走狗   作:カストロ

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FX 必勝法 聖杯

 スワルダニシティーの空港へ到着。

 飛行船を降りて何日かぶりに【シュリンクフレーション(カントリーマアム)】を発動して、車に乗り換える。

 目的地となる市街地の中心に聳え立つ超高層ビルに併設されている駐車場へ到着し、ここで大半の執事らとは一旦別れ、メガネ(ゴトー)だけを連れてビル内へ。

 

 一階のフロアで出迎えてくれたスーツ姿のビーンズと名乗る者は──肌色が緑色で、耳も鼻もない作画が非常に単純な人物。

 アトよりもよっぽど宇宙人然としていてるわりには、周囲の者が彼の姿に驚いたりしていないので、おそらく魔獣の類なんだろう。

 でも魔獣に向かってあなたは魔獣ですか? なんてことは野球観戦しながらヤジを飛ばすおじさんに野球経験者ですか? って聞くくらい気まずくなるのでエレベーター内でも無言を貫く。

 

「ではこちらとなります」

「……」

 

 俺は犬だし、メガネは執事服に身を包んで一歩引いてるし、最上位者の立場は普通はイルミと目されるし、そもそも決定権はイルミが持っているので案内役の人もイルミへと向けて話をしている。

 当然イルミちゃんはこれを無視してスタスタと護衛対象が待つ部屋へ入っていく──ので、イルミちゃんがごめんやでという気持ちを込めて頭をペコっと下げて俺も後に続く。

 

「来よったか。おお? おぬし、随分と小さい姿となっておるのう」

 

 このシムケン(ネテロ)、前にバーで乱入してきた時とキャラ違うくね?

 服装も公家さんが着てたような狩衣ってか神職っぽい和装だし……バカ殿かな?

 ああ、本家の志村けんも仕事現場では衣装とメイクして三枚目演じて、プライベートでは若作りした格好かつ二枚目だったっぽいし、ハンター協会会長たるシムケンも公私をしっかりと分けるタイプなのかもしれない。

 

「脅威が不明ってあるけど、予想くらい立てられないの?」

 

 挨拶やらをすっ飛ばしてズバッと聞きたいことを口にするイルミ氏のこういうところ好き。

 かったりーし、挨拶。

 

「ほっほ。そう急くこともなかろう。ちと話さんか? そこらに掛けてくれ。何か飲むか?」

「……」

『ジャー ミズデー』

 

 頼まないのは失礼な流れだし俺がフォローしてあげる。メガネが気まずそうにしとるし。

 

「いやはや……話には聞いておったが、流暢に話せるんじゃのう」

『エ? イヤミ?』

「む? 嫌味とな? ワシは嫌味のつもりで言っとらんが?」

 

 生粋の魔獣であろうビーンズ氏と比べるのは違うんだろうけど、なんだかなぁ。

 

『マ イーヤ カイチョーサン テキオオイノ?』

「どうであろうなぁ。うむ、あまり考えておらんかったが、確かにワシのことを恨んでおる輩はこの立場に居る以上多かろうな」

『ソーユー タテマエ イーカラ インネン アル アイテトカ インノ?』

 

 このシムケン、ライフスタイルだけが志村けんしているだけで中身は全然違うのかもしれない。

 

「ほっほ。随分とストレートに聞いてくるのう──じゃが、これといった明確な相手はおらんのう。皆、とっくに死んでおるしな」

「そもそもこのジーサン、護衛する意味ある?」

 

 あるじゃん。このシムケンそれなりに強いよ? たぶん。

 でもジジイじゃん? もしかして現役かつちゃんと最前線に出てる甘栗(マハ)スルメ(ゼノ)と比べてる? それはさすがに酷じゃん? このシムケンって言うてヒトじゃん?

 

『アンジャネ? ゲンエキ ジャ ネーダロウシ』

「そ?」

『タブン? コワクネージャン コノジジイ』

 

 甘栗は埒外にしてもあのマジギレしてた時のスルメを思い出せ? イルミも遠目に俺らのやり取り見てたろ?

