走狗   作:カストロ

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クエン酸 布団 使い方

 大昔に起きた革命時の大虐殺を免れた一部のボルゾイが、特殊な生体が数多く確認されているヌメーレ湿原にて野生化。

 野生化していた他の大型の犬種、あるいは狼に分類される個体と交配を繰り返して生まれたのがアレらの正体だろうと言われている。

 イヌ科かつ肉食獣に分類される生物の中にあって体躯が規格外に大きく食物連鎖のほぼ頂点にあるが、祖であるボルゾイの特性を多く引き継いでいるがゆえに自然界では弱点・欠点となる部分も多い。

 自然界、とくにヌメーレ周辺の過酷な選択圧以外にもその見栄えゆえに多くの密猟者に狙われ、その個体数は極めて少ない。

 

「もはやジジイ以外にあやつを正面から止められんぞ?」

「……ああ、わかっている」

 

 当初はマハ爺さんが珍しい犬を連れて来たものだと、ただそれだけの感想しか持ち合わせていなかった。

 だが、アレと対面してその考えはすぐに消えた。

 念を修めていたことは、まあいい。この閉じられた小さな世界の中でも動物やもっと言えば植物が念に覚醒している事例が無いわけではない。

 

「殊勝な態度になることもあるが、ワシを見る目がいまだ怪しい。どこまでいってもアレはワシらとは違う」

 

 当初から魔獣化の兆候が色濃く出ていたが、人の言葉や文字を理解し、はてには念を介して言葉を口にするようになったアレは正しく異質な存在となった。

 今振り返って考えるに、通常であればアレは俺自身の趣向を排して当主の責として早々に処分すべき存在だった。

 マハ爺さんがアレを可愛がっていたので黙認せざるを得なかったわけだが、結果として我が家はアレの影響を受け続けることになった。

 

「イルミがアレに首輪を嵌めようとしたが、針の命が十全に機能していないようだ」

「ふん……当然じゃな。イルミの針は対人に絞っておるんじゃろ? アレに命が多少なりとも届いておることを幸いとせんといかん」

 

 俺自身で確認したが、アレは突然変異的に誕生した種の中にあってさらに特異な個体だった。

 同種の他の個体と比べて体躯が大きく、致命的な弱点となる生化学的な問題を克服しており、毒物への耐性まで有していた。

 そして、最大の特徴として思考そのものがほとんど人と変わらない。

 

 これは環境によっては弱点となり得るが、アレの場合はその人のような思考を初めから生存戦略に活用していたきらいがある。

 今もそうだが、念の扱いに不慣れであった頃からアレは我々──とくに俺と親父の顔色を常に意識して、境界線を上手く見極めていたように思う。

 悪いことに境界線を踏み越えた場合はマハ爺さんに頼るという狡猾さも併せ持っており、時が経つにつれて我々の意に沿わないようになった場合の処置が取れなくなった。

 親父もその危険性を危惧してマハ爺さんに翻意を迫っていたようだが……。

 

「またぞろ【発】をこさえよったらしいな」

「ああ。イルミによればふざけた見た目に反して、殺しに特化しているようだ」

 

 マハ爺さん自らが手ほどきしたからか、アレの念の習熟速度は異常だ。

 だが、アレはまだ完成には程遠いだろう。肉体の動かし方は元より極まっていたが、念においてはまだまだ粗が目立つ。

 実際、アレ自体が持つ考える力や適当な性格もあって銃火器への対処に不慣れな部分が多く、力量差のある能力者にしてやられたり、怪我を負うことがあるほどだ。

 

「ジジイには飼い主の責任として、あやつがくたばるまで生き永らえてもらうしかないが、アレの寿命はいかほどと読む?」

「同種の平均は人とそう変わらないようだが、読めないな……念によって伸びるだろうが、行動に一貫性がまるでないからな。自身で命数を縮めるようなことを平然とやりそうだ」

