アルスファを落とすため駆け回るカルナとジークフリートとアシュラ。そんななか、子どもたち救出のためキリヤが動いていた。
キリヤは今、上空を彷徨っていた。今どこにいるのでしょうか。少し泣きそうになりながら目印を探す。地図など当てにならないと察して早々に捨てたも同然のキリヤは、カルナたちの気配を追ってようやくアロイドの上空に来ることが出来た。
輸送機に食糧を乗せ、たった一人乗っている。副操縦士はいない。いたとしたらこんなに迷っていない。
「アジト・・・アジト・・・港の近く・・・港?」
カルナに渡した地図にはしっかりとアジトにマークをしていた。しかし、自分の地図にマークすることができなかった。カルナはビルだと言っていた。その近くに港があるらしい。飛行機のナビなどやはり当てにならない。
「カルナさん」
『ど、どうした・・・』
「アジトって・・・どれのことですか?」
ビルなど一つしかないだろうと言われてしまった。本来は背の高いビルがあったのだがどういうわけか影の霧が覆ってしまっており、ただでさえ方向音痴であるキリヤに目印が見えなくなっていたのだ。
「ここにビルなどないのですが・・・」
『アロイドに来ているのではないのか?』
「深い影の霧がありまして・・・崩れる廃墟にしか見えないのです」
『それだよ、それ!』
影の霧から微かに見える薄汚い廃墟のような背の高いビル。どうやらそれがアジトらしい。住民の気配がするあたりジークフリートあたりが脱出させたのだろうと予想した。
キリヤは、輸送機を広い場所に着陸させた。輸送機から大量の食糧を乗せたコンテナを下ろし、輸送機自体はそのままにして瞬間移動で移動した。移動したあと、コンテナは見えないように隠した。
キリヤは優秀である。方向音痴が玉に瑕であるだけのことだ。こうして到着したキリヤは風の力を借りて飛び侵入。
「おや?こんにちは」
「誰だお前は!」
「不法侵入者だ!」
「ここじゃなかったようですね。では」
組織の人間が絶賛会議中のところを侵入してしまった。不覚と思いながらその場から逃げた。
「培養槽?もう、案内板くらいつけておいてほしいものです」
「あの・・・キリヤ殿?」
「おや、ウルさんではありませんか」
「培養室はこちらになります」
親切なウルが、培養室から思念体を飛ばし案内してくれた。
「この子たちですか・・・」
「はい。なんとか装置を止めて寝かせております。栄養失調が見られますが、命に別状はありません」
「この子たちはフルールの大きい病院で面倒を見させていただきます」
「よろしくお願いします」
キリヤはウルに頷き、カルナに念話を入れた。
「カルナさん、ジークフリートさん、アシュラさん」
『えっと、大丈夫?』
「ご安心下さい。培養室に到着致しました」
『な、なんだと?』
「ウルさんが案内してくださいました」
ここにキリヤが自力で辿り着けるのか、カルナたちはかなり心配していたのだ。その言葉に相当ホッとしていた。
「それでは、子どもたちはお任せくださいね」
『頼む』
「はい。では、また後ほど」
培養室の異変に気付いたらしい組織の人間の一部か向かっている気配を察知した。
「いらっしゃいましたか」
「キリヤ殿、あなたは下がってください」
ウルはキリヤが戦えるとは思っていないらしい。キリヤを後ろに控えさせて手を前に突き出す。
「守ってくださるのは嬉しいのですが・・・」
「はい?」
「ハイリさまの側近であり、フォリオ陛下の依頼を受ける私が戦えないとでも?」
