ゴミ開拓者転生~スタレの主人公に成り代わったから全力で主人公を遂行する!~ 作:ひまなめこ
「記憶の番人だと?」
突然目の前に現れたブラックスワンの言葉を復唱するように俺は疑問を口にした。
「ええ、あなただけの為の…ね。」
俺の記憶にメモキーパーが関わっていることは花火から既に聞いていたが、まさかそのメモキーパーがブラックスワンだったとは…。
何はともあれ、コイツが俺の記憶の番人だと言うのなら未来の俺が失った記憶を持っているか、もしくは何故未来の俺が記憶を失ったのか、その原因を知っているかもしれない。
「お前は知ってるのか?未来の俺が記憶を失った原因を。」
「ええ、勿論よ。未来のあなたが失った記憶は私が大事に管理しているわ。ほら…。」
俺の質問に答えながら、ブラックスワンは半透明な硝子の板を取り出して俺に見せる。
その硝子の中には血塗れで闘っている俺の姿が映し出されていた。
「光円錐か…。」
「ええ、あなたがこの世界に転生してから記憶を失うまでを全て記録した光円錐よ。この中には未来のあなたが記憶を失った原因も記されているわ。」
「それを寄越せと言ったら、素直にくれるか?」
「当然丁重にお断りするわ。さっきも言ったでしょ。縛りに基づいて私はあなたの記憶を管理しているの。例えあなた自身でも、この記憶を漏洩するわけにはいかないわ。」
まあ、流石に素直に渡してくれる訳ないか…。
しかし、他の奴に記憶を渡すことを拒むなら分かるが、俺自身にも記憶が漏洩する事を拒むのは少し不自然な気がする。
この時代にとっては過去の存在でも、俺は俺だ。
俺の記憶を知って何が悪い。
そこも含めてやはり気になるな。
何故ブラックスワンが関わってるのか。
記憶を失った原因は何なのか。
俺にも記憶を渡せない理由は何なのか。
「直ちに立ち去りなさい。さもないと【記憶】の力を前に無力に座礁する事になるわ。」
「悪いが丁重にお断りするぜ。何の説明も無しに、記憶は渡せませんと言われて、はいそうてすか…と引き下がれる程大人じゃないんだ。…力ずくで奪わせて貰う!」
俺は全身をエネルギーで強化して、一瞬でブラックスワンに肉薄し、拳を放つ。
しかし、俺の拳はまるで煙を素通りするかのようにブラックスワンをすり抜けてしまった。
「っ!?」
触れられない!?
何故だ?
【無為転変】を持つ俺は常に魂の輪郭を捕えている。
たとえ、肉体を持たない霊体であっても、触れられる筈だ。
「それは【記憶】の残滓。ホログラムのようなものね。」
「それは可笑しいだろ。ホログラムなら、何で俺との会話が成り立っている?」
「あなた限定で私はあなたの未来の記憶を見る事が出来るの。だから、あなたが私にどのような質問をするのかを知っている。この【記憶】の残滓はあなたに関する未来を観測して、あなたと問題なく会話が出来るように作った物なの。」
俺の未来の記憶が分かるだと?
それはメモキーパーの力なのか?
いや、でも、ブラックスワンは俺限定と言っていた。
なら、この力はいったい…?
「気になるからしら?私のこの力の正体。」
「…。」
「教えて上げるわ。私はね、あなたの事が好きなの。あなたの記憶も性格も強さも全部好き。だから、私はあなたを想って一人であなたの【記憶】を守り続けて来たわ。そしたら、其が応えてくれたのよ。あなたの【記憶】を守る為に必要な強大な【記憶】の力を私にもたらしてくれた。」
「…まさか、【記憶】の使令。」
「いいえ、少し違うわ。あなた限定の【記憶】の星神よ。」
「は?」
嘘だろ…。
そんな事あり得るのか?
浮黎に成れるのは無漏浄子だけだ。
ただのメモキーパーが成れる訳がない。
「幻月遊戯って知ってるかしら?【愉悦】星神アッハのゲームで優勝者は一分間だけアッハに成れるの。私もそれと似たようなもので、あなた限定で浮黎に成れるように、浮黎から直接力を与えられたのよ。」
浮黎が力を与えた?