「それよ。アレはただのアホではないから厄介なんじゃ。恐れを知っておるくせに無軌道じゃからな……あの親父がくたばっておるのが不幸中の幸いじゃ」

 

 アレは念を持たなかったとしても個体として既に外の生物に近く、その巨体はそれだけで脅威となる。

 サイズの違いというのは深刻な差を生み、加えて肉食獣かつヒトに匹敵する狡猾さを持つとなれば、尚更その脅威度は跳ね上がる。

 

「キキョウにはよくよく言っておけ。アレの横におるのには手を伸ばさんようにな」

「ああ……」

 

 ネテロとやり合ったアレは死の淵にあったようだが、奇しくもアレが持つ最大の鬼札によって難を逃れた。

 どの道、何の前触れもなく鬼札である埒外の存在と婚約したアレにはもう手が出せない。

 幸いなことにアレの婚約者はヒト型。ならば我々が選ぶ道はアレの血を取り込むことにあるだろう。

 

 ☽

 

 シムケン(ネテロ)の敗因は鈍っておったこと、その一言につきる。

 俺やイルミ、メガネ(ゴトー)から話を聞いたスルメ(ゼノ)曰く、俺はそもそも勝者ではなく敗者であるとのこと。

 本当のネテロはお前より強いもん! 久しぶりに全力出しても壊れないお前をサンドバッグにしてペース配分ミスっただけ! ってな主張がうざい。うざいがそれは的を射ている。あの仕合は実質負けだし。

 運動不足な上に泥酔状態の父親にガキの頃に腕相撲で勝った感覚に近い。

 

 だからって俺とスルメで組んで、ここ最近政治ごっこに精を出していたらしい彫刻(シルバ)を手合わせでボコすのは……へへっ、スルメはわかっているじゃないか。気持ち良い。今日から毎日やろう。

 

「……想定以上に鈍っていたか」

 

 ボッロボロとなり愛用している道着のフォルムが似ていることもあって、地に伏せる姿がすごくヤムチャな彫刻が悔しそうに心情を口にしていて、ミケとても晴れやか。

 

「じゃな。政治もお主の務めじゃが、ちとサボり過ぎたのう。あのジジイと同じ轍を踏むところじゃったぞ」

 

 上から目線でそんなこと言ってるスルメも顔面がわりとボコボコで、鼻からどばどば血ィ流してて絵面が笑える。

 二人を横目に傍観者気取りの俺もせっかく生え変わったNEW牙が欠けまくりだし、また体に穴開けられちまってるんだけど。

 俺、放出系ってやっぱりきらーい。相手が雑魚だったとしても一点に全ぶっぱされると受け止めきれないし、彫刻クラスにもなると当たり所が悪いと即死しそうだし。

 それに俺の()が大き過ぎて放出系な相手に有利を与え過ぎているくさいのが、クソ。

 

『サンナンボーノ ハンコウキ キタラ オマエ ボコサレテソ』

「フッ……それは頼もしい限りだな」

 

 さっきまでヤムチャしてやがったくせに、彫刻がもう立ち上がりやがった。

 ん? これはおかわりするってことだな?

 

「期待しておるようじゃが、ワシらは明日からまた仕事じゃ」

 

 んだよ。

 

「おぬし、たまにはワシらを手伝わんか?」

『ンー? オケ』

 

 さすがに少しでもアトに新居代を渡さないと拙い。

 それによく見れば彫刻よりスルメの方がダメージ残ってそうで心配。

 俺が不在の現場で勝手に死なれてさくっと火葬されても困るし。

 

 ᴥ

 

 くっそ長い移動を終える頃には肉体は回復しきったし、そのままスルメと彫刻に加えて執事陣らと現場へ。

 暗殺対象は流星街とやらから外に出てきて、復讐? 仕事? を終えた後も延々と暴れまわっている老人だそうな。

 肉体はボロボロで念能力者としての技量はそこそこくらいらしいけど、流星街の上がその老人ただ一人に手をこまねいているそうな。

 

