フレアフルールに所属しセプテットのメンバーであるカルナとジークフリートは、穏やかな日常を送っていた。そんななか、キリヤから特殊なミッションを告げられる。それはいわくつきの廃坑の調査。カルナとジークフリートはセプテットのメンバーとともに廃坑へと赴くのだった。
足を踏み入れたそこに違和感は特になかった。しばらく使われていない鉱山なのだから、少々モンスターが住み着いていてもおかしくはない。ある程度歩くと奴隷たちが掘らされていたのであろう空間が現れた。その瞬間、空気がわずかに下がったような感覚に陥った。これはここに遺体があるという意識からなのか、それともただこの空間に異変が起こったのか。
「よくここまで掘れたな」
「鉱山ってこんなに広いんだな」
ある程度露天掘りにして下へ下へと進み、あとはそれぞれの方向に穴を掘り進めて行っているように見えた。珍しい鉱石が掘ることができたから奴隷がここで働かされていたのではないか。何かエネルギーになるようなものが埋まっていた可能性もある。世界には魔力を込めた宝玉のようなものを使ってエネルギーにし、それを電力に変えることで生活を支えているような国もある。
かくいうフルールもエネルギー源は宝玉だ。王が半年に一度儀式を行い宝玉に魔力を込める。そうすることで生活を維持している。そのような宝玉かそれに似た原石のようなものがあるとすれば、この鉱山がこれ以上掘ると完全に崩れるという限界まで奴隷が働かせる意味も理解できなくはない。
「あとで鉱石に詳しいアシュラに聞こうか」
「そうだな」
アシュラは、武器に使う材料を調達するためかその土地から採れるものを調べる。その彼ならわかるのではないか。アシュラに聞かずともわかるのは、掘りすぎて崩れてしまった場所だということ。その割には拓けているし、当時の状態がわかるように保存されているようにも見える。
カルナたちは、鉱山の最深部であろう場所まで階段を使って降りた。階段が崩れる様子すらなかった。本当にここに生き埋めにされた者たちがいたのかと疑いたくなるほど普通。降りた先に穴が現れた。しかし入口に岩石があり、その先に行くには壊すしかない。
「崩れたようには見えないな」
「うん。どうやって持ってきたのかは分からないけど、人が塞いだように見えるわ」
「壊すぞ」
「ああ」
繊細に、周りが崩れないようにコントロールしてこじ開ける。ある程度人が通れるサイズまで穴を開けると、刺激しないように進んでいく。何がいるかわからないからだ。
「ひっ!?」
フラウが素っ頓狂な声を上げた。フラウの視線の先、彼は壁を見ていた。カルナとジークフリートは松明をわずかにそちらに向け目を見開いた。
「人骨か、これは?」
「両壁全て骨に見えるが・・・」
わざわざ崩れないように積み上げられた人骨。これまではただの鉱山のように見えていたが、どうやらそうでもないらしい。
「趣味が悪いな」
人の命を軽く見ているとしか思えない。この洞窟をフルールが管理することになったとして、本来世界政府傘下の国が負うべき責任をこの国に押し付けられ世界中から批判の声が殺到。挙句の果てにフォレオ王が国際裁判で罪に問われるという事態になりかねない。
「この洞窟の譲渡は受けない方がいいだろうな」
「譲渡される前に調べておきたいと依頼したフォレオ王の判断は賢明だったな」
「間違いねぇ」
フォレオ王の嗅覚に感心させられた。たとえこの場所に希少価値の高い物質が見つかったとしても、手を付けないほうがいいだろう。
「念のため、奥も調べておこうか」
「ああ」
カルナたちは、ここまで来たなら奥まで調査しておこうとさらに進むことにした。どこまでも不気味な場所だった。見渡す限り人骨が敷き詰められた空間。背中に寒いものを感じながら進むこと数十分。
「・・・」
躯の洞窟を抜ければそこにはさらに地獄が広がっていた。子どもであるフラウやライトには刺激が強すぎるだろうからと、ユーリンと待機させて正解だった。
「これは、しっかり弔ってやるべきだな」
「あまりにも惨い」
言葉にできないような悲惨な空間。この空間の至る所から怨みのようなものを感じる。無理もないだろう。これだけ理不尽な目に遭えば誰でも怨みたくもなる。彼らにしてあげられることは弔ってあげることと、お祓いしてやることくらいだ。
「ん?何かいるな」
「そりゃこんなところなら何かしらいるだろ」
