走狗 作:カストロ
「
チュートリアル空間にて、来訪を歓迎するNPCに扮したヒトメスを視認した途端、ヒゲがビーンとなり、次に鼻がピコピコする。
ふーん……もうちょい近寄って──ヒトメスが操作する端末やらが付随するフリーザ様専用の卵型移動用ビークルみてーなフォルムの使い勝手が悪そうなデスクみてえなのに前脚を掛けてっと。よし、かぶり付きで確認してやろう。ふむふむ。なるほどな。
「……あなたはミケ様ですね? ゲームの説明を聞きますか?」
『ホーホー』
「ミケ様……? ゲームの説明を聞きますか?」
『アイー ヨロー』
それは聞いておくべき。
ちくしょう、奥の方を嗅ごうにもオーラの膜や香水が邪魔だな。
「それではご説明致しますね。このゲームではミケ様が今されている指輪をはめていれば2つの魔法、『ブック』と『ゲイン』が使えます」
『アッ ユビワ コワレナイ?』
「はい。ミケ様には以前ご不便をお掛けしましたが、前回のプレイ中に修正された指輪を既にミケ様は装備されておりますので、ご心配には及びません」
今回は最初から【
「続いて……
『ウン カイデルカラ ツヅケテ』
それにしてもこいつ……前回は上手く隠してたってわけね。
でも悪いね。今の俺は騙されないから。
ᴥ
「オマエ、ナニしてたの?」
『カギナガラ セツメー キキナオシテタ』
「嗅ぎながら? よくわからないけど忘れたの?」
『ウン』
でも覚えてることもあるし。
初期リスを監視するのがここのプレイヤーの嗜みなんだろ?
懐かしいぜー、初狩りのニオイがするねぇ、あほめー、初狩りなんてしてたらいつの間にか得意分野ですらボコされんだぞ。
俺は詳しいんだ……結び目理論やら位相幾何学とかいうもんを駆使されると、もうあやとり初心者のアトの婆さんにしか勝てねえんだ。
『アノメス ヤッパウマソー』
「オマエがそう言うってことはそれなりの使い手なんだろうけど、アレってそこそこじゃない?」
『ウンニャ アノメス カナリヤル』
グリードアイランドへと再び来るまでの間に
NPCに扮したあのメスって体の奥底にジジイどもや
なので必然的にそこそこじゃない。若作りしているババアは強者って相場が決まってる。たぶん。
そうなると、ニオイが似ていたあの港でグリードアイランドからの脱出の案内を務めていた方も孫とか娘かもしれないが、ババア説が浮上してくるわけで、どうしてもダブルババアを期待してしまう。
そもそも、奴らはただのチュートリアルや案内担当なわけないだろうし。
おそらくこのグリードアイランドへの出入りそのものを管理していて、あの洗練されまくりのワザマエ──複数人で協力して実行していたとしてもオーラのニオイ的に奴が最低でも直接の行使者──かつ、よく考えたら現実離れした【発】を持つ念能力者はあいつらで、そうなると若輩のはずもなし。
「ミケか? それとも兄貴か? あのチュートリアルの女に何かしたか? すげー怒ってやがったぞ」
「ミケ」
『ヘッヘッヘ』
最後の方は表情の一切を消して能面みたいな面してたし、ゲージ溜まってたんだろうなぁ。
「ほら」
でもさすがにプレイヤーの出入り以外にリソース割けないだろうし、ボスとして登場するとかはしないだろうから、機会そのものが無さそう。
「っぱオマエかよ」
『ソウダヨ! ワルイ!? イージャン!』
つーか久しぶりにこいつらと遊ぶってのもあってテンション上がるー。わーい。
「無駄にテンション高ェな──待て、オマエ何がしてえんだ! やめッ! オイ! あ、兄貴ッ!」
『ソーレ ソーレ ワーイ ワーイ』
とりあえずミルキを転がしておく。
そういえば、この野郎は塊ソウルどころかスポーツ魂まで忘れやがってからに!