 老人に近づく者をオートで殺しに来る【発】が厄介過ぎるから。

 

「なるほどな……これは、厄介な相手だ。一定の範囲内に入ると発動するのか」

 

 事前事後の処理を担当する執事らは待機させ、スルメと彫刻、んで俺が徒歩にて老人が寝床にしているっていう人里離れた場所にある廃屋に近付くにつれ、彫刻の足運びが覚束なくなってきた。

 なんでも害意やら殺意を持つ相手に滅法強いその老人は、かなりの数の追手を今まで完封しているそうな。

 

「シルバよ、殺意はそのまま持っておれよ。殺意を持ったまま、それをただの呼吸と同じ深度まで沈めい。飯を食うように殺し、排泄するように命を奪う。感情の起伏をゼロにせい。ワシらはただの現象になるんじゃ」

 

 スルメがまたしても父親面を見せようと偉そうなこと言ってるけどさぁ……。

 お前も目ェ充血させて血涙零さないようにやや顔を上に向け歩いてんじゃん。

 しっかし、対象まで距離が結構あるってのに彫刻やスルメをここまで苦しめるってことは相当に強力な【発】なんだろう。

 

『オレガ ヤッテ コヨッカ?』

 

 俺も主に内臓にダメージを受けてるっぽいけど、この程度ならまだまだ動けるし飯も喰える。

 外傷より内部へのダメージの方が後回しにしやすいし。

 

「ふんっ。おぬしはあくまでも手伝いじゃ」

『ブー』

 

 まあ、どちらかがぶっ倒れたら丸呑みして一時撤退してやりゃあいいか。

 

「親父」

「うむ──ここらが頃合いか。ワシに合わせろ」

「ああ」

 

 俺の音速の屁がギリギリ射程に入った頃、スルメと彫刻が歩みを止める。

 もう二人ともやせ我慢が効かないくらい、体中から汗に血を噴き出しているが、意識はしっかりしているっぽいし、オーラに淀みが一切ないどころかキレッキレでつるっつるだ。

 

 スルメがドラゴン──俺に向けてくるものよりかなり細い──をぶっぱするのに合わせて、彫刻がオーラを凝縮させて絞った線を対象へとまっすぐに伸ばす。

 やや彫刻のオーラに揺らぎが生じたが、スルメがぶっぱしたドラゴンが廃屋を貫き、対象をぐちゃぐちゃにした。

 たぶん直接の死因は彫刻のオーラの線によって対象の脳天が貫かれた方だろう。

 

 対象の死亡を一応肉眼で確認すべく廃屋に向かえば、ぐちゃぐちゃになった対象の手には、いまだに禍々しいオーラを放つボロボロになったノートが。

 ノートの中を検分したところ、老人がV5だかに抱いていた恨み──ほとんどは実験体の時に受けたものが原因っぽい──が記載されていて、このノートが【発】の触媒になっていたっていう予想をスルメがした。

 

「おぬしはどう見る? 同情するか?」

『ダレニ?』

「……愚問じゃったな」

 

 つーか今日はこの後、呑み行こうぜー。

 イルミとかミルキの手伝いだと呑みに行けないし、お前らなら奢ってくれるだろし!

 

『ノミイコー』

「この後、ワシらは依頼人に直接報告せんといかん」

『ハー? ジャア ソノアト ノミイコー』

「良かろう……」

 

 酔えないし、手伝いもまったくしてないけど、呑みに行くと仕事した感があるから好き。

 

 ᴥ

 

 おかしい。FXで再び溶かした分を取り戻すべくシムケンと再戦したらワンパン──己の差し手を鼻の穴を膨らませて語るシムケンによると厳密にはツーパンらしい──された。

 あの具現化された観音からして物理的なダメージってより精神の方を削ってるぽいから、心へのダイレクトアタックがメインな気がする。

 