そもそも浮黎はまだ生まれてない。
今俺達が知っているこの時代の【記憶】の星神浮黎は遥か未来に生まれた浮黎の影だ。
ゲーム本編のオンパロスで主人公が一瞥を貰えたのが特例中の特例であって、本来まだ生まれていない浮黎が力を与えるなんてまずあり得ない。
『安心して、ウチがアンタの記憶を守って上げる♭』
「っ!?」
なんだ?今の声。
ブラックスワンのものじゃない。
もっと高い女の子の声だ。
「聞こえたかしら?今のが其の声よ。星神にまで愛されるなんて本当にあなたって人は…女誑しなんだから。」
今のが浮黎の声…?
まさか、もう生まれているのか?浮黎が。
「私の本体とあなたの記憶そして、浮黎は今とある星にいるわ。その星は外からも中からも観測出来ない。その星で未来のあなたが記憶を取り戻し、【壊滅】から宇宙を救う未来を私は見たわ。」
「何を言ってる?いったい何がどうなって…。」
「さあ、夢から覚める時よ。あなたの記憶の事は一先ずは諦めなさい。」
「っ!?」
その瞬間鈍器で殴られたかのように俺の意識が揺れて、視界が暗転する。
そして、俺の意識は未来の俺の精神世界から現実に引き戻された。
「…くそ。」
結局何も分からず、謎が深まっただけだ。
「…未来の俺、お前は何なんだ!本当に…俺なのか?未来で何があった!」
「…知らねえよ。俺が教えて欲しいくらいだ。」
未来の俺は反転術式で毒を中和して立ち上がりながらそう言い放った。
「人間である俺の血が有毒と言うことは、お前の体はもう人間じゃないって事だ。本当に心当たりは無いのか?」
「…ねえよ。」
「…本当か?お前の精神世界はまるで【虚無】の中のようだった。そこにはブラックスワンもいたぞ!お前達はどういう関係だ!奴と交わした縛りはなんだ?この世界では既に浮黎は生まれているのか?答えろ!」
「知らねえよ!!!」
「っ…。」
「ドイツもコイツも…忘れる事がそんなに悪いことなのかよ?俺だって忘れたくて忘れた訳じゃねえ!…なのに皆何で俺を見て悲しそうな顔すんだよ…?初対面の筈なのに皆何で俺の事を知ってんだよ…?分かんねえよ。俺には…皆が知る俺がどんなだか分かんねえよ!今まで会ってきた人間全員、俺を見る目が俺じゃない誰かと俺を比較するような物ばかりで…どうすりゃ良いか分かんねえよ!」
未来の俺は俺の質問責めに対して、泣き叫ぶように自身の気持ちを吐露した。
…忘れる事は逃げだと想っていた。
俺には忘れたい記憶があるからだ。
でも、忘れたくない記憶も有って、その記憶は俺だけの物じゃないから、忘れたらきっと誰かが悲しむことは分かっていた。
だから、記憶を忘れた未来の俺が気に食わなかった。
コイツの心から目を背けていた。
記憶が無いと言うことは。
自分の存在に欠陥があると言うこと。
記憶が無い人間はその心に空白がある寂しさを誰かと共有する事も出来ずに一人で抱えることしか出来ない。
その事実から目を背けていた。
見て見ぬ振りをしていた。
記憶を失う事は記憶を覚え続ける事と同じくらい辛い事なのだ。
でも、それでも…
「納得は出来ない。未来の俺にも事情があるって事は理解した。でも、それはそれとして、納得は出来ねえ。俺にも譲れない物があるんだ。」
未来の俺に対する怒りはもう無いけれど、それでも俺はコイツにだけは負けたくない。
「領域展開【無限の剣製】」
俺は印を結んで領域を展開する。
しかし、ただ展開するだけじゃない。
普通に展開したら、アサシンの固有結界と領域の押し合いに成ってしまう。
30分間未来の俺達と闘った後、アサシン固有結界の邪魔はしないと言う縛りを結んでしまった以上、間違っても領域の押し合いは起こしては行けない。
そこで、俺が取った行動は一か八かの0.2秒の領域展開。
狙い通り、俺の領域はアサシンの固有結界と押し合いをする事なく、一瞬で消えて、未来の俺の体を無数の剣で串刺しにした。
「あがっ!」
「縛りの時間より十数分早いが、ここで一旦引く。生き残ってたらまた、会おう。」
そう言って俺はこの場を後にするのだった。