天土楔の憂鬱な教職日誌   作:金属粘性生命体

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虚飾の謝罪、あるいはアスファルトの底で蠢く殺意

 

 

 全国のテレビモニターをジャックするように一斉に生中継された雄英高校の謝罪会見は、無数のフラッシュが残酷なほどに瞬く中で黒のスーツに身を包んだ根津(ねづ)校長と|相澤(あいざわ)消太(しょうた)およびブラドキング(ブラドキング)|の三名が深々と頭を下げるという、世間が最も望んでいた屈辱的な構図から幕を開けた。

 マスコミの記者たちは安全な場所から正義の代弁者を気取り、林間合宿における警備体制の甘さや未成年の生徒を危険に晒した教育機関としての管理責任を鋭い言葉の刃となって容赦なく突きつけてくるが、相澤は疲労の色が濃く滲む顔を僅かに上げてカメラのレンズを真っ直ぐに見据え、拉致された爆豪(ばくごう)勝己(かつき)の精神的な強さとヒーローとしての矜持を一切の揺るぎなく主張する。

 それは世間の批判を真っ向から受け止める防波堤としての役割を果たすと同時に、テレビの向こう側で自分たちの完全な勝利を確信して祝杯を挙げているであろうヴィラン連合の自尊心をくすぐり、彼らの警戒心を外界ではなくモニターの四角い枠の中へと完全に釘付けにするための冷酷なまでに計算し尽くされた陽動劇であった。

 

 神奈川県横浜市神野区の裏路地にひっそりと佇む廃バーの薄暗い一室では、相澤たちの思惑通りに死柄木(しがらき)(とむら)が薄汚れたカウンターの上に座り込み、薄ら笑いを浮かべながらテレビ画面に映る教師たちの無様な姿を特等席で眺めている。

 部屋の中央には重々しい拘束具で椅子に縛り付けられた爆豪が座らされており、彼の周囲を取り囲むように荼毘(だび)や|トガ(とが)|といった開闢行動隊の面々が独自の空気を纏いながらそれぞれの武器や個性を弄んでいた。

 

「見ろよ爆豪。お前を守るはずだった大人たちが、世間から石を投げられて無様に頭を下げている。これが今の社会の歪みであり、ヒーローという偽善者たちの末路だ」

「だからどうしたってんだよ、手首野郎」

 

 死柄木の得意げな誘い文句を遮るように放たれた爆豪の声には恐怖も絶望も一切含まれておらず、むしろ獲物の喉首を噛み千切る機会を虎視眈々と窺う肉食獣のような獰猛な敵意だけが燃え盛っている。

 

「俺が憧れたのは勝って勝って勝ちまくるオールマイトの姿だ。お前らみたいなコソ泥の陰口に付き合うつもりは毛頭ねェし、俺は俺のやり方でここから抜け出しててめェらを全員ぶっ殺すだけだ」

「本当に可愛げのないガキだ。だが、その強情さも教育次第で極上の悪意に変わる」

 

 死柄木が苛立ちを隠すように首を掻きむしりながら拘束具を外すよう仲間に指示を出すその瞬間も、彼らは自分たちが安全な隠れ家に潜伏し完全に主導権を握っていると信じて疑っておらず、外の世界で確実に狭まっている包囲網の存在に誰一人として気付いていなかった。

 

 彼らが潜伏する廃バーからわずか数ブロックしか離れていない神野区の再開発エリアの片隅で、古いビルが取り壊されて厚いアスファルトが剥がされた広大な空き地の暗がりに、防刃コートの襟を立てた天土(あまつち)(クサビ)が彫像のように静かに立ち尽くしている。

 彼が有する個性『土細工(アース・クラフト)』は純粋な土壌や鉱物を素材とするためコンクリートや人工的な舗装材に直接干渉することはできないが、この解体工事現場のように大地の素肌が広範囲に剥き出しになっている場所であれば、彼の足元に広がる地球そのものが無尽蔵の弾薬庫へと変貌するのだ。

 天土は地面に一切触れることなく静かな直立姿勢のまま意識の糸を地下深くへと張り巡らせ、土中に含まれる鉄分や希少金属および強固な岩盤の成分を分子レベルで選別しながらゆっくりと地表付近へと引き上げていく。

 彼の脳内ではすでに廃バーの構造図が完全に展開されており、どの角度から壁を粉砕し、どのタイミングで退路を断ち、どの順番でヴィランの四肢を吹き飛ばすかという冷酷な殺戮のシミュレーションがミリ単位の精度で完了していた。

 夜風が工事現場の防音シートを不気味に揺らす中、天土の足元の土壌が微かに脈動を始め、目に見えない無数の大口径銃火器の銃身や鋭利な刃の原型が地中で静かに産声を上げながら射出の瞬間を待ちわびている。

 彼はジャージのポケットから取り出した特売茶のボトルを傾けて最後の水分を渇いた喉に流し込むと、空になったプラスチック容器を足元に放り投げた。

 遥か上空を旋回する警察のヘリコプターの回転翼の音が微かに聞こえ始め、トップヒーローたちによる正規の合同制圧部隊が指定座標への展開を完了しつつあることを告げている。

 だが、プロの部隊が法と手順に則ってドアをノックするよりも速く、血と泥にまみれた冷酷な掃除屋による理不尽なまでの物理的制圧がこの街を地獄へと変えるのだ。

 

「時間だ。教育的指導の幕を上げよう」

 

 天土の口から漏れた低い呟きは誰の耳に届くこともなく夜の闇へと溶け込み、嵐の前の静寂は極限まで張り詰めた後に音を立てて砕け散ろうとしていた。

 

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