 

「ほう……ワシを前にして言うじゃねえか、犬っころ」

『ナ? チョイ アオラレタラ コトバト タチバデ イアツシヨート シテンジャン? マモッテアゲナキャ』

「確かに……?」

 

 結構な付き合いだしよく一緒に居たからわかっけど、イルミは何ビビってんだよ。

 珍しく汗なんか掻いちゃって、プー。

 

「ミ、ミケ様……」

『アイ?』

「今はどうかご自重ください。我々は護衛の仕事で参っておりますので、依頼者の方を不快にさせるような言動は、お控えくださるよう何卒」

 

 メガネがズババっと頭を下げてくる。

 確かにメガネの言うとおりだ。俺らは護衛である。護衛対象の機嫌は可能な限り取るべき。

 つーか俺、なんか変。この水に何かそういう操作する念とか──操作? ソウサ……ん? なんだ? 違和感が……まあ、いいか。

 

『カイチョーサン ツヨソー スゴイスゴイ ッテマワリニ イッテモラッテソー』

 

 でも【念話】だから嘘吐けない。ぐぎぎぎぎ。

 強そうは強そうなんだよ? でもそれって昔はじゃん? リングに上がってる現役の格闘家とか舞台に立ってる現役の芸人のが威圧感あるしシンプル怖いっていうアレじゃん。

 

「仕込みも用意してあったが……面倒になるだけだな。お前、俺と今から仕合ってみねえか?」

『イルミ ガンバー シゴイテ モラエー』

「……オマエに言ってるだろ、このジーサン」

 

 待って? さすがに今の俺おかしい。

 俺って本来ここまでするような煽りカスじゃなくね? そういうのはゲームとかネットでしかやんない派だし……。

 

 あっ、アレだわ──。

 

 グリードアイランドに行く際にイルミに刺された操作対策が悪さをしてね? つーか抜き忘れてね? イルミ何してるの? 俺はこういうの忘れるに決まってるじゃん? イルミのアホ!

 

『イルミ コノジジイ ワンパンシテモ イイ?』

「……勝手にすれば?」

「言うじゃねえか。久しぶりに滾らせてくれるぜ。テメェこそ一手で転がってくれるなよ」

 

 ハア? 俺より明確に、断然、絶対に下の存在が言うじゃねえか。

 

『ハイハイ ツヨソーツヨソー サッサト ヤローゼ』

「ビーンズ! こやつらを例の地下へ案内せい!」

 

 うっさ。

 

 ᴥ

 

 ビーンズ氏に案内されたのは、だだっ広いコンクリ打ちっぱなしの格納庫みたいな場所。

 そこで我関せずで相変わらずぽけっとしとるイルミに今すぐ針を抜けと迫ったら、針が特製な上に作成に時間が掛かってて、さらには使い切りだから勿体ないしで抜きたくないとかぬかした。

 

 だから丸呑みして甘噛みしてから吐き捨ててやった。

 

 メガネがめちゃくそに動揺してたけど、イルミはヌメヌメになってもぽけっとしたままだった。このイルミきらーい。テコでも抜いてくれないみたいだし、帰ったら甘栗に相談しよう。今度こそ忘れませんように、未来の俺!

 

 そんなこんなで衣装チェンジしてきたっぽいシムケンがご到着。

 心って字がプリントされた……まあ、うんなTシャツ姿は、うん、まあ中々に心。

 

「──待たせたな。早速おっぱじめようぜ」

『アーイ イツデモ ドゾー』

 

 あくびをしつつ【念話】でお応えしておく。

 自動的に煽るんですが、この【念話】。

 でも甘栗を始めとするオールド陣にはこれが適用されない謎。念ってよーわからん。

 

「へっ……悪く思うなよ犬っころ。小手調べなんてことしねえからよ──」

 

 ずん。シムケンが一瞬にして巨大化して──違ッ。

 

 ──あ、死。

 

 このチートな畜生な目と動体視力を以ってしても、ほとんど残像ってか点でしか見えなかったシムケンの背後に現れた観音様っぽい何かから繰り出されたであろうチョップ的な何か。

 回避なんて考える前に全身を──主に頭をオーラで【硬】めて受け止めた。

 

 うん? 死んだと思ったけど、骨が何本か折れてクソ痛いってだけでまだ全然動ける。余裕余裕。

 

「……やるじゃねえか。大口叩いてただけはあるようだな」

 

 シムケンが御託並べてるのをスルーして四肢に力を込め、全力で地を蹴って正面から飛び掛かかる風に見せて、チェンジアップの要領でわりとゆっくり飛び掛かる。

 

 ──二回目にもなると見えた。鼻の先を再び観音の手が横切る。セーフ。いや、アウト。俺の大事な大事なヒゲが結構消失しとる。

 

 んでもってこちらの攻撃も失敗っぽい。

 態勢を捻るのみで、立ち位置さえ変えなかったシムケンの真上を通り過ぎる。

 地に脚をつく前に体と尾を捻って反転して、運動エネルギーが地についた肉球を焦がす。痛気持ちいい。

 

「む?」

 

 頭を喰らってやるつもりだったが、シムケンのちょんまげが牙の先に引っ掛かっているのみ。クソが。

 ワンパンで決めるつもりだったのに、恥ずかしくてイルミの方を見れねえ!

