走狗   作:カストロ

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世界 犬 猫 飼育数

「行っておいで」

「オッケ。念アリだよな?」

「ウン」

 

 一つ目の巨人の群れへとミルキが単独で向かう。

 足音を消して進むミルキのコレジャナイ感がすごいが、さすがに茶化したりはしない。

 一つ目の巨人のヘイトを取らないよう、イルミと共に気配を【絶】ってミルキの後に続く。

 

 一つ目の巨人はそのまんま『一つ目巨人』というモンスターでランクはGと下から2番目らしく、ランク相応ならかなりの雑魚だろう。

 一つ目巨人と接敵したミルキが普段と変わらぬオーラを【纏】った状態のまま、【練】ることすらせず一つ目巨人らが振り回す棍棒や拳、蹴り等を回避しつつ、そこらへんに履いて捨てるほどある石を拾い上げては投石していく。

 創作物やゲームでは定番の弱点となる一つ目巨人の単眼への投石攻撃により、群れのすべてをぱぱっと全滅させたミルキは、一つ目巨人のカードを回収して(バインダー)に収めていきつつ、周囲への警戒も怠っていない様子。

 

「次、アッチに向かって」

 

 ミルキの次の対戦相手(モンスター)の位置を一瞬だけ張った【円】によって把握したらしいイルミが、進むべき方向を指差す。

 再び後を付いていくと、ほどなくしてモンスターと遭遇したミルキは、やや困惑している模様。

 

 相手はドラクエに出てくるようなスライムに目と口を適当に描いたようなフザケタものだが、サイズはミルキの背丈の倍ほどはある。

 毒々しい紫色のスライムが3体固まっており──近付きつつあるミルキの存在を無視してぷるんぷるんと体を微動させうろうろしている。

 

 再び地に落ちている石を拾い上げ、スライムの1体へと向けて投石するミルキ。

 命中するも、ぽよんと石が弾かれスライムにダメージが通っているようには見受けられない。

 次に石自体にオーラを【周】らせて投石する。今度も着弾したが、結果は同じでダメージは通らず。

 

「クソッ……セオリーどおりなら魔法だとかが弱点だろうけど……」

 

 完全物理耐性なんてもんを念獣で再現することなんて不可能だろうし、なんらかの形でダメージを後回しにするか、術者が肩代わりしているとかか?

 それとも物理的な防御力を上積みするため、突かれると即死するくらいの弱点を設けているパターンか?

 

「──よし、試してみっか」

 

 お? オーラの一部を指先から伸ばし、性質を変えている? 何やら指先から伸びるオーラの周りがゆらゆらしているし、オーラに熱を持たせている?

 そのままスライムへとある程度接敵して、伸ばしたオーラを接触させるミルキ。

 バリスタを引き絞る時に出るような苦痛めいた鳴き声がスライムより発生し、オーラが触れた箇所がドロドロに溶け、ミルキから離れようとぽよんぽよんするも間合いを更に詰められ溶かされ続ける。

 どうやらミルキは一気に決めるつもりのようで伸ばされたオーラを2本増やし、3匹のスライムを一気に溶かしていく。

 

 しばらくして3匹のスライムが完全に沈黙し、カード化する。

 

『アレノ ランクハ?』

「F」

『フーン』

 

 Fもセオリーを理解していれば難なく倒せる程度なのかもしれない。

 そもそも反撃なんて皆無だったしGの一つ目巨人より楽まである。このモンスターが特殊で、ボーナス的な存在かもしれないが。

 

「ミルキ、少しココで待ってて。次探してくる。ミケ見てて」

「あ、ああ。わかった」

『ハーイ』

 

 都合よく次から次へとわんこ状態でモンスターのおかわりが出来るようなポップ量や分布ではないのかもしれない。

 町と町の間に隔たる距離感もアメリカンサイズだし、こりゃあダンジョンとかがあっても探索にめちゃくそに時間を掛ける必要が出てきたりしそう。

 

『ダンジョン トカ アンノカナ?』

「んー……ありそうだけどPvPは基本カードでやらせてえだろうし、移動と補給が制限されるような閉鎖的なフィールドにプレイヤーを積極的に誘導しねえ気がする」

『ヘー ソッカ』

「ただの予想だし外れてっかもだけどな」

 

 それはそうと早くも汗だくになっているミルキ。

 でも疲れの色はあまり見受けられない。汗だくなのはデフォだし。

 でもまあ、こんなに歩くのはあまり無いだろうし。

 

『ブック』

 

 宿を出る前に購入してカード化しておいた水を爪先のオーラでくっつけて取り出す。

 

