走狗 作:カストロ
「あっ……さっさとクリアする方法思いついちまったかも。それもオレららしいやり方で」
カイトが野暮用で一時不在中であるため、ミルキへのシゴきは組手やモンスター討伐が無いこともあって緩め。
余裕ができたミルキはモノを考える時間ができたんだろう、飯時に頬に食べカスをつけながらそんなことを唐突に言い始めた。
『オレラ ラシー?』
「全員殺すとか?」
全員はしんどくね? 遠距離からちくちくされたりゲリラ化されると面倒じゃん。
いや、でも
「お、兄貴のそれ正解に近ェかも」
ちらっとこちらを見るんじゃあねえよ。
『アン?』
露骨にまばたきして「見てないですけど」みたいなおとぼけ顔すんじゃねえよ。
「ギスんなよ……」
『ハヨ イエ』
「わかったわかった……とりあえず結論から先に言うぜ──最終的にここをオフゲーも同然の環境にする」
ほう、ほう?
「──まずオレら3人はそれぞれ違う役目を持って別々に行動する。オレはマサドラの
なるほど?
ってこたあ
「ミケはその間、初期リスで新規と出戻りのプレイヤーをひたすら消し続ける。狙いのカードとカモの数が揃い次第、防御系のカードで固めた状態で兄貴が
「じゃあすぐそうする?」
『ゴリゴリノ パワープレイ ツマンネーヨ』
ゲームによってはアリだけど、なんつーかそれをここでやる意味なくない?
「……まあ、な。それにプレイヤーの中にヤベー奴が居たら破綻する作戦でもあるし。つーか考えたの俺だけど俺がゴミみてーな役目なのが気に食わねえ──詰めてくと穴もありそーな気がするし……でもまあせっかく思い付いたから話したくなってよ」
穴あっかねー? やらないだけでやったらコンテンツが死ぬっていうパワープレイなだけな気がすっけど。
あー、でもさすがにそんな状況になった場合、運営が静観しているとは考えられないか。
確実に介入してきて、俺らに直撃するようなナーフ入れてくるな。
『ナーフ サレッカ ドウセ』
「! そう、それ! 何か見落としてると思ってたけど、それだわ……てことは、やっぱオレが足手纏いになんねえようになって正面から攻略すっか」
「じゃあメニュー増やそうか」
「……兄貴、オレ、これ以上は、マジでシヌ」
「そ? じゃあ頑張りなよ」
イルミみたいのが運営だったらぐちゃぐちゃになっても静観してそう。
将来軍人さんになっても是非とも現場のいち兵隊さんを貫いてもらいたい。
間違っても管理職みたいな役目は担わないでいただきたいし、教官なんて以ての外だ。
たぶんミルキじゃなかったら5、6回は死んでるし。毎日。
ᴥ
イルミのヤバめのシゴキもあるんだろうけど、ゾルディックという血統、ヒトを逸脱した旺盛な食欲、ちょい格上くらいのライバルの座を維持し続けるカイト、俺っていうオーラ回復薬、ゲームやアニメといった趣向品──いや、ゲームそのものにどっぷりと浸かっている環境といった要因もあってミルキの成長線は……まあまあだ。
毎日注ぎ込んでるからわかるけど、オーラを収める器の大きさがヤクルトからピルクルくらいにはなってるし、肉体の強さも少しは伸びていてたまにしか骨折しないし、技術的な面もそこそこ伸びてるっぽい。
技術的な面ってよーわからんけど、イルミ曰く伸びてるって話だしそうなんだろう。
そんなこんなで今日もヴェンナラの森を走るのは、ミルキと野暮用を済ませて来たらしいカイト。
その後ろをのろのろとついていくイルミと俺。
ついさきほどランクCの帽子やらTシャツを着用する巨大猿の群れをカイトがボコしていたけど、さすがに何度も戦ったことがある相手なだけに戦闘をさくっと終わらせていたし、ミルキもカイトにカバーされつつとはいえ何頭か仕留めていた。
でもまだまだ。どうやらモンスターのランクCとBには大きな壁があって、サイズもしくはスピードがランクひとつ違うだけでかなり変わるし、ランクBになると明確な弱点といものが無くなる。
Aにはまだ遭遇したことがないけど、自立型の念獣じゃなくて、常に運営側が操作しているようなタイプだろうと予想している、俺が。なので外れそう。ミルキは普通に指定ポケットカードに繋がるようなクエスト関連限定か未実装じゃねって言ってたし。
『ヤッパ Bソロ デキルヨーニ ナルマデ キタエンノ?』
「ウン。単独でヤれるようになるのが最低限。Aもいるならヤれるようにならないとだけど、見ないし」
『オセーコト イガイ ナニガ タリネーノ?』
「全部」
相変わらず辛口なことで。
『フーン ブキ モタセタリ シネーノ?』
ミルキのサイボーグ化はさすがに帰宅後になるだろうし。
「しない。【発】作る前に持たせると引っ張られるし、持つなら作った後でいい」
『へー』
武器がダメならミルキのサイボーグ化もダメじゃね? いや、ミルキの場合は脳を少しと基本足回りメインになるだろうから大丈夫か。
でもそうなると俺の牙ドリルは【発】作る前に実装するのは拙いか?