後続を待っている間にいっぱい転がしてやるからな。
「お待たせ致しました──イ、イルミ様、これはどういう状況でしょうか?」
「ミケがまたバカしてるだけ」
うーむ、ミルキ転がしてたら泥団子作りたくなってきちゃった。
このお団子の元は、凹凸が多すぎるし綺麗に作れそうにないなぁ。
「承知致しました……それとこの不埒な視線は、どう致しますか?」
「ミケ」
『ナンスカ?』
まだ転がせるんですけど。
「兄貴……。ゴトー、とりあえずこの見て来てる雑魚は基本無視でいい。もし絡んで来たらミケがアレで誘導してくれ。んで
『ウン ショガリハナー』
「承知致しました。では当初の予定どおりでございますね?」
「ああ、積極的にプレイヤーを物理で狩ってくとまたミケがうるせーし、何も無けりゃあまずはアントキバであの早食いクエやって金稼いでマサドラを目指す。んで
そんなこんなで残りのメンバーたる
出てくる3人は一様に初狩りの視線を気にしているようだけど、メガネが都度メガネを光らせるたびにキュッと引き締まって直立不動状態で動かなくなる。大変そー。
和ますためにもメガネのメガネを土で汚れた肉球で直接触ってやっておく。
ᴥ
初期リスを監視していたっぽい初狩りの一部が結構な距離まで俺らに接近してきたけど、こちらを視認した瞬間──初期リスでまた拾い集めた石ころやらしか入っていない
そんなこんなでアントキバに到着。お馴染みのあのネコみてーな店主NPCがいるイタリアンへ。
早食いに成功すると1枚3万ジェニーする高級魚のガルガイダーを貰える上に飯代が浮くので初心者や復帰勢御用達なのかと思いきや、今回もプレイヤーは店内に見当たらなかった。
くそう。普通の出会い方して他のプレイヤーと話してみたかったのに。
さておき、相変わらずクエストの再受注に待ちが発生するままだし、地味に時間が掛かる。
メガネの部下ら3人も大食いに精を出す横で、優雅に無料の水を口にしながら駄弁る3人の話を作業用BGMにしつつパスタを機械的に流し込む。
「──聖騎士の首飾りの効果は身につけると呪いをはね返すんだ。フレーバーを信じるなら触れたものの呪いも解くみてーだし、あと常に
「はい。作成していただいた資料のすべてを頭に入れております」
「
ミルキに視線で指名されたメガネの部下であるポニテの優男が席を立つ。
ククルーマウンテンでの出で立ち同様、きっちりとした執事服に身を包んでいるが口元がミートソースだらけで台無しである。
「お答えします。
おおー、淀みなく詠唱しよった。お行儀が悪いけど拍手しておこ。
「うん。で、前回金余ってたからショップでAまでの指定ポケットカードの情報はすべて聞き出してっから、こっちも確定情報な。聖騎士の首飾りのランクはD。指定ポケットカードで唯一ランクがB以下でカード化限度枚数は60枚。俺らの誰かにBランクのモンスターカードでも持たせて、
なんて? イルミの詠唱は何度も聞いているけど頭に入らないもんは入らない。
『モッカイ セツメイ ヨロ』
「……ゴトー、ミケに説明してやれ」
「承知致しました。ではまず──」
ほうほう。ふんふん。もっかい。
オケ、大体わかった。一応もっかい。
「──以上となります」
『ウン …… デモヨー モー カードカ ゲンドマイスー ジャネーノ』
「どうだろうな。仮にそうだったとしても、どの道オレらは指定ポケットカードを集めつつ、他の奴らのカードを消していくから。だからこのコンボは腐らねえよ」
ふーん。
『ダッテサ イルミ』
「オレはわかってるよ。イマイチわかってないのはオマエだろ」
『ソウダヨ! カード オモレーケド ヤヤコシーンダヨ!』
薄々、俺ってこのグリードアイランドへの適性が低いって自覚はあったよ?
横になって
つーか前回も今回も資金面で開幕ダッシュできてるの、俺のおかげだし!