 だって戦闘中に意識を刈り取られたのって甘栗(マハ)と遭遇した時のはノーカンとするなら、初めての経験だし。

 

 俺も再戦が決まってからは禁酒、禁ゲーして牙を研いでいたってのに、これはおかしい。

 相手は下り坂シリーズのジジイである。あいつが力を少し取り戻すよりも成長期ど真ん中の俺の方が成長率では遥か高みを行くはず。

 

 マジで無理。こっちではランクマで負け続きなんて経験してなかったから忘れてたけど、負け続きでランクマ終わらせて寝るとか出来なかったヒトであった頃の記憶が蘇ってくる。

 だから、そろそろグリードアイランドへと言ってくるイルミやミルキの提案を蹴ってまで、みっちり牙を研いで伸ばすために季節をいくつか跨ぐほど準備をした。

 

 再々戦したらまたワンパンされた。おかしい。

 

 新たに作った【発】を出す暇もない。仕合が始った途端、気付けば慈愛に包まれるのと同時、無慈悲なオーラの奔流に飲み込まれる状態なのって防ぎようがなくない?

 悔しいからファイトマネーなんていらねえから毎日やろうってお願いしようにも、シムケンは毎度衰弱が酷くて連戦が不可だし……犬コスのヒトメスやら動物コスしたヒトどもが殺意まで込めた嫉妬の目を俺に向けてくる始末。

 つーか俺が毎回シムケンにオーラ注ぎ込まなきゃこいつ死ぬっぽいんですけど! クソが!

 サンドバッグ兼救急箱じゃねえんだよ、俺は! あといっつもニヤニヤ笑ってる唯一まともな服装の野郎は、露骨に金で誘惑して首輪を嵌めてこようとすんじゃねえよ、俺にはもう甘栗の首輪が嵌ってんの! 金だけよこせ!

 

 んで、その後はもうシムケンは勘と肉体、練り具合を取り戻したからなのか、観音チョップやら観音グーパンで俺を効率よくボコして意識を刈り取ってくるようにまでなった。

 連戦も可能になって、1日に何度もボコされるほどで……おかしい。

 もうなりふり構っていられなくなってアトえもんに助けを求めてしまおうかと頭に過るほど。

 でも俺はのび太にはならねえ! あやとりが得意で寝るのも早いし宿題もしないけど、違うし!

 

 だからいくつ季節を跨いでも闘志に薪をくべ続けて頑張った。

 結果、新たに作った【発】から繋ぐ必殺のミケポークのコンボを極めることで、シムケンの意識を刈り取ることが出来るようになった──が、初手慈愛と無慈悲を出されると確定で負ける。

 つーか初手全力ぶっぱの後、若干シムケンの衰弱がマシになってきているっぽくて、俺ってガチでサンドバッグにされているくさい。

 

 許せない。

 

 柄にもなく食事に気を遣って筋トレを続けているが届かない。

 甘栗にスルメに彫刻、イルミにまで頼み込んで、最低でも二人以上を相手にすることで朝から晩までボコされる日々を続けに続けて、何度も何度もひたすらに牙を折り続けた。

 

 それでも届かない。まったく。

 

 合間合間に甘栗に遊んでもらうことによって慰めてもらって、アトに新築してもらった犬小屋であやとりしたり、凧揚げしたり、アトの触手と俺の毛を駆使してコマを回してぶつけ合って遊んだり、そこに滅茶くそに怖いアトの母親(サキ)──挨拶が遅くなったことをいまだにチクチクされる──と、フォルムがイカすハチ形態なアトの祖母を招いてワイワイするのは癒しにはなるが、足りない。シンプルにとても悔しい。

 

 そもそも俺の方が断然に強いはずなのに。

 

 敗北続きだったからだろう。心が弱くなっていたのかもしれない。

 だから俺は初めておねしょをした。

 それをババア(ツボネ)に見られた。

 

