いつもどおりパンを買いに行き、いつもどおり?お客の相手をしていたアシュラは、なぜかカルナとジークフリートとともにアルスファを落としにいくことになった。
カルナたちはアルスファの陰謀を止められるのか
アシュラはカルナとジークフリートと別れ、いち早くと言いつつビルの屋上に居た。そこで一人作戦会議をしていた。
キリヤがくれた書類のなかに、アジト内のマップがあったのだ。カルナたちの前に一度諜報部員でも派遣していたらしく、その情報から地図を作成したのだ。ハイリが。
「とりあえず資料室探すか」
屋上まで駆け上がっているときに、外から入りやすそうなところに資料が保管されていそうな部屋が見えた。そこに情報があるとしたら、管理があまりにもザルではと思うアシュラ。
「そもそも窓付けてるのも意外だねぇ」
アシュラは一人呟きながら、ロープ・フック・バーナーを取り出していく。アシュラはこれから窓から侵入する。
アシュラは、鉤爪のようになったフックの輪のところにロープを巻き付け固定。バーナーはカバンに入れた状態で、慎重に資料室がある階まで下りていく。侵入のために窓を粉々にするような脳筋ではない。窓の材質からしてもバーナーで溶かせる。バーナーで窓に穴を開け、その隙間から腕を入れ窓の補助錠を開錠。音を一切立てず侵入に成功した。
「監視カメラ・・・ん?ダミーかな」
今アシュラはローブにより姿を隠し気配もスキルで遮断している。窓から侵入されることを予測していたのか、していないのかダミーカメラを取り付けていた。牽制のつもりなのだろう。監視カメラの型を知らなければ見分けもつかないだろう。
「えぇ・・・資料めっちゃあるじゃん」
アシュラの見立て通り、確かにここに資料室があった。周りをゆっくり見渡しながら歩いていると
「・・・検索機、マジ?」
こんな組織の資料室に普通検索機なんておいておくだろうか。まあ、窓のセキュリティは悪くなかった。相手がアシュラだっただけのことだ。
「戸籍か名簿あるかなぁ・・・あるじゃん」
アシュラは特定できた個人情報を収められた本棚へ向かう。そのなかに名簿らしきものを探す。個人情報を教えるための情報を提供しているが、これはいいのかの心配になってくる。それともこれは罠なのか。
アシュラはすぐにキリヤに念話で連絡を入れた。
『キリヤさん』
『はい、ご用件は?』
『アロイドの住民の人数はわかる?』
『少々お待ちくださいね』
パラパラと書類をめくる音がする。
『324名になります』
『60歳以上を抜いた数は?』
『212名ですね』
『0歳~10歳までの子どもの数は?』
『子どもの数は少なかった覚えがありますが・・・64名ですね』
『オッケー、ありがとう』
アシュラは念話を切った。
11歳以降は組織の人間として育てるため洗脳をするには成長しすぎている。大人でも洗脳しようと思えばできるが、簡単にできるのはやはり子どもの方だ。そんな11歳未満の子どもたちの中で聡明で手に負えないような子はそういないだろう。
戸籍謄本のようなものを綴じている資料を見たところ、アロイドの住民の数と一致した。牢屋に放り込まれているという予想は当たったのかもしれない。さらに、この組織にここ最近に所属した人数が子どもの数と一致。
「さて・・・この組織の情報を・・・」
ふと、アシュラは気配を察知した。決して悪そうな気配ではない。ただ、ここに潜入しているあたり只者ではないのは確かだろう。
アシュラは気配を消したままローブを外す。
「出てきたら?」
「・・・私が気配を察知できないとは・・・引退を考えるべきでしょうか」
現れたのはくすんだピンク混じりの茶髪をローポニーテールに纏めた、赤褐色の双眸をした男性。
「名前、聞いてもいい人かな?」
「本来は出来かねますが、あなたは敵ではないようですので。私はウルと申します。まあ、スパイですね」
彼は、アシュラを敵ではないと判断したらしい。スパイということはどこかの国か組織から派遣されたのだろう。
「オレはアシュラ。ギルドには特に所属してないけど、フレアフルールに出動要請されてここにいる」
「おや、フレアフルールの関係者でしたか。私は『ロータス』の者です」
『ロータス』知らないものはいないとされるギルドの名だった。マスターを含め、たった11人しかいないギルド。しかしその実績は凄まじいとされている。そのギルドマスターは、この世に両手の指にも満たないランク11の男だ。素顔は謎に包まれている。マスターの名は、シャカ。どこぞの世界ではよく知る名前。当然別人である。ただ、名前しか知られていない。
「わぁ、大物だ。こんなところで何してんの?」
「新人として働いているのです。情報収集のために」
「シャカさんに言われて?」
「そうでなければ怒られますよ。過保護なものですから」
