走狗   作:カストロ

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グリードアイランド 運営 登記 -株式会社マリリン

 図書館はなかったけど書店はあった。

 書店といっても古書店で、ネットで流通していないようなものが多いらしく手に取って読みたいものも幾つかあったけど、ゲームの攻略にはほとんど役立ちそうにないものばかりだし、そもそも手持ちがない。

 古書店とはいえ本屋は本屋であるので、本屋での窃盗はNPCが相手とはいえ背負うべき十字架が重過ぎるし素直に出直すことにした。

 

「なんつーか、ミケって変なとこ拘るよな」

『ソー?』

「ココでも別に殺しはヤんだろ? ついでに窃盗にペナあるか試しゃいいのに本盗むのイヤがるし、変だろ」

 

 もう見慣れたし口に入れ過ぎたってのもあるけど、思い返すに最初から不思議と殺しにそこまで忌避感や嫌悪感を抱かなかったような気がする。

 

『ハタラク ブタ ハ クワネーダロ』

「は? ナニ? 哲学? つかオレのことディスってんのか?」

『オレカラ シタラ ブタモ ヒトモ オナジ』

「なるほど? 人間みてーだから忘れちまうけど、オマエからしたらそうなんだろうな……。ならオレらも餌に見えんのか?」

 

 それを聞かれると少し気まずい。

 

『フダン ハ ミエネーヨ』

「普段って……いつなら見えんだよ」

『イルミ ガ コゲコゲ ナ トキトカ』

 

 爆発に巻き込まれてコゲっていたあの時のイルミは美味そうだった。

 あと焚火をしている時のスルメ(ゼノ)は、妙にオーラが香ばしくて酒の肴にしたくなる。

 実際、ベロンベロンになった時にちょっとだけだからと言い訳しつつ丸呑みにしようとしたことはある。ガチギレドラゴンぶっぱされた上で追い払われ、甘栗に付き添われる形で後日ごめんなさいして事なきを得たが、アレは危なかった。

 

「兄貴が? コゲコゲ? なんだよそれ、気になるじゃねえか」

「ミルキ」

「な、なんだよ兄貴……」

 

 とはいえ、ゾルディックに連なる奴らって甘栗(マハ)を筆頭に人型ってだけで、宇宙人なアトに近いしなぁ。

 まあ、彫刻(シルバ)が最近連れて来た『ポチ』と命名されたばんえい競馬で見るような大型馬サイズな真っ黒な犬っころほど己と同族意識は持てないけど。

 ゾルディックなこいつらはあまり口馴染みのないパンダとかキリン、ダイオウイカに近い。

 

「少しダマれ」

「う、うん」

 

 オコゲがイラついて兄としての圧を出して弟を黙らせてしまい、各々無言のまま町中を進む。

 古書店でNPCから詳細な場所を聞いていたので目的地へは迷うこともなく、PUGBに出てくる八角形な六角に似た建物へ。

 店内の様子からして、ここが交換(トレード)ショップで間違いなさそうである。

 

 早速入手したばかりのガルガイダーの値段を店主NPCに──ッピ! 頭で考える前に肉体が先に動き出す。おそらく自分史上最速。

 

 今も【シュリンクフレーション(カントリーマアム)】を継続中であるので、頑張って気配を【絶】ってイルミの背後を取る。流れるように棹立ちとなり、前脚でイルミの肩を押さえつけると──背後を取られたことと、体に触れられたことにイルミが反応しようとするのを畜生パワーで抑え込み、耳元で吠える。

 

 カクガリ! ちゃんとしたカクガリだ! イルミ、ほら見て! カクガリ! 生の! と、口早に伝えたところ、盛大に溜息を吐いた後に静かにしろよとマジレスされてしまった。カクガリなのに。

 

「ナニ騒いでんだよミケ! ちょっと静かにしてくれよ! おっさん、ガルガイダーの買い取り価格っていくら?」

『30,000ジェニーだ』

「お、結構すんじゃん。なー、ランクFだしミケなら幾らでも取れるだろ? 全部売っちまうぜ?」

『カク』

「ウン」

 

 このカクガリ、奇跡的に彫刻と体形がほとんど同じなんだぞ?

