光雪国に上陸したシャカは、ついにシャオと再会し、親子の幸福な時間を過ごしたのだった。
親子の時間を静かに見守っていたカルナたち。シャカとシャオは、仲良く手を繋ぎカルナたちのところに帰ってきた。
「おかえり」
「良かったな。シャカ」
「ああ。百年、長かったよ本当に」
ホッとして、少しだけ肩の力が抜けたような表情を浮かべるシャカ。一方、父上の友だちなのかな?と思っているシャオはカルナたちを見ていた。
シャオは、肩のあたりで切り揃えた艶やかな濡れ羽色の髪、父と同じアイスブルーの双眸、目は星を散りばめたようにキラキラと輝かせた美少年だ。服は何故か狩衣。高貴な身分だということなのか。しかし、その狩衣からは確かに魔力を感じる。
「シャオ、自己紹介を」
「僕はシャオ。よろしく頼むぞ」
「よろしく」
ニッコリ笑って名乗った。父よりも表情は豊かに見える。天真爛漫、希望に満ち溢れているような目でカルナたちを見る。攫われた身と聞いていたが、良い人に拾ってもらえたのだろうか。
「あなたを保護してくださった方がいらっしゃったのですか?」
「そうだ。あ!お願いがあるんだ」
どこか焦っているような表情。コロコロ変わるおかげで何を考えているのか分かり易い。
「ここで話すのか?それともなんか陣地でも作るか?」
「例の花園出してくれないかな」
「師匠を便利枠で呼び出そうとするんじゃない」
「そうですよ。やってくれるとは思いますが、それはそれとしてです」
全員やってくれそうだと思っているし、花園なら間違いなく誰にも聞かれずに済む。
「父上には師匠がいるのか?」
「ああ、いるよ。とても強く優しい人だ」
「その人を・・・この国に呼べないだろうか」
シャオ本人も相当無茶なことを言っている自覚はある。
「オレたちに出来ることはあるか?」
色々終わった後に浄化するために現れることはあるが、この国にそういったものは見られない。ただ、目をつけている可能性は高い。
しかし、今ここにはカルナたちがいる。これまでも救ってきたと言う自負がある。
「話を聞いてくれるか?」
「ああ、無論だ」
そう言って、どこに移動しようかと思っていると突然、白猫が現れた。正確には灰色がかったのオフホワイトの猫。小動物の声しか聞こえない時間が生まれた。
非常に愛らしい姿。何も話しかけてくることはない。カルナたちをじっと見つめたあと、翻りこちらを振り向く。
「付いてこいと?」
しっぽをふわりと揺らす。正解らしい。歩き出した猫を、キリヤとシャオは猫が好きなのか喜んで付いて行った。それをカルナたちも追う。数分ほど歩くと、森の中で開けた場所が出てくる。そこに、まさかのガゼボがある。
「見てた?」
「いました?」
「いや、ここは数日前からあった場所だぞ」
「あ、そうなんですね」
数日前が少し気になるが、話す場所があるならその方がいい。しばらくすると猫が消えていた。キリヤとシャオが残念そうだった。
「さて、話を聞こう」
「ああ。実は光雪国のシンボルである城が何者かに占拠されたんだ」
「え!?元々この国ってこんな感じじゃなかったの?」
「いや、それについては元からだ。でもこの城を占拠した者が結界を破ろうとしているんだ」
国がおかしいことに関しては元から。しかし、城を乗っ取りこの国に害を及ぼそうとしている者がいるのも確かだ。
「そんなことを企てるなんて、相当魔術に詳しいのでしょうか」
「そういうわけじゃないと思う。城には中心にミスリルというものがあるんだそうだ。それが結界を維持してるらしい」
およそ五百年前、この国にやってきた旅人がこの国の未来を案じてミスリルを渡した。そのミスリルは水の属性を持つという。旅人はそれを国の中心に置くといいと言って置いて帰った。
そのときにミスリルを置くために建てたのが光雪国のシンボル
「そのミスリルが欲しいと」
「だと思う」
「でもよくこの国に入って来れましたね」
「魔術で空を飛べる奴だったみたいだ。そいつを王が歓迎する感じになった」
「えぇ、なんでまた」
人を疑うということを忘れてしまった王は、ミスリルを目的としてここに来たであろう者を歓迎したばかりか城に上げてしまったのだ。危機感があまりにもない。