「問題はオレが考えてるハメが運営にすぐに対策されたり、カード以外の部分の仕様を変更されるってことだな」
ここは俺が必ず大活躍できるであろうMMORPGっぽい世界観でもあるから、特定の個人やグループが仕様を悪用しだすと必ず叩いてくるだろう。
『アルアル スギテ ワラエネー』
「ああ、だが対策が間に合わねえくらいクリアまで一気に進めればいい」
早期クリアを目指す上での手順やらを考えるのは丸投げするつもりだけど、待機時間もそれなりにあるだろうし、今回も電子機器の持ち込みができなかったからアレが欲しくなる。
『カイトハ? イタラ サソウケイ?』
「そこは兄貴次第? 報酬の取り分にも関わってくるしな。でもまあ、あいつなら下手に欲かいてこねえだろうけどな」
ミルキとともにイルミをじっと見る。
「オレは別にどっちでもいいよ。ミルキが必要だって思うなら誘いなよ」
「オッケー。どうせS以上の指定ポケットカード関連で頭数が条件になってるようなレイド系があるだろうしな」
『レイドボス イタラ ソロデ ヤラセロ』
「レイドボス? それって強いの?」
そりゃあ強いでしょうよ。運営が直接出張ってくるって予想が的中すればだけど。
『オマエハ ヤメトケナ?』
「ハ?」
「喧嘩すんなって。何回も挑戦できそうなら、まずは二人で様子見も兼ねて挑めばいいだろ」
『オケ イルミクン マモッテ ヤルカラナ』
イルミもまだ10代だからぐんぐん伸びてるとはいえ、俺との残酷なまでのスケール差はあるしなぁ。
プレイヤー相手には無双できるとは思うけど、あのチュートリアルババアにはまだまだ叶わないだろうし、あのクラスが出張ってくると念の相性にもよるだろうけど順当にいけばボコされるはず。
「オマエ、また調子に乗ってるね」
『ゴメーン イルミトモ サー デキチャッテ』
「……」
今日は徹夜だな。
スケール差から実力はしっかり開いてるはずなのに、いまだに寝込みをしっかり襲われるのマジで謎。
ᴥ
ガルガイダーを最寄りのショップで換金した後は、初日ってこともあるし仕様の変更の有無やらを確認をしたいらしく、マサドラへはすぐに向かわずにアントキバの宿で一泊することに。
皆とは別れて部屋でぐでーんとして眠気と戦っていたら、イルミが俺のほぼ俺だけで占められている部屋に訪問してきたので、【
『
イルミが俺ら──甘栗も聞き取れる模様──以外にはカタカタとしか聞こえないオーラボイスで告げてくる。
『…… オン ダローナ』
最近になってイルミの頭ん中に隠された針の存在──正確にはニオイ──には気付いていた。
まあ、ついついそこを見てしまうから視線や鼻を向けられたイルミも俺に針の存在が知られたことに気付いたんだろう。
『
『ウイー』
早い者勝ちの操作系のルール対策なんだろうけど、さすがに針にどんな指示を持たせているのかは教えてくれない模様。てかそそくさと部屋から出ていきよった。
ま、針ぶっ刺すだけで生殺与奪も含めて操れるって【発】はぶっ飛んだ性能だから、制約と誓約は重いものなんだろうし、自分を操ることで不利や欠如を伴うような指示を課すようなのも前提条件だったりするのかもしれない。
あー、甘露化する理由もそこらへんにあんのかもなぁ。
ᴥ
翌日は朝からメロンを欲するミルキのわがままを聞き入れようとしたメガネらをお座りさせて、ミルキに飯を詰め込んでアントキバを立つ。
町を出てからは【
さすがにミルキはもう吐かないし、泣かないが、執事陣らを考慮して全力は出せない。
ただ昨夜はイルミの夜襲を常に警戒して寝れなかったので、何度も居眠り運転を発動して樹々を何回もへし折ったし搭乗者を何回か落っことした。
ま、岩石地帯へはすぐ到着したからワース。ねみ。
「ここにモンスターが……なるほど、あの遠目に見えるのが一つ目巨人ですね」
「おう、ランクGの雑魚だし、いちいち武器とか【発】使ったりすんなよ」
「承知致しました──お前達もそのようにしろ」
「問題はD以上くらいからだな。たぶんソロでも──」
ミルキの周りで執事らがモンスターへの具体的な対処法やらを話し合い始めた。
俺に搭乗しての移動中はお喋りができなかったっぽいし、しゃーないが。
『プレイヤー ナンニンカ イルナ』
「ウン。接触したいの?」
『カリバ ジャ オタガイスルー アンテー』
基本はこっちから近付くようなことはせず、あちらから近付いてきた時だけ対応。
ミルキやメガネら執事陣が他のプレイヤーの方に行かないよう、イルミがきっちり先導してやれよ。
俺は【
「……わかった」
『オヤスー』
すぐに眠りに落ちる。あー、しんどかった。
んでもってイルミの腕の中で目を覚ましたらまだ岩石地帯に居るようで、ミルキやメガネら執事陣がモンスターとポコポコやり合っていた。