 それってもう王道の努力型に見るひとつの完成形とも言えるわけで、イルミにとっては目指すべき頂きじゃん? そろそろ本気で目指そ?

 

「──じゃあガルガイダー24枚をジェニーと交換してくれ」

『はいよ。720,000ジェニーだ。お金は店に貯金すると盗まれる心配がなく、便利だぜ』

「ん? そりゃ便利、か?」

「銀行の代わり?」

 

 どうして無視するんだい? 俺は君の将来を憂いて言っているんだよ? あと、さっきから俺の前脚を肩から引き剥がそうとしているようだけど、無駄だからね? 君がカクガリな店主をしっかり見るまで僕は君をカクガリするのを止めないよ。これこそが未来の君の姿なんだから。それに限界が近いかもしれない。こうして間近で見てしまうと……。

 

「んー? いや? それなら銀行とか貸金庫とか、その手のNPCと店用意するだろし──なあ、これって他の店でも金引き出せるのか?」

『入金した店でしかお金はおろせないぜ』

「っぱ、そうかよ。メンドーな仕様だな」

「貯金箱?」

 

 そろそろ刈るか……──ん? 貯金? それは困るな。

 

「ああ、まさに。このオッサンも貯金つってたし、じゃあ各自──いや、兄貴はまだ様子見するとしてオレとミケで10万ずつ持って、残りは入金しとくぜ?」

『ツギ アイテム ショップ ダロ?』

「ん? そのつもりだけど」

『ナラ ゼンガク モッテコーゼ』

 

 稼いだからには今度こそお買い物よ!

 

「ナニ買うんだよ?」

『ドクケシ トカ』

「毒消し? そんなものまでアルの?」

「ゲームなら定番だしアリそーだな」

 

 売ってるなら万能薬とか、めぐすりあたりも揃えたい。

 ここは念能力者であっても死ぬような場所だし、閉じ込められてしまうような世界。

 インベントリと同義な(バインダー)のフリーポケット枠は45とめちゃくそに狭くて、ローグライクにあるような持ち物の取捨選択が必要とされる縛りがある場合、道具や薬品類は悪辣な罠やギミックを打開するためのカギになる可能性が高い。

 

「オレらにいる?」

「ガチの毒ならオレらにはイラネーけど、念で中毒状態を再現してくるパターンもあっかも」

「フーン、それは少し興味アルな」

「ならこのまま金持ってくか。どーせアイテムショップでも入金できるだろうし」

 

 そういうことになった。

 次だ次だと交換(トレード)ショップを辞して、アントキバの町中を進んでいると、何やら過敏になっているっぽいイルミと俺とがほぼ同時に気付き、だいぶ遅れてミルキが顔をキリっとさせて気付いた様子。

 

 それからしばらくして、プレイヤーとすれ違う。

 

 すれ違う直前になってこちらの存在に気付いたそいつは、動揺を隠せず不自然に顔を逸らした上に歩調が速くなって息遣いに加えて心音までもが喧しいほどだった。

 

「あんな雑魚もいんだな」

 

 頭の後ろで手を組み、大きな腹を突き出して歩を進めるミルキがそう評する。

 初狩りしてきた連中よりかなり格が落ちるっぽいが、あんなもんじゃなかろうか。

 念能力者といっても戦闘が得意って奴ばかりじゃないだろうし──というようなことを甘栗が言っていた気がする。

 

「ミルキ」

「な、なんだよ」

「去年までのオマエ、念無しだとアレくらい」

「……ええっ!? マジ、で?」

「ウン」

 

 頭の後ろで組んでいた手をほどき、歩調や呼吸が乱れ始めるミルキ。

 イヤな汗が出たんだろう、ポケットからハンカチを取り出し汗を拭う姿が妙に様になる。

 

 ᴥ

 

 アイテムショップはカード化されたものがレジ周りにのみずらりと並べられている。

 レジ周り以外のスペースは書店のような作りで、本そのものががたくさん置かれている。

 当然入店とほぼ同時に畜生アイをフルに使う。今月号の『なかよし』を無事発見し、ミルキに持たせてレジへ向かわせる。

 購入後すぐにカード化した『なかよし』をフリーポケットに入れ、周囲の枠を小石のカードで囲ってインペリアルクロスしておく。

 