「魂か」
カルナたちの前に突然現れたそれは、がしゃどくろだった。まともに埋葬されなかった死者の魂が具現化したもの。巨大で強大なそれから感じる濃すぎるほどの怨念。闇を纏った風がカルナたちに襲い掛かった。
「はあぁっ!」
「でやっ!」
槍、聖剣、剣、斧が風を斬る。完全にカルナたちを自分をこんな目に遭わせた敵だと誤認している。彼らにもはや理性などない。怨みに呑まれ、闇に呑まれた彼らはもはや倒して成仏させてやるしかなかった。がしゃどくろが子分のように小さいホロウを作り出した。
「宝具を放つのは得策ではなさそうだな」
「ああ。ここが崩れかねない」
コイドたちの目では追いつけないような速さで、カルナとジークフリートはホロウを斬っていく。せめて安らかに眠ってほしいと願いながら。
「しかし、宝具なしでこの髑髏を倒せるか?」
「やるしかないだろう」
コイドの言葉に強く返す。
「数が多いな」
「やはり大元を倒すしかないな」
「コイド、ジュール。お前たちはホロウを頼む」
「了解」
がしゃどくろを葬るには核を壊さなければならない。その核を見つけ二人同時に叩く。心臓部と脳のあたりに核があると見た。あくまでこれまでの経験則に基づいた勘のようなものだ。
「そういえば、キリヤから核を特定する何かをもらったな」
「あったな」
キリヤが、おそらくアシュラかその友人に頼んだ核が見えるようになるというポーションのようなものをもらったという。そのうち使うタイミングが来るのでは、といつだったかくれたものだった。こんなものを飲めと?と二人はさすがに訝しんだが、キリヤとフレアフルールの医者と薬師が飲んでも害はないと言っていた。それを信じて飲むことにした。
味はさすがのカルナでも顔を顰めるほどのものだった。若干えづきながら飲み込んだ。コイドとジュールはそれを見て同情していた。背に腹は代えられないという言葉がある。仕方ないと受け入れたのだった。
とんでもない味がしたものを飲んだカルナとジークフリートは、無事に核の場所を特定することには成功した。良薬は口に苦いどころではなかったが、効力は確かだったらしい。
「さて・・・見つかったからにはこちらのもの」
「そうだな」
カルナは槍を戻し、アシュラが造った弓を取り出す。ジークフリートは洞窟に衝撃を与えすぎないように剣に魔力を込めていく。
「かつてを思い出すな」
金色の弓を引き、矢を番えながら呟く。熱い白い炎が矢を包む。
「行くぞ」
「ああ」
カルナはさらに弓を引き、ジークフリートは剣を振り上げる。
「シャリア・クンダーラ!」
「バルムンク!」
白い炎が脳を穿ち、翡翠色の光が心臓を裂いた。がしゃどくろは、悲鳴をあげることなく光の粒子となって空に昇って行った。大本であるがしゃどくろが消え、ホロウも成仏するように立ち昇る。
その空間にある怨みは微かに残ってはいる。しかしここにがしゃどくろやホロウが現れることはもうないだろう。
カルナたちは黙祷し、
「どうかしたか?」
「いや・・・」
もう一度振り返ったころには誰もいなかった。ただここに来た時よりもずっと澄んだ空気が流れているだけだった。カルナは再び前を向き、今度こそここにエネミーが現れることはないと悟り微笑んで歩を進めた。
───────
セプテットが洞窟を出ると、フラウとライトを外出させてはいけない時間になっていた。どこか緊張していたのか、ようやく肩の力が抜けた。
「おーい!ちょっと待ってー!」
「アシュラ?」
少年が無邪気に笑顔で走って来た。この男もずっと山に籠っていたらしい。
「マジで店ここにも作ろうかな」
「なぜ?」
「めちゃくちゃレアなアイテムが出て来るんだよ。というかここって、フレアフルールの管理下じゃなかったりする?」
カエン洞窟はともかく、アシュラがいた山はフレアフルールが管理する土地ではあった。んじゃセーフとのこと。しっかり入る許可は取っていた。当たり前である。ドヤ顔することではない。
カルナたちは、アシュラもともにギルドに戻って来た。
「オレもキリヤさんに用事があるんだよね」
「そうか」
滅多にギルドに入らないアシュラがここに来るとしたらそれくらいしかない。
「おかえりなさい」
キリヤは、朝だろうが昼だろうが夜だろうが、ギルドの面々を癒す笑顔でセプテットとアシュラを出迎えた。カルナたちの気配を察知してギルドの前で待っていたらしい。
