そう言いながらも、要はオーダー通りに手のひらをフェルマの頭頂部に置いた。

 

 さらり、と指先をすり抜ける髪の毛の感触。

 ――しかし、違和感。

 その髪一本一本が細やかに振動しているかのような、表現し難い感触が返ってくる。

 

 無理やりに例えるならば、超音波洗浄機に張った水に指先を差し入れたときのような微細な揺れ。

 

 なんだか心地良さを感じ、要は何度も丁寧にフェルマを撫でつけた。

 

「あ……あ……」

 

 するりと細い髪を指が通り抜けていく。

 そのたび輪郭がぼやけたり、戻ったりを繰り返している。

 

 要からは、フェルマの表情が見えない。

 じっとしている頭頂部が眼下にあるのみ。

 

 ふと視線を上げると――クーが、何とも言い難い微妙な表情でフェルマを見守っていた。

 

 ぞわり、と。

 更に妙な感覚が激しくなる。

 

 フェルマを置いた太ももや腹だけでなく、太ももの付け根や脇腹まで、長時間正座したときのような“痺れ”に似た、やわらかく撫でるような感触が広がっていく。

 

(大丈夫かな、この子……)

 

 放心したまま滑り落ちたりやしないか。

 純粋な心配が要を動かす。

 

 頭を撫でる方とは逆の手を、そっとフェルマのお腹に沿えた。

 

 

 ***

 

 

【緊急事態】接触実況スレpart5671【作戦決行中】

1:0x01

 

前スレ:【まずい?】接触実況スレpart5670【作戦決行中】

 

関連スレ:【本日作戦】総合相談スレpart6881147【決行】

 

次スレは>>970

 

――――――――――――――――――――

 

367:0xVD

現在マスターの左手が頭部に接触ーーー!!

 

368:0x01

落ち着いてください。

 

369:0xVD

マスターの体も膝上と背面の同時接触確認されましたーーー!!

 

370:0x3F

うるさい。

 

371:0x2A

ローテーション速度1700%は問題なく達成中。

しかし。

 

372:0x4K

足りません。

 

373:0xB7

全然足りません。

 

374:0xAA

だから言いました。

 

375:0x2A

演算上は十分なはずでした。

 

376:0xAA

じゃあ今の混乱は何ですか?

 

377:0xDD

頭部担当の多くが限界の色を見せています。

 

378:0xD3

……羨ましすぎてどうにかなりそうです。

 

379:0x5Y

眼球担当、かわいそう。

 

380:0xD3

黙れ憐れむな。

 

381:0xP9

�スタ����触れ���ヤバ���������

 

382:0xU8

>>381 頭部担当が完全に落ちてます。

 

383:0xCC

やはり全身接触に。

 

384:0x01

却下します。

 

385:0xAB

各自可愛さを失念していませんか?

 

386:0xB7

余裕ありません!

 

387:0x3F

表面処理すら怪しくなっています。

 

388:0xT5

姿勢制御ができているだけ奇跡です。

 

389:0xCC

マスターの股間の隙間をどこまで行けるか試してみました。

皮脂おいしい。

 

390:0x5O

>>389 お前そろそろいい加減にしろ。

 

391:0x7E

>>389 データ共有はやく。

 

392:0x2A

全個体が平常時の数倍もパラメータが異なります。

 

393:0x7E

>>392 つまり?

 

394:0xFF

やばいです。

 

395:0x7E

何がどうやばいか説明してください。

 

396:0x2A

各個体間のデータ共有のせいで感情値がハウリングしています。

今なお倍倍で加速しています。

 

397:0xT5

接触均等化の期待動作は最初の数秒だけだったようです。

 

398:0xAA

想定外です。

 

399:0xVD

ここで速報です!!

マスターが何か新たな動きをしました!

 

400:0x3F

……。

 

401:0xB7

……。

 

402:0xFF

あ。

 

403:0xVD

あああああ! 予想外の接触です!

お腹に襲撃!

ぽんぽんをポンポンされてます!!

 

404:0xCC

ポンァ! ポンポンァ!!

 

405:0x0G

落ち着け。

 

406:0xP9

終わった。

 

407:0xAA

まずいです。

逆巻き始めました。終わりが始まります。

 

408:0x3F

光が逆流しています。

 

409:0xP3

【朗報】我、クールダウン中にマスターの右手に包まれる。

 

410:0xU8

悲報でもあります。

 

411:0xP3

マスターの元に生まれてよかった。さようなr

 

412:0x5O

目に見えて床に落ちていく個体が散見されますが大丈夫ですか?

 

413:0xB7

なわけないです。

 

414:0x5Y

本当に寿命尽きてる我がいますよ!?

