天土楔の憂鬱な教職日誌   作:金属粘性生命体

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神野の悪夢、あるいは完璧なる蹂躙と終焉への布石

 

 

 神野区の夜空を覆い尽くした規格外の破壊の嵐が過ぎ去った後の広大な更地には巻き上げられた土煙と焦げた建材の悪臭だけが濃密に立ち込めており、平和の象徴たるオールマイトの圧倒的な突進が周囲の空気を極限まで圧縮して巨大な暴風の壁を生み出しながら絶対悪であるオールフォーワンの懐へと肉薄していく。

 

 その黄金の巨体が放つ規格外の破壊力を誰よりも熟知している天土(あまつち)(クサビ)は、焼き爛れて肉が炭化した左半身から絶え間なく脳髄へと送られてくる強烈な痛覚信号を自らの冷徹な演算処理によって強制的に遮断しながら、味方であるオールマイトの射線を完全に把握した上で自身の冷酷な計算回路を支援攻撃の構築へとフル稼働させていた。

 

 彼の右手の指先が微かに動くたびに舗装が吹き飛ばされて剥き出しになった純粋な大地の土壌から超高初速の徹甲弾を装填した無数の対物狙撃銃が生命を得たかのように隆起し、オールマイトの巨大な拳が振り抜かれるコンマ数秒前に敵の回避ルートを物理的に塞ぐための牽制射撃を寸分違わぬ精度で叩き込んでいく。

 

 オールフォーワンは複数の個性を編み上げて強力な反撃の衝撃波を放とうとするが、その予備動作に入った瞬間に天土が地中深くに潜行させていた成形炸薬弾が彼の足元で起爆し、超高温の金属ジェットが分厚い岩盤を突き破って魔王の姿勢を強制的に崩させ、そこにオールマイトの怒りを宿した巨大な右ストレートが顔面の生命維持マスクを深々と陥没させるという理不尽なまでの連携が成立する。

 

「素晴らしい連携だ。だが平和の象徴ともあろう男が、かつて部隊が全滅する血の海の中で一切の絶望も見せずにただ面倒くさそうに死体を片付けていたあの異常な男の援護に依存するとはね」

「彼の過去を貴様が語るな。天土くんは今、私にとって誰よりも頼もしい盾であり、お前を打ち砕くための最強の矛だ」

「オールマイト、ゴミの戯言に耳を貸すな」

 

 オールマイトの強烈な追撃を空気の断層で辛うじて防ぎながら後退したオールフォーワンが口にした悪辣な精神攻撃を、天土は一切の感情を交えない極めて気怠げな口調で即座に切り捨て、会話の間にも足元の土壌から無数の指向性対人地雷を生成して敵の退路を削り取っていく。

 

 激しい衝撃によって吹き飛ばされた魔王が空中で体勢を立て直して黒い鞭のような個性を周囲に展開しようとしたその刹那、今度は天土が空中の座標と風向きを正確に計算して撃ち出した無数の空対空炸裂弾がオールフォーワンの至近距離で一斉に起爆し、発生した強烈な閃光と指向性の爆風が視界と聴覚と平衡感覚を同時に奪い去った。

 

 休む間もなく繰り出されるオールマイトの規格外のラッシュと一切の隙を許さない天土の精密な重火器支援は、光と影の相反する性質を持ちながらも巨悪を完全に粉砕するという一点においてこれ以上ないほどの完璧な殺戮のシナジーを生み出しており、神野の更地に君臨する絶対悪に反撃の糸口すら与えずにただひたすら暴力の渦の中へと沈み込ませていく。

 

 本来であれば単独でも国家を揺るがすほどの圧倒的な力を持つオールフォーワンであるが、平和の象徴による息もつかせぬ近接破壊とプロの掃除屋による盤面を完全に支配した遠距離からの兵器展開が組み合わさることで、彼は自らの多種多様な個性を発動するためのわずかな時間すらも奪われただひたすらに防戦と被弾を強要されるという彼自身の長い歴史においてもかつてない屈辱的な状況に置かれているのだ。

 