 

 ᴥ

 

 お互い初手で決められず、そこからも同様に双方決め手に欠けた。

 シムケンの背後ににょっきする俺くらいのサイズの観音が俺をハエ叩きのようにべちーんと叩きつけたり、闘魂ビンタしてきたり、ふつーにグーパンしてきたり、チョキで目を狙ってきたり、尾を掴んでぶん回してきたりとやりたい放題された──が、全身骨折だらけって程度で、俺は全然動けた。

 

 でも俺の攻撃が当たらない。

 丸呑みできない。爪が空を切るし、爪ミサイルしても躱される。

 肉球スタンプしても赤い印が付かない。尾で拘束できない。【隠】ぺいした毛も躱され千切られる。

 とっておきの隠し玉にしていた音を置き去りにした音速越えの屁も効かなかった。

 

 でも終わりは唐突に訪れた。シムケンのガス欠によって。

 

「クソがよォ……こんな相手がいんなら研ぎ続けてりゃあ良かったぜ」

『アン? ムカシノ ジブンナラ カテルトカ? ローガイカナ?』

 

 ガス欠ってか枯れてるな、これは。

 

「かっかっかっ! まさに!」

 

 シムケンの顔に体は今やもう皺くちゃになっていて、オーラも肉体も萎んでいる。

 

「──最期に披露してえところだが……さあ、もういいぜ」

 

 悟った顏、まさに御仏フェイスかつ三日くらい放置した刺身みたいな状態でそんなこと言われても、もう喰らいたいって気持ちが湧いてこない。

 それに格付けはもう付いた。9割方俺の負けだけど、運ゲーで勝った俺が上で、お前はもう俺の下。

 

『モウ オレノ カチジャン』

「あ゛? きっちりケリつけやがれ」

『オマエ オトナシク マモラレトケヨ オレラニ』

 

 こいつ海水にでも浸けとけば元に戻るかな?

 

「……チッ。そんな話だったか」

 

 そういう話じゃろがい! 俺も忘れてたけど!

 

『オジーチャン ダイジョーブ?』

「……」

『オホホ オホホ』

 

 オホホの口にはしない。てか無理。もう口が開きっぱなしで閉じれない。

 それでも勝者の義務として笑う。だるい。オーラがカッスカス──を超えている。

 無理を押して動き、意識を保たせ続けたせいで寿命の半分くらい捧げちまった気がする。

 

 しんど。

 地下は至る所がぼっこぼこに陥没し、割れ、切り裂かれた跡まみれ。

 ぐでーんと伏せるとちょっとした突起すら今は痛い。

 シムケンは既に治療が施されていてるようで、ビーンズ氏と共に白衣を着た奴らが群がっている。

 

 俺の元にも治療を目的とした白衣集団が群がってきてるけど、メガネが謎に指揮を執っている。

 イルミは安定のぽけっと突っ立ったままだったけど、俺の鼻先に来て「オマエ、結構ヤれるんだ」とか言ってきたので鼻水を飛ばそうとすると、鼻血ってかたぶん頭ん中の血がどばどば出始めて──こりゃあ、死んだかも。意識が沈んでいく。

 

 ま、死んじゃいなかったんだけどな!