 乗り物の分際でそれ以来俺のことをミケちゃん呼びするようになったババアが教鞭を振う執事用の学校にウンコしてやった。

 でも甘栗がちょっと怒っていたのでちゃんと謝った。

 

 ᴥ

 

 ゾルディック家でヒモとなって、かれこれ──結構、だいぶ、経つ。

 アトの母親が向けてくるプレッシャーが怖いってのは断じて関係ないが、いい加減に結婚をってな気持ちが日に日に増している今日この頃。

 でも、いまだに【発】って発れずにいるのでまだ時間は掛かりそうである。

 アトは元の気質もあるだろうけど、種自体が長命であるらしいし急かしてくるようなことはないが……。

 

 さておき、俺の周りには相応に変化があって、去年? 一昨年くらいに誕生したカルトと名付けられた第五子は歩けるようになると外に出てくるようになったが、ぽけっとポイントがイルミにかなり似ていて期待できる。

 第四子は……まあ、あれを飼ってるなら隔離されてもしゃーなしだけど、アトが妙にアルカ? ナニカ? たぶんどっちにも興味を示していて、初めてゾルディック家に訪問したいと言い出すほどだった。

 

 訪問したアトにケミカル(キキョウ)がすんごい執着を見せて、アトも最初その押しの強さに圧倒れていたけど、滞在中にいつの間にやらアトまでごついゴーグルを付けていて笑った。

 代わりなのかケミカルの頭からイミテーションの触手がうにょうにょしとるし、二人の間に何があったのか謎過ぎるメデューサ。

 

「あ、ミケいた」

 

 おー、まだ4、5歳だってのに三男坊(キルア)がチンパンみたいに木の枝を伝ってやってきやがった。

 

『オマエ マタ サボッテンノ?』

 

 うむうむ。よし、今日も短パンスタイルで膝小僧をしっかり出しているな。

 

「うん。つまんないし」

 

 こいつに課されているメニューの詳細は知らないけど、おそらく座学の類のことを言っているわけじゃないだろう。

 キルアちゃんは座学も得意なのよとかケミカルが自慢しとったし。

 

『ソノツマンネー コト フツーハ デキネーンダゾ』

「でもつまんない」

『オレモ ミケミタイニ ダラダラシタイ トカ オモッテンダロ?』

 

 俺も学生の頃、朝からぬっくぬくと寝ていた飼い犬になりたいって思ったもんだ。

 でも今のこの俺のぬっくぬくポジは相応の努力で……だぞ。

 

「そう。どうしてわかったの?」

『オレモ オメーミタイニ チヤホヤ サレテーシ』

 

 ぬっくぬくもいいけど、チヤホヤもされたい。

 甘栗は除外するにしても、こいつ然り、シムケン然り、短パン属への嫉妬を俺も当たり前に持ってしまう。

 

「……じゃあ、かわる?」

『カワレルナラ カワルー』

 

 それにこいつの立場ってぶっちゃけイージーモードだしなぁ。

 仕事の都合上、そりゃあ死が隣り合わせだっていってもこいつ自体が将来は甘栗クラスになることがほぼ確してるし──具現化系とかいうハズレを引かなきゃだが。

 つっても仮に具現化系引いたら引いたで、イルミみたいなのを専用サポにすりゃ無双できるしなぁ。

 

「キル」

 

 近付いてきていたのはニオイでだいぶ前から察知していたが、三男坊にはイルミの気配は掴めなかった模様で、肩をビクつかせている。

 

「ッ! に、兄さん?」

「まだ途中だろ。戻るよ」

「……やだ。ミケとあそぶ」

 

 遊ぶつってもなぁ。こいつって念ってか練ったオーラを当てられない縛りあっからなぁ。

 よく遊ぶポチはもう面倒だから強引に精孔開いて、俺がワンワン語を使用して全力でサポってどうにかしてやったが、こいつはまだ開くなっていう縛りの方だから面倒がすごいし、あと──。

 