 天土は口内に溜まった血の味を無表情のまま飲み込み、背後に気絶して倒れているベストジーニストたちプロヒーローを庇うための巨大なチタン合金と岩盤の複合防壁を維持しながらも、神野の広大な大地そのものを無尽蔵の弾薬庫としてさらに重厚な対装甲兵器の弾道計算を脳内で完了させていく。

 

「忌々しい。純粋な力と狂気的なまでの火力の包囲網がこれほどまでに厄介とはね。だが君自身が一歩も動けずに同僚の盾となっているその致命的な欠陥を私が突かないとでも思っているのかね」

「喋る暇があるならさっさと大人しくミンチになれ。お前が息をしているせいで俺の帰宅時間が一秒ずつ遅れているんだ」

 

 防戦一方に追い込まれたオールフォーワンが苛立ちの混じった声を漏らしながら空中の僅かな隙を突いて天土の背後へと回り込もうと空間転移に近い高速移動を試みるが、その目論見は移動先の空間に予め配置されていた天土の対空機関砲による濃密な弾幕によって無惨にも打ち砕かれた。

 

「強がりは立派だが、君の左腕は既に炭化し始めている。あの夜のようにただ無感情に己の限界すら無視して働き続けるつもりかな、アーセナル」

「左腕の治療費と有休の補償も上乗せして請求してやるだけだ。俺の痛覚はお前の命を削るためのタスク処理でとっくにシャットダウン済みだ」

「無茶をするなとは言わない。だが必ず生きて帰るぞ、天土くん」

「当然だ。明日の朝一番で有給休暇の申請書を教頭の机に叩きつけなきゃならないんでな」

 

 肉が焦げる異臭を漂わせながらもあくまで気怠げに悪態をつく天土の言葉にオールマイトが力強く頷き、二人の間に交わされた短い会話の直後に天土の足元から巨大な地対空ミサイルの発射管が何本もせり出して一切の警告なしに火を噴いた。

 

 熱源探知と天土の精密な誘導網によって四方八方から殺到するミサイルの群れをオールフォーワンが衝撃波で弾き落とした直後、その爆炎のカーテンを引き裂いて飛び出してきたオールマイトの両手を組んだ強烈な叩きつけが魔王の脳天を深々と打ち据えて再び大地へと叩き落とす。

 

 凄まじい激突の衝撃によって神野の更地が巨大な隕石が墜落したかのように大きく陥没し、もうもうと立ち込める土煙の中でオールフォーワンは生命維持マスクの一部を完全に破損させて痛ましい呼吸音を漏らしており、もはや彼がかつて誇っていた絶対的な余裕や威厳は二人の理不尽なまでの猛攻の前に完全に削り落とされて無残な姿を晒している。

 

 天土は自身の身体の限界がとうの昔に過ぎ去っていることを冷酷な計算回路の片隅で理解しながらも、ここで手を止めれば再び残業時間が増加するという圧倒的に後ろ向きな理由だけで細胞の一つ一つに鞭を打ち、剥き出しになった大地から次なる殲滅兵器の構築を続けていた。

 

 彼の足元からは大気を切り裂くような駆動音と共に戦艦の主砲クラスの巨大なレールガンの砲身が三門同時に隆起し、莫大な電磁力をチャージしながらオールマイトの拳によってクレーターの底に縫い付けられているオールフォーワンの身体へとその冷酷な銃口を向けていく。

 

「オールマイト。そのゴミから三メートルだけ後ろへ下がれ。そこがお前の安全圏であり、奴の墓穴だ」

「了解だ。一気に決めよう!」

 

 天土の極めて事務的で冷酷な指示にオールマイトが力強く応え、彼の全身から燃え盛るような黄金のオーラが爆発的に噴き出して限界を超えた力がその右腕に集束していくのと同時に、天土の構築した三門のレールガンが臨界点に達して青白い放電の火花を散らし始めた。

 

 魔王の完全な死あるいは再起不能の絶望を与えるための最終工程が今まさに始まり、天土楔という男が残業の果てに用意した処刑場へ向けて二人のヒーローは一切の容赦を捨てることなく神野の地に最期の断頭台を組み上げていった。

 

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