「王も国民も信じているみたいなんだ」
「なにを?」
「旅人がまたこの国に来てくれるって。そしたらまた何か恵んでくれるんじゃないかって」
旅人のせいでは決してない。しかし、そのミスリルがあることで国民に力が無くても努力をしなくても平和でいられることを知ってしまった。
今回城を乗っ取った者は、そんな旅人を騙って城に入り込みミスリルを奪取しようとしている。
「オレが旅人なら二度と来ないよ」
「俺もだ。その旅人も信じたんじゃねぇかな。この力でこの国に明るい未来を築けるんじゃないかって」
「その結果がこれ」
数百年前までは血の雨が降る国とさえ言われていた国。その時代の時点でミスリルはあったが、自分たちの力で守っていた。島に豊かな資源が眠っており、それを奪うために侵攻してきたのを食い止めるために戦った。
しかしミスリルを贈られた王の玄孫の時代になった頃、光雪国は変わってしまった。何もしなくても海が守ってくれることを知ってしまったのだ。
「で、その敵にとって地獄みたいな状況にした戦王とまで言われた王さまの玄孫が、今の人」
カルナたちは納得してしまった。
先代までは戦って自分たちで国を守り、ミスリルにより生まれた水源を守る。豊かな資源とは枯れない水を放出するミスリルのことだったのだ。ミスリルの存在はさすがにアシュラやミラでも調べ切れない。そんなものを国外に打ち明ける理由がない。
台風が多いからか飛行機がない現在。それまで船で攻めていた敵対国も自然の脅威には抵抗できない。現王本名カゲユキはそのことに気付いてしまった。カゲユキが水属性の魔術師でもあったせいでそのミスリルの効果がより強くなってしまった。
「そんなミスリルにさらに力を加えちゃったんですか?」
「そういうこと」
「それを他国に持っていったらどうなる?」
「洪水とかなりかねないよね」
「実は旅人はこう言ってた。このミスリルを置いた後、決して手を出すな」
カゲユキの代までその助言を忠実に守っていた。しかしカゲユキは思ってしまった。そんな旅人がそう言ったということは力をさらに強くできるのでは、と。
「そんなカゲユキ王が僕を拾ってくれた育ての親みたいなもの。確かにいい人で、感謝している。だけど、正しいことをしたとは思わない」
シャオはこの若さで良い部分はあるが、それはそれとして悪いところもあると感情とは別で冷静に見ていた。彼の本質の一つである聡明さがこの国の異常性に気付いた。
「なんでここの国民に欲がないのに、ミスリルの効果は強化したいって思うんだよ」
「確かにそこは分からないな」
「ぶっちゃけ、ミスリルの奪取を阻止しつつミスリルを破壊するが最適解じゃないのって思うんだけど」
「オレも同意見だ」
ミスリルを奪われず、ミスリルによる人が怠惰にならない方法。もはや破壊するしかないのでは
「これだけ水があったら枯れないでしょ、まず」
「そうですね」
「ふむ・・・カゲユキ王と話しをして同盟関係を結び援助、だろうか」
怠惰な王と、それに付いていく国民をどうにかするには、援助しつつ指導が近道なのではと。目を覚まさせるということ。
「カゲユキ王は私にとってもシャオを助けてくれたという一点では恩人ではある。この国を放っておくことはできない」
「そうだな」
「じゃあ、流れとしてはミスリルを奪取する奴を対処したあとにミスリルの破壊でいいんだね」
乗っ取っている人間の対処はどうにかなるだろうが、ミスリルの破壊が一番難関なのではとシャオが言った。
「ところでシャオ。乗っ取っている者の顔は分かるか?」
「写真があるぞ」
シャオはシャカに写真を渡した。なにか必要なのではと思っていたのだ。つくづく聡明な子だと感心する。
そして、その写真を見たシャカは目を見開く。その瞬間、カルナたちの周辺が一瞬で凍り付いた。シャカから溢れる怒気。
「シャオを奪い、我が妻を殺害した張本人クムロだ」
カルナたちも驚愕した。
「・・・クムロの対処は私がやる」
誰も反対しない。頷きすらせず、返事もなし。それが肯定を示していた。
ー2ー
カルナたちは、森を抜け城へと向かう。
「シャオくん!」
「どうした?」