意外だ。アシュラは、世界でも有数の魔術師でありギルドマスターで少し偉そうな人だと思っていた。しかし実際は部下に過保護。派遣されたあたり信頼されているのは確かだった。『ロータス』に所属しているというだけで、魔術師としての実力はかなりのものだろう。
こうしてアシュラは、ウルと行動をともにすることにした。
「ところであなたは今何をしようと?」
「せっかくの資料室だからね、盗んどこうと思って」
ここに窓を溶かして来たと言ったら、ウルに苦笑された。そしてさらに、自分の目の前で情報を盗む発言。ウルはここに正規ルートで潜入し、情報を集めて行っているなかでこの少年は不法侵入はするは複製の名簿を盗むはとやりたい放題。そして今は勝手にパソコンを起動した。あまりにも自由すぎて、精鋭で集められたギルドにいるはずの自分が圧倒されていた。
起動した途端に黒い背景に緑色の文字の羅列が流れて行った。今度は不正アクセスするつもりでいるらしい。なんなんだこの少年は。常識を知らないのか。ウルは冷や汗をかきながら、これを見逃すことにした。
ー2ー
一方、アシュラと別れて調査中のカルナとジークフリートは、地下を降り人数を地道に数えているところだった。この場所は常人ならば吐いてしまいそうになるような異臭を放っていた。衛生状態は最悪だろう。
カルナとジークフリートもアシュラに借りたローブで歩いていた。ただ、このローブは残念ながらここで燃やした方がいいだろう。匂いが付いてしまっていて、ほかの洗濯物に匂いが付きかねない。というか持っていたくない。
「食事もとっていないように見えるが・・・」
売ろうとするにしてはあまりにも扱いが酷い。売るのではなく、別の用途でもあるのだろうか。口封じの可能性も無きにしも非ず。
「キリヤの情報から考えると・・・牢に本来いるはずなのは148人。そしてこの牢に実際にいる数は」
「133人だったな・・・残り15人はどこへ?」
「ん?アシュラからか」
ここにいるはずの残り15人。その理由を推測しようとしているところにアシュラから念話が来た。
『カルナさん、そっちの牢屋に入ってる人の数ってあってる?』
『む?15人足りないな』
『今さ、オレロータスのウルさんといるんだけどね。そのウルさんが地下牢にいた人たちのうちの15人が実験体にされてるんだって』
人造兵器ではなく、人間を兵器にする計画を企てているという。そのために、本来魔力を持たない人間に無理やり魔力を詰め込み、魔術師として目覚めさせるというものだった。そして魔術師にしたあとは、意思を持たない兵器として使おうとしていた。そしてその15人全員が未成年。成長途中の少年少女だった。
『あと子ども。その子たちは培養槽に入れられて魔力を蓄えてるんだって。このアロイド自体をアジトにするつもりなのかも』
『・・・なるほど』
カルナとジークフリートはアシュラとの念話を切ると、思わずため息をついた。そして心の奥底で怒りが燃えていた。
「ジークフリート、オレたちも分かれて調査する」
「俺はここの人間を壊して脱出させる」
「わかった。ではオレは子どもの救出に向かう」
カルナは、地下牢と地下牢にそのうち来るであろう敵をジークフリートに任せ、全速力で培養室があるフロアまで走った。魔術を使っていくと敵に感知される可能性がある。
数分走ると、パスワードで管理されている扉の前に来た。
『アシュラ、ウルという者と繋げられるか?』
『だって、ウルさん』
『はい、どうかいたしましたか?』
『培養室のパスワードを知っているか?』
『shade8110hiです』
『感謝する』
カルナは礼をし念話を切るとパスワードを打ち侵入した。陰を意味する『shede』。このパスワードになんの意味があるのかは知らないが、カルナは漠然と嫌な予感がした。
そして侵入できたカルナは目線を培養槽に向けた。64人の子どもたちがそれぞれの培養槽で眠らされていた。どういう構造なのか呼吸は出来ているらしい。しかし、それだけでは栄養を摂ることができない。体内に魔力を詰め込んだところで体の強度はほとんど変わらない。
「出すのが最優先か・・・壊すしかないか?」
開け方がまったくわからない。ならば壊すだけのことだ。
「ふむ・・・」
壊したところでどんな方法で子どもを逃がしてやるべきか。この数の人間を一斉に逃がすには、庇いながら戦うことになる。カルナはそれが可能だ。しかし、何もない状態でここから脱出させても避難させることが出来るのかは微妙だ。逃がすならば確実に安全なところであるべきだ。
「飛行機・・・キリヤ」
『はい。今日は良く念話が来ますね』
『今からアロイドに来れるか?』
『おや、今ちょうど食糧を運んでいるところですよ。輸送用の飛行機で向かっております』
