アシュラVSヴァルアのバトルは引き分けで終わった。アシュラが過去を打ち上け、二人は打ち解けライバルとなった。
アシュラとヴァルアの本気のバトルが終わり、二人とも全快。キラの治癒があるとはいえ、あまりの回復の速さに治療したキラとシルヴァが引いていた。しばらくはベッドにいたものの、やがてひまーと言い出したアシュラともう良いだろと筋トレを始めたヴァルア。カルナたちもさすがに苦笑した。
「で、シャカ。お前もう少しここにいるのか?今日泊まって帰るのか?」
「良ければホテルを手配いたしますが?」
「フルールには三日ほど滞在したいと思っている。もう少し観光したいしな。フレアフルールは宿泊できると聞いたが」
「もしかしてウルさん?」
フレアフルールのことを大体調べてくれていた優秀な弟子にして秘書。その男が宿泊できることを教えていたのだ。それなりの大浴場もある。泊まるには困らないし、むしろ満喫できる。
「ふふっ、私のおもてなしの腕をお見せ致しましょう」
「楽しみだ」
キリヤはその日、完璧すぎるおもてなしでシャカとヴァルアを心ゆくまで楽しませるのだった。
そして翌日、シャカはあまりにも自然に溶け込むようにカウンターに向かった。
「おはよう。ヴァルアは?」
「アシュラの鍛冶屋に行った」
あのあと、アシュラは店に帰りフラウとライトの武器造りに取り掛かった。まともに出てくるのは果たして何日後になるのか。そしてヴァルアは、剣や鎧を使う者として、鍛治職人がどんなふうに武器を造り上げていくのかを見たいらしい。
「ところで、キリヤはどうした?」
珍しく困った様子で手元の依頼書を見ていた。そして、その依頼書についてきたという手紙。
「カルナさんとジークフリートさん宛てのお手紙のようでして。それからこの依頼も」
「その依頼がどうした?」
「お二人をご指名のようですね」
二人はギルドのメンバーのなかで最も実績が大きいといってもいい。二人を指名してくることは何も珍しいことではない。二人同時はあまり聞かないが。
「依頼の内容は?」
「えっと・・・お茶会がしたいとのことです」
ここにアシュラがいたら、お茶会?何それ何かの隠語?とか言ってくれただろうが、あいにくリアクションをしてくれる人はここにはいない。静かに全員が困惑していた。キリヤが困っていた気持ちがわかった。
「お茶会にフレアフルールの最高戦力を招くのか」
「何を企んでいる?」
「そういえばお手紙の内容は?」
勝手に封を切るのはさすがにはばかられたから開けていなかったのではなく、そもそも切れなかったのだ。
「封を切れない?」
「呪いか?」
「触れてみるか」
カルナは一切躊躇なく手紙に触れた。その瞬間カルナたちの周りにふわりと光が広がった。カルナが触れるまで開けることもできなかったそれが自動的に開いた。
「内容は?」
「同封した羽を二人になった状態で目の前に翳せ。その先で君たちを待つ。前向きに考えてくれると有難く思う」
カルナが触れなくては手紙を開けられなかったのだ。二人にならなくては目的の場所に行くことすら出来ない可能性がある。
「優先して受けてほしいというわけではないらしい」
「なるほど。自分を何よりも優先しろというタイプでもなさそうだな」
「そのようだ」
「暇つぶしがてら話し相手になってくれないかという依頼なのでしょうか。本当に息抜きのつもりですか?」
しかしキリヤが、今のところカルナたちが受けるレベルの依頼は来ていないと言っている。依頼主が何を考えているのかは知らないが、何かしようとして来るならこちらで対処するだけのことだろう。考えている間にキリヤがハイリを呼んできた。
「マスターどうしましょうか」
「ふむ・・・息抜きにでもゆっくりお茶もいいかもしれないな」
マスターハイリは警戒していない様子だ。やりたい任務があるわけではないのなら受けてみてもいいのではないかと言った。
「ふむ・・・何か困っていることがあるのかもしれん。オレは行こう」
「俺も行く。助けを待っているのかもしれないからな」
カルナとジークフリートは、相手が何を考えているのかわからなくても行くつもりでいた。二人は頷くとキリヤに視線を移す。キリヤは承認印を押した。それを確認すると、カルナとジークフリートは別室に移動した。