 

 このあとはハンター協会の本部に仮設の病室を作ってもらって治療を受けていたそうな。

 つってもこっちは肉体そのものがチートだし──とはいかずに結構な期間意識を失っていたようで、その間に甘栗とアトが何度も見舞いに来ていたらしいし、俺ってほぼ死んでいた模様。

 とはいえ、意識が戻ってからは自発的に【絶】っときゃ治るので、怪我ひとつしてないけど衰弱が酷いらしくてベッドに縛り付けられているシムケンの病室でぐでーんとする毎日、兼もう形だけになってるくさい護衛の依頼をこなす退屈な日々を送るだけとなった。

 

 まあ途中、犬面のメスがシムケンの治療を引き継ぎに来た時はびっくりしたが。

 確認のために股ぐらを嗅いでやろうとしたら→マジギレしてきてぶん殴ってきたけど→効かない。なのでしっかりと嗅いでやった。やっぱただのヒトだった。遊んでやらない。

 ちなみに何故か爆笑していたシムケンが犬コスのヒトメスにぶん殴られそうになったが、イルミにしっかり守られていた。

 

 ああ、それと3か月後、もしくは半年後、あるいは1年後に再戦させろとシムケンがうるさかった。

 年齢的に考えて下り坂だろうし、ファイトマネー次第でやってやるよって物理的にも心理的にも超上から答えてやったら、ヒトの魂食ってる系の妖怪みたいな面してニチャニチャしてやがった。

 

 そして、なんだかんで長くなってしまった護衛期間を終えてククルーマウンテンに帰ったら、彫刻(シルバ)にゲンコツを落とされた。

 むしゃくしゃしたから報酬はすべてFXに突っ込んでおいた。

 

 ᴥ

 

 帰宅後、スルメが妙にシムケンとの戦闘の詳細を聞いてくる上、軽い手合わせを頻繁に申し出てきてちょいうざい。

 スルメの竜ってかトカゲをモチーフにした【発】を犬フォルムに変えろっていう俺の申し出は断るくせに、わがままが過ぎると思う。

 つーかスルメにはシムケンほど俺の攻撃が躱されることはないけど、軽い手合わせだってのにすべてが殺しに来る攻撃だから苦手。

 あと心を折ってくる痛みを与えてくるし、竜派だし。でも美味そうだから許す。死んだら喰わせてほしい。

 

 そんなわけで今日もスルメとの軽い手合わせを終えて、俺とおまけでポチも使うおやつ工場へ顔を出したら、ポチもおやつタイムだったようで、股ぐらをつんつんしてやってからおやつをバリボリしていたら唐突に告げられた。

 

『死ね』と。

 

 アトからのメッセージである。

 普段はもっと丁寧だしデフォルトで長文だし、冗談でもこんなことは言わない。

 だけど本日のメッセージは非常に直接的である。

 

 経験則から、反応をするのは無意味であると知る俺は静観した。

 そうするとすぐに訂正とお詫びのメッセージが届いたので、即座にカウンターを打ち込む。

 

『メスの股ぐらのニオイ嗅いだくらいで嫉妬に狂う覗き魔はだいぶキモいけど嫌いじゃない』と返信し、端末の電源を切って首輪に戻す。

 嫉妬の対象であろうメスであるポチが物欲しそうにこちらを見ているので、あんまり毛深くない腕を分けてやる。

 

 つーか持っている力を考えた場合、この程度で済むことからしてアトって超穏便だと思う。

 俺だったら甘栗が他の──例で出すだけでも殺意を覚えるが、仮に、もしも猫なんてファッキンな存在を可愛がっていたらもっと過激な手段に出るだろう。

 

 さておき、ポチよ、行くぞ。オメーおっせーし今日はおんぶして俺の近場限定のマーキングスポットへ連れていってやろう!

 背の上でだらーんとして俺に体を預けるポチをおんぶして運びつつ、ふと思った。

 こいつは試しの門以外から侵入してきた奴らを喰うよう躾けられているけど、逆にこいつは試しの門を開けられるんだろうか?

 

 そのままポチの定位置となる試しの門へと行き、門を開けるよう指示するも四肢の扱いが普通の犬してるから上手く門に力を伝えられていない様子で、1までしか開かない。

 こうするんだと見本を見せても「くーん」と泣きを入れるばかりである。

 

「ポチに仕込んでおるのか?」

 

 そんなことをしていると、甘栗が音もなく登場──ってか俺の頭の上にいつの間にか居た。

 わー、甘栗だー、って気持ちよりも驚きの方が大きい。それに一瞬だけ怖い。でも一瞬だからセーフ。

 

『ソー ソトニ ニゲラレタラ オイカケナイト ジャン?』

「ふむ……じゃがこやつの仕事は番犬。追い立てる必要はなかろ」

『ソレモソッカ ジャー オヨギ オシエルワー』

 

 もうこの時期の湖はキンキンに冷えた最高の状態とは程遠いが。

 氷張ってたらバリバリと口で割ってくのが癖になるから、ポチに教えてやれたんだけどなぁ。

 

