スイレンからシャカが来国し、ギルドが大混乱。紫色の救済者について話を聞くと、彼も探しているらしい。目的が一致したカルナたちとシャカとヴァルア。そんななか、なぜか急にアシュラがヴァルアにバトルを仕掛ける。
バトルを仕掛けたアシュラと、吹っ掛けられたヴァルア。二人の戦いによる衝撃で民が巻き込まれないようにとフルールの近くの森に移動した。
薄い笑みを浮かべて見据えるアシュラと、無表情に近い表情で見据えるヴァルア。
殺意はないが、それはそれとして攻撃性しか感じない少年の圧。カルナたちは知っているが、シャカとヴァルアはアシュラが鬼神であることを知らない。分かることは、目の前の少年の圧から感じられる只者ではない空気だけだ。愛らしいとさえ思うような笑顔とは正反対に見えた。
圧は本来麻痺するような体が硬直するような時に押し潰されそうな感覚がすることが多い。しかしこの少年の圧は違う。燃える火の粉が身体を焦がすような、そんな圧。感じたことのないものだった。
「何者なんだ、アシュラは」
「アシュラはアシュラ族の末裔。鬼神だ」
シャカもヴァルアも納得した。アシュラから感じる圧は確かに鬼のもの。さらにいえば鬼の中でも格が違う。
「そんなに俺が気になるのか?」
「ん?君も気になるけど気になるのは鎧だよ。その鎧をどんなふうに生かして戦うのか。興味がある」
あくまで興味があるのはヴァルアではなく、ヴァルアの実力と鎧。特に人となりを知りたいというわけではない。知れるに越したことはないが、優先事項ではない。
「なるほどな。いいぜ、受けて立つ」
「ん?オレ、何か気に障ること言ったかな?」
「自覚ねぇならまぁ良いさ。俺の剣と鎧を存分に見せてやる。まぁ、見えたらの話だがな!」
ヴァルアが目に見えない速さで距離を詰めた。剣を構えた瞬間さえ見えなかった。
──ドスッ
その場がざわついた。爆発したかのような衝撃がヴァルアの腹を襲ったのだ。腹筋に力を入れても意味がないような拳。
「へぇめちゃくちゃ硬いね。君の鎧は」
悶絶して腹の中のものを全て出そうになる痛みだが、アシュラに当たり前のように煽られる。硬いのは鎧だけ。アシュラは確かにそう言ったように聞こえた。
「テメェは、剣を使わねぇのか?自分の剣もあるんだろ?」
「今のオレの剣は拳だから。こっちもよく磨いてあるんだよ」
煽ったつもりだが流された。普段明るく優しいが、腹黒いところもある。それは基本的に戦闘中に発揮される。そう、今である。
「行っくよ~!」
陽気に明るく言っているが、本人の瞳は燃え盛る炎のように熱かった。
「ここから俺も全開で行くぞ」
ヴァルアはそう告げるなりアシュラに迫った。今まで見たことのないスピードだった。アシュラは避けようともしなかった。
刃さえも群青色に染まった剣で容赦なく切りかかる。
「盾!」
その剣を深紅色の盾で防いだ。
「その程度の盾で守れると思うなよ!」
――パリンッ!!!
ガラスのように盾が砕け散った。ヴァルアは正々堂々とした騎士の鑑のような男だった。なめられたと思ったらしい。
――ガンッ!