途中、Bランクのモンスター『ロックワーム』と遭遇できたらしい。ミルキが挑戦して泥仕合になったそうだが、なんとか単独で打倒したそうな。
まあ、あいつも対人に特化した【発】しかないからしゃーないけど、操作系って素の状態だと相変わらず決定力に欠けるハズレ系統だわ。
あと、話によるとCランクの宙に浮くクラゲのパスタみたいのやその他Dランクのモンスターまでは、メガネの部下の執事らも単独でギリ倒せたらしい。
起きた後もイルミに抱えられたまま諸々の話を聞きつつ、ミルキを筆頭にモンスターを狩る姿を岩山の上より眺める。
イルミよ、もうちょい右だ、そう、そっち。そこで固定しろ。
ふむふむ、メガネの部下の戦う姿を初めて見るが、優男のポニーはタンクっぽい動きだし強化系か? んでショートかセカンド守ってそうな堅実な顔した小柄なヤクルトは、オーラを液体にしとるし変化か? 寝技が得意そうな面と体格のゲラは遠隔からチクチクしとるし放出だな。
一応、仲間の戦う姿はこの目で見ることができた。ねみ。
『モッカイ ネル』
「ウン」
そんなこんなで、岩石地帯では夜になるまでミルキ達がモンスターを狩り、十分に寝てスッキリした俺に全員を搭乗させてマサドラへ。
マサドラに到着後はまた【
カード売ってませんでしたー。
体はしっかり覚えていたようで、ショップより出るとウンコがしたくなってきた。
己の肉体が求める衝動に逆らわずにその場で踏ん張ろうとすると、イルミに持ち上げられて、待ったを掛けられる。
『コノママ スルゾ』
「するな」
『……』
黙りこくった俺を正面から睨みつけてくるイルミ。
両脇に手を差し込まれて持ち上げられている俺の下にて、メガネがハンカチを取り出し地面に広げている。
『メガネニ メンジテ ガマン シテヤル』
「……」
「寛大な心遣いに感謝致します。ミケ様」
大儀である。お前にはこのあとハンカチをたくさん買ってやろう。
ああ、ついでにミルキにもセカンドバッグを再装備させよう。
ᴥ
俺のお買い物要求が認められ、マサドラにて必要なものを求めて買い出しへ。
でも執事のヤクルト、ポニーの両名は
ああ、あと少し離れた位置に両名が強制的に排除されることを考慮し、連絡要員としてゲラを配置するそうな。
ハンカチは仕入れた。ミルキの体の成長に合わせた二代目セカンドバッグも入手したし、例の65万ジェニーもするお高い地図を購入して丸めて放り込ませておいた。うむ、やっぱり似合う。
そのまま何もしないのも時間の無駄だしってんで、マサドラ内で美味しいクエストやら指定ポケットカードの入手に繋がる情報を仕入れる前に──昨日メロンメロンと煩かったミルキの要望を叶えるべくレストランにてスイカを詰め込みつつ夕食を摂っていると、声を掛けられた。
ふん! 前回のようにいつもどおりにオーラを【纏】っているとプレイヤーとの交流ができないって気付いてますから。
今回は町中ではイルミも俺もわりと雑にオーラを【纏】うようにしている効果が早速出たようでちょっと嬉しい。
たぶん、この中ではミルキかメガネがパッと見では一番ヤバそうに見えているはずである。
「見ない顏だが、初心者ではなさそうだ。どうだ、調子のほどは?」
ほう。最初から店内に居たからお互いの存在にはさすがに気付いていたが、至近にて見ると……ふむふむ。
言うまでもなくプレイヤーだが、単独でマサドラをうろつく奴ってのは案外少ないし、相応のオーラを【纏】っているから腕には自信があるんだろう。
「そっちこそ、どうなの?」
「ハハ。まあ、ぼちぼちってところだな」
喋るのはいいけどミルキは追加のスイカをもっとお食べ。ほら、メロンみたいなもんだろ。
「ハモッ──うか? 指定……ミケ、今はやめてくれ」
イルミを見る。ぽけっとしている。ゴーだな。
「だから! やめモッ!」
「プハッ! えらく仲が良いんだな。それに随分と器用だし、ちゃんと指輪もしているのか……少し撫でてみても──」
少々強引な流れで手を伸ばしてくる男に向けて告げる。
『コロスゾ テメエ』
こんの野郎、撫でる前にまずはその血が落ちきっていない手を洗ってこんかい。
「動こうとしたら殺す。念を使おうとしても殺す」
謎にガンギマリのイルミが既にこんの野郎──アゴメガネの背後を取っており、首筋に筒を添えている。
つーか、丁度手にしていたからってそのまま筒──ストローを使う気かよ。それで甘露になるんか?
ひょっとして、もう針以外でも大丈夫になったとか? いや、あれって針がトリガーだろうし……でもずっと前に毛ヒトとミルキの
「あ、ああ……わかった」
あ、針に持ち替えた。
スピード重視しただけかよ。