『オマエ スグナクシ ヤダー』

 

 泣かれるのだりー。

 

「泣かないからあそんでよ!」

『イルミー』

「ナニ?」

『ハヨ ツレテケ』

 

 三男坊が目に涙を浮かべて、泣くもんかと頑張っている。

 でも知ってたか? 俺は畜生だぞ、お前の大好きなパパくらいにな。

 格ゲーでコンボのひとつでも出せるようになってから出直しな。

 

 ᴥ

 

 グリードアイランドより戻ってから、折を見てはミルキの尻を叩く目的で奴の足を俺とイルミで無言で凝視してやった。

 ダブル凝視の効果があったからか、俺と一緒に夢小説やそこから派生する形で女向けの創作の世界の沼にどっぷり浸かっていたっていうのに、ミルキは【不思議の国のミルキ(ワンダーランド)】とかいう【発】をしっかり組み上げたし、肉体と念の鍛錬をサボるようなことは──たまにしかなかった。

 でも良作を掘り出してくるので黙認してやったし、隠蔽にも協力してやった。

 あいつは今や生粋の熟練スコッパーだし、奴の紹介サイトはその手の界隈ではかなり有名だ。

 ちなみに俺も定期的に巡回して刺さった作品があるたび、感謝を伝えるべくコメントしている一頭だったりする。

 

 あとフォルムは依然として丸っこい。

 加えて背が伸びたのもあって今や課長ミルキ感が更に増していて、通勤ラッシュ時の電車に乗っていても違和感がゼロで──いまだにやや遅ェ!

 まあ、オタクな長文詠唱に加えて夢女子な高速詠唱も修めているので良しとするが。

 

「オレ、もう足引っ張んねえから」

『オレトノ サ ヒライテンジャン』

 

 努力は認めるけど、才能、ってよりスケールの違いは残酷だったりする。

 

「オマエさぁ……種の違いってもんを少しは考えろよ?」

『フハハハハ フハッ』

 

 意味はないけど記憶に残る一番むかつく笑い方をしつつ、棹立ちとなって腕組みしてミルキを見下す。

 

「そろそろ行くよ」

『ハイッ』

 

 グリードアイランドにおいてはスポンサー様であらせられるイルミ様には、最初だけでも逆らってはいけないので、返事はすぐにしないといけない。

 

 ちなみに今回は前回のプレイで知り得たことや、ミルキがこっちで調べたことやらを踏まえた上で早期クリア狙いだ。

 マルチタップを使えばあと4人プレイできるので増員できるのも大きい。

 まあ、俺らが普通にゲームから戻ってきたことをどこかから聞いたグリードアイランドの元持ち主の王族だかが、自分の部下を差し込んで来ようとしたらしいけど、スポンサー様のイルミ様はこれを華麗に拒否されたので身内で固めることができる。さすイ様。

 

 んで、肝心の増員メンバーはお馴染みのメガネ執事とその部下で、全員ゲームやパチンコ、スロット等を嗜む……な執事で固めている。

 

 よっし、野郎どもー、今回こそクリアすんぞー!

 ほれ、メガネをはじめとする執事どもは部屋の隅で立ってないでこっちへ来い。

 全員で気合い入れるために俺の周りで円陣を組め。そうだ、肩を組むんだよ。早くしなさい。今から俺らは仲間だろ。ミルキやメガネにビビッてんじゃねえよ。

 

 え? ああ、イルミ様もやるの?

 

 ナチュラルに混ざってくるのはいいけど、肩組まれたミルキとメガネの顔が引き攣ってるんですが。

 まあ、いっか。今からあっちに行くから既に【シュリンクフレーション(カントリーマアム)】で縮んでいるとはいえ、俺も肩組むのはだるいし円陣の中心で掛け声出してやろう。

 

『オマンラー? イイカー? イクゾー? ゾルディックー ファイ オー!』

「……ォー」

 

 イルミ様以外、無言なのやめてね?

 

 

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