いつもの微笑を浮かべ、そう呟きながら目の前の敵を一斉に扇と風で敵を討っていく。これまでほとんど表情を変えなかったウルが目を見開いた。あまりのスピードと効率の良い魔術の使い方で一掃したのだから。
「なんという・・・」
「私はこれでもランク9、ですので」
まさかと思ったが、先ほどの戦い方を見ればキリヤが強いことなど嫌でもわかる。
ー2ー
キリヤからの到着の念話。自力で辿り着いたとしたら相当成長したのかと思ったが、ウルが来てくれたらしい。
「さて・・・入ろうか」
「殺す?それとも捕獲する?」
「捕獲だ」
「アシュラの戦いはあまり見ないから楽しみだな」
「元気だねって言われるよ」
主にキリヤに。キリヤはツッコミなどしないので。どちらかと言えばキリヤの天然にアシュラがツッコミを入れることが多い。
「たーのーもー!!!!」
「今度は何者だ!?さっきの女の仲間か!」
「さっきの女?」
「まさか」
カルナたちは頭を抱えてしまった。キリヤが一番最初に侵入した場所がここだったのだ。さすがとしか言いようがない。
「お前たち、コイツらをやってしまえ!」
「オルフさま、シェードが逃げました」
「何?何体だ」
「全部です」
シェードがアジトから逃走。つまり、街に放たれてしまったということになる。
「ほんっとに最悪!」
「このビルはもう使い道はないな」
「ああ」
カルナ、ジークフリート、アシュラはそれぞれの武器を構え走った。
「机とか邪魔!」
『アジトの構成員はオルフ以外私たちで倒しますので、影はお願いしますね』
「承知した」
「ナイス!」
キリヤの実力を薄々わかっていたカルナたちは安心して任せることにし、影を探すことに専念する。
しかし、シェードを見つけるのにさほど時間はかからなかった。外は実は夜になっていたのだが、よく見ると大きな月が見えた。本能的に月光に当たったら消えてしまうと分かっているのか、光が当たらない暗い森のなかにいた。
しかし、暗い森など関係ない。太陽神の息子と、連射するドラゴンスレイヤーと、森とかもはや関係ないバーサーカーがいるのだから。
「えぇ・・・でっか」
「ハイリ並みか?」
いきなり拳をハンマーのように振り下ろす。カルナたちは一斉に避けた。既に理性はない。三日前のがしゃどくろといい、今回の影といい、人の欲望のせいで負の感情が爆発したばかりに理性を失い人としての尊厳さえ奪われた。
「それにしても増えたな」
「陰に紛れてわかりにくいや。気配も察知しにくいし」
森は霧に覆われているらしく、気配が感知しにくくなっていたのだ。
「影らしいが・・・あんな色だったか?」
「本人たちがどこにいるのかは知らんが影が消滅していないのであれば生きているということだ」
「生贄だけど、肉体はあるって・・・それもねぇ」
どこかに保管されているのか捨てられているのかもわからない。
「戻したいが・・・彼らを助けてやりたいが、ここまで理性を失ってしまっては浄化すらできない」
カルナにとっても不本意だが、太陽の光は効果はない。そもそも太陽の光など彼らにとっては消滅する要因にしかならないのだ。
「浄化系の魔術だよねぇ」
「そっか、光魔術はダメだけど浄化に特化してるやつならいけるか」
浄化魔術。光でもなく、破邪でもなく、その魔術はあらゆるものの怨みや悲しみを拭い去る。治癒魔術に並ぶ癒しの魔術だ。
「ユーリンを今から呼ぶのはな・・・」
「彼女も浄化だったな」
「あ、いるじゃん!」
「え?」
「この世で一番歌を愛する人!」
アシュラの言葉に一瞬首を傾げたカルナとジークフリート。そして思い出して三人は頷きあった。
「歌うたいの天使・・・来たね」