一人の住民がシャオに駆け寄る。これまで余裕を見せ続けていたような住民の焦燥の顔。
「城が襲われてる!」
もうミスリルが奪われたのか?カルナたちはその住民の声を聴き、加速し向かう。そのとき、消えていた白猫が現れる。優雅に歩いていた白猫が一声鳴いた。その瞬間光が現れカルナたちを包み込む。カルナとジークフリートが既に経験している光の温かさを感じた。直接手を下せない代わりに出来る限り手を貸してくれるらしい。
「ありがとう」
光が消えると、カルナたちの前に聳え立つ黒羽城があった。
「白猫さん、私に教えてください」
キリヤは倒れそうな白猫を抱き上げると強い眼差しで見つめて告げる。キリヤは物言わないものの声を聴くことが出来る。風や海や動物などと話すことも可能だ。
「その子はなんと?」
「ミスリルの場所まで案内してくれるそうです」
「わかるの!?」
「僕でも知らないのに?」
「ミスリルから溢れる魔力をひげで特定できるみたいです」
おそらくキキョウが出した召喚獣。住民からすれば野良猫か放し飼いにされているネコにしか見えない。この国の様子を見るには一番違和感がない動物だ。
早速門まで走る。そこには門番が倒れていた。その門番たちは速攻でキラが回復させる。それを確認すると再び白猫は進む。
「やっぱ敵いたか!」
怒るネコの低い鳴き声が響くと、何故かカルナたちが眩しくならないように発光。目眩しをすると鋭い爪で目潰し。猫パンチで飛ばす。
「つっよ、あのネコ」
「白猫さん、あまり力を使ってはいけません。戦うのは私たちにお任せ下さい」
キリヤが優しく微笑むと、白猫は考えるように一瞬目を伏せ、カルナたちを見据える。
カルナたちは強く頷く。すると短く鳴いた。
「任せた、だそうです」
「ところでその子は名前はないのか?」
「ユウガオさんだそうです」
「お花好きなんだね」
あれだけの花園を見たカルナとジークフリートは納得していた。
「師匠のネコなせいで大丈夫だ、とか言ってくると思ったけどよかったぜ」
「ボクも一瞬心配でした」
狙われているのを一人で何とかしようとしている時点で、人に任せるということを知らないのではと思っていたが、案外柔軟なのかもしれない。
「建物を傷つけないように倒さなきゃですね。ね、アシュラさん」
「わかってるし」
少し不貞腐れながら建物を切り付けないよう殴り飛ばしていた。
「退け」
低く告げればシャカに近づこうともしなくなる。代わりにカルナたちに襲い掛かる。魔力を放出してなお寄ってくる者は見向きもせず、その場で出した氷のレイピアで凍らせ砕く。
「もう、邪魔!」
カルナたちは城に散らばる敵を容赦なく眠らせる。
体力がないシャカは少し息を切らすが、それをネコが動く前にキラが回復させる。虎は目を細めると、白い虎に進化する。息を切らす度に回復させるのはキラへの負担が大きいからとシャカを背中に乗せる。
「ありがとう」
先ほどまでの可愛らしい声はなりを潜め逞しい低い声で鳴く。もはや能力はいらない。その鋭い爪で床に叩きつけ気絶させていく。
「オレたちいらないかも」
「シンプルにフィジカルじゃないですか」
体長三メートルの白い虎が突進したり爪を振り下ろしたり時に首を噛んで引き摺ったり、あの救済者キキョウの召喚獣とは思えない容赦のなさ。キラとミラは自分が助けられた時のことを思い出す。
「城の中が血の海だな」
「スピード上がってるよ!シャカさん酔っちゃう!」
そういうが、シャカの感情を読みスピードを上げる。
「あ、酔い止めのドリンク飲む?」
「やめておけ」
「余計に酔う」
カルナとジークフリートがすぐに止める。キラが酔い止めの魔術を掛けた。治癒魔術は何でもありらしい。
しばらく敵を叩きつけながら走ると急ブレーキをかける。白い虎の目の前には襖がある。
「この先にミスリルがあるんだな」
短く鳴くと腕を振り上げる。完全に破壊する気のようだ。入るぞと言うかのようにもう一度短く鳴くと、右腕を振り上げた。
次回予告
クムロを倒し、かつミスリルを破壊するため黒羽城に乗り込むカルナたちは、今にも奪取しそうなクムロと相対する。そのとき、ついに世界最強の魔術師シャカがその力を振るう。