『ゲイン』

「ん?」

『ヤル』

「お、サンキュー」

 

 投げ渡したペットボトルの水を片手でスタイリッシュに受け取ったミルキは、相変わらずキャップを片手で格好良く開け、口を付けてひと息で吸い込む。

 一瞬で水を吸い込み終えると流れるように己の(バインダー)を出し、カードをゲインする。

 ゲインされたのは菓子の袋で、地べたにあぐらを組んで座ってバリボリとし始める。

 

 こいつ、最終的に指定ポケットカードより(バインダー)そのものを持って帰りたがりそう。

 

 ᴥ

 

 結果的にイルミの不安は的中した。

 HランクからFランクのモンスターにはほとんど苦戦することなく倒せたが、Eランクの俺サイズのメラニントカゲってモンスターを相手にした際、ミルキが危うく丸呑みされるところだった。

 ミルキを救出すべく放たれたイルミの針に刺されたメラニントカゲは全然甘露してなくて味のないガムで、すぐカード化するというウンコだった。

 

 さておき、メラニントカゲ以外にもスピードで振り回してくるモンスターに逃亡されたり、ハエのような群れに卵を産み付けられそうになったりで、岩石地帯に出てくるモンスターのランクはFくらいまでがミルキの適正ラインという判断が下された。

 ミルキ本人もその判断に同意のようで、イルミによるシゴキに関するメニューの説明がなされていて──おそらく土ん中に潜ってこちらへと進んでくる巨大な気配を足裏の肉球とヒゲに伝わってくる極小の振動で感知しちゃったので、お兄さんちょっとタイムです。

 

「方向は?」

『アッチ デカソー』

「……まだ【円】に引っ掛からないな」

 

 デカそうってこと以外にもイルミの【円】の外からこちらを感知してるくさいのが気掛かり。

 

『コレ オレガ ヤルワ』

「オレがヤってもいいけど?」

 

 いやいや、たまには俺に出張らせろ。

 

『デカソー ダシ ミトケ』

「……じゃあ任せる」

 

 さーて、本来の姿で久しぶりに狩っちゃうぞー。

 

『ア ワンパン スッケド イイ?』

「ウン? そうして」

 

 相手はモンスターだろうから、これからもまた戦う機会があるだろう。

 だからミルキにどういう動きをする相手か見せとくのもアリかとも一瞬考えたけど、よく考えると俺の戦い方を参考に出来る奴って番犬見習いのポチくらいだろうし、イルミの意向的にも初見に近い状況を維持した方がいいのか。

 

「来たね。ミルキ、あの岩の上まで離れるよ」

「お、おう」

 

 地中を進む上に【円】で捉えた感じからして巨大なミミズって感じだろう。

 ガブッと丸呑み出来そうにもないサイズ──てか、こいつ俺よりデカくね?

 

 イルミとミルキが退避した岩の上にこの推定巨大ミミズが針路を取ると面倒になるし、オーラをあえて【纏】わずに垂れ流しにする。

 二人は既に気配を【絶】ってはいるけど、一応の保険としてぴょこぴょこと小さく跳ね、爪先で地面を穿ち、こちらの存在をアピールしておく。

 地中であるので音とニオイをはっきりと捉えられなかったが、今はもうばっちりと把握できている──そして思惑どおり、まっすぐにこちらへと向かってきている。

 

 右前脚だけやや引き、その時を待つ。オーラは【纏】わず垂れ流したままだ。

 

 地中より響いてくる振動が至近となり、その数瞬後、巨大なミミズがこちらへと大口を開けて飛び掛かってくる。

 口内にびっしりと並ぶ歯より、糸を引く口内の体液がヤバそう──んなモン無視して超反応でエーイと右前脚を突き出す。

 

 ミケポーク!

 

 インパクトの瞬間のみ右前脚にオーラをちょい【纏】わせた、ただの突き。

 巨大なミミズ──『ロックワーム』のその大きな口の大部分が消失、その他の部位もほとんどがバラバラになった後、すぐにカード化した。

 ランクはBでカード化限度枚数は30と結構レアかもしれない。

 

 イルミとミルキにワンポークドッグの強さを披露した後、イルミ監修のミルキのシゴキの準備をするべく岩石地帯はここまでにして一路マサドラへ。

 マサドラは大きな町であるらしく、呪文(スペル)カード以外にもアイテムショップに交換(トレード)ショップ、その他店舗も充実しているらしいので二人を乗せてひた走る俺の足並みもついつい早くなるってもんで、そのせいかミルキがちょい泣きそうになっていたけど、でーじょうぶだ男の子だし。