三人は背後の清らかなその気配の方を振りむいた。そこにいたのは
「待ってたよ」
「お困りのようですね。皆さん」
穏やかな優しい微笑を浮かべるキリヤだった。キリヤはギルドに待機していることが多いが、時に依頼を受けることがある。それが浄化だった。
「浄化は得意分野だな」
「ふふっ、浄化の歌ですね。わかりました。時間稼ぎはお願いしますね」
「それなら余裕だ」
「念のため言っておくが荒らすなよ」
破壊力に特化したような魔術師しかここにはいないのだが、そのなかでも特にアシュラは制御できない。アシュラの剣はそれまで大剣の形だった。炎を纏った瞬間その剣が形を変える。アンフェール・オーガは十字架のような形をしている。
カルナたちはキリヤに近づく影たちが近づかないようにしかし斬らないようにしながら影に立ち向かった。
そんななか、キリヤは浄化魔術解放のための歌を歌う
涙に苦しむ者たちよ
安らぎの楽園に眠りなさい
穢されたあなたの夢を
私の歌で清めましょう
母親のように慈悲深く、カルナたちの心も安らいでいくような澄み切った歌声。胸の前で祈るように手を組み、魔術を編みながら歌う。キリヤの翡翠色の魔力の粒子が全身から溢れ出す。
カルナは弓を使い、アシュラは無邪気に笑いながらも絶え間なく切り付けて行き、ジークフリートが重い衝撃を誇る剣を振るうたび、空間はまるで割れるような音を立てた。
それでもキリヤの歌は空間を割るような音さえも優しくなるように歌い続ける。キリヤが天使の歌声ならば、カルナたちは神の怒りのようだった。手加減していてはキリヤに向かってしまうため、油断はできない。
苦しむあなたに届けます
穢れなき
翡翠の星が落とす一雫
私は歌う
あなたを救う翡翠の歌を
短くも優しく美しい歌。その詩は膨大な魔力の塊となり、その球体から翡翠色の光が溢れるように宙に浮かび上がる。
「うん、いい感じ」
カルナたちは一斉にキリヤの下へ集った。
「
キリヤは静かに唱えると、翡翠色の光がシェードを抱きしめるように包み込んでいった。優しく微笑むと、キリヤはカルナたちの方を振り向いた。
キリヤは天聖歌唱の歌い手。かなりの高難易度の魔術であり使う人はほとんどいない。完璧に扱える者となるとさらに限られる。その最高峰の魔術と言われているのがキリヤだった。
「失礼」
「おや、ウルさん。お疲れ様です」
「そちらこそ」
「アジトに居た者はどうした」
「すべてもう一人の弟子に任せました」
一瞬弟子?と首を傾げたカルナたち。どうやらロータスのマスターは弟子がいる。ウルを含めて九人だ。
「この度はお世話になりました」
「いいや、こちらも世話になった」
「今度一緒に不法侵入とかハッキングとかしない?楽しいよ」
勝手に人の情報を抜き取る行為と、不法侵入という褒められない行為。今回は仕方なくだっただけだ。なんの誘いをしているのかと、カルナとジークフリートも苦笑した。
「犯罪なのですが・・・」
「バレなきゃいい」
「彼、問題を起こすと困る立場の方ですので」
「そうなんだ」
キリヤの救いの手により、ウルは悪魔の囁きから逃れることができた。
「それでは、私はシャカさまに報告しなければなりませんので、また縁がありましたらその時はよろしくお願いします」
それでは、といってテレポートした。
「さて、ここに長居する必要はないな。。食糧も運び終えたのだ」
「そうだな。もうすっかり夜だ」
「輸送機で帰りましょうか」
キリヤの操縦が若干不安だ。キリヤの操縦の技術ではなく、ギルドに帰ることができるのかという点で。
――ドンッ!