「がっ・・・」
「わざと割らせたんだよ」
アシュラは決して攻めるだけのバーサーカーではない。人を蹴ったとは思えない音がした。鎧がなければ完全に骨を砕かれていただろう。
・・・硬いね
アシュラとヴァルアは同時に距離をとる。その場が静寂に包まれる。そよ風が吹き、葉が静かに落ちた。その瞬間に深紅の魔力と群青の魔力が吹きあがった。その魔力を纏い、二人は同時に地を蹴った。二歩目で加速し、三歩目で最高速度まで到達。ヴァルアはその勢いのまま剣を振るった。対しアシュラはスピードを一気に落とし体勢を下げ、拳を突き出した。
「なんと・・・」
「さすがだ」
アシュラの拳とヴァルアの剣がぶつかり合った衝撃による風圧で地面が抉れる。剣をどうやって拳で受けているのかと思いきや、宝具の一つである炎の剣を一瞬でグローブに変えていた。
「はあああぁぁぁっっ!!」
少年のものとは思えない雄たけびを上げ、足を地面にめり込ませるほど踏み込み、右腕で剣を受け止めながら左拳をヴァルアの鳩尾に叩き込んだ。ヴァルアは目を白黒させ、胃から何かが込みあげてくるのを根性で耐えた。鋼の腹筋と鎧がなければ消し飛んでいるレベルの威力。
ヴァルアは地面を転げまわってしまいたい衝動に陥るが、それも理性で噛み殺し逆転の一手のために宝具を展開。
「
鮮やかな群青の光で目を眩ませ、騎士の剣がアシュラに直撃した。これまで何度も吹き飛ばされ吐き気がするような衝撃を与えられてきたヴァルアの意地だ。さすがのアシュラでも大ダメージは免れない。恐ろしい破壊力を誇る筋力があるとは思えない小柄な体躯が吹き飛ぶ。
「ぐっ・・・!」
数十メートル後方に吹き飛ばされ叩きつけられるかと思われたが、バク宙して着地した。着地した瞬間を狙いヴァルアはさらに攻める。
「漆黒十二ノ太刀!」
アシュラの眼前に押し迫ったその瞬間、黒一色の十一振りの刀が四方八方からヴァルアを本気で突き刺しに来る。刺しに来る刀を打ち返す。磨き抜かれたヴァルアの剣の腕がそれを可能にしていた。常人であれば今頃全身に刺さり、生きているのかも怪しいようなダメージを与えていただろう。
「もう一本」
地獄から聞こえるような静かな声。アシュラのもう一振りの刀。
「ぐっ、お・・・っ・・・」
補助宝具破壊が発動し、ただでさえ恐ろしい破壊力を誇る筋力を一気に膨れ上がらせる。完全にアシュラの第一段階の本気を引き出してしまった。彼はサーヴァントでないはずなのだが、どういうわけかバーサーカーのクラススキル狂化のせいで本気を出せないようリミッターを掛けられていた。そのアシュラが全てを破壊する鬼神の力を目覚めさせたとき、一時的にランクが10を遥かに超える。これは鎧で耐えるなどという生温い防御でどうにかなるものではなかった。
あのシャカが驚愕する。
ヴァルアが受け身もまともに取れないまま地面に叩きつけられ意識を飛ばした。さすがにキラがドクターストップでバトルを強制終了させた。息を切らし、俯くアシュラの表情は見えない。カルナたちが駆け寄った。
「え・・・アシュラさん?」
ヴァルアのダメージは内臓を潰されるほどだったが、アシュラが受けたダメージも多大だったのだ。あの宝具はヴァルアの最強の宝具。ヴァルアに拳を叩きつけたその時には意識を失っていたのだ。
アシュラは耐久は高いのだが、小柄なため受けるダメージが大きい。本人も気にしている体格という障壁だ。
ー2ー
キラの最強の治癒能力により、ヴァルアのケガは即効で修復された。その力にシャカが興味深々な様子だ。大怪我している親友よりもなぜ。おそらくこれくらいでは死なないと分かっている。あの瞬間、意識を失っていたばかりに理性が飛んだアシュラだが、わずかに残っていたのか心臓を避けていたのだ。
別室でシルヴァの治療を受けていたアシュラは、かなり申し訳なさそうに治療室に入って来た。数時間ほど前まで煽っていたアシュラだが、性根は優しい。
「さすが、目覚めるのは相変わらず早いな。ヴァルア」
「おう・・・やっばかったけど・・・ん?」
シャカの向かいの気配にヴァルアは視線を移した。そこには自分の内臓を潰した張本人がいるのだが、その少年が泣きそうになっていた。
「ごめん」
「謝るんじゃねぇよ。あれはお互い本気のバトルだったんだ。俺も最強の宝具撃ったし、あれも即死レベルだったんだぜ?」
「そうだとは思うけど・・・最初は君の実力と武装が気になってただけだったのにね」