 一仕事終えてレジ周りのカードを物色していると、毒消しどころかポーションすら売っておらず、その手の道具や薬品は指定ポケットカードそのものか、レアリティの高いカードで入手難易度が高いのかもしれない。

 

 でも絶対に役立ちそうな道具となる2種類の地図は売っていた。

 

 島の形だけ記載され、自分で実際にその場所へ行くか、情報を仕入れると自動的に埋まっていく2万ジェニーの地図。

 もう一方は最初から特産にお得情報、おすすめスポット、裏道まで記載されているらしい65万ジェニーの地図。

 

「地図かぁ……オフゲーなら白紙一択だけど、悩むよなコレ」

『ウラミチ キニナル』

「だよなー。お得情報ってのも指定ポケットカードに直結してそーだし、裏道はぜってー隠しクエとかレアモブが潜んでるぜ」

 

 価格が狙ったかのように俺らが支払えるギリギリだし、悩ましい。

 でもまー、悩ましいってことは買いだ。

 

「買えば?」

『サンセー』

「……っし! 買うか!」

『マタ ガルガイダー リョーサン スル』

「おう、頼む。この町ってホテルねーみたいだし、そこそこクラスの宿でさえ結構な値段するらしいしな」

 

 え? そうなの? じゃあミケ、パスタ頑張る。

 

 善は急げってことでさっさとアイテムショップから出て、再びイタリアンレストランへ。

 店には他のプレイヤーの姿も見えなかったので、すぐに大食いクエストを受注してミートパスタを機械的に流し込んでいると、ひらめきを得る。

 俺は頭を使うと空腹になるが、空腹の時にひらめきを得ることがある。

 

『カタマリ ソウル アンジャン』

 

 こちらにも塊魂に似たぶっ飛んだ、言葉を選ばずに言うとコカっている世界観のゲームがあって、題材が同じなだけにやっぱり名作であり気持ちの良いシリーズだ。

 

「ああ、オマエが居ない間にオレもう段位上げ切ったぜ?」

『オマエノ ハツ アレニ シロヨ』

「は? アレって塊のことだよな?」

 

 俺の毛ヒトにライドさせていたスライムなポーンの操作の巧みさからして、ミルキは操作系の枠組みの中で考えてもモノを操作することにおいて適性が高い。したがって塊魂の保有者となるべき。

 

『ソー ンデ オレニ アソバセロ』

「はあ? でも、待てよ? あの塊みてーになんでも巻き込んでデカくしていくのって要はオーラでなんでもくっつけりゃいいわけだよな? 似たようなことオレ普段からやってるし……問題はオーラの質を変えるって部分で……変化系も絡むことになっけど、制約と誓約次第か? ベースは操作だし、てかオレもう面白そうって思ってんだけど? それに強ェって思う【発】無理して作るより好きなモン作れって爺ちゃんが言ってたから、アリなのか? でもなぁ、こういうのって自分で思い付いて作るモンじゃねーの? いやー、でもオレの塊力ならぶっちゃけ誰にも負けねェし、ミケ相手でも負けなしって結構すげーよな? これはマジで──」

 

 ミルキ王子が自分の世界へとお隠れになられた模様。

 そういや甘栗も似たようなこと言ってたよーな気がする。

 好きなモンや愛着があるモン、どうしてもやりたいってことを【発】にした方が云々って。

 

【発】をこさえた当時、俺って何考えてたのかあんま覚えてないけど、【シュリンクフレーション(カントリーマアム)】にしろ【念話】にしろやりたいことだし好きなことだとは思う。

 俺に残されたメモリーは感覚的にはまだある──ってか増えるはずがないのに、ちょい増えてるけど、今は別に何も思い浮かばないのがなぁ。塊にしても遊びたい程度で、ミルキと違ってスポーツ魂持ってないし。

 

「ミルキ、カタマリってナニ?」

「んあ? あ、ああ……塊ってのはその、えーっと……なんて言やいいんだ? 口で説明してちゃんと伝えられっかな? いや、伝わる気がしねえ……絵で説明するわ」

「ウン」

 

 ミルキが丸っこい指先にオーラを集めてテーブルの上にお絵かきしていく。

 

「この塊っていう球体を転がして、周りの物体をくっつけて巻き込んで、基本的に可能な限り早く大きくしていくんだよ。んでそれを操るのが──」

 

 イボ付きの球体を描き、それを転がす王子や巻き込むモノまで再現していくミルキのそのワザマエは──。

 

『ウメー』

 

 上手い。こいつって好きなモンになるとオーラの扱いが神懸るな。絵ってよりもう3Dアニメーションしとるし、すげーな。

 

「へへ、まーな」

 

 ところで、さすがの俺でもパスタ飽きてきたんだけど。

 流れで財布が共有になってっけど、もうピザ頼んでもいいよね?

