紫の救世者キキョウと手合わせをし、彼に覚悟を見せつけたカルナたちは、彼からミスリルを破壊する試練を与えられた。そんな彼の素顔はシャカの兄であった。キキョウはカルナたちにミスリルを託し花園に帰って行った。
花園に帰るキキョウを見送ったカルナたちは、ギルドに帰ってくるなりふと思い出した。
「名前聞くの忘れてた」
「ユウガオの大好物聞けなかった」
「まぁ名前はシャカが知ってるだろう?」
「ユウガオはまぁ、ユウガオに聞くしかねぇな」
手合わせの時参加しなかったユウガオは、猫の姿に戻りキキョウが置いて行ったおもちゃ用のラトナで遊んでいる。
「ユウガオよ、君の好きなものはやはりキキョウの手作りスイーツなのか?」
「にゃあお」
可愛らしく高い甘えるような声で鳴く。相棒になってはくれたが、シャオには何を言っているのかは分からない。それでも相性が良いのはシャオの持前の愛され力と理解したいという優しさから来るものだ。
「キリヤ、ユウガオはなんと?」
「甘く完熟した果物のようですね。ブドウのようなものは食べてはダメで、柑橘系は苦手だそうです」
猫だからといってキャットフードは好まない。虎にはなるが肉は好まない。キキョウが持たせた果物が好みで、スイーツにしてくれるのはどちらかといえば特別な時だけ。時々気紛れに作ってくれることがある。普段は専ら食べやすい大きさに切ったリンゴやマンゴーやバナナだ。
「それなら僕でもどうにかなるな」
「良かったですね」
「ああ。キリヤがいなければずっと悩むことになっていただろう。ありがとう」
「どういたしまして」
シャオの純粋な礼にニコリと微笑んだ。
そんな微笑ましい様子を、カルナたちは温かい目で見守っていた。カルナたちとともに見守っていたアシュラは「あ!」と何か思い出したような声を上げた。
「どうした?」
「キキョウさんの本名は?」
「シャラクという。まさか師匠が兄上だったとは。だから私に対して厳しかったのか?」
「そうかもしれないな」
家族であるシャカを死なせないために、敢えて誰よりも厳しく指導していたのではないかと思い返す。
シャカが思い出に耽っていると、丁度良いところにハイリが現れた。
「マスター相談があるので、お時間を頂きたいのですが」
「彼からの依頼か?」
「本人は依頼ではないと言っていたがな」
「一旦、フレアフルールとロータスの同盟ということでよろしいか?」
「私は構わない」
一旦とは言わず、正式に組もうということになり、フレアフルールとロータスの同盟関係が結ばれることとなった。これまでもほとんど同盟を組んでいるかのような関係ではあったが、それはあくまでエクエスとシャカとヴァルアだけの間の話。お互いに助け合う関係が出来上がったというのはかなりの進歩と言える。
「彼からの話を聞かせてもらおうか。彼から聞きたかったが強力な神がこの国に襲来されても困るか」
「シャラクにとってはそれが一番懸念するところだからな」
「彼、頼っているようで頼っていないのではないでしょうか?」
「僕もそう思います」
カルナたちの現状の実力を見て与えてくれた試練であるミスリルの除去。シャラクがしようとしていることのうち、一割かそれにも満たないことを任されただけなのではと思えてならない。
「シャラクさんが、今オレたちに出来ることはこれなんだって判断した訳だし、やるしかないでしょ」
「その通りだ」
「これ以上はエゴになってしまいかねないからな」
カルナたちは会議室に入ると、ハイリにシャラクから聞いた話をした。神妙な面持ちから少しずつ穏やかになっていった。
「承知した。そのミスリルなるものを除去する任務を最優先に遂行することを許可しよう」
「やった」
「では、準備が出来次第出発しようか」
「了解」
快諾したハイリに礼を述べ、カルナたちは各々新たな国へ赴くため準備を始めた。
「ところで、そのミスリルを持っている国はどこだ?」
「あ」
カルナの言葉に全員が呆然とした。持っている国があるとは聞いたが、それがどこかは分からないのだ。
そのときユウガオが動き出し、花園に帰った。そしてすぐに戻ってくる。
「オレたちまだ花園に行かせてもらえないのかな?」
「さぁな」
戻ってきたユウガオは胸を張り、鞄を開けろと言って来た。
「これは?」
「ミスリルがある場所へ導いてくれる羅針盤だそうです」
「アストラル光石の羅針盤かぁ・・・オーパーツ来ちゃった」
アストラル光石が採取できないであろう現代では造ることができない羅針盤。現代は電子地図を使うことの方が多いため、そもそも羅針盤を必要としない。
「この羅針盤を頼りにユウガオに連れて行ってもらうか?」
「でもさあ、シャラクさんやお父さんは、この羅針盤で歩いて色んな場所に行ったんだよね?プチ旅やってみたいかも」
「ふむ・・・なるほど」
「良いと思う」
彼らが見た世界とはまるで違う現代を、息子とその仲間が旅をする。カルナたちも思い返す。任務のために来国するとき、いつも様々な移動手段を用いてゆっくりその道中を見るということがなかった。その道中にも困っている人はいただろう。
「マスター、オレたちはしばらく旅をしようと思うのだが」
「旅?なるほど、世界を知り守るための旅か」
「はい」
「良いのではないか?土産話、楽しみにしているぞ」
ハイリは快くカルナたちを送り出してくれた。この旅が、彼らにとって良い影響を与えてくれるだろうと確信している。
「ありがとう、マスター」
