走狗 作:カストロ
俺のオーラがしゅんでいる毛は、換毛期の間に執事らにお願いして保存していたけど、一部を
用途を聞いても教えてくれなかったが、少しなら好きにすればいい。小遣いくれたし。
ああ、それと調整も兼ねて仕事に向かう
甘栗の所感としては俺本体の方が乗り心地が良く、オーラの塊がゆえに毛ヒトの存在が目立ち過ぎる上に壊れやすいので面倒とのこと。
んでもまあ、
『ソレヲ ノセル ト …… オマエ マジ?』
「ドールと迷ったんだけどさ。やっぱこれには思い入れあるし、ずっと使ってっから操りやすいんだよ」
『ソウ ナンスネ』
丸っこいのを毛ヒトに乗せるのは辞め、代わりにモノを操作してライドオンさせるという発想を伝え、練らせ、試させた結果──提出してきたモノは、ローションである。
主成分のほとんどが水で、その他には増粘剤や保湿、防腐剤等々で出来ている、そう。
ヒトであった頃に俺も何度も手にしているので馴染みはあるが、まだ10歳くらいのこのガキがローションを愛用している事実に……関心。将来性抜群である。
『ンジャ ノセロ』
「おっけ」
やや湾曲した筒状のローションの容器の蓋を指で弾いて開け放つ丸っこいの。
無駄にスタイリッシュで──こいつ、言うだけあって使い慣れてやがる。
触れたわけではないので正確なところは不明だけど、見た感じ粘性は高めのローションがどろっと出てきて、地に落ちきる寸前──芯が入ったようにビーンっとなる。
先端部がヘビの頭のように首を上げ、とぐろを巻くかと思いきや、中空にふよふよ浮きつつ己の尻尾を喰らいウロボロスのようになって──ワァ! スライムだぁ! ぽよぽよしてる!
『カッケー』
「だろ?」
あらかじめ開けた場所にて待機状態にしてある毛ヒトに、丸っこいのが操るローションスライムがふよふよと浮かびつつ移動して、毛ヒトの頭部にライドオンする。ぬちょ。完璧だ。
『ジャア ウゴ──』
「──待てよ。この毛むくじゃらの名前は?」
『ケヒト』
「フーン、そのままか。俺のはポーンっつーんだ。っとそれじゃ走ってみてくれよ」
丸っこいのはチートな畜生耳も鼻も持ち合わせていないので、【円】を発動しつつポーンを操る模様で……練習風景を覗き見た俺もこのやり方を真似るようにしている。
耳鼻に目にヒゲに頼る方が良い面もあるけど、それって己の肉体を動かすこと前提な所が大きいし、何より【円】はラジコンとの親和性が高い。
決して10歳やそこらのガキに円の大きさも感度も負けている事実を知って、あわてて【円】の使用頻度を上げているという理由ではない。
そもそも丸っこいのの【円】が大きいのは働きたくないでござるの上位互換版の動きたくないでござるが根底にあるので、日頃から最小限のオーラの操作でアレコレと欲求を満たしているのが大きいからこそだ。
だからこそ、こいつが階段を使うようになったのは快挙。弱体化したまである。
『ドウ?』
「思ったほどオマエのオーラが邪魔になんねぇ。これならイケる。このまま適当な木の近く走ってくれ──試す」
『リョ』
毛ヒトの頭部を模した部分を丸々飲み込むような形で鎮座するポーン。
樹々の間を走り抜けた瞬間、ポーンのボディから小さな塊が射出されて樹々に穴を穿ち、次にボディを変形させて刃状となり樹々を切り裂いていく。
そのまま走っていると今度は頭部にあったポーンが薄く伸び始め、毛ヒトの全身をコーティングしていく。
「木にそのまま体当たりしてくれ」
『ウイー』
自重が小さな毛ヒトが結構な速さで木に体当たりしても、ほとんどダメージが通らないし、衝撃もそれほど生まれない。
ポーンも元はローションだし、結局はほぼ水だしで質量はそうでもないので木に体当たりしたところでテシッってな音しか鳴らず──燃えた。
「お! 上手くいった!」
『ソウナン?』
木のみならず毛ヒトもポーンも燃えていて、その……すごくクサイです。
これはこれでアリなのか? でも仮想敵がイルミだってこと、お前知ってるよね? あいつってあくタイプだから炎は弱点じゃなくね?