 

 ᴥ

 

 ミルキの塊チュートリアルの美技を眺めつつ、サイドメニューのピザをつまんでワインで流し込む。

 合間に大食いクエストを機械的に片付けた結果、ガルガイダーを二人と一匹のフリーポケット枠に収まるわりとギリの123枚確保したところでカード化限度枚数となった。

 そんでもって毎度発生する景品受け渡しの際のロス、再受注待ちの時間が発生したりで、結構な時間が割かれて日が暮れて来たので、そこそこクラスの宿代が確保できる分と当座の金の分だけガルガイダーをアイテムショップにて売り払った。

 あえてガルガイダーをすべて売らなかったのは、他にもっとおいしいクエストが見つかるまでは、カード化限度枚数付近にしておくことで再び自分たちの食い扶持にする思惑からである。

 

 その後は俺が大食いクエストをしている間、地図を確認していたミルキの提案で必要な情報を集め、そこそこクラスの宿へ。

 夕食時にひと悶着あったが、その後は俺からすれば狭苦しい宿の個室にて、【シュリンクフレーション(カントリーマアム)】を少し緩め、床の上でぐでーんと伸びる。

 ぐでーんと伸びつつ芋虫のようにモゾモゾして窓に顔だけ近づけ、木製の窓枠や開口部を隅々まで検分し、ベッドの傍にあるナイトテーブルに飾られた花瓶に刺された花を食べてみたり、引き出しの中に入っているよく知らない経典をパラパラとヒゲでめくって喉を鳴らしているうち、眠くなってきた──ところで、(バインダー)がひとりでにボフッと具現化した。

 

 眠くなってきたところだったけど、本当はいつの間にか寝ていて【念話】で寝言こいて『ブック』と唱えた? んなわけあるかよ。

 誰かからの攻撃? 妨害か? 初狩りの連中が何か仕掛けていて、それが発動したとかか? 二つ隣の部屋のミルキの近くに本人以外の気配はないし、隣室のイルミが椅子から立ち上がったみたいだけど、そっちにも本人以外に気配はなし。

 

『突然のご連絡となり申し訳ございません。こちらプレイヤーのサポートを担当するリストと申します。ミケ様で間違いございませんか?』

『エウ?』

『ミケ様?』

『…… オケ ハアク ウンエー? ジーエム?』

 

 把握把握。

 

『はい、そのように認識していただいて構いません。こちらからの要件をお伝えしてもよろしいですか?』

『アー ユビワー?』

『はい。ミケ様にお渡しした指輪をこちらで回収し、伸縮性を改良した指輪を代わりに今お渡しいたします』

 

 うん? うん、オッケ。俺の自慢の伸縮自在の首輪みたいに指輪を改良してくれたわけね。

 仕事が早くて助か──元より畜生や魔獣のプレイヤーを想定していなかった運営の不備! 詫びカード貰えるな、これは。

 

 そう思ったけど、現実は非情である。

 

 遠隔で指輪をさくっと変更され、『では』との一言を残してサポート担当だとかいう運営だかGMからの応答は途絶えた。

 

 もー、イヤ! 疲れた!

