呪具:一族列伝   作:何処にでもある

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 今時俺屍を知っている人は果たしてどれだけいるんでしょうね。
 プロローグです。




歴代の記憶
945年 初代 名も無き女 7級呪霊


 

 

 呪具。

 

 それは人々の負の感情より産み出されたエネルギー、呪力を宿した武器の総称。

 刀骨の髄に至るまで呪いに浸されたそれらは、呪いの具現足る呪霊を祓う爪として振われ、しかし宿された呪いによって無相応な使い手は呪い殺される。

 

 その生成過程は多様に枝分かれし、或る呪具は積年使い込んだ使い手である術師の呪いを己の物とし、或る呪具は数十年の歳月を以って極上の呪いとして生誕する。

 

 生贄の血を啜り、躾け捉えた呪霊を加工し、蠱毒に浸し、残穢を集め、術式を刻み……人を、呪霊を、呪いを加工し、濃縮し、完成する。

 

『ギィィ ァィ 』

 

 そうして完成した呪具は呪術師或いは呪詛師の手に渡り、呪霊を喰らうのだ。

 

『ァァ ァア ギッ‭─‬‭─‬‬……』

 

 刻は西暦945年。

 平将門の死後5年を経た睦月の夜。

 東国(東京付近)のとある山村。

 人口50名にも満たないまつろわぬ民の、偶々僅かな呪力と細やかな術式を持って産まれた女の病死体より、特異な存在なれど等級にすれば……一番下の4級の蝿頭を基準にして7級。余りにも過小で卑劣な、ともすれば直ぐに消え去りかねない霊が、女の死体から蛆のように沸いた。

 

『ギィア‭─‬‭─‬ジョギ ジョギ ジョギ  ゴクン』

 

 鋏の口に、僅かな黒霞、全体として観れば糸切り鋏が適当であろう。

 術師であればそれこそ小石。路傍の石を蹴るように払える、物理的干渉能力も持たないもの。

 

 しかし‭─‬‭─‬その呪霊はなんの因果か元となった女の術式を引き継ぎ、7級の低級呪霊でありながら人肉を切り、僅かずつではあるが肉を()()()()()()

 

『ジョギ ジョギ ジョギ‭─‬‭─‬ジョギ

 

 7等級ともなれば、本来人に害は与えない。

 長く取り憑けども肩を重くし、気分を僅かばかり落とす事も出来ない。

 そもそもとして呪霊は負の感情より産まれる呪いこそ本体とする。

 恐怖を高める為かはたまた気まぐれに殺すことこそあれ、決して生物のように肉を喰らうこと自体に生の活路を見出さない。

 

ジョギ  ‬ン

 

 では、この呪霊が肉を食らい……ましてや、女の呪いをその身に宿せているか。

 

 生得術式「降霊術」

 "死者の体組織を呑み込み、死者の肉体の情報をその身に宿す術式"。

 それを得た、"意思なき呪霊"。

 

 本来の所有者である女が終ぞ気付かないまま、呪力の関与しない死によって生誕した、"死者に完璧に化ける呪霊"。

 

ジョ  ギ  イ  ァァ』

 

 バキッボキバキッ

 

 術式として体組織を取り込む工程を含むが故に7級でありながら肉を啄み、肉体の情報を宿す性質と呪霊という存在が噛み合わさり実質的に"存在の吸収"を成立させたそれは、瞬く間に人の姿‭─‬‭─‬死んだ筈の女の物を、魂を乗っ取られる形で永続的に手に入れた。

 

「………?」

 

 しかし……悲しいかな。

 術式として必要である詠唱を省いたそれは肉体の再現が不完全であり……記憶の大部分を消失させ、欠けた肉体情報は術式の持ち主である呪霊の情報で補う形で補完された。

 無論都合よく無条件に補完された訳ではなく、そこには呪霊の本能による縛りが幾つも結ばれたのだが……ともあれ事実として、7等級相当の呪霊と女は相互に補うことで……おおよそ、6等級相当の人間と呪霊のハーフとして、産まれ直しは果たされた。

 

 "縛りの一環に、その肉体を呪具と定義し、自我其の物を縛ることで"

 

「……あぅ? ぁー…」

 

 ‭─‬‭─‬斯くして白痴となって生き返った女は、その後山の授け物としてまつろわぬ村の人々に"保護"され、その呪いは15年後の次代へと移ろい、引き継がされる事となる。

 

 

 これが後の呪術師の一族、傀塚家の始まりであった。

 

 






 降霊術
 原作ではオガミ婆が使用していた術式。
 死体を食べるとその者を完全再現する事が出来る。自他対象。
 初代の女はこれに類似した術式であり、オガミ婆とは細部が異なっている。

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