 

 ᴥ

 

 到着したマサドラは触手を生やした気球のような建物や、つくしのような建物が立ち並び、景観や統一性なんてものを無視した原色を中心に彩られた町並みはTHEゲームって感じでテンションが上がる。

 町中を歩くにはさすがに己のサイズが邪魔になるしで、町中では再び【シュリンクフレーション(カントリーマアム)】を発動していく。

 町の特色的にやっぱりプレイヤーがそこかしこに居るようで、一か所に複数人が固まっていたり、妙に町に馴染んでいるというか、疲れの色が濃い労働者のような顔付きだったり、生活感がある奴も居たりしてココを拠点にしている奴らも多そう。

 町中を歩くプレイヤーも複数人で固まって動いているのが大半で、お互いに警戒して一定の距離を取り合っているように見える。

 

 とはいえ堂々と一人で町中を闊歩するようなのも居た。

 目的地に向かう途中、まあまあのオーラを【纏】って肩で風を切ってオラオラと歩く強面の世紀末風の大男は嫌でも目に付いた。

 そんな世紀末がオラ歩きを止めてNPCが開く露店で買い食いしていたので、話を聞いてくると言って背後から近づき、世紀末の横っ腹のあたりをぎゅっと掴んだミルキがお話を申し出ていた。

 

 ぎゅっとされた後すぐは元気よく怒号を発していた世紀末だったけど、ヤる気になって妖怪みたいな面となっていたイルミを確認したからか、(バインダー)を出してトリガーを引くようなことはせず、すぐに大人しくなった。

 人気のない場所へ案内される間も余計なことを口にせず無言を貫いていたし、視線をなるべく動かさないようにもしていた。

 

 お話の結果、世紀末はわりと最近グリードアイランドに来たばかりで、マサドラへの訪問も二回目とのこと、指定ポケットカードは1枚も所有していない上に呪文(スペル)カードの内容についても半分以上知らないということだった。

 一応イルミが針をぶっ刺して吐かせて確認もしたけど、世紀末は概ね事実のみ話していた。

 

 でも隠していたこともあった。

 

 何やらグリードアイランドのクリア目的で集められた集団に属しているようで、何故隠すのかと詰めると雇われていることに恥ずかしさを覚えているらしく、俺の中で世紀末の株が少し上がった。

 なので二人から少し難色を示されたものの、カードを奪ったりせずあまつさえイルミの針によって新鮮な状態で甘露化しているってのに無傷でリリースしてあげた。

 

 そもそも因縁を付けられたり、むかつく相手なら別だけど、ただオラついているだけのプレイヤーを問答無用で無力化してカードを奪ったりするのは、ちょっと違うし。

 ということを二人にも伝えはした。でも揃って首を傾げられたし、オマエが言うの? ってな顔もされた。ミケ遺憾。こちとらリリースする寸前に味見するくらいならって誘惑にも打ち勝って我慢したんだぞ。よだれで水溜りが出来ている場所をチラ見するんじゃあない。

 

 ともかく寄り道せずに要件を済ませよう。

 

 そう格好良く言い放って人気のない場所より離れ、町の中心へと向けて歩を進める。

 遅れてついてきたイルミとミルキがまだ何か言いたそうにしていたけど、無視して進む。

 まずはアントキバを離れたことだし、食い扶持用にカード化限度枚数対策に売らずにおいたフリーポケット枠を圧迫しているガルガイダーを売り払い、いつでも入手出来るであろうランクBの『ロックワーム』以外のモンスターカード各種も交換(トレード)ショップにて売り払う。

 

 フリーポケットに入れて持ち歩く現金は各自必要最低限にし、残りは各ショップに分散して入金する。管理はミルキと保険で分散した一部をイルミに丸投げだし、各ショップに預け入れている残高はもう覚える気にもならない。たくさんだ。

 元手もあることだしで次にイルミとミルキ用に屋外での活動用にテントやら飲料水に食料品、サバイバル用品等々を仕入れる。

 さすがに俺の分の食料や水はフリーポケットに収めたり、ゲインして実物を自ら運搬するにも限界があるし面倒だしで、俺の分はゼロである。

 

 地図には水源や川の詳細な位置情報に釣りスポット、自生する木の実や果実といった採取可能なモノや食料となる獲物まで記載されているし、例え情報がゼロでも常に狩る側だった畜生からすれば自然豊かな地帯はヌルゲーであるので問題──は、ある。たぶんヒマになる。これをどうするか悩ましい。