 

 この肩透かしによる精神的な疲労もそうだけど、目新しいことばかりを前に興奮して連続稼働していたからか、本来一日の半分以上は寝たい犬畜生な俺は結構フラフラである。

 イルミが不寝番をするって言ってたし、警戒はお任せして防音に特化させたオーラを耳に詰めて目を瞑ってすぐに眠りにつく。

 

 ᴥ

 

 レモンが鼻の穴からポコポコ出てきて止まらなくなる夢の途中で目が覚める。なんつー夢だ。覚えてたら夢占いしよ。

 さて、まだまだ眠れるけど、肉体というより頭の感じからして最低限の休息は出来たっぽい。部屋にある時計を確認すると朝の6時を少し回ったくらいか。

 

 詰めていた防音特化なオーラを外して耳をすませば、隣室のイルミは針をねちゃねちゃしているっぽく、更にその隣の部屋のミルキはまだぐーすかしている模様。

 毎朝歯を磨き、ブラッシングしてくれる執事もしくは甘栗が不在であるので、そのまま自室を出て、どうせ察しているだろうからとイルミの部屋にノックもなしに入る。

 少しでも寝とけと伝えてそのままイルミの部屋の床でぐでーんとし、オーラを楊枝の形状かつ硬めにして口の中をシーシーする。

 返事はないがこちらの意を汲んだんだろう、椅子に座ったまま腕を組み目を閉じるイルミを横目に2日目となる今日すべきことを考える。

 

 昨日購入した65万の地図を『ゲイン』したところ、もう地図が真っ黒になるほど記載だらけで、なんなら裏面にもびっしりと情報が書き込まれていたので、必然俺の脳はそれを拒絶したので、ぐーすか中のミルキが管理することになっている。

 まあ、地図を片手に考えずとも今日はマサドラへ向けて移動することがもう決まっているし、道すがらの山中にて遭遇するらしい山賊のクエストをクリアすると指定ポケットカードかどうかは不明だが報酬を入手できるらしい。

 まずは手始めにこれを狙うかとなりそうだったけど、初狩りの連中が使っていたような他のプレイヤーへの攻撃や妨害系のカードに対抗できるようにするのが先決ということになった。

 

 んでもってマサドラってのが、他のプレイヤーへの攻撃や妨害、防御に移動等々が可能になる呪文(スペル)カードなるものが唯一販売されている町であるそうな。

 なのでまっすぐマサドラを目指す──ついでに道中にある岩石地帯にてたくさんポップしているというモンスターを攻略して資金にってことになっているが、問題はモンスターの強さである。

 具体的な強さは地図には記載されていなかったので、NPCに金を支払って情報を集めたが、それでもモンスターの強さってのが掴み切れていない。

 掴み切れていないとはいえ、相手はおそらくモンスターっていう名の毛ヒトやスライムのポーンの上位互換的な存在の念獣だろうし、多くのプレイヤーを相手にするってことやモンスターの予想される同時稼働数からして、複数人で協力して念獣を生み出しているとしても一体一体の強さには限界がある。

 なので俺は当然としてイルミもまあ大丈夫なはずってか、初期地点からそれほど距離が離れていない地域に生息するモンスターを相手にして余裕じゃなきゃ、すぐにでもグリードアイランドから撤退すべきだろう。

 

 問題はミルキであり、イルミはモンスターの強さ次第ではミルキを鍛え直すと、面倒なことを言い始めた。

 

 でも俺的には極論ミルキと害悪ムーブして遊べるなら、あいつにはこのまま頭で貢献する姫枠でいてもらう形でいいと思っていたりする。

 そもそもここには鍛える為に来たわけじゃねーし。そも姫プって高等技術だし。姫と騎士という利益を追求し続ける集団を維持するってのは、ともすれば瓦解しやすいものであり念において大切な『安定』に通ずる部分が多い。

 将来を考えるなら極めておいて損はない! 男であっても、いやこんな時代だからこそ男は姫を修めるべき!

 

 でもイルミはスポンサー様であらせられるので、彼の意向を無視するのは難しい。

 

 なので姫デッキを引っ提げてなんとか翻意してくれるよう夕食中のイルミに説き続けた。

 けれどイルミの意思は非常に硬く、モンスターをミルキが単独で打倒出来るかどうか次第という意向を曲げてくれなかった。

 なんなら兄弟のことを普段からさんざん雑魚だのと煽っていた俺の危機感の欠如や、言動の矛盾についてイルミから逆に言及され、お説教されたような気がしなくもない。後半の方は俺ってほとんど『ソッスネ』としか返せていなかったし。

 

 嫌なことを思い出しちまったぜ、まったく。

 