ᴥ
コンビネーションについてはあまり問題視していなかった。
俺と丸っこいのは数多くの対戦型のネトゲーでぶいぶい言わせるランカー様かつ害悪コンビでもあるので、お互いにやりたいことってのが何となくわかる。
とはいえ現実とゲームとじゃ違いが多いので、毛ヒトとポーンをドッキングさせて四六時中動き回らせる期間を設けたところ──二人してはまった。
何をやっても楽しくて、道具を使わずに協力して穴を掘ったり埋めたり、土でお城を作ったり乳房の大きい少女の塊を作ったり、建築作業を手伝ったり、不法侵入者の相手をしたりと動き回った。
中でも
「……またやるの? ミルキのそれが増えたところで結果は同じだろ。大人しくオマエが操られなよ」
果たし状というものを始めて書き、送った。
あて先は当然、目の前に立つイルミである。
仕合う場はククルーマウンテでも指折りの景観を誇る湖のほとりの野花が咲き誇る場所──からちょい離れた材木置き場。俺も丸っこいのも採石場を望んだが、ここにはないので妥協した形となる。
『コノ ロンゲ ビビッテネ?』
「イルミ兄には悪ィけど、ボコすぜ?」
俺たち害悪コンビは、どちらか一方が調子に乗るともう一方も調子に乗るというストリームが基本にある。ストッパーなんてしゃらくせぇもんを介入させないからこそ害悪でいられるし、我に返らず遊び続けられる。
「オマエ、生意気なこと言うね」
「……へっ」
丸っこいのに虚無ってる目をギロリと向けるイルミだけど、俺たち本体とはそれなりの距離が開いているので耐えられるはず。が、さっさと始めた方が良さげ。
『ゴタク ハ イイ サッサト ヤンゾ』
毛ヒトの腕を模した部位をイルミに突き出し、決める。
「スグ壊してヤるよ」
フン。ちょいキてんじゃねえかよ。バカめ、やる前から揺さぶられているような相手に俺たちは負けない──って、合図もなしに突っ込んできやがった! こんにゃろめ!
毛ヒトに向けてまっすぐ急接近してきたイルミはオーラを盛り盛りさせているので、ひとまず距離を取る! が、動きが読まれたのだろう、投擲された針が先回りされる形で置かれており──ポーンがボディーを硬化させて防ぐ。
事前の作戦どおり刺さった針をポーンが体内に取り込むのを【円】で読み取りつつ、こちらはイルミとの間合いに集中してワチャワチャと動き回る。
シンプルな直線でのスピードではやや不利。
なので変態機動を駆使しつつ、材木置き場にあるオブジェクトを利用して立体的な動きで翻弄……全然付いてくるし、投擲針のエイムが良過ぎてキモイが、良過ぎるので読みやすい。変態機動に非効率な遊びを入れて回避していく。
DbDやこちらで少しやっていた類似ゲーの経験からオブジェクト利用には一日の長があるので……うん、もう大半のパターンが読まれてるくさい。
もう少し粘れるかと思っていたが、次善策として樹々が生い茂る森へと毛ヒトを向かわせる。
すぐさま丸っこいのが機転を利かせたのだろう、ポーンがボディーのすべてを使って羽の形へと変形──はったりである。毛ヒトごと飛べるほどの出力は出せない。
が、イルミはコンマ数秒、これに警戒してくれたので森へと到達、無事樹上へと毛ヒトを移動させるのに成功。
ポーンが広げたままの羽で赤や黄に染まった葉を取り込み、毛ヒトの頭部を派手に彩って文字どおり迷彩しておく。
『アレレー? フロアマスター? マダ ノーダメ ナンデスケドー?』
毛ヒトとイルミの距離がわりと取れたので、イルミに聞こえるよう【念話】の音量バランスを最大にして煽っておく。
「……」
返答はなし。オーラの揺らぎも確認出来ず。こんにゃろめ。
感覚がバグりそうなヘンテコ歩法でゆっくりと距離を詰めてくるイルミは通常営業である。
もう逃げる必要も逃げ場もないので隣で集中してポーンを操作している丸っこいのに、息を止めることで合図を出しておく。
イルミが【纏】うオーラが溢れ、凝縮されていく。
負けじと丸っこいのが全力でポーンにオーラを送り込む。
毛ヒトは形を維持するギリギリのオーラで放置。
本体の尻尾で丸っこいのに触れ、オーラを盛り盛り注ぎ込む。
多少どころかかなり反発されるが、それでも強引にオーラを送り込む。
こちらの意図に気付いたであろうイルミが射線から外れるよう回避行動を取りつつも、禍々しいオーラがこもる針? みたいな、いつものとは違うナニカを投擲してくる。
それを無視、ってか構ってられないので被弾しつつもぷくーっと膨れ上がったポーンがさきほど取り込んだ針を全力で射出──出来ず。不発! なんでや!
『ターイム! タイム! イルミクン タイム!』
「……」
こちらの声を無視してイルミはポーンへ2本目の棒? を突き刺し、おまけに毛ヒトにもプスりと──ナンダコレ。毛ヒトとの繋がりが外れ、動かせそうにない。
「くそっ! 動かねえ!」
は? 操作って早い者勝ちだろ?
