セプテットのメンバーは、カエン鉱山での地獄のような任務を遂行し、この国の王フォリオ王が譲渡権を手放して一件落着。
この国が面倒な未来を辿る道を一旦塞ぐことに成功したのだった。
カエン鉱山での任務が終わった三日後。カルナとジークフリートはフラウとライトと特訓した後、雑談していた。自分たちの本来の特訓は任務がない限りは、朝9時くらいに素振りをし、昼に軽い手合わせをし、夜にまた手合わせをする。
「なあ師匠!」
カルナが振り向くと、フラウが目をキラキラと輝かせていた。ライトも同じような目でジークフリートを見ていた。
「オレもオレ専用の武器欲しい!」
「ぼくも・・・!」
カルナとジークフリートは思わず顔を見合わせた。そのうち欲しいと言ってくるだろうとは思っていたが、思いのほか早かった。しかし、強くなるにつれ自分の武器が欲しいと思うのは自然なことだろう。
「そうか。では見に行くか」
「やった!」
無邪気にはしゃぐ二人を微笑ましく見守る。幼くも彼らは戦士になろうとしている。
「キリヤ」
「アシュラさんのところですね。いってらっしゃいませ」
「行ってくる」
現在午前9時。行ってくると言ったのとほぼ同時に、今から行こうとしている店の主兼武器職人が登場した。完全に偶然だった。
「キリヤさーん、パンまだ残ってる?」
「ええ、ありますよ」
やったぜ!と喜びながらどれにしようかな~とご機嫌だった。鼻歌までするほどには機嫌がよかった。
「機嫌がいいな。アシュラ」
「うん」
「その感じは、さては良い武器が造れたようだな」
「わかる?そのとおり!いやあ、三日前山で手に入れた素材がマジで役に立った」
三日三晩集中力を研ぎ澄ませ、全身全霊で武器に向き合っていた。それがようやく終わり、アシュラはようやく工房から出た。そう、店どころか工房からも出てこなかったのだ。
「もしかしてフラウ・・・お前店には行ったか?」
「あの不思議な建物だよな?」
工房にこもっていたうえ、集中していたためにフラウやライトの来店に応じられなかったのだ。アシュラはさすがに謝った。
「この子たち戦士なんだよね?オレ、失礼すぎじゃん」
カルナとジークフリートの弟子がどんな子たちなのかと気にはなっていたのだ。ギルドの外にいたアシュラは、鬼神特有の地獄耳でカルナたちの会話を聞いていた。そもそもセントラルが関係さえしなければ優しく明るい少年だ。基本的に友好的に接したいタイプ。そんな少年が、罪悪感を覚えないはずがなかった。
それにこれまで武器を持つことを許可されていなかった子どもが、ようやく持つことができるようになったときに自分の武器が基本装備になることは、武器職人として純粋に喜ばしいことだ。
「よし、オレがパンを食べ終わったら
「マジで!よっしゃ」
「ありがとうございます」
アシュラはニッコリ笑うと、キリヤが用意してくれたモーニングセットを食べる。パン10種類とカフェオレとかいう、人間が毎日食べたら簡単に病気になりそうな朝食を幸せそうに食べた。
「ごちそうさま」
「おそまつさまでした」
「よし、オレ先戻ってるね」
「ああ。ありがとう」
んじゃ、一回バイバイと言って帰っていった。わくわくしているフラウとライトは早く行こうと目で訴えてきた。それに苦笑したカルナとジークフリートは、今度こそアシュラの店に向かうのだった。
カルナとジークフリートにとっては馴染みになっている道は、フラウとライトにとってはまだまだ新鮮なようで浮ついた様子だ。
「アシュラ?って強いのか?」
「ああ。強かった。油断しないほうがいい。この間あの男が入った山はランク8以上でなければ入ることすら出来ない場所だからな」
この世界のギルドに属す者の多くがランクを付けられる。カルナとジークフリートはランク10だ。最高ランクは15だが、このランクに達したものはいないとされている。ランク10を超える11が最近現れた。そしてまだフレアフルールにいないランク11にはもう少しでカルナが到達するだろうと期待を寄せられている。ジークフリートもまた同じ。
そして、そんなランク10に乗ったのがほかでもないアシュラ。ランク更新しちゃおうと気まぐれに測ったらすでに10だった。素材採集のためにアレだけ戦っていたら当然かと納得したものだ。
「着いたぞ」
やはり見慣れない不思議な様相の店。アシュラ曰く武器屋敷ヨミという名前の店。ヨミは苗字から付けた。色のせいかヤケに目立つ。フラウとライトは、いつもは恐る恐るだった店を胸いっぱいに膨らませて入店した。
「いらっしゃい」
今回は流石にアシュラもサッと出てきた。フラウとライトにオススメの武器とともに
「初心者からそろそろ抜けるかなぁくらいの頃から使うのにオススメなやつ持ってきたよ」
