天土楔の憂鬱な教職日誌   作:金属粘性生命体

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 自分で全部執筆をしてないからかある程度のやる気はあるけど、そこから外れると興味なくなってしまうな……AIってこんな感じなんだなーって感じ
 まぁ元々も完結まで書けないタイプの人間だから関係ないけど


閑話 張り詰めた空気、所謂決戦前夜
深夜の弾薬庫、あるいは静寂に研ぎ澄まされる殺意


 

 

 肺の奥深くにまでこびりついたような焦げ臭い煙の匂いと拭い去ることのできない敗北の苦い記憶だけを大型バスに乗せて、雄英高校の教師と生徒たちは深い夜の底に沈む学び舎へと帰還した。

 重傷を負った生徒たちは市内の総合病院へと直行して厳重な警備の下で治療を受けており、残された無傷あるいは軽傷の者たちも心身の疲労を考慮されて寮の自室へと隔離されるように押し込まれているため、普段であれば若者たちの活気に満ち溢れているはずの広大な校舎はまるで巨大な墓標のように冷たく静まり返っている。

 職員室や会議室から遠く離れた地下深くの戦術訓練施設において、人工的なコンクリートの基礎が途切れて大規模な土砂と岩盤が剥き出しにされた「屋内荒野シミュレーションエリア」の片隅で、血と泥に汚れた防刃コートを脱ぎ捨ててヨレヨレのジャージ姿になった天土(あまつち)(クサビ)が搬入用の木箱の上に一人で腰掛けていた。

 

 彼は無言のまま手元にある特売の煎餅をかじり、湿気た食感を顎の筋肉で細かくすり潰しながら、一切の感情を排した絶対零度の瞳で何もない土と岩の空間を見つめ続けている。

 指先一つ動かすことなく彼の静かな意思のみに呼応して足元の強固な岩盤が液状に波打ち、そこから純粋な鉱物成分と土砂が空中に巻き上げられては複雑な幾何学模様を描きながら結合と分解を繰り返していた。

 彼が有する個性は大地を素材としてあらゆる兵器を瞬時に生成する戦略級の能力であるが、コンクリートやアスファルトのような人工的に加工・変質させられた建材を直接操作することはできないため、能力を十全に発揮するにはこのような自然の土壌や岩石に直接干渉できる環境が不可欠であり、だからこそ彼はこの場所を深夜の思考の場として選んだのだ。

 それを実戦レベルの驚異的な速度と精度で運用するためには対象となる兵器の構造や部品の噛み合わせ、さらには火薬の化学組成に至るまでを脳内で寸分違わず組み上げるという途方もない演算処理が必要となり、現在の彼が行っているのは林間合宿での戦闘データを基にした自身の脳内兵器庫の徹底的な最適化と、次なる戦場である市街地での閉鎖空間戦闘を想定した新型火器のゼロダウンタイム生成シミュレーションであった。

 

 薄暗い空中に浮かび上がったのは対装甲用の大口径スナイパーライフルの機関部であり、撃鉄のバネの張力からライフリングの溝の深さ、さらには炸薬の燃焼速度に至るまでが物理法則に則って完璧に再構築され、それが完成したコンマ一秒後には再びただの砂埃となって乾いた土の床へと崩れ落ちる。

 砂が落ちきる前に今度は指向性対人地雷の起爆回路や、モンロー効果を利用して分厚い鋼鉄の装甲を焼き切る成形炸薬弾の円錐型金属ライナーが空中で編み上げられ、それもまた完成と同時に塵へと還るという狂気的なまでの創造と破壊のサイクルが、深夜の訓練室で金属の擦れ合う冷たい摩擦音だけを伴って延々と続けられていた。

 本来であればこのような未曾有の事態の最中に地下へ引きこもっている場合ではなく、警察と連携して情報収集に奔走するかマスコミ対策の会議に同席するのが教育者としての正しい姿であることは彼自身が誰よりも客観的に理解している。

 だが、今の天土にとって最も優先すべきは、沸点を超えて暴走しそうになる自身の激情を極限まで冷却し、次の戦場へ向けて最も鋭利で純度の高い殺意へと精製するための徹底して単調で機械的な思考の反復であった。

 

 砂埃が舞う空間を見つめながら、彼の脳裏にはヴィランのゲートへと飲み込まれていった爆豪(ばくごう)勝己(かつき)の不敵な笑みがフラッシュバックする。

 プロヒーローであるラグドールの救出を優先し、自らが敵の手に落ちることを選んだあの少年の行動はヒーローとしては限りなく正解に近い崇高な自己犠牲であったが、同時に生徒を守り導くべき教育者としての天土の矜持を根底から粉砕する極めて残酷な結末でもあった。

 大人に守られるべき子供が大人の命を救って絶望の闇へと消えたという事実が、彼の胸の奥底で黒い泥のように渦を巻いて苛み続けており、その怒りを直接的な破壊衝動として外へ向けないために彼はひたすら無機質な兵器の構造設計に意識を没入させているのだ。

 

 不意に背後の分厚い防音扉が開き、全身に真新しい包帯を巻いた相澤(あいざわ)消太(しょうた)が足を引きずるようにして荒野シミュレーションエリアへと入ってきた。

 彼は部屋の中に充満するオゾンと微かな火薬の匂いに僅かに顔をしかめながら、無数に生成されては砂へと還っていく兵器の幻影をすり抜けて天土の隣にある空の弾薬箱に力なく腰を下ろす。

 

「こんな夜更けに、随分と物騒な現実逃避だな」

「逃避ではない。明日の大掃除に向けて、モップの柄を極限まで鋭く研いでいるだけだ」

 