『オレラ ニ ナニシタ!』
「……」
マジで何をされたかわかんねぇ。イルミは念においての早い者勝ちっていう操作のルールを覆すワザップな【発】を持っている? でもそんなのアリなのか?
「答える気はないね」
「マジ、どうなってんだよ。意味わかんねぇ」
丸っこいのがわかんないって言うなら、俺もわかんねぇよ。
「次は念なしでやるから」
マイペースだな、オマエは!
そもそも毛ヒト単体でも念なしイルミなら余裕だってのに、丸っこいのも含めた場合、差が開きすぎる。こいつはホントにモー。
『ケヒト ダケデモ ムリダロ』
「もうクセ掴めた」
ふーん。そう。クセね。
俺ら害悪コンビの頭脳を舐めてんの? クセとか動き読まれても後の先取れるような作戦をすぐに考え付く丸っこいのの頭脳はすげぇんだぞ? ついでにそれをすぐに実行出来る俺も。
「イ、イルミ兄? さすがに念なしだと怪我だけじゃ済まないぜ?」
そう、丸っこいのが正しい。イルミをボコっちゃう未来を正確に読み取っている。さすがに舐めすぎ。
『アー クセンシタ ブン トリモドソート シテルワ コノ チートロンゲ』
「してないね。苦戦したように見えたの? オマエには」
『ウルセーヨ マザコン』
「殺すよ、オマエ」
おけ。わからせたろ。
「お、おい、ミケ。それはさすがに言い過ぎだろ……ってオマエまで怖ェな! んだよコレ、お、おれはもう帰るぞ!」
『ツーカ タマニハ オレト ヤンネ?』
「いいね。ヤろうか」
そもそも念なんてもんはおまけなんだよ。
生物としての格の違いってもんを教えてやるよ、ヒトもどきが。
「──加減を知らぬお主らじゃ。今日のところはやめておけ」
ガチめの空気纏って急に現れないでほしい。
出会った当初のトラウマが刺激されちゃうだろ? やめて? 今、垂直ジャンプしなかったの奇跡だからな?
『…… アイ』
「ウン。わかった」
ᴥ
ご機嫌斜めな俺ことヒモを気遣って、イルミが現場にて刺殺した念能力者の
そういえば、しっかりとヒモに愛を注いでくれる甘栗を前にすると俺は尻尾を振っているらしい。
それとアトと電話している時も尻尾を振る──ほどじゃないけど揺らしているらしい。
『宇宙連合加盟国やその他の恒星間航行が可能な文明が手付かずである星に加えて遺伝子はもうほとんど残されていません。賭けではありましたが私達は次元を越えあなたに巡り会えたのです』
『へー スゴー』
早口がすごい上に電話越しだからなのか、アトが口にする言葉が余計難解に聞こえる。
『……ごめんなさい、えっと、そのですね──』
『ナー オレ オモウン ダケド』
難しい話は別に嫌いなわけじゃない。文章にしてほしいだけだ。言葉で聞くと頭が千切れそうになる。
『は、はい』
『サイズ ドースル?』
サイズ違い。
結婚するにあたって懸念すべき、この問題がある。
体の一部もしくは全体を【
子を成すだけならやりようはいくらでもあるんだろうけど、交尾以外で考えてもサイズの違いってのは問題が多く発生する。将来的に一緒に住んだり、遊んだり、ケンカしたり、歌って踊って騒いだりする場合に不都合が多い。
『それなら問題ありません。あなたが望むのであれば、我々のような人型に作り換えることも可能です』
『ソレ イラネ』
以前であれば人化したいという欲求はあった。
結果的に妥協する形で【念話】や【
でももうこの肉体が俺じゃん? これ以外考えられないじゃん? 牙も爪も持たないヒトってバカじゃん? てかこの肉体から変わってしまうとこの気持ちも消し飛びそうな気がする。
──ということを【念話】を介して正直にそのまま伝える。
『遺伝子から組み換えるので、あなたはあなたのままでいられますよ? 母のようにクローンに取り換えられないよう今も厳重に監視していますし、施術の際も細心の注意を払って行います』
『イヤダ オレヲ イジルナ オレガ シヌ』
そもそもの話、【
あと、ここ最近は畜生なことに納得し、満足し、優越しているから制約と誓約の効力が薄れ、【
反対に制約と誓約を厳守して、わりと苦しめられているから【念話】の燃費が上がったりと伸びているのかもしれない。
『わ、わかりました。あなたが望む形を二人で探していきましょう』
『ハーイ』
アトは何やらいろいろと抱えている様子だけど、こういうのは追々知っていけばいいと思う。