「うむ、その方が良い。ワシも付き合おう」

『ウイー』

 

 そういうことになった。

 で、湖の水深はしょぼいけど、ポチには俺の十八番の潜水を仕込んであげた。

 門を開けるよりも泳ぎの覚えの方が良いポチは、コツをすぐに掴んで湖にいる毒々しい魚を求めてスイスイする──横ってか下、湖底にて一緒になって潜水していた甘栗が無駄に幻想的で笑う。

 

 そんなこんなで湖で泳いで食って遊んで、次はポチとベタベタな遊びをしようと適当な木をへし折って投げて取ってこさせようとしたら、体がうずうずした。

 気のせいかと気を取り直して木を咥えて戻ってくるポチから木を受け取り、投げる。うずうず。

 再び木を投げる。無理。ダッシュしてポチより先に木を咥えてしまう。

 

「何をしとるんじゃ」

 

 甘栗がカッカと笑いながらツッコミを入れてくるけど、俺って犬だしこうなって然るべきじゃん?

 待てよ……このうずうずって実はすごくない?

 客観的に見て、うずいた時の俺って思考のすべてが木に持っていかれてたし、隙だらけのはず。

 

 これをヒトにも使えれば、ハメ技──時間停止ものになるのでは?

 グリードアイランドにはそんな都合のいい指定ポケットカード無さそうだったし。

 よし、これを土台にした【発】作ろー。

 

 ᴥ

 

【発】を練り練りすべく山籠もりする。

 完成するまで帰らないという意思を強固なものにすべく、ようやく生えそろったヒゲを片方切り落とす。

 

 翌日、下山した。

 

 ᴥ

 

 下山して作ったばかりの【発】を試しに使っていたら、ケミカル(キキョウ)に手を引かれて歩く三男坊くんと遭遇。

 ケミカルがこちらの位置を把握して、向かって来ていたのは知っていたからオーラの塊であるブツは仕舞ってあるけど、何用だろう。

 

「……イヌ?」

「そうよ、キルアちゃん。イヌ……なの? アナタ」

 

 俺を見定めるようにケミカルのゴーグルのモノアイがキュイーンと動く。

 それどうなってんの。そもそもどうして単眼なのか。

 

『イヌー』

「そう……」

『サンナンボー ドンナモン?』

 

 とはいえケミカルのゴーグルよりも今は三男坊のことが気になる。

 

「キルアちゃんのこと? それはそれは素晴らしい子よ。ね? そうよね、キルアちゃん」

「ン?」

 

 ケミカルがぎゅーっと三男坊を抱きしめるが、肝心の三男坊はぽけっとしておる。

 ふむ、ゾルディックの血ゆえか。

 

『フーン マア…… ソリャソッカ』

 

 ぽけっとしとるこいつは、確か1歳? 2歳? くらいのガキ未満のほぼ乳幼児だってのに、もう顔立ちがはっきりしとるし、彫刻と同じ色の髪がふっさふさだ。

 それに念は教えてないはずだけど、それでも一般人の垂れ流しのオーラとは全然違う。

 

 でも、こいつ──。

 

『ナンデ タンパンジャ ネーノ? テンサイ ナンダロ?』

 

 甘栗級の期待されてるんじゃないっけ? ならスタイリングも継承しなきゃじゃね? 何、長ズボン履かせてるの?

 

「ハイ? アナタ、何を言っているの?」

『アマグリキュー ナンダロ コノサンナンボー サスガニ オレデモ ワカルシ コイツガ ヤベーノ』

 

 前まではそうでもなかったし、遠目に見ることが多かったからかもだけど、間近で見て思った。

 念能力者以外、ましてや甘露化すらされてなくてもガチで喰らいたいって思えるの、こいつが初めてかも。

 

「甘ぐ……ええ、そうですわね。マハ様と同様にこの子もゾルディックの()を色濃く継いでいるはず。ですが、それがどうしてタンパン? と関係するのですか?」

『ハ? アマグリノ アノスタイル ファッション ジャ ネーゾ?』

「……では何なのですか?」

『バッジ』

 

 ファッションなわけあるかよ。

 あれってたぶんキルスコアで歴史に名を残すような軍人が正規の支給品を使わないようなもんで、天才とか規格外、怪物の証みたいなもんだろうからな。

 あのシムケンも地下でやり合った時だけ生足出しとったし。

 

 

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