でもドリルは埋めたいしなぁ……てかスゴ腕の獣医兼歯医者兼ドリル職人って条件でメガネ執事に探してもらってるけど、3つのスキルを併せ持つ人物がまったくヒットしない。
こうなったらそれぞれの専門家を集めてチームを組んでもらうことも考えているけど、やっぱ統括できる人物ってのはほしいし。
まあサイボーク化も新たな【発】も一向に進展しないけど、俺も新たなワザップ習得して地力はちゃんと上げていたりする。
ちなみにワザップ習得は、カイトのロンゲが結構片目を隠してることが多いことがきっかけだったりする。
そこでふと思った、目を【凝】らすのって別に両目じゃなくてよくねと。
そんな思い付きを3人に昨日話してみたところ、イルミとミルキからはやれるんならやればってな素っ気ない答えが返ってきたが、カイトからは「ほうほう」とナイスな反応をもらった。でも目が魚を語る時のさかなくんみたいになってた気もする。
で、実際にやってみたらすんなりできた。
まあ遠近感や立体感がやや掴みにくくなるし、自分のヒゲや鼻が視界の隅で主張してきて邪魔になるってマイナスはあるけどメリットもある。
微々たるもんだけど片目分省エネになるし、どちらかの目が逝った場合にすぐ対応できるし実戦向きってことで今後使っていこうと思ってるが──今日になってイルミにまたパクられてた! もー! 俺のことお手本にしてやがってからに! こいつ俺のこと好きすぎー!
よーし今日はイルミちゃんの好物のタコ捕ってきてやるからな!
ᴥ
晩飯の際、イルミにわんこソバの要領でどんどんじゃんじゃんタコを詰め込んでいると、ミルキの
次いでアナウンスが流れてプレイヤーから
『よォ、そっちは知らねえと思うがトポスギってもんだ。お前があの魔獣の飼い主だよな?』
「……魔獣? 何のことだよ」
『ハッ、もう調べは付いてんだよ。メンドーな駆け引きはナシでいかねえか?』
うーん? 随分と高圧的というか、上から感が強い。
まあ声で報告する方が有利になりやすいFPSとかしてると、声変りしてないクソガキボイスのミルキがボイチャを使うとこの手の輩に出くわすことがあるけど……それでも滅多にいないし、何なら手のひら返して急に優しくなるプレイヤーの方が多いし──とくにメスがキャッキャしやがる。確かにミルキは無駄に声優みてえな良い声しとるし。
「ならオマエの居場所か寝床教えてくれよ。直接顔合わせてじっくり話そうぜ」
『いやいや、俺らは別にオメーらと事を構えようってつもりはねえんだよ。そうカリカリすんなよ』
「オマエさぁ……ガキ相手だからって初手から嫌味言って煽ってくる時点でどうなの? つるんでる奴でもっとマシな頭と口持ってる奴いねえのか? あ、オマエこの手のオンゲー初心者のジジイだったりした?」
やっぱりこういうミルキが一番輝いてる。害悪キッズの面目躍如である。
「ソレ、切れないの?」
「ああ、こっちからは切れない仕様なんだよ──で? ジジイの要件は? さっさと言えよ」
『……魔獣、ミケっていったか? そいつもプレイヤーなんだろ? さすがに貸してはくれねえだろ? なら俺らと共闘しねえか?』
「本人に
『はあ? プレイヤーつっても魔獣だろ、そいつ』
何このヒト。まさか魔獣のことディスってる? 自認魔獣じゃないとはいえ結構トサカに来るぞ、その物言い。
そもそも魔獣ってヒトと同様に例外も存在するけど、大半は普通にヒトと意思疎通して高い社会性持ってるようなのばっかだし、一部地域じゃ被選挙権まで持ってるってのに、こいつのコミュ力がヤバ過ぎる。
こいつ、匿名性がある程度あるSNSとか掲示板に書き込んでる感覚で話してんのか?