セプテットが館に帰ってくると、真ん中のテーブルに夕食が並んでいた。
「おや、アシュラさん」
「急に来ちゃってごめんね」
「いいえ、構いませんよ」
アシュラが来るとは予想していなかったようで、さすがのキリヤでも用意は・・・と思いきや
「シチューとパンならありますが」
「おおっ、最高じゃん!」
明るいアシュラにニコリと笑うと、キリヤはカルナたちと同じように並べてくれた。実をいうと一番顔に出しておいしそうに食べてくれる人たちのうちの一人なので(あとはフラウとライト)、キリヤも作り甲斐があるというものだ。
カルナたちが食事を終え、キリヤは片付けを終えると今回の任務の報告会を行うことになっている。アシュラも聞くのかということは誰も気にしていなかった。
セプテットが報告をしていくうちに、キリヤとアシュラの笑顔が消えていった。キリヤはレポートを淡々と作成し、アシュラは怒りを抑えるような表情で俯いていた。セントラルの者たちに並々ならぬ感情があるアシュラにとって、今回の調査内容は地雷でしかなかった。奴隷、生き埋め、そして怨みによるエネミー化。
「なるほど。陛下には私から報告し、進言しておきます」
「ああ、その方がいい」
もともと、フォリオ王は譲渡を受ける気はほとんどなかったのだが間違いなく断るだろうということは想像に難くない。
「相変わらずだねぇ」
「そうだな」
毎回何をしてくるのか分からないのが加盟国だ。自分の赤い毛先を遊びながら呆れのような声音で呟く。
「そういえばアシュラ。お前はあの鉱山で採れる鉱石を知っているのか?」
「ソルライトってやつだね」
コイドたちも聞いたことがなかった。ソルライトはカエン鉱山でのみ掘ることができる天然石。深い赤色と白い紋様が特徴の美しい石だ。
「その石が一時期出回ってたことがあるんだよ。具体的に言うと鉱山が崩れる一年前くらいから」
その出回り方が問題だった。この鉱石をいわゆるパワーストーンとして触れ込み高額で売り捌いた。つまり詐欺商品だった。その詐欺商品をつくるために強制労働させられていたのが奴隷たち。被害にあった人たちは不幸にあった場合が多く、さらに脅迫されて無理やり買わされた。怒りが爆発した被害者の周りからの訴えにより、この事実が白日のもとに晒されることとなった。得た金は組織運営の費用、その他にも銃のような武器や薬物の製造などに使われた。
「その後奴隷たちは悲惨な目に遭わされたわけか」
「そりゃがしゃどくろにもなる」
生者を殺してまわる怪物。改めて同情の念を抱かざるを得なかった。
「それにしても、フォリオ王の面倒ごとに対する嗅覚は尋常ではないわね。相変わらず」
「その嗅覚のおかげでこの国は戦争を免れているとまで言われていますからね」
フォリオ王は聡明で、賢明な判断で様々な危機がそもそも起こらないように回避して来た。ただし、実は執務もあまり好きではないほどの面倒くさがりであるという面もある。国のためだからしていることで、本当は一日中読書をしていたいのだ。平和であればあるほど、読書ができる時間が増える。しかし、そのおかげ国が守られるのなら御の字とも言える。カルナたちは苦笑した。
「ところで、アシュラさんかどうしてここへ?」
「ああ、新しいポーションが出来たから渡しに来たんだ」
「え・・・」
「そ、そうか・・・」
カルナとジークフリートは、アシュラの言葉に聞いたこともない戸惑ったような声を出す。もはや言葉ですらなかった。あの味がもはやトラウマのようになっていた。
「味の改良も頼みたい・・・」
「え、味?」
えぐみと苦みと酸味やらすべての味覚が刺激してくるあの液体。二度と飲みたくないが、そのうちまた飲まされそうな予感がしていた。
カルナたちはしばらくゆったり寛ぎ、風呂にはいるなり寝る準備をしたりして夜を過ごした。そのころには、アシュラは先ほどまでの怒りを押し殺すような表情はなりを潜め、普段の明るい笑顔で手を振り帰っていった。この間、大広間にいたのはカルナたちとハイリしかいなかったため、アシュラは大多数からの謎の鍛冶師という認識が改められることはなかった。
こうして、カルナたちはゆっくりと眠りにつくのだった。
彼らの運命はゆるやかに動いていきます。
ちなみに、先に言っておきます。セプテットのメンバーとのミッションはこれから戦闘力がインフレするためないです。多分。メンバーは出てきます。