「今は?」
「君の騎士道が知れて嬉しかったよ。途中から鎧を見てなかった気がするし」
アシュラは、無愛想で少し粗暴にも見えたヴァルアの戦いの端々から見えた騎士のプライド。正々堂々としていて、自分にはない在り方。少しだけ憧れのようなものも感じた。
「お前のそれは・・・多分誰かを守るためのものなんだろうな」
「というと?」
「意識なし、理性なしでリミッター解除してあの瞬間シャカやそこのカルナも超える力を爆発させた。あれは無意識に危険を察知して誰かを守るものなんだろうなと思った」
「へぇ・・・うん、オレは失いかけたからね。故郷」
シャカとヴァルアは目を見開いた。
アシュラの故郷はどういう目的があったのか、神に襲われたのだ。神代が終わったはずの世界なのに、脅威でも感じたのかとてつもない数の神が押し寄せ故郷を火の海に包まれ、多くの民が巻き込まれ火が引いた頃には何万人もの国民が丸焦げになった状態で転がっていた。
そして、国にとってもあまりにも大きすぎる犠牲。それがアシュラの両親だった。シュラ王とマオ女王。あまりに多くの神を相手に、国民の三割が避難するまで持ちこたえ、そして力尽きた。
「その時にオレの弟が拉致されちゃって。ずっと探してるんだけどね」
「・・・そうか。協力させてほしい」
「でも、そんな状況でよく国が残ってたな」
「お父さんが力尽きて、みんな諦めかけてたとき・・・その神軍を殲滅した雷神が現れたんだ」
「ら、雷神?」
アシュラ、そしてヤシャはその時初めて神の怒りを感じた。目の前の敵を本気で殺すためだけに現れ、アシュラたち国民と国を守るために戦ってくれたのだ。何も関係がないように見えた神。
「それ紫色だったり?」
「いやぁ・・・朧げだけど・・・すっごく綺麗な人だった」
表情は怒り一色であったのに、その姿はあまりにも美しかった。これが救いの神だというなら信じられるほどだった。
「完全には覚えてないや・・・」
当時のアシュラは国が滅びるかもしれない。国民全員が殺されるかもしれない。そんな絶望に打ちひしがれていたために鮮明には覚えていなかった。
「覚えていないのも無理はない」
「そうかも。多分、オレの国を襲ったのは冥界府の誰かだった気がするんだ」
「冥界府?」
「うん。オレの国を襲ったやつらは、六大同盟に属してた。オレの国は幸い助かったけど、この世にはあいつらに滅ぼされた国もある。オレは憎い」
少年の目に映る怒りの炎。カルナたちはそれを時々見る。そうならないような世界が来ることを望んでいる。誰でも少なくとも友は幸せであってほしいものだ。
「ところでさぁ、シャカさんの力も見たいなぁ」
「ふふっ、そのうちな」
「楽しみにしている」
世界最強の魔術師。その実力を見ることが出来る日は来るのか。
「オレは、アシュラが自ら過去を教えることに喜びのようなものを覚えている」
「俺もだ」
人懐っこいようでこのなかでキラの次に警戒心が強いアシュラが、自分から距離を詰めた。おそらくヴァルアの騎士道精神がアシュラの警戒心を解いたのだ。
「ヴァルア、またバトルしようね」
「おう」
「あんなことがあってよくトラウマになりませんね」
「俺は生まれて初めてライバルを見つけた」
シャカじゃないのか、と少し思った。しかし、ライバルとして認められたことは素直に嬉しい。
「よろしくな、アシュラ」
「うん。オレこそよろしくね。ヴァルア」
今度はヴァルアから手を伸ばした。アシュラは攻撃性が一切ない純粋な少年の笑顔で手を差し出した。
フレアフルールの一室が穏やかな雰囲気に包まれた。
次回予告
フルールが気になった様子のシャカはあと二日ほど滞在するらしい。一方、カルナとジークフリートは新たな依頼を指名で受けることに。匿名の依頼主の目的は?
―――
登場人物
ヴァルア・ディアモンド
ロータスの一応非正規雇用魔術師。シャカの親友であり良き相棒。鋼の守護者の異名をとるほどの防御力が持ち味。体術だけなら、親友シャカにも勝てる。ライバルはアシュラ。
属性:鋼
武器:ディアマンド・ブレイド(剣)、蒼光の鎧
クラス:ライダー
ステータス
基礎パロメーター
筋力9
耐久12
敏捷10
魔力7
幸運8
スキル
・硬質化15
・筋力増強8
・金剛13
宝具
・鋼石の蒼光《アーシェ・エトワール》14(対国)
・碧鋼ノ盾《ジャスパー・シールド》13(対人)
・蒼王・蒼き鋼の神馬よ《ラージャ・カーラヴィマーナ》13(対軍)