『ま、残りの時間もねえしさっさと本題伝えるけどよ。あるクエストの最後に厄介なモンスターが固定で湧いてな。お前んとこの魔獣結構やるみてえだし、挑戦させてみねえか?』
おい、イルミ何してんだよ。手も口も止めてねえで、ほら手伝ってやるからタコもっと詰め込めな。
あと早々に詰め込めなくなって横になってたくせに、起き上がってぷりぷりする元気があるならカイトも詰め込めな?
ミルキは──最近ちょい食べ過ぎだし、そのタコ食ったらもう寝ろな。
『ん? タコ? おい、返事を聞かせてくれよ。聞こえてんだろ? ああ、仲間内で相談してんのか。なら明日にでもまた──』
「もういいやオマエ。二度と連絡してくんなよ」
『おいおい、急にキレんなよ。俺らはお前らに喧嘩売ってるわけじゃねえって。共闘の提案だって言ってるだろ? それにこっちはこっちでわりと譲歩しようと思ってたんだぜ? それなりの間ここに居るわりには指定ポケットカードがまだ0枚のようなガキ相手に一応交渉って形で──』
あと1分もしたらこの声も聞こえなくなるだろうし、どうでもいいな。これ。
プレイヤー名は知れたし、
つーか
戦闘中とかに一方的に
お、やっと
最後の方はだいぶ本性出してやがったけど、向こうから仕掛けてはこなさそう。
威勢のいいこと並べ立てるわりには露骨に声に怯えが出てたし。
「──すまん、あいつは知らない奴だったが、おそらく……」
『キニスンナ タコ クエ』
いつの間にか離脱症状を乗り越えてたから結構忘れちゃってたけど、久しぶりに心置きなくヒトが喰えると思うとハラが減ってくる。
今回のはさすがにライン超えてるし。俺の中でのゲーム性をぶっ壊さないっていうルールは無視できる。むかつく奴は喰うべき! 叶うなら甘露で! 明日、久しぶりにマサドラ行ってみよ。
「ミケ」
『アン? ナニ?』
「……」
イルミはさっきから何? ああ、タコもう食えないの? それでも食え。
ᴥ
翌日、マサドラの
ᴥ
翌々日、マサドラの
ᴥ
今日こそはと張り切ってマサドラへ。
俺は何故前日、前々日にマサドラにそのままお泊りしなかったのか──と気付いたのはマサドラへ到着する寸前だった。
マサドラの
さすがに俺も理解したので同日ド深夜、マサドラの
町中ということもあって【
でも抑えた。単独行動中だし。
そんなこんなでショップ前で伏せて開店の時を待っていると、朝日がちら見してきた頃合いにこちらへと近付いてくる複数のヒト──プレイヤーの集団を察知する。
しばらくして相手もこちらの存在に気付いたようだけど、踵を返して離れていった。
奴らがここ最近
そこそこ出来る奴らなんだろう。ヒトにしては結構離れた場所からこちらに気付いていたし、そのせいでニオイを完璧に覚えられるほどじゃなかったけど、もう一度嗅げば特定は可能だろう。
ᴥ
買えた! 勝った! 浜辺に戻ってきた!
「おお!
『オホホ オホホ』
「そのキメー笑い方やめろよ。何でレアゲットした時たまにそれやんだよオマエ。フゴッ、やめろ腹痛ェゴッ」
ミルキが謎に豚鼻出してまで笑ってくれるから、ついついやっちゃう。
『オホホ オホホ』
「器用に話すとは思っていたが、器用に笑えもするんだな」
『ヌホホホ』
これ何気に高等技術なんだぞ。【念話】で笑い声出しつつオホホの口の形も再現してるから、顔面の構造上かなり無茶しててシンプル激痛。
「ミケ、うるさいよ」
『ハイッ』
ミルキのウケより今はコックの機嫌を取ることが優先される。
なのでコックの指摘には素直に従うし言われる前にお座りもする。
さて、ここからが本題である。
初狩りヒゲか、この前のトポふんふん、どちらから食すべきか。これが悩ましい。
マジで悩ましい。だから日々の日課を熟す3人を眺めつつ、浜辺に伏せてゆっくり考えていたら深夜に起きたことが響いたのか、いつの間にか寝落ちしていたようで──鼻の穴に流木をぬーっと刺し込まれる形で起こされる。
こっちに帰ってきたのは朝だったってのに、辺りはもう真っ暗でミルキとカイトはいつもどおり死んだように寝ている。
「見張りはこいつにさせとく」
『アイ? ウンハイ』
よくおやつにしている野生の猿の頭には針が刺さっており、ミルキとカイトのテント付近、焚火のある場所にて鎮座しているので理解する。
どこかに行くのかってな無用なことは聞かず、浜辺から離れていくイルミの後を黙ってついていく。
十分にミルキとカイトから距離を取ってから、
ヤるんすね! コック!