剣、槍、薙刀、斧、ハンマーなどの近距離型の武器に加え、弓やボーガンのような遠距離型。変り種はやはり使いにくいうえにおかしな癖が着きかねないので、慣れないうちは基本的な武器がいいだろうというのがアシュラの考えだ。
「すげぇ!」
「かっこいい・・・!」
自分が丹精込めて造った武器をキラキラさせながら見る子ども二人。こんなに楽しそうに選んでもらうのも新鮮だった。カルナやジークフリートも楽しそうだったが、それとはまた違う感覚がした。
「これとは別にカスタマイズとか出来るよ」
「オレのオリジナルってことか!?」
「うん」
「楽しそう」
「じゃあ持ってくるね」
フラウとライトは、アシュラの提案に今まで以上に盛り上がった。アシュラはニッコリ頷き工房に戻り、一瞬で戻って来た。台車に乗せ武器の形や装飾などのカスタムをするための型やアイテムを持ってきた。あくまで型であり、実際は一から造っていく。
フラウとライトは、あれがいいかなこれがいいかなとこれから相棒になる自分だけの形と装飾を選んだ。
「きーまった!」
「ぼくはこれ」
「いいじゃん。フラウくんは槍でライトくんは剣。師匠の武器?」
アシュラの問いに、照れながら頷いた。「よかったじゃん、師匠たち!」と鬼神の筋力で背中を叩かれた。一瞬口から何か出てきそうだった師匠二人を放って、新米戦士たちはわくわくしていた。
「武器を造るのはやっぱり結構かかるからね。それまでは今までの武器で頑張って」
「「はーい!」」
二人が盛り上がっている間に、アシュラは工房にいろいろ片付けた。三日三晩工房にこもっていたアシュラにとっても良い息抜きとなった。
「あ、そういえばアシュラ」
「ん?」
「キリヤが来てほしいと言っていたぞ」
「なんで?」
首を傾げるアシュラを連れギルドに戻るのだった。
「良い武器は選べましたか?」
「カスタムした!」
「なんと。それは良き相棒となるでしょうね」
天使のような笑顔で言った。そういわれたフラウとライトは再びテンションが上がった。そして、「大切なお話があるので自主特訓をしておいてください」と言ってカルナたちを連れて会議室に入った。
「え、会議室?え、なんでオレも?」
「新たな依頼が来ておりまして。それにあたり、あなたにも出動要請が出ております」
戸惑いを見せたのはカルナとジークフリートもだ。確かにアシュラは強い。彼がいるのは非常に心強い。ただ、彼にも武器を造るという任務がある。
「どういう任務なの?」
「アルスファを落とすというものです」
「誰だ、それは?」
カルナたちが全く知らない人なのか組織なのかもわからない何か
「アルスファは組織です。三日前、カエン鉱山での一件があったでしょう?」
「それと何か関係が?」
「カエン鉱山で採取した天然石で巻き上げたお金を使って立てた組織。それがアルスファです」
奴隷を強制労働させ、そのうえ詐欺をして多額の利益を得た彼らは、数年前にアルスファという新たな組織を立ち上げた。
「ハイト教団の元幹部の男が主導したとのことです」
「ハイト教団!?」
アシュラは思わず大声をあげてしまいとっさに口を手で塞いだ。ハイト教団は闇の財団と言われており、あらゆる戦争の原因なのではとまで噂が立つような巨大な組織だ。
「その幹部はハイト教団の金を横領した疑惑や仲違いしたなどの情報はないのか?」
「そこまではさすがに。幹部が主導したという部分までしか調べられていないのです。申し訳ございません」
「いいや、どこの組織の人物でどういう身分なのかまで情報を手に入れただけで大手柄だ」
「いやホントにそれ」
キリヤの情報網は尋常ではない。どういう経緯でそのような情報を手に入れているのかは分からないが、国王とのパイプがあるためそこを経由して友好関係を築いている可能性はある。
「なんでオレが必要なの?」
「今回の任務の推奨ランクは8以上ですから」
つまり、コイドたちセプテットのメンバーが参加できないのだ。リーダーコイドはランク7でギリギリ届かないラインだった。そうなるともはや外部からの協力も得たい。そんななかハイリとの協議の中で白羽の矢が立ったのがアシュラだった。
「そういうことか」
「良いよ。オレも行く。たまには任務らしい任務もやってみたいしね。ギルドメンバーじゃないけど」
「ありがとうございます」
「では行こうか」
キリヤは残念ながら今回も留守番だ。キリヤも相当な実力者で、たまには行きたいとは思っているようだが緊急事態に備え待機だ。
「いってらっしゃいませ」
カルナたちは、不安しかないキリヤのナビ付きの電子地図をもらいギルドを出た。
ー2ー
カルナたちはギルドから五キロ離れた駅から列車に乗り、アルスファのアジトがある最寄りの街の駅に到着した。最寄りの駅とはいいつつ、そのアジトまでおよそ20キロ。さらにこの街はギルドがある街に位置するセイル駅行きの列車は1時間に一本しかなく、夜8時頃になると2時間に一本になる。非常にアクセスが悪い。