 電池で動く携帯型のゲーム機であるジョイポケ2どころか初代ジョイポケすらどこにも売っていない事実。

 グリードアイランドはジョイステ専用タイトルだってのに気が利かない開発である。ミルキと一緒になってカフェにて少し遅めの昼食を摂っている際、ずっと開発、果ては運営批判をしていたくらいだ。

 

 ヒマになりそうだし、イルミとミルキを残して一旦帰ろうかな。

 

 そういう考えも頭に過ったけど、やっぱりもう少しココの危険度を把握しないことには心配だ。

 イルミが居ればプレイヤーのほとんどが脅威にならないような気もするけど、ゲームウンコだし……。

 ま、呪文(スペル)カードがどんなもんか次第か。

 連絡手段が充実すりゃあ、ある程度別行動しやすくなるだろうし。

 ヒマならヒマで遊びは自分で作ればいい。将来の自分に丸投げしよう。

 

 そんなわけで、いよいよ呪文(スペル)カードショップへ。

 

 1袋3枚セットで中身が確認できないブラインド販売の呪文(スペル)カードは1万ジェニーとお求めやすい価格。

 10袋目は品切れと告げられて購入できなかったので9袋、27枚入手できた。

 

 入手した呪文(スペル)カードはEからGとランクの低いものが大半で、ちょうど20枚。

 残りはランクDの初心(デパーチャー)が4枚に念視(サイトビジョン)が1枚、ランクCの密着(アドヒージョン)が2枚だった。

 ランクの高いものや使い勝手の良いカードはカード化限度枚数まで出回っていて、もう排出されなくなっているため偏った結果になったっぽい。

 

 まあ、ランクFの他のプレイヤーと(バインダー)を介して3分間話せる交信(コンタクト)を5枚入手できたのは大きい。

 これで不測の事態に陥っても離れた相手と連絡が取れるし、別行動も視野に入ってきた。

 交信(コンタクト)は俺が1枚、イルミとミルキに2枚ずつ持って、日が傾き始めていたけどそのままマサドラを後にする。

 

 当たり前だけど岩石地帯には向かわない。

 初心者がまずは欲するであろう呪文(スペル)カードを求めてマサドラを目指す場合、初期地点とマサドラの間にある岩石地帯はそう広くないこともあって、混み合うことが予想される。

 そして現実への帰還が叶う港がマサドラから西の方向にあるようなので、マサドラの北すぐの所に湖があるけど、水深に期待できそうにないので東へ。

 地図の記載によるとマサドラの東には山と広大な森が広がっており、そこを抜けると、なんと海となる。

 

 絶対に潜ってやる。

 

 ᴥ

 

 マサドラより東、スタート地点と似た平原地帯の中にポツンとある湿地帯の川にて水分補給にと向かったら、ヒトを丸呑み出来そうなサイズの食いでのありそうなワニの群れが居たので10頭ほど川から引き揚げて姿焼きにして皆で食し、夜も更けて来ていたので宿泊することに。

 テントを張り終え、焚火の前で寛いでいると──ちょいと前からこちらへゆっくりと近付いてきていた奴がようやく姿を現した。

 

 たぶん念に目覚めて季節をいくつか跨いだ程度だろう。

 それなりに練られてはいるけど粗削り。元から持っていたオーラ量でゴリ押ししてまとめましたって感じの──俺と同じような低解像度な仕上がりのガッビガビな念能力者。

 

 でもそれなりにやる。初狩りの連中とは比べもんにならないくらいには。

 

 見たところイルミよりちょい年上の17、8の若者──にしては目付きや落ち着き具合からして妙に場慣れしている印象がある。

 たぶん万全の状態のミルキでもしんどいだろう。手足なっげーし。こういう体付きの奴は寝技がめちゃくそ上手いし。

 

 視界の端でイルミがやや体の向きを変え、組んでいた腕を解くのが見える。

 俺は焚火の前でぐでーんとするという、いつもの姿勢を維持したままだし、ミルキはクソデカいマシュマロを焼くのを止めようとしない──が、マシュマロをくるくると回転させつつ口を開いた。

 

「指輪してるし、プレイヤーだよな? デバフでも食らって(バインダー)出せねえとかか?」

「いや、敵対する意思がないことを見せようと思ってな」

「へェ……そっか。で、何の用?」

 

 わりと言っていることがマトモ過ぎて拍子抜けさせられる。

 ココってマサドラで見たプレイヤーの雰囲気からして、普通に殺伐としている奴らばっかりなイメージ持ってたわ。

 女子供ぶん殴ってそうな面構えのわりに、こいつは善良なタイプなのかもしれない。

 

「そのだな……そいつもプレイヤーなんだよな?」

「ウン」

「ちょ、兄貴?」

 

 さっきから俺に熱視線を向けて来ていたが、密猟者とかその手の奴らのねっちょりした視線じゃない。

 なんだろう、犬を前にして愛想を崩すおばさんのような、ジャーキーの袋ごと持ち歩いていそうな雰囲気がある。

 

「どうせ指輪とオーラでバレるだろ」

「あー……そりゃそっか。ココって念能力者だらけだったわ」

『ンダヨ ジャー モウ シャベッテ イイヨナ?』

 

 あ、喋れるかどうかはバラす必要なかったか?