カルナの部屋に移動した二人は封筒から羽を取り出す。
「導け」
短く鋭くそう呟くと、羽が眩く輝き二人を包み込んだ。
ー2ー
光が弾けると同時にカルナとジークフリートは大地に降り立った。目の前に広がる景色に二人は目を見開いた。
「なんだここは・・・」
「花園か?」
果てしないほど広がる美しい花園。この空間が持つ空気は澄み切っており、吹く風はすべての汚れを洗い流してしまえるほど清らかで、仰いだ空は目を凝らせば天界さえ見えそうなほど透き通るような青だった。普段暮らしている街や任務で行く街のなかでこんなにも闇の気配がしない場所は初めてだ。
カルナとジークフリートは、珍しく迷いのようなものを感じながら足を踏み出した。美しい花を踏まないようにと無意識に考えているのか。戦うという選択肢すら奪われるような場所だ。
二人がしばらく歩いていると、唐突に広い小さめの神殿にさえ見えるガゼボが見えた。
「あれは・・・」
ガゼボの中心に円卓があり、卓上には色とりどりのスイーツが並んでいた。真っ白なテーブルクロスと小さい玉座かと思うような椅子が三つある。本当にお茶会をするつもりなのか
「早かったな」
「!」
二人はほぼ同時に翻った。そこには鮮やかなドレスにも見える紫色のローブを纏う何者かがいた。どんなに気配遮断されても空気の揺らぎで接近に気付くことが出来る二人が、剣を持っていたら刺されていたであろう距離まで近付いているのに気づけなかった。
「貴殿は・・・」
「お前は、カエン鉱山にいた男か?」
「そうだ」
カルナとジークフリートが警戒したのは一瞬だった。一瞬で十分だった。彼が纏う雰囲気があまりにも清廉で、この空間と同じものだった。人の心が見えるキラとミラが懐いたことに納得する。彼が纏う雰囲気から感じたのは慈愛。なんの敵意も感じなかった。
顔は見えないが、声から判断するに青年だと思われる。
紫色の青年は、二人の横を優雅に横切り卓上の花瓶に鮮やかな花束を生けた。
「座らないのか?」
「あ、ああ」
二人は花のおかげかようやく肩の力が抜け、ゆったりと椅子に座った。
「本当に茶会と雑談だけなのか?」
「そうだ。ここで戦えるか?君たちは」
「まるでその気が起きないな」
そうだろうともと笑みを浮かべているのだろうと分かる声音で肯いた。
「まさかこうも早く受けてくれるとはな。感謝する」
「受けた依頼は出来る限り早く動くようにしているからな。間に合わないなどということがないように」
「ほう。それは素晴らしい」
お世辞ではない。本心から褒めている。こちらがくすぐったくなる。
「なぜ俺たちを指名したのか聞いてもいいのか?」
「ああ。できる限り何でも答えよう。君たちを指名したのは、私と縁がないからだな」
「ふむ、まあそうだろうな」
思った以上にはっきり言われたが、彼との縁があるとは言えないことは事実だ。キラとミラにとっては命の恩人で、シャカにとっては師匠のような存在。
「アシュラとキリヤは?」
「当然縁がある」
「縁があることになんの問題が?」
「彼らはようやく穏やかな日常を送れるようになっただろう?まあ、キリヤはまた別か。私はこう見えて狙われている身でな」
「なに?」
心地よい穏やかな声音から発された言葉は想定外としか思えない。あの浄化の力を利用したいものがいるのだろうか。欲しいものもいるのかもしれないが、仮に六大同盟から狙われているとすれば大問題。
「せっかく得た穏やかな日常を私のせいで侵されてほしくはないからな」
「貴殿を狙っているのは何処の人間なんだ?」
「冥界府・・・だったか。私の浄化はキリヤの天聖とは違う。こちらは神聖。もしくは秩序」
神聖と秩序。彼の言う秩序はサーヴァントの特性とは違うもの。魔術師を構成する属性のこと。その反対と言えば混沌。
「お前は神なのか?」
「そうだ」
この世は神代が終わった。そのはずなのだが、1人の神があちこち動き回って浄化している状況。世界に異変が生じているとでも言うのか。しかし、キラとミラが虐げられていたおよそ百年前の時点で彼は地上に降臨している。
「確かに神代は終わった。多くの神界が世界ではなく地上に住む者から離れたからだ」