ついつい鼻息が荒くなりそうなのを必死に抑える。
よだれがドバドバと出てくるけど、こっちは止められないし──ちょっとおしっこ! 寝起きだしこっちはもっと止められない。
「……早くしなよ」
『ワン』
すっきりして戻れば、こくりと頷くイルミにふんすと鼻を鳴らして答える。
てか呪文唱えろな。
ᴥ
アメリカンサイズの一軒家の庭には生活感あふれるゴミが散乱しており、テラスに設置されたソファに座り、酒瓶を片手にしたアゴの大きな男がぎょっとした顔でこちらを見つめ──てか俺のこの巨体に驚いてんだろうけど、視界の端でイルミの腕がブレたしおつでした。
案の定アゴの大きな男の頭に針が生えて、甘露だー! ナイッスー!
「誰だ! こんな夜中にいきなり飛んできやがって──え、こいつ……」
「おい! トポスギ! 魔獣! 魔獣のあいつ来てるプトェ?」
家からどたどたとした足音と怒号が聞こえ、庭に出て来たアゴが普通の男が言葉を言い終える前に頭から針が生える。ナイ甘。
一方、玄関の方にてアゴヒゲがすごい男が射線を意識しながら動きつつ、
咄嗟に飛び掛かろうとするも、案の定──。
「クソがッ!
「こっちのガキは俺がやる! レ──ピィ」
がー!
でも諦めない! 迫りくるぶっといオーラの塊を全力で回避しつつ甘露な死体を拾い食いす、るッ! オラァ! あぶねぇ! うめえ! あと2匹! どらしゃあ! もぐゥ! 味わってるヒマねえ! さっさとごっくんして最後の1匹をッ! まぐッ!
よっし3匹喰えたし、叫んでた
あーん、飛んでくー。
飛んでく瞬間、眼下ではトポスギ一味の最後のプレイヤーであろうアゴヒゲがすごい男が甘露化したのを確認。
今は出してるけど、イルミも最初は
つっても、
ま、さっさと切り替えよ。
夜の闇は犬畜生な俺だから苦にしないし、方角くらい簡単に……えーっとこりゃー西か? やや北西方向? さっきの町の方角だけは忘れないようにしておこう。
町に近づけばイルミのニオイ追えばいいし、大丈夫問題なし。
飛翔しつつちょい仮眠していると、標高がそこそこの山の上にドーンと着地する。
すぐさま食べ残しへと向けて山を駆け下りる。
途中、街道にて何か轢いちゃった気もするけど、30分くらいで無事戻ってこれた。
んでイルミは居た。でも甘露な食べ残しは消えていた。
愕然とする俺を前にイルミが説明してくれる。
生かしたままにする意味もないから、いつもどおり針を刺すのと同時にすぐに息の根を止めたらしいが、俺が飛んで行ったすぐ後、食べ残しが例の無機質なオーラに包まれたかと思ったらすぐに消えたそうな。
まあ、そういう仕様なんだろう。だが許すまじ運営。この甘露の恨み、高くつくぜ?
「またバカしたね、オマエ」
『オマエモ ワスレテタロ』
「……」
つーか、はよ乗れ。
この町には初めて訪れたし、各ショップやらNPCから情報をってな気持ちもあるけど、俺らはもうここを出る予定だったりする。
アトにも
別にいついつまでに戻って来いとか言われてないけど、まあ何となく。
本格的に攻略するのは次来るときでいいし、指定ポケットカードも1枚しか入手してないしし、今が良い頃合いってのもある。
ミルキの成長がまあまあなのが悪いんだけどな!
『カエッテモ ミルキ シゴク?』
「ウン。仕事の合間になるだろうけど」
既にカイトには俺らの
ショップに預けてある金も一応カイトにほぼ全額渡してあるので、あとはここから脱出できるっていうマサドラの西にある港へ行くだけだったりする。
『アイツ カエッテ サボリダシタラ マジデ アシ キリオトソーゼ』
「ウン。親父に相談する。脳の方どうするか決めないとだし」
『モシ キッタラ ソノアシ クッテイイ?』
「ダメだね。さすがに」
チッ。