光雪国の闇を知り、シャオを攫い、シャカの妻を殺した犯人の陰謀を知る。陰謀を阻止するため、ミスリルを破壊するため黒羽城に乗り込む
虎が爪を振り下ろし、襖を破壊する。ミスリルがある部屋についに踏み込んだ。
「あいつがクムロ?」
「ああ」
天守閣の最上階にあるだだっ広い部屋には、想像以上に巨大な美しい瑠璃色の水晶が蓮華座を思わせる黄金の台座に乗っていた。
その水晶の前には長身痩躯に黒いスーツを着ている男がいる。あれを持ち帰るのは不可能としか言いようがないが
「天井たっか、ミスリルでっか」
「あの男・・・神性を感じる」
「神の力を借りた、と。冥界府かトレミーか、どっちかだな」
これまでの敵とは違う。明らかにただの人間ではない。相手は神の力を得ているとはいえど、人ではある。
「シャカ。オレたちは周りの人間を対処する。遠慮なく戦え」
「承知した」
虎はゆっくり体勢を低くしてシャカを下す。連れて来てくれた虎を撫でると、一歩前に踏み出した。
そんなシャカを後目に、カルナたちは周りにいる人型の影に目を向け一斉に武器を構えた。
「ただの人間か?」
「ユウガオさん、わかりますか?」
虎に対してユウガオと名前で呼ぶことに違和感がある。先ほどまでの恐ろしい攻撃を凄まじいスピードで叩きつけていた虎である。ユウガオは逞しく鳴くと、キリヤが通訳をする。
「暗黒生命体?なんですか、それ」
「それってランクどれくらい?」
「6だそうです」
ギルドに所属している魔術師のなかでも上位のランクだ。謎の生命体だが、カルナからすればその生命体がどんな存在であろうと倒せるならそれでいい。
「いつもどおりやっていいってことだ」
「そういうことです。念のため、城が破壊されないように結界を張っておきますね」
「頼む」
「はい」
キリヤはカルナたちの前に躍り出る。
「夜を晴らす聖なる歌を歌いましょう」
「ん?ユウガオ、どうかしたか?」
目を細め見守るような表情でキリヤを見る白虎。シャオに問われ、何もないというふうに首を振った。
「結界宝具か?」
「こんなのあったっけ?」
カルナたちでも見た覚えのない新たなキリヤの宝具
「
城を傷つけないための結界。周囲の様子は全く変わらない。白虎が叩き破った襖が元に戻っていた。この結界の力は絶対の修復力。
「壊しちゃっても大丈夫ですよ」
「ところでカゲユキ王は?」
「自室だと思うが」
シャオ曰く、強力な結界に守られている自室に避難しているのでは、とのことだ。
「んじゃ、遠慮なく!」
カルナたちは一斉に散らばり、周囲の影へ向かう。
「ブラフマーストラ」
炎の流星のように飛んでくる槍が周囲の敵を一掃する。
「バルムンク!」
翡翠色の光の束が袈裟切りで切り裂く。
「漆黒十二ノ太刀」
黒一色の刀を突きさしすべてを爆破し、影を破砕。
「「ミラージュ・バレット」」
双子が無数の透明な弾丸で射殺。
「アルバ・バラード」
緋色の風が容赦なく影を弾き飛ばす。
「ラージャ・カーラヴィマーナ」
群青の戦車が敵を轢き潰す。
「
薄氷色の炎が敵を凍らせ、凍らせたものを白虎が破壊していく。
カルナたちがエンドレスで現れる敵を容赦なく殲滅していく。止められる個体は一つとしておらず、恐ろしい強さを持つ敵にクムロが警戒を強め、生命体を強化する。そのとき、嫌な予感がしたのかクムロは体を横に投げ出す。自分がいたところに巨大な氷柱が飛んできた。
ぞわりと背中が粟立つような感覚がした。目の前にはダイヤモンドダストのような氷の粒を含んだ魔力を放出させ、周りを凍てつかせながらゆっくり近づいてくるシャカがいる。
「神性?」
「私は一応人と神のハーフだからな」
テノールは身を潜め、地を這うような低い声が飛んでくる。シャカは人格に難がある母と偉大で強い父神の間に生まれた。人としての性質が8割なため神性は弱い。しかし、戦闘の際に神性が膨れ上がることがある。それが今だ。
「なぜシャオを連れ去った?」
「この国の王位継承者が必要だったからだ。お前たちは知らないだろうが、この国は冥界府の傘下の国となった」
眉がひくりと動き、少し動揺した様子のシャカとカルナたち。
「まあ、この国の王も住民も知らないだろう。ユキカゲはこの国の権利譲渡の内容をとくに読みもせずサインした」
「アホ過ぎない?」
アシュラがたまらず声にしてしまった。何も読まずに同意書にサインしてしまったのだ。その結果、冥界府がこの国の方針を決めることになってしまうことになった。
「それとシャオになんの関係が?」
「王位継承者が必要って言っただろう?カゲユキは子宝に恵まれなかった。それでは我々も困る。強い魔術師の子を用意しなければならなかった。そしたらいた」