思わず感心した。これまでもキリヤの機転に助けられることがあったが、今回はあまりにも完璧な行動だった。
『すごいな・・・頼んだぞ』
『承知いたしました』
子どもたちは今のところはキリヤに任せる。カルナはこのアジトの敵を倒すことを最優先事項として動くことにした。
『カルナ、住民の解放が済んだぞ』
『早かったな』
『敵はどうも上に集まっているらしい。アシュラが言っていた』
『集会か?』
『アシュラが何かした可能性が・・・』
さすがのカルナも頭を抱えそうになった。アシュラならばあり得る。アシュラが何かしたことにより、その対策のために会議をしているのでは、とのこと。
『アシュラとウルは実験棟に向かうらしい』
『わかった。アシュラと合流するぞ』
『了解』
カルナはジークフリートにそう告げて念話を切った。
ー3ー
実験棟に続く廊下の前、カルナが到着。その数分後にジークフリートも到着。
「この組織マジでヤバいよ」
「やばい?」
アシュラとウルは、どういうわけかこの組織の黒幕と思われる人物。この組織を設立した人物がハイト教団と別の組織でも幹部であったという。
「どういうことだ」
「オレ、資料室にいたときにできるだけ情報を手に入れておいた方がいいと思って調べてたんだ」
アシュラは、調べたと言っているが実のところ盗んだのだ。
「まさか目の前で情報を盗むところを見ることになるとは・・・しかもそれを見ぬ振りをすることになるとは」
ここの住民を助けるためには仕方なかったのだが、それはそれとして直接不正アクセスしたわけでもないウルの方が罪悪感を抱いていた。カルナとジークフリートから珍しく同情するような表情を向けられてしまった。
「それは置いといてね。結論から言うけど、ここのボスはハイト教団とトレミーに所属してる」
「トレミーだと?」
「名前はオルフアルド」
アンチトレミーとは、トレミー48星座からとって名付けられた巨大組織だ。六大同盟というセントラルの同盟とはまた別の組織同士の同盟だ。『世界政府』『世界警察』『世界裁判所』『冥界府』『ベーゼン協会』そして『アンチトレミー』。アンチトレミーは通称『星に反逆する者』だ。世界や府や協会は正義の名を掲げている。簡単に言うとアシュラが目の敵にしている組織だ。
「さて・・・ウル」
「はい」
「すぐに子どものところへ行けるか」
「培養室ですか?」
「直にキリヤが到着する。その間に装置を止め、子どもたちを解放しておいてほしい」
「承知しました」
ウルならキリヤを知っているだろうというカルナの勘だった。予想通りウルはキリヤのことを知ってくれていた。それなりの数の国の王や組織の長などと面識があるキリヤだからこそできることだ。
ウルは速攻で培養室に向かった。
「ねえ、この実験棟のでっかい水槽で何を育ててたのかな」
カルナたちがここに来る頃にはこの水槽から出されていた。床が水で濡れているのだ。ここに実験されている未成年の少年少女がいたはずなのだ。
「逸脱者になってたりしないよね?」
「・・・最悪だな」
『逸脱者』とは光のある場所では生きられず、闇のなかでしかその力を発揮できない闇と影が混ざった者のこと。百年ほどまえからその話を聞くことはなくなった。
いわゆる生贄だった。連れ去られ、飢えに苦しめられ、いつ死ぬのかわからない恐怖に襲われる。絶望や悲しみや怒りなどの負の感情が、闇の力を強くしていく。オルフアルドは影使いの魔術師だった。その力を利用して影を操りこの世から逸脱させる。光を浴びた途端に彼らは消滅し永遠に此岸と彼岸の間を彷徨い続けることになる。
「そんなことを計画していたと・・・」
「ひどすぎるな」
カルナたちは確かに自分のなかの怒りを感じながら会議室に向かった。
ざっくりした次回予告
会議室にむかったカルナとジークフリートたち、そして向かっているキリヤ。彼らはアルスファを落とすことが出来るのか!
―――
登場人物紹介
ヨミ・暁・アシュラ
鬼神アシュラ族の末裔にして鬼神。フレアフルールのギルドの近くに武器屋敷ヨミという店の店長兼鍛冶職人。集中力が非常に高い。明るく家族と友だち思いの優しい少年。敵対するものには鬼神の力を存分に振るう。脳筋というわけではなく聡明。
属性:影、火
武器:煉獄の鬼神《アンフェール・オーガ》(大剣)、自分で試しに使うため大体の武器が使える
基礎パロメーター(ランクで表記:1~15まで 1・2がE、3・4がD、5・6がC、7・8がB、9・10がA、11・12がA+、13がA++、14がA+++、15がEXだと思って下さい)
筋力11
耐久10
敏捷7
魔力7
幸運4
補助宝具
・鬼神の血:13
・秘匿:10
・破壊:15
宝具
・紅蓮の炎蝶《ボルドー・ファラーシャ》(対国)13
・漆黒十二ノ太刀(対軍)10
・深紅十五ノ盾(対人)10