 天土は空中の歯車を砂に戻すことなく静かに答え、相澤の方へ視線を向けることすらしないまま次の工程である焼夷弾の弾頭組成シミュレーションへと移行する。

 怒りに任せて無計画に敵陣へ突っ込めば生徒の命を余計な危険に晒すだけであることを彼は熟知しており、だからこそこの冷たい地下室で己の殺意をミリ単位の兵器部品へと変換し続けることで精神の均衡を綱渡りのように保っていた。

 

塚内(つかうち)|警部たちが徹夜で監視カメラの映像と遺留品を洗っているが、黒霧(くろぎり)|のワープという空間干渉能力がある以上、足取りを物理的に追うのは困難を極めるだろうな。明日の朝にはマスコミの連中が学校を完全に包囲して、俺や校長に管理責任という刃を容赦なく突きつける手筈になっている」

「くだらん。安全な場所からカメラのフラッシュを浴びせて頭を下げさせれば、誘拐された生徒が無傷で帰ってくるという法則でもあるのか」

 

 天土が冷ややかに吐き捨てると、相澤は疲労の色が濃い包帯まみれの顔を僅かに歪め、鋭い光を宿した瞳で同僚の横顔を真っ直ぐに見据えた。

 

「ただの無意味な謝罪会見なら俺もご免被るが、これはヴィラン連合に対する強烈な牽制であり、同時に大規模な反撃のための陽動だ」

「陽動だと」

「ああ。雄英高校という巨大な組織が世間から猛烈なバッシングを受け、教師たちがカメラの前で無様に頭を下げて追い詰められている姿を全国放送で垂れ流す。そうすれば、ヴィラン連合の連中は自分たちの完全な勝利を確信し、必ずテレビの画面に釘付けになって外界への警戒を緩めるはずだ」

 

 相澤の言葉の裏にあるトップヒーローたちの冷酷な計算を正確に読み取り、天土は空中に展開していた複雑な兵器の部品を一瞬にして床の土壌へと同化させ、訓練室に完全な静寂を取り戻した。

 

「なるほどな。俺たちが世間の批判に対する防戦一方で身動きが取れないと思い込ませ、連中が祝杯を挙げているその隙に、水面下で集結させたトップヒーローの制圧部隊をアジトへ直接送り込むという寸法か」

「その通りだ。世間を納得させるための通過儀礼であると同時に、連中の喉元に鋭いナイフを突きつけるための絶対に必要な時間稼ぎだ。担任である俺も当然矢面に立つ」

「悪くない盤面だ。だが、俺は眩しいテレビの前に立つ趣味はない。俺の役目はあくまで実力行使による害虫の徹底的な物理排除だ」

 

 相澤が痛む腕を庇いながら深い溜息をつくと、天土は手に持っていた煎餅の欠片を口に放り込み、ジャージのポケットからひび割れた画面のスマートフォンを取り出した。

 その瞳には林間合宿の燃える森で見せた激情の欠片すら残っておらず、ただ静かに確固たる意志を持った絶対零度の殺意だけが暗い光を放っている。

 

「爆豪に渡した発信機の座標は、すでに特定できている」

「なに」

 

 相澤が驚きに目を細めて立ち上がりかけるのを尻目に、天土は画面に表示された電子地図上の赤い点滅を彼に無言で見せつけた。

 それはまだ警察の捜査網にも校長にも共有していない、天土だけが秘密裏に握っている反撃への唯一にして絶対のジョーカーである。

 

「俺の脳内兵器庫の状況に合わせたアップデートはたった今完了した。警察の動きが遅ければ俺は単独でヴィランの拠点へ武力介入を行い、奴らを一人残らず()()して生徒を連れ戻す」

「早まるな天土。座標が割れているなら尚更だ。今の雄英の絶望的な立場で一人の教師が法を無視して暴走すれば、それこそせっかくの陽動が台無しになり、学校の存続に関わる致命傷になるぞ」

「学校の存続など知ったことか。俺は教育者である前に、戦場の汚物を片付けるだけの男だ」

 

 天土はスマートフォンをジャージにしまい込み、弾薬箱からゆっくりと立ち上がって相澤を見下ろした。

 

「俺の目の前で生徒が連れ去られた。その落とし前は奴らのアジトを更地にしてでも確実につけさせる。邪魔をするなら、たとえプロヒーローだろうが国家権力だろうが容赦はしない」

 

 その言葉には一切の誇張も感情的な虚勢も含まれておらず、ただ純粋な暴力の行使を予告する事実の陳述であった。

 相澤はしばらく無言で同僚の冷酷な瞳を見つめ返していたが、やがて諦めたように小さく息を吐き、痛む首の付け根を大きな手で押さえる。

 

「お前のその合理性を欠いた狂犬のような部分は昔から何も変わっていないな。だが、お前一人で背負い込む問題ではない。俺も、オールマイトも、皆同じ気持ちだ」

「なら、俺の邪魔はするなよ」

「邪魔はしないが、手綱はしっかりと握らせてもらう。作戦の全容が決まり、陽動の準備が整うまで、その地下室で大人しく待機しておけ」

 

 相澤が背を向け、痛む体を引きずりながら防音扉へと向かう時、天土は背中越しに短く声をかけた。

 

「相澤」

「なんだ」

「俺の忍耐が続くのは夜明けまでだ。それまでに上の連中の腹を括らせてこい」

 

 相澤は振り返ることなく無言で頷き、重い扉の向こう側へと足音を立てて消えていった。

 一人残された天土は再び弾薬箱に腰を下ろし、特売茶のボトルを手に取って冷えた茶を渇いた喉の奥へと流し込む。

 地下室の冷たい空気の中で彼の殺意は刃こぼれ一つない限界まで研ぎ澄まされ、マスコミを通じた大人たちの冷酷な宣戦布告と共に訪れる決戦の刻を、静かに待ち続けていた。

 

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