既に世界最強レベルだったシャカに息子が出来たらしいという情報を得た。シャカが国を出ている間に攫うという計画を立て実行。クムロはおびえるシャオを城の前に放置。門番が王に報告し、保護され今日まで育った。ただ、愛情を注がれて育ったというわけでもない。
子どもが好きであるはずのカゲユキが、聡明なシャオを抱きしめたり撫でたりすることはなかった。カゲユキはあくまで、純真な子どもらしい子どもが好きなのだ。
「そうか」
絶対零度の魔力がさらに放たれる。
「もういい。お前に聞くことは何もない」
「・・・」
この空間の気温が氷点下までいき、屋内なのに床に霜が降る。
シャカは杖を戻し、氷のような透明な剣が現れる。シャカの最強の武器にして相棒『
「術式・氷の世界より」
粛々とした雰囲気を纏い、シャカが唱える。霜が降る床を覆う氷が広がっていく。水鏡色の氷はやがて床だけでなく壁も覆っていく。
シャカが纏う雰囲気は明らかに何かを滅ぼすためのもの。誰かを殺すためのものだった。
クムロは床を蹴る。
「くっ」
クムロはシャカよりも筋力が高い。しかし、筋力が自分より劣る氷結の王に力で負ける。シャカは人より少し劣る筋力を魔力で補って戦う。
「氷牢」
小さく唱えると、クムロの足が氷に拘束される。拘束され、前のめりになりながらも至近距離で構える。しかし
――ピキンッ
今度は氷の鎖が腕を拘束し動きを封じる。さらに
――ゴキッ
鈍い音がした。クムロの肩が外れた。体を裂くかの如く引っ張られ、肉の筋がブチブチと切れる音がする。あまりの痛みに聞くに堪えない絶叫を響かせた。
クムロはシャカに指一本触れることが出来なかった。
「私の子に手を出し、妻を手を掛けた時点で貴様は間違えた」
静かにクムロに突き刺すような鋭い言葉の刃。シャカは後退してクムロから距離をとる。
――氷界の主は詠う
――水鏡色の世界は闇をも殺す
――その魂で償うがいい
殺意。チリチリと痛いほどの冷たい風がクムロの肌を刺す。シャカは天を仰ぐように手を広げる。そして
――
氷で出来た蓮がクムロを覆い、そして粉砕した。クムロは遺体すら残されることなく死亡した。
世界最強の名は伊達ではない。神性を持つ者さえも相手にならない。敵にする相手を完全に間違えた。一方、魔力ではなく、体力が無さすぎるためかそれとも消耗する魔力が多かったのか、シャカがふらつく。少し呆れた様子の白虎が支えた。
「師匠の苦言が聞こえてくる・・・」
吠えもせず、微動だにしないがこの白虎のマスターからの厳しく冷たい言葉が脳裏に響く。
「体力少なくない?」
「お前に言われたら誰も何も言えなくなるからやめろ」
クムロに殺意を向けていたとしても体力少なすぎないか、と最高ランクのスタミナを誇る男の言い分に反論出来る者は誰もいない。
「シャオ、父親のところに」
「ああ」
シャオは嬉しそうに頷くと父親を支えた。シャカとしては嬉しいが複雑な状況だ。息子には最後までカッコいいところを見せていたいのである。体質はどうしようもないのだ。
「ユウガオさん、そんな顔をしないであげてください」
本気で呆れた顔をしている白虎をキリヤが撫でる。次逢った時にキキョウになんといわれるのか想像するだけで身震いをする。
「これ、どうやって壊すの?力づくでいいの?」
「待てバーサーカー」
「ヴァルア、オレをバーサーカーって呼ぶのやめてくれない?」
普段は明るいが思慮深く真面目なアシュラが、戦闘時は戦略も何もないことを言ってくる。おそらく策を立てられるのに。
「ユウガオ」
「ご存じですか?」
白虎は主人に聞くように沈黙する。
「ミスリルを破壊するときの衝撃波は城を破壊してしまうので、力づくは絶対にいけません」
「セーフ」
止めたヴァルアが結果的に正解だった。
「衝撃波が発生しないようにする方法は?」
「まずミスリルを覆う結界を張る人と、攻撃する人を分担します。その後、カゲユキ王が力を加えたところが僅かに薄くなっているのでそこを集中攻撃」
水の魔力とミスリルの魔力が同じ性質を持つために穴を開けることが出来たのだ。カゲユキ王はそのミスリルの穴を雑に修復した。
「え・・・カゲユキ王ヤバくない?」
「一歩間違えれば壊れていたということか」
「そりゃ手を出すなって言うわな」
「もはや渡したことすら間違いだった説がある」
ジークフリートの言葉に頷く面々。何故か白虎が小さく鳴いた。それに気づいた者はカルナたちの中にはいなかった。
「キリヤさん、結界はよろしくね」
「結界は既に張っておりますが」
キリヤは、城が壊されないようにと展開し続けてくれていたのだ。カルナたちの攻撃で壊されかねないと思ったから張っていたものだが、まさかミスリルを壊すためにも必要だったとは