「えっと・・・キリヤさんから地図もらってたと思うけど・・・」
「近道はあるか?ジークフリート」
ナビ係となったジークフリートは、キリヤが作成した地図とにらめっこしていた。
急がば回れという言葉がどこかの世界にはあるが、任務ではそんなことは言っていられない。ジークフリートはずっと近道を探してくれていた。キリヤがくれたその地図を指で操作し、目的地までの道を見る。
「列車より運航している船に乗るべきだったな」
「あ~確かに港が近いね」
資源の輸送のためか港が比較的近いところにアジトが建設されていた。ただ、港にはアジトの人間がいる可能性がある。これはあくまでその可能性を考えたキリヤの気遣いなのでは、と思うことにした。
「そう思うことにしよう」
「それにしては港から真逆に進んでるんだよねぇ」
つまり、アジトからも遠ざかっていた。地図が非常に苦手なキリヤにより、道順を教えてくれるはずのナビが狂ってしまったのだ。そもそもキリヤは方向音痴でありながら、なぜか自分の方向感覚に自信がある。
「どう行こうか」
「この地図だけは正確だと信じて行くしかないな」
「それかもう飛ぶかだよ」
「・・・それだな」
カルナたちは飛んでアジトに行くという選択をした。宝具を調節しながらの移動である。
カルナたちは、上空を進みながら戦士の鍛えられた目で街を見た。異常性は既にある。この街で自分たち以外に人がいないのだ。家はきれいに残っているのに人の気配が全くしない。出てこないではなく、家からも気配を感じないのだ。
「何ここ・・・もう街として機能してないじゃん」
「出て行ったのか?」
「キリヤ曰く、今回の任務を依頼したのはこの街の長老だそうだ」
今回は国王ではなく、長老からの依頼。しかし、この街とは別の住所というか国から送られているものだった。追い出されたのか、避難したのかは不明だ。
どちらにせよ、嫌な予感がするとカルナが言った。カルナの勘は鋭い。時に予知夢を見るキリヤほどではない。
「アジトって・・・あれ?」
「よくあるビルに見えるな」
それぞれのフロアに会社があるタイプのビルだ。低い建物が多いなかでやけに目立った。
「う~ん、もしかして・・・地下に牢屋ある?」
「え?」
「オレ耳良いんだよ」
アシュラは、鬼神特有の地獄耳とその聴力と軽い透視のようなものを使うことで何があるかの特定がある程度できる。これが、アシュラがこの任務に駆り出された理由の一つだった。
そんな彼の透視の視力のランクでは数キロ先まで見える。その眼には地下フロアと牢屋が映っている。しかも、そこに押し込まれているのが住民ではないかと指摘した。その推測にカルナもジークフリートも肯いた。この街で住民が見つからないことと、ここに押し込まれていることを踏まえるとその推測が立つのは自然と言える。
「このアジトに戸籍とか名簿とかあると思うんだよね」
「戸籍や名簿?」
「売るとか」
アシュラの目に見える人物たちは若い男女。老人がいないあたり、もしかするとどこかに行ったか既に殺されたのか。国外にいた長老という礼もあるため、追い出された可能性もある。ただ、子どもは牢屋にいなかった。
「・・・組織の構成員にする気ではないか?」
「あり得るね」
人身売買だけでなく、洗脳して構成員を増やしたという事例がある。その対象が子どもなのではないか、それがカルナたちの憶測だ。
幼い頃から組織について教え、教団の思想を植え付け洗脳して組織の人間として使う。よくある話ではある。カルナたちの顔色はもはや青くなり始めていた。ここに来てから胸騒ぎしかしないのだ。
「オレ、気配遮断できるから先に潜入しようか?」
「そうだな。オレたちは地下牢に行く」
「了解」
アシュラがというわけでと呟き、カバンから怪しげな道具をいくつも取り出した。そのなかにバーナーがあった。どういうわけか携帯型。それと体を隠すローブ。じゃあねと手を振ると軽い身のこなしで最上階まで駆け上がって行った。
超ざっくり次回予告
闇しかないアルスファに潜入することにしたカルナたち。そんな彼らが見てしまうもの。そしてそこで新たに出会った相手とは?
―――
用語や組織解説
・セントラル
この世界の主要な組織が集中する国
・世界政府
大きな戦争や内紛などが起こった時ば度に動く組織。世界の方針をも決めるほどの大きな権限を持つ。
・十三か国連合
セントラルの同盟を結ぶ国で集まった連合。世界政府の主要な大臣たちはこれらの国の王もしくは首相、大統領
・ハイト教団
通称闇の財団と呼ばれ、世界の裏で金により情勢を動かしているとさえ言われている巨大な組織
・アルスファ
ハイト教団の元幹部が設立した組織。闇しかない