 でもプレイヤーの前に出るたびにずっと黙ってるのもストレスだし、どうでもいいか。殺しの手伝いで来てんじゃねーし。

 

「おおっ! 話せるのか!? ん? これも念でやってるのか? いや、もしかして魔獣ってやつなのか?」

『タダノ デケーイヌ』

「は? い、犬なのか? デカいだけって……限度ってもんがありそうだが」

「おい……でもマジなのか、オマエがそう言うなら」

 

 登録はしてるけど俺は魔獣なんてモンでも、ましてやヒトでもなく自認はただのデケー犬だ。

 

『トコロデ オマエ イヌハ? ネコハ?』

 

 俺がナニモノかなんてことより、このおばさん兄ちゃんに問う必要がある。

 我らを常に脅かし続ける、かのファッキンネコ派であるのか否かを。

 答え次第では丸呑みして正さなければいけなくなる──ネコ派なんてものはこの世に存在してはいけないのだから。

 

「生き物はなんだって好きだ。だからどちらでもないな」

 

 ほう、ヒト風情がこのミケを前にして堂々そう答えるか……だがよかろう、その答えで満足しておいてやろう。

 

『オイ オマエ コッチコイ』

 

 俺らからは一定の距離で立ち止まっていたので、呼び寄せる。

 

「ああ、でもいいのか? 自分で言うのもおかしいが、オレも一応プレイヤーだぞ?」

『ザコジャン オマエ』

 

 それにこいつってよくわかんねーけど憎めないっていうか、不思議と俺の毛をブラッシングさせてやってもいいと思わせるモノがある。ネコ派じゃないし。

 執事にも居んだよな、こいつには触ってもらいたいとか、触られたらブチ殺したくなるって奴が。こいつは当然前者。ネコ派じゃないし。

 

「ああ……アンタらに比べれば確かにオレは雑魚かもしれないな」

「兄貴、そうなの? この兄ちゃん、結構やりそうだけど」

「コイツ覚えたてだろうし」

 

 やっぱイルミにもガビガビに見えるか。

 

「そう? いや、そうなのか? 実際のとこどうなんだ? そうは見えねーけど念覚え立てだったりするのか? んっと──」

「カイトだ」

「ああ、オレ、ミルキ。プレイヤー名もな」

「そうか。オレもそのままカイトがプレイヤー名だ」

 

 カイト、ね。こっちでもそのうち凧作ってみるか。ヒマになりそうだし。

 

「念については、そうだな……正解だ。プロのハンターにもなったばかりだしな」

 

 おー、初めてプロのハンターって奴を見たかもしれない。

 

「マジ!? てかハンターなのかよ!」

「いや、まあ……だがこのゲームはハンター専用のはずだろ? そこまで驚くことか?」

「あー、アレな。ハンターじゃなくても普通にプレイ出来るぞ?」

「そ、そうなのか? 確かに、その──アンタの名前も教えてくれないか?」

『ミケ』

 

 ファミリーネームはまだない。

 

「ありがとう。改めて、カイトだ。よろしくな、ミケ」

『ウイー デ コイツ イルミ』

「ああ。イルミもよろしくな」

「……」

 

 イルミちゃんは返事なんてしなくてよろしい。

 なんだか過干渉気味なケミカル(キキョウ)の気持ちがわかってきた気がする。

 正しい道に進ませようとかそういうのじゃなくて、おもしれー人形って感じでほうっておけない存在感を放っているイルミはそのままであり続けてほしい気持ちが湧いてくる。

 

 イルミちゃんはさておき、この出会いをきっかけにミルキのシゴキメニューに組み込まれる予定の、イルミの針によって俺がヒトもどきとなって組手の相手を務めるという一部クソメニューから逃れられるかもしれない。

 こんなことになるなら毛ヒト用の触媒となる毛を持参すべきだった。

 

 こうなったらこの兄ちゃんのご機嫌を取って、俺の身代わりとなるよう誘導してやる。

 

 

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