 てかさー、ミルキがモンスターを上手いことポコーンとすりゃいいんだよ。

 初期地点から全然離れていない、いわばルーキーが最初の方に遭遇する想定のモンスターだし、遅いつってもミルキもゾルなんだし死ぬ気でやりゃやれっしょ。ポーションねーけど。執事もいねーけど。やれるやれる。俺はミルキを信じることにする。

 

 ᴥ

 

 そんなわけでイルミに軽く睡眠を取らせ、朝食にシチューを所望するミルキの口にパンと肉片を詰め込むことで封殺し、宿を出たのは朝の9時くらいと活動を開始するにはやや遅め。

 町を出て北に進み、山へ入ったところで時短すべくイルミとミルキを乗せてミルキが吐いて泣かない程度の速度で進む。

 こっち(グリードアイランド)に来て初めて【シュリンクフレーション(カントリーマアム)】を解除して元の姿となったけど、やっぱこの姿が一番快適。

 

 そうして山を北に抜け、岩石地帯に入ったところで、遠目に見える一つ目の巨体が群れとなってのしのしと歩いているのを発見。

 おそらくモンスターであろうそれらのサイズ感は今の俺と同じくらいだし、見た目だけならわりと強そう。込められたオーラが必要最低限って感じだから雑魚だろうけど。

 

「ミルキのこと見ておいて」

『ハーイ』

「……」

 

 ミルキくん、ご立腹のご様子。

 

 あの巨人の群れだけならミルキでも余裕だろう。でも他にもモンスターが闊歩しているだろうし、まずはイルミが調査するってことは昨夜から決まっていたこと。

 まあ、具体的なモンスターの種類や戦闘力、危険度等々を把握しておくのもミルキのためで、あと俺やイルミがモンスターを処す姿を見せずに初見でミルキに戦わせるって理由もあるらしい──当人が理解はしても承服はしかねるって感じだけど。

 

「じゃ行ってくる」

『ヤベーノ イタラ ソラニ オーラ ブッパナ』

「ウン」

 

 かなりの距離まで声を拾えるけど、声って他の音とか風ですぐに掻き消される雑魚だから、やっぱ古典的な狼煙めいたオーラぶっぱが安定である。

 こういうやり方をミルキはすぐに思い付くし、動けるデブになる必要もないと思うんだけどなぁ。

 つーかシンプルな道具やら服そのものの持ち込みは出来たってのに、事前に無理っぽいことは知っていたけどケータイやら通信機器の類を持ち込めなかったのが痛い。俺のお気に入りの伸縮自在の首輪に付いてるワンワンフォンも綺麗さっぱり消されてるし。

 

『デンワ ミテーナ コウカ ノ カード アンノカナ?』

「……あんじゃねーかな? ねえと仲間内でプレイするにも不便過ぎるし」

『ジャー エロ モ?』

 

 アントキバにはネットに繋がるような設備やモノが売っていなかったし、アイテムショップにもその手のモノは置いていなかったので、風紀的な意味で少し心配。

 

「寝床に飯はあんだし、残りの三大欲求無視してたら運営がアホ過ぎるだろ──天体の見え方弄ってやがるし手抜かりはなさそーだけどな」

 

 天体? なんの話してんの? それより風紀が大事だろ。

 

『ソレケイ ノ マチ アンノカネー』

「どーせ三次元メインの色街だろーけど、あるだろうな」

『エヌピーシー ムリソウ ナノ? オマエ』

 

 ここのNPCのデザインの共通性を見るに、ミルキの趣味ではなさそう。

 

「二次元を取り出したいって欲求はあっけどナンデモいいってわけじゃねーからな? ここのNPCはリアル過ぎて趣味に合わねーしナニより中身っつーかそれぞれの抱えてる想いや境遇に生い立ちあってこそキャラが立つし感情移入できて推せるんだよそもそもオレの場合はエロ目的ってわけでもねーから……オマエなら知ってるだろ」

 

 相変わらず業が深い上にこの手の話になると早口が過ぎる。将来が楽しみでならない。

 が、少し鼻息が荒すぎるミルキにこれ以上この手の話を振るのは止めておこう。

 でも待ってる間はヒマだし、オーラの塊転がして砂利やら小石巻き込んで遊んどこー。

 

 

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