突然カルナたちの後ろから爆発したような音が聞こえてきた。振り返るよ、さっきまであったビルが消え去っていた。
「壊してしまいましたか」
「仕方ない」
本来なら破壊したことを指摘するべきなのだが、アシュラにとってこのビルは六大同盟に関わる組織。壊したいとずっと思っていたのは確かだ。そしてこの街の住民にとっても凶兆の象徴。彼らのためでもあるのだ。バーサーカーなりの気遣いだった。いつもは隠しているアシュラだが、秘匿により狂化を隠している。
「気に入らなかったんだもん!」
「この森ごとでなかっただけ良かったと思っておきましょう」
カルナたちは、ご機嫌なアシュラに倣って輸送機に向かう。そのとき、いつぞやに感じた神聖な魔力の気配がしてほとんど一斉に振り返った。しかし振り返ったときには見えたのは紫色の裾だけだった。
「だ、だれ?いまの・・・」
「キリヤは知っているか?」
「顔全く見えませんでしたし・・・」
顔が全く見えず、見えただけの裾だけではキリヤでも特定できない。しかし、カルナたちは変化を感じた。
「この森の霧・・・全部消えていないか?」
「なんという浄化の力・・・」
「キリヤさんでも無理なレベルだったの?」
「質がまず違う気がします」
天聖歌唱とは違うのではないかというのがキリヤの予想だ。
「神さま?」
「まさか。今は神代ではない。神が降りてこれるはずがないはずです」
「確かにそうか」
「あの色の裾・・・カエン鉱山でも見たな」
三日前にカエン鉱山で見えた服であろうとは思う。しかも魔力もカエン鉱山で見たものと同じだった。
「と、とりあえず帰ろっか」
あの場にいた協力な浄化魔術を使う謎の人物が気になりながら、カルナたちはギルドに帰るのだった。
ー3ー
ウルは、ロータスがあるスイレンに戻ると、アジトに居た者を国の刑務所に入れた。アシュラから別れ際に渡された催眠スプレーのおかげか、グッスリ眠っているためか収監するのが楽だった。
その後は様々な仕事に追われているであろう主のもとに戻り報告した。
「あの・・・シャカさま?」
白檀の香りを漂わせる畳の部屋で、ウルが作成した報告書を険しい表情で読むシャカ。艶やかな濡れ羽色の長髪、アイスブルーの瞳の絶世の美青年だった。上はブラウス、下はスラックス、にもかかわらずブラウスの上に藍色の衣を羽織っているというとんでもないセンスの装いに身を包んでいた。服のせいでもはやその美貌を隠しているレベルだった。
「ふむ・・・アルスファについてはわかった。ところで」
「は、はい?」
「任務中に出会ったという者たちは一体誰なのだ」
念のため、行動を共にしたカルナたちの名とそのギルドを伏せていた。ただ、それが気になってしまったらしい。
「それは・・・キリヤ殿と」
「キリヤ?珍しいな」
この時点で目が輝いている。
「あと三名」
「その三名を聞いている」
この状況は非常にまずい。彼が興味を持つと、好奇心が発動して行動してしまう。最悪の場合、自ら赴くと言いかねない。
「アシュラ殿と・・・」
「ほう」
まずい。アシュラの時点で輝きが増す。相当な技術を持つ鍛冶職人である彼のことはかなり気になっていた。
「ジークフリート殿と」
「ほう」
行動をともにしたわけではないが、その実力はよくわかった。
「カルナ殿です」
「ほほう!」
特に気になっていた相手、カルナ。そしてこの四名から導き出されるギルドはフレアフルール。友人が少ないシャカにとって、その実力から友人になれるのではと考えている。相当成果を残しているギルドが気になっていたのだ。
「ウル」
「は、はい」
「フレアフルールに行くぞ」
・・・ですよね
こうなるとか思っていた。その場にいる弟子全員が頭を抱えたのだった。
ざっくりした次回予告
アルスファを落とすことに成功したカルナたちは、久しぶりに平穏な生活を送っている。ランクと健康診断をすることに
次回はカルナたちのもう一人の友だちが登場します
―――
キリヤ
種族、本名、出身地などすべてが不明。霧が深い夜に記憶を失った状態でフレアフルールの前で倒れていたことからキリヤと、ハイリに名付けられた。マスターの秘書であり、ギルドの癒し。天聖歌唱の使い手で異名は歌うたいの天使。とんでもない方向音痴
属性:天、光、風
武器:扇、鉄扇、歌
クラス:キャスター
基礎パロメーター
筋力7
耐久6
敏捷11
魔力13
幸運12
補助宝具
・天聖歌唱15
・夢見10
・結界10
宝具
・夜色の叙唱《ナハト・レチタティーヴォ》(対国)10
・宵色の讃美歌《トワイライト・ヒム》(対人)12
・暁色の譚詩《アルバ・バラード》(対軍)10
・翡翠色の子守歌(浄化)13