『……隠していることは不誠実でしょう。なので予め言っておきます。あなたは無自覚なのかもしれませんが、あなたの持つ遺伝情報は我々にとってとてつもなく価値あるもの。種のみならず次元さえも超えるというそれは我々のような嫉妬深い種にとっては、非常に魅力的なのです。我々が持つ次元を超える術はいまだ未熟であり途上にあります。そこであなたの遺伝子を取り入れることにより現状の脆弱性を打破出来ると考えます』
『エウ?』
すごくペラを回しているところ悪いんだけど、ここまで来るとたぶん文章にされても意味がわからないと思う。周りが見えなくなるタイプの理屈屋さんかな? 可愛い。
『そして、この星に住まう生物は多様という言葉では言い表せないほど種の数が膨大です。何より理論上限界を超えた大きさの岩石惑星に大気を有し、あまつさえ生物が存在する理屈を我々は知り得ません──陳腐な表現となりますが、この星は本当に不思議で、そんな中でもあなたは特異な存在。唯一と断言出来ます』
『ナルホド』
ディスカバリーチャンネルとかナショジオでやってる宇宙系の番組に出てくるお喋り理系おじさんを思い出す。
ペラが落ち着いたらプラネタリウムか天体観測にでも誘ってみよう。アトに解説を頼めばぐっすり眠れそう。
ᴥ
アト曰くプラネタリウムや天体観測よりもあやとりをもう一度という希望を出してきたので、次に会う時にはあやとりと凧揚げをすることになった──凧揚げは当然俺の希望である。
そんなわけで材料や道具を執事らに用意してもらって凧作りに精を出していると、珍しいことに犬小屋へ訪れた彫刻が付いて来いというので、小遣い交渉を経てから付いていく。
思えば彫刻の仕事に同行したことは一度もなかったので、少しワクワクする。
飛行船を経て車で移動し、最終的に現場へは徒歩となるそうで、全力気味の【
飛行船や車中ではお互い会話することもなく好きなように過ごしたが、徒歩にて現場へと向かう間は自然と──。
「イルミ、それにミルキはお前から見てどうだ?」
『コロシヤ ト シテ?』
「いや、将来という意味でだな」
そりゃそうか。現場で殺しの手伝いはしていても、依頼の受け方や金の流れ、その他諸々にはまったく関わっていないし殺し屋の適性云々についてはわかるはずもなし。
『イエ デタ アトノ ハナシ?』
「ああ、そうだな」
やっぱ流れ的に殺し屋以外のルートの話を求めているんだろう。
この家でヒモしてりゃそこらへんの事情は何となくわかってくるし。
『イルミ ハ グンジン ムキ』
上官を後ろから撃ち殺しそうだけど、撃ち殺されはしないだろう。だから長く続けられると思う。
「ほう……そうか。お前からはそう見えるのか」
『ミルキ ハ カネカシ』
頭が回るし金勘定や法の抜け道を突くのに適性があるだろうし、三次元の女に興味が薄いのは最大の強みだろう。
「金貸しか、意外な答えだな」
『テキトー』
「……適当、か」
イルミにしても丸っこいのにしても彼らの適性については適当だ。こういうのって本人次第だし。
つーか別に働かずとも食ってけるだろうし、趣味に生きるでもいい。
アト曰くこのバカ広いとされる上、ネタバレ人工衛星が皆無なこの世界で未知を求めて冒険者ってかハンターってのになるのもアリだろう。
まあ、家を出る際に念を保持したままなことが許されるならだけど。
つーかゾルディック家には親戚筋に分家筋の存在が綺麗さっぱり見当たらない。
幼少期の死亡率が極めて高いだろうし、仕事で命を落とすことも多いだろうけど、見事に当主あるいは元当主のみが存命かつ、殺しを生業にしている。
たぶん、当主に選ばなれなかった者らは家を出て、殺しの世界からも足を洗い、関わりも絶っているんだろう──還元させられたり、消されたりしてなきゃだが。
そもそも、この一族は肉体の一部を尖らせたり、伸ばしたり、曲げたり、本来一部を除いてつくはずもない毒や電撃に耐性を持っていたりと特異体質揃いだし、どう考えても純粋なヒトではない。
その最たる例が甘栗で、アレは先祖返りしたタイプなんだろう。
そして才能や人格なんてものを計れないうちに後継候補となった三男坊も甘栗と同じ先祖返りパターンで、彼は将来確実に甘栗同様に短パンの系譜を引き継ぐはず。
今は次代を担う先祖返り短パンの誕生で落ち着いたんだろうけど、以前までは甘栗より明らかに劣るスルメ、彫刻が当主を担うことが続いて焦りを覚えていたのかもしれない。
だから
『ヨメトハ ドウ?』
「……どうとは? キキョウがまた何か言ったのか?」
『ベツニ』
何となく、そう何となくだけど、彫刻の苦労がうかがえた気がした。