神野区の広大な更地に生み出された巨大なクレーターの底で青白い放電の火花を散らす三門のレールガンは剥き出しの大地から抽出された純度の高い導電性鉱物を砲身の素材として編み上げられており、
同時に彼の指示を受けて射線から三メートルだけ後退したオールマイトの全身からは平和の象徴としての残された全ての命の火を燃やし尽くすかのような黄金のオーラが爆発的に噴き出しており、その右腕には長きに渡る光と影の因縁に終止符を打つための限界を超えた力が極限まで圧縮されていく。
二人の怪物から放たれる圧倒的な殺気と破壊の予兆を前にしてクレーターの底に縫い付けられているオールフォーワンは生命維持マスクの破損箇所から荒々しい呼吸を漏らしながらもなお自らの全存在を懸けた最後の反撃へと移行すべく、体内に蓄積された無数の個性を一つの凶悪な腕へと強制的に融合させ始めた。
筋力増強から衝撃反発そして空間の歪みをも取り込んだその異形の右腕は彼がこれまで築き上げてきた悪の歴史そのものと言えるほどの理不尽な質量と熱量を内包しており、オールマイトの拳を相殺するだけでなく後方で固定砲台となっている天土や気絶したベストジーニストたちをも一撃で更地ごと消滅させるための破滅の塊であった。
だが魔王がその凶悪な腕を振り上げようと筋肉の繊維を僅かに収縮させたそのコンマ数秒の予備動作を一切の感情を排して極限の集中状態にある天土の演算処理が見逃すはずもなく、彼は心の中で深夜の残業業務に対する激しい呪詛を吐き捨てながらこれまで口にすることのなかった最終殲滅兵装の呼称を静かに紡ぎ出して三門のレールガンの引き金を引いた。
「残業代の請求書代わりの冥土の土産だ」
天土の冷酷な宣告と共に大気が悲鳴を上げるような凄まじい摩擦と電磁の爆発がクレーター全体を青白く染め上げ、ローレンツ力によって音速を遥かに超える超高初速で射出された三発の極大質量の徹甲弾が空気との摩擦でプラズマの尾を引きながらオールフォーワンの展開した防御空間へと寸分の狂いもなく殺到する。
魔王が誇る多重の衝撃波と空気の断層による絶対防御の盾は圧倒的な運動エネルギーの前に薄紙のように容易く貫通され、一発目の徹甲弾がオールフォーワンの異形に肥大化した右腕の関節部を粉砕してその破壊のベクトルを強制的に上空へと逸らし、続く二発目が彼の胸部の装甲を抉り取って呼吸器官に致命的な損傷を与えた。
そして三発目の弾頭がオールフォーワンの足元の岩盤に直撃して局地的な大地震のような揺れと爆発を引き起こし、完全に体勢を崩されてあらゆる防御手段を剥ぎ取られた絶対悪の目の前に黄金の流星と化したオールマイトの巨大な右拳が神の裁きのように迫り来る。
「これで終わりだオールフォーワン!!」
「オォルマイトォオオオ!!」
二人の長きに渡る因縁の咆哮が神野の夜空で交差し、レールガンの射撃によって生み出された
激突の中心から発生した規格外の衝撃波が周囲の瓦礫や燃え残った建材を塵芥のように吹き飛ばし、天土は自らが構築したチタン合金の防壁の裏側で炭化した左腕を庇いながら吹き荒れる暴風が完全に収まるのをただ無表情のまま静かに待ち続けている。
やがて巻き上がった分厚い土煙が夜風に流されて視界が晴れるとそこには右腕を天高く突き上げて勝利の立ち姿を維持する平和の象徴の背中と、その足元で完全に意識を刈り取られて全身の骨を砕かれ全く動かなくなった悪の支配者の無惨な残骸だけが残されていた。
それはかつて社会の裏側からこの国を支配していた魔王の完全なる敗北であり、オールフォーワンという存在がもはや二度と立ち上がることのできないただの肉塊へと成り下がった歴史的な瞬間であった。
敵の完全な沈黙と生命活動の劇的な低下を足元の土壌からの探知によって確認した天土は自身の冷酷な計算回路に展開していた数百に及ぶ火器管制システムを一斉にシャットダウンし、剥き出しの大地から隆起していた無数の重火器群をただの土砂と鉱物へと還元していく。
極限の集中状態が解かれた途端に遮断されていた痛覚信号が容赦なく脳髄へと押し寄せ、左半身の深刻な火傷と魔王の衝撃波によって砕けた肋骨の激痛が天土の視界を黒く塗りつぶそうとするが、彼は面倒くさそうに舌打ちをしてから無事な右腕だけでふらつきながらも立ち上がりポケットの中で砕け散っているスマートフォンの残骸を忌々しげに一瞥した。
上空からはすでに事態の収束を察知した警察のヘリコプターの回転翼の音が鳴り響いており、遠くの道路からは無数のパトカーや救急車のサイレンが神野区の更地へ向かって殺到してくる気配が濃厚に漂い始めている。
「終わったな天土くん。君の完璧な援護がなければ背後の彼らを守り抜くことは難しかっただろう。心から感謝する」
「感謝よりも残業代と手当をよこせ。あのゴミの息の根は完全に止めたんだろうな。これ以上拘束時間が増えるのは俺の精神衛生上よろしくない」
「息は辛うじてあるが彼の身体は完全に破壊された。もはや個性を使うことも自力で歩くことも一生叶わないだろう。完全に私たちの勝利だ」
「そうか、もしなんかあったとしてもお前の責任だからな。俺の今日の業務はここまでだ。後の現場検証とマスコミの相手はお前と警察の連中で勝手にやってくれ」
「待ちなさい君のその火傷は深刻だ。すぐに救急車に乗って適切な治療を受けろ」
「チッ、これだけ派手に焼かれちゃ自宅療養も無理か。おい、労災で一番いい個室を手配しろ。退院するまで絶対に仕事の話は持ち込むなよ」
「ああ、約束しよう。ゆっくり休むといい」
オールマイトの制止の言葉に対して天土は極めて気怠げに悪態をつきながらも自身の身体が既に限界を迎えている事実を合理的に受け入れ、到着したばかりの救急隊員たちの方へと重い足取りで向かっていく。
理不尽なまでの暴力を極めたプロの掃除屋による完璧な残業業務はここに完了し、日本の歴史に深く刻まれることとなる神野の悪夢は一人の教師の労災認定と有給休暇への渇望と共に静かに幕を下ろしたのだった。