「どれくらいの強さでやる?強化しとく?できるだけ魔力を消耗させたくないでしょ」
「そうですね。おや、あなたってそのような力お持ちでしたっけ?」
「やったことないけど、頭の中でイメージしてるやつがあるんだよね。試してみる?」
「ふっ、それは楽しみだな」
「んじゃ、やるね」
それまで軽薄な笑みを浮かべていたアシュラが笑みを消し、その眼に炎を灯し、十二ノ太刀とは違う緋色の炎を纏う剣を出現させる。シャカの氷を解かす業火がアシュラの周りを燃やす。
「
緋色の炎の剣がカルナたちに貫通するように体内に入り込む。その瞬間
「これは・・・」
「熱いな」
体中が燃えるような熱さ。当然カルナたちの体内を燃やすことはない。自分たちの力が一気に底上げされる。
「これで普段の一割の魔力で最大威力で撃てるよ」
「すげぇな」
「どうも」
アシュラが照れたらしく顔を背けた。
「やるぞ」
「ああ」
カルナが槍から弓に持ち替える。シャカ以外が武器を構える。
「シャリア・クンダーラ!」
矢を放つとほぼ同時に全員の最大威力の宝具がミスリルに向かって放たれた。ピキピキと亀裂が走っていく。そして、眩い光が一気に漏れ出し破裂した。
その瞬間カルナたちは衝撃に弾き飛ばされ、部屋を通り越して城から投げ出された。
放り出されたカルナたちはしっかり着地する
「なんとかなったな」
「ミスリルやっば」
キリヤの結界がなければ国ごと巻き込まれてもおかしくなかった。そして、それまでカルナたちを導いた白虎が元の白猫に戻った。
「師匠のところに帰るのか?」
可愛らしく鳴いて頷いた。シャオと良いコンビネーションを発揮していたのだが、主人はあくまでキキョウだ。シャオが寂しそうにしていた。
「見送ってあげよう。シャオ」
「うん」
シャオとずっと通訳していたキリヤが手を振ると、ニコリと笑って虚空に向かって跳んだ。
「マジで助かった」
「あとのことはカゲユキに任せるのか?」
「あとで私がどうにかしておく」
「少し待っていてくれ」
シャオはそう言うと城に戻り、待っていると帰ってきた。
「育ててくれた人だからな。お礼してきた」
「偉い!」
思わずアシュラが拍手しながら言う。義理も忘れない。お世話になった育ての親に別れを告げ、シャオはシャカのもとに帰ってきた。
「では、帰ろうか」
カルナたちは踵を返し、手を振る住民に主にアシュラとシャオが手を振りかえして光雪国を出国した。
─2─
そして・・・
紫の花びらがひらひらの舞う花園、そこの一角にある白い壁と紫色の屋根、紫と青のステンドグラスが美しい城の一室にて
光雪国からカルナたちが出て行くのを見届けたのは、紫色のドレスのようなローブを身につけ、フードを目深に被るキキョウだ。見えるのは透き通るような白い肌だけだ。
彼の膝には白猫が寛いでいた。ユウガオを優しく撫でる。
「ユウガオ、大層シャオを気に入ったように見えるが」
「にゃあお」
可愛らしく鳴いて主人を見つめるユウガオ。
「あの子の傍にいるか?」
一瞬驚いたように目を丸くすると、すぐに輝かせて高い声で鳴いた。
「まぁいいだろう。あの子との相性も良さそうだったしな。たまに帰ってきてくれればいいさ」
頷くようにまた一声。ユウガオはキキョウの膝から降りる。
「いってらっしゃい」
キキョウがそう言うと、ユウガオは光に包まれシャオのところへ
「ふむ・・・寂しくなってしまった」
キマイラやグリフォンやさまざまな幻獣や地上にもいる動物がこの花園にはいる。なんとも不思議な世界だ。
「さて、光雪国に出向くか」
光雪国に立ち寄った旅人はキキョウだ。ミスリルを渡した国がこんなことになるとは。賢明な王が続いていたためか油断していた。
「尻を叩くしかあるまい」
これくらいは許されるだろうと判断し、キキョウは光雪国に赴いた。
次回予告
あとのことはカゲユキ王に任せることにしてカルナたちは帰国。帰って来て落ち着いたカルナたちに、ハイリがある提案をする
――――
登場人物紹介
シャカ
スイレン国の王にして、ギルド『ロータス』のマスター。国民から非常に慕われるカリスマ性の持ち主。世界最強と名高い魔術師でありながら、剣の扱いにも長けている。生き別れとなっていたシャオを取り戻し、心の平穏を取り戻した。
属性:光、氷
武器:氷王の蒼剣《エイス・クォーツ》(剣)、氷結の皇帝《レクス・コンジェラシオン》(杖)
クラス:キャスター
ステータス
筋力4
耐久4
敏捷10
魔力14
幸運8
補助宝具
・氷界のカリスマ10
・光輪12
・浄化10
宝具
・闇殺す氷の花《アーパーダヤディ・パドマ》(対神)15
・氷王の薔薇《エイス・ブラッディローゼ》(対城)11
・夜闇照らす睡蓮《ナイトロード・ロータス》(対軍)10
・氷牢10