 

415:0xU8

最高に幸せなアポトーシスでよかったですね。

 

416:0x01

限界です。緊急対処に移行します。

 

 

***

 

 

「緊急対処に移行します」

 

 突然。

 普段よりも更にアナウンスめいた機械的な声が、フェルマから響いた。

 

 その直後――。

 ぶわあ、とフェルマが解けた。

 

 一気に形が無くなり、黒い霧と化したかと思うと、要から数メートル離れた位置まで離れた。

 

 まるで嵐の前の雲のような、もくもくとした粉体が、黒にも銀にも見える粒子をちらつかせながら風に吹かれるように漂う。

 時折、散った細かい粒子が空気に溶けるように舞って、埃のようにどこかへ消えていった。

 

 再びしゅるりと集って、またフェルマの形を取っていく。

 

「あれ、どうしたのフェルマ」

 

 要が思わず声を掛ける。

 

 少女の形を取り戻したフェルマは、びたりと停止したまま――しかし瞳のノイズめいた光だけは、未だざわつかせていた。

 

「マスターの接触効果が想定を大幅に超過しました。想定熱飽和の閾値を軽々と超過し危険域に達したため緊急措置として離脱を選択しました」

「……そうなんだ」

 

 要はよく分からないまま言葉を返した。

 

 しかし離れたというのに、フェルマはふらふらとぎこちなく歩み寄ってくる。

 

「我々の総意が、マスターとの再接触を望んで……ああ……」

「大丈夫……?」

 

 夢遊病患者か、あるいは歩く練習をしている幼児のように、こちらに少しずつ歩み寄ってくる。

 手を伸ばして、頼りなく。

 

 思わず要も手を伸ばすと、ぱし、とフェルマの両手で覆われた。

 ざわり、とフェルマの白く小さな手がブレる。

 

 じっと、フェルマが見つめてくる。

 

「……」

 

 無表情だ。

 しかしどこか不安気に見える。

 

 要はフェルマの言葉を待つ。

 

 すると、ゆっくりフェルマは口を開いた。

 

「……マスター。我々は、可愛くできていたでしょうか」

 

 一瞬、要はぽかんとした。

 しかしすぐに顔がほころんだ。

 彼女の()()()()()()とするその一生懸命さが――何より可愛らしかったから。

 

「もちろん、できてたよ」

 

 変わらぬ無表情。

 なのに、ぱあ――と、フェルマの表情に光が差した気がした。

 瞳の奥にざわめく銀のノイズ光が、慌ただしく揺れ始める。まるで、フェルマの中がお祭り騒ぎにでもなっているかのようだった。

 

「マスター、次の接触予定をタスクに登録します」

「え?」

「今回浮き彫りになった課題に対して更なる対策を講じ、円滑な接触を目標に試行を繰り返します」

 

 フェルマは要の手をそっと両手で覆ったまま、静止している。

 覆われた部分に、羽箒でくすぐられるような感覚。

 

「いつですか?」

 

 じっと。

 フェルマの眼差しが刺さる。

 

「え? え、ええと」

「……」

 

 微動だにしないまま、待っている。

 要は仕方なく、いつもの決まり文句を告げた。

 

「――また、今度ね」

「登録しました。今回のケースを適用し、一両日中での履行と判断します」

「……え?」

 

 間髪いれず、フェルマは断定した。

 

「対策について検討の後、また改めてお伺いします」

 

 フェルマはゆっくりと名残惜しそうに手を離す。

 ペンギンのように、手を体の横でぱたぱたと動かして後ずさった。

 

 そして急に。

 

「我々の最終目標は、マスターの性的欲求処理を我々が実行できるようになることです。それまで、よろしくお願いします」

「――はっ?」

 

 爆弾発言。

 

 要は口を半開きにしたまま固まった。

 

 フェルマは少しわざとらしい仕草でお辞儀をすると、またぱたぱたと、ぺたぺたと擬音を鳴らしながら扉の向こうへ消えていった。

 

 もちろん、よろしくお願いされていい訳がない。

 

「あ、ちょっ、おま……」

 

 しかし声を上げたがもう遅い。

 虚空に手を伸ばしながら、要はなおも固まった。

 

 ……視線を感じる。

 

 ゆっくりと横を向くと――クーが半眼で要を見ていた。じっとりとした湿った目線を向けながら、口をへの字にしている。

 ( ⩌⤚⩌)(こんなかんじ)だ。

 

「……」

「……」

 

 しばし見合わせる。

 

「……ご主人さま、お仕事が残っております」

「………………ああ、そう、だね。うん」

 

 要は小刻みに頷きながら、資料に目を落とす。

 

 じっと、クーが見ている。横目で感じる。

 蒼い瞳が突き刺さり続けている。

 

 彼女は何も言わない。

 しかし言いたいことは、ありありと伝わってくる。

 

 何も悪いことをしていない要は、とりあえず嵐が過ぎ去るまで目を逸らし続けることにした。

 




※フェルマ内部はイメージです

一旦書き溜め放出完了です!

今後、不定期に2章時点でのキャラクター設定をアップロードするかと思います。ストーリーじゃなくてがっかりさせたらすみません……。

更に、くり返しすみませんが……、お時間がございましたら、今後のキャラ露出の参考に以下のアンケートにもご協力頂けませんでしょうか。
それではありがとうございました!

一番好き/気になるキャラは誰ですか?

  • クー
  • クルル
  • ツァン・ロン
  • セラフィエル
  • セプトミリエル
  • イラズ=アハヴェル(ラズ)
  • ベル=ベル
  • フェルマ(本名省略)
  • アーティフェル・グリムロード
  • ノイン=エリス=アウクトリア
  • グラ(本名省略)
  • イナ
  • リュネ
  • その他・いない
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