カルナたちは準備を済ませると、しばらく留守にするギルドのメンツに挨拶をした。
「お前らが留守の間は任せとけ」
「うん、任せて」
カルナとジークフリートが属しているセプテットのメンバーが心強い言葉を贈った。セプテットのメンバーも相当な実力を持つ魔術師たちがいる。便りになる成長中の新米戦士たちもいる。
「私も旅をすることを報告せねばならないので一度戻る。君たちの気配を追って合流する」
「承知した」
シャカは一国の王でありハイリと同じくマスターでもある。シャラクもシャカも行くのかと思っているだろうが、その本人が世界を見てみたいと思っているのだからカルナたちには止められない。
「いや、さすがに私は帰るぞ」
「だよな」
世界を見たいが、王としての責務もある。国の守護こそ彼の義務。ヴァルアとシャオを同行させることでフレアフルールとロータスの合同任務は成立するのだ。
「では」と言ってシャカはスイレン王国に帰国した。
「オレたちは行く国を決めておくか」
「ある程度は決めておきたいよね」
旅はしたいとは思っているが、目的地が分からない旅というのも不安が残る。羅針盤とユウガオを追いどこに行くか分からないという状況も楽しいだろうが、これは任務でもあるという前提がある。
「とはいえ、その国はユウガオにしか分からないのでは?」
「それも確かに」
カルナたちはミスリルがある国を知らない。どういう訳かシャラクは国を示してはくれなかった。まるで彼らが旅に行くことを見越しているかのように
「いや、見越してるでしょ」
「ボクも思います」
「じゃあ、行き当たりばったりしかねぇって訳だな」
「そうなる」
かくして、予め目的地を決めておこうという策は却下されたのだった。
「さて、気を取り直してオレたちも出発しよう」
「ああ」
カルナたちは堂々とした面持ちでギルドを発った。
「そもそもユウガオくんがいないと旅できないわけだよね」
「つまり、シャオさんも帰っていたら詰んでいたということですか」
「そうなるな」
フルールを発ったカルナたちは、ユウガオを先頭に歩き出した。勇ましい虎の姿になったユウガオの首に羅針盤を掛けた。何故そうするだけで場所が分かるのかは不明だ。
「目的地までどれくらい掛かるんだろうね」
『ガウッ』
「一日歩き続ければ着くそうです」
「この森を抜けるのか?」
「そのようですね」
祝福するような木漏れ日が自分たちを照らす。機嫌良さそうに走り回る小動物や自由に飛ぶ鳥など、普段じっと見ることがない光景に癒される。
「まだ十キロも歩いてないんだよねぇ」
「そういえば」
カルナたちが歩いている森はシャラクが穢れを祓った場所。そこをゆっくり歩いているためか、後ろを向き目を凝らせばフルールが見える。
「ガウッッ!」
ユウガオが少しだけ低い声で吠えた。何か異変を感じたのか、キリヤをじっと見ている。
「暗黒生命体の気配を感知したそうです」
「案内してくれ」
勇ましく吠えると駆け出した。ユウガオの背を追い、こちらは全速力に近いスピードで走る。数キロほど走ればカルナたちも気付けるほどの濃い穢れの魔力を感じた。
「光雪国に居た奴とは違うな」
「あれが獣型ってやつ?人型と何が違うんだろうね」
「速攻で片付ける」
カルナが飛び出し暗黒生命体を槍で素早く突く。しかし、生命体がドロリとスライムになり地面に落下。その数秒後に鋭い爪が襲い掛かって来た。
「溶けるのか?」
「人型のやつは一撃でやれたましたよね」
「何か弱点のようなものがあるということでしょうね」
「しかしカルナが突いた部分は心臓であったように見えたが?」
カルナが突いた場所は、ジークフリートの指摘通り心臓部だった。しかし手ごたえがあまりにもなかった。
「ユウガオさん曰く、コアは個体によって変わるそうです。この子の眼が示す場所は両目です」
「同時か」
「はい」
「では、確実に同時に打ち抜けるボクたちがやりましょう」
このなかで最もタイミングを合わせられる双子が銃を構えていた。ミラはいつの間にか対物ライフルを造っていたらしい。銃は流石にアシュラの管轄ではない。
「「いくよ」」
スライムがユラリと獣の姿に戻っていく間に双子が装填する。
「やっちゃえ」
アシュラの明るい発射合図に頷いた。双子の新たな宝具だ。
「「
カルナたちの眼でも捉えられない透明な弾丸。ただマッハで何かが横切る風を感じるだけだ。発射された音も聞こえず、着弾した音もしない。敵はただ何もわからないままコアが破壊された。
「えっぐ・・・」
気付くことすら出来ずに破壊されたのだ。生命体は液状化し、完全に消失した。
「どうです?ボクたちの新技」
「凄いです」
純粋な感心。確実に敵を仕留めるという意思で放たれるものだ。さすがにシャラク相手にはやっていない、というわけでもないが、少なくとも面倒な生命体相手なら有効であると証明することはできた。
「穢れは少しは残るようですね。これくらいであれば」
並みの浄化使いであれば十分濃いが、キリヤからすれば少しだ。歌唱を使うことすらなく浄化した。
「おお、みんなすごい」
「あのシャラクさんとの手合わせで少し成長したのでしょうか」
「あるかもな」
神との手合わせにより得たものが確かにあった。
「さて・・・進もうか」
「そうだな」
周囲への警戒を怠ることなく進む。
こうして、カルナたちのミスリルを破壊するための旅が始まった。
次回予告
旅を始めたカルナたちは、ユウガオと羅針盤が示すまま歩き進め一つ目の国に到着する。ここで待ち受けるものとは・・・