神と地上に住む者の戦争が勃発。その戦争に彼は参加しなかった。人と世界の味方だったのだ。半神半人だったが生まれた時は人間としての性質の方が多かった。しかし結果的に彼は純粋に神になったが、人への愛情は深かった。
「まぁ私も一応は彼らの通りにはした。その後に私は修行をした」
「修行?」
「そう。自分の神界を創造するための修行だ」
考えもつかない方法で、彼は人を救い浄化するために降臨した。出来ないなら自分の世界を創ればいい。とんでもないことを言っているが、それにより救われた者があまりにも多い。
「話を戻す。あの霧といい鉱山の怨みといい、あれを穢れという」
「穢れ。その穢れは神聖属性の浄化魔術でなければ消せないということか」
「話が早いな。そういうことだ。そしてその穢れを蓄えている組織がある」
「・・・冥界府」
「ご明察。冥界府はどうやら世界を黎明期に戻したいように思える」
救済者の推測だが、冥界府という組織はどこかの神界の神の命令を受けて動く組織であり、世界を神代の頃に戻すために必要となるのが穢れではないかということだ。世界の黎明期は汚染された空気がそこかしこに吹き出し、人に害を及ぼしていた。現代の人間が耐えられるものでは無いだろう。
「もしくは冥界を甦らせるためなのかも知れない。さすがに探り切れなかったが」
「十分だろう」
「ところで私からも君たちに聞きたいのだが」
「なんだ」
「君たちはこの世界の出身ではないな?」
二人は弾かれるように彼を見た。彼は、カルナとジークフリートがこの世界の人間ではないとわかっている。君たちは神界をこの世界にある国のようなものだと思っているのではないか?と続けた。その国によって信仰されている神は違う。神界は一つ一つが世界。
「君たちが住む世界の神界もある。神にとって、自分たちが住んでいない神界は異世界なんだ。だから、地上に住む者のなかに異世界から来た者がいてもまぁいるだろうなくらいしか思わない。囲ってどうこうみたいなことは考えていないので悪しからず」
異世界から来たことに関して何も聞かない。彼も神。一つの世界を創造した。時に違う世界の神が自分の世界に来るようなこともある。人間から神になったが、精神性は正しく神のもの。本人からすれば不服なのかも知れないが。
「何故異世界からとかそんなことには興味がない。私が聞きたいのは、君たちが住む世界の歴史とか文化とかだ」
顔が見えていたら輝かせているのだろうと思うほど声を弾ませた。彼が二人を呼んだのは、神である自分が降りることができない世界の話を聞きたかったからなのかもしれない。
カルナとジークフリートは、あくまで自分たちの歴史を話した。救済者の好奇心が少しは満たされたのかもしれない。二人は口数が多いわけではないし、言葉数も少ないが聞いている彼は楽しそうだった。最初何を警戒していたのかと思うほど。穏やかな時間が流れた。
「さて、私の我儘に付き合わせて悪かったな」
いつの間にか用意されていたお茶は飲み干してしまったらしい。あとスイーツももらった。
「これは土産だ。あと、これはギルドとやらに飾っておくといい」
おそらくケーキが入っていると思われる大きい箱と、小さな木箱。もう一つは桐の箱。神から土産を持たせてもらうことになるとは思わなかった。
「それと・・・シャカに言っておいてくれ」
「シャカに?」
ふと思い出す。彼はシャカとヴァルアの師匠でもあったのだ。魔術を教え、秘術を教え、武術を教えた。そんな彼からシャカへ
「探している者は、黒と金の城がある国にいる。見た目はまぁ、アシュラの店を参考にすればいい」
「伝えておこう」
「よろしく頼む。さて、君たちをギルドに帰す。目を閉じろ」
カルナとジークフリートは、救済者が放つ優しく温かい光に包まれた。
そして目を開けると
「ギルドか?」
「ああ。オレの部屋だ」
無事、二人はギルドに帰還した。夢だったのではないかと思うような心地になるが、持っている箱が現実だったことを示していた。優しく甘い香りがふわりと広がった。
次回予告
戻ったカルナとジークフリートは、アシュラとヴァルアも呼び出し救済者との話を伝えることに。はたして、シャカが探し続けているものとは