呪具:一族列伝   作:何処にでもある

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 星漿体
 日本の結界の底上げ、維持、管理を担っている天元という人物の新たな肉体候補のこと。
 500年周期で交換する必要があり、これに失敗すれば日本の結界術は千年は衰退するという。

 天元は肉体の交換を除き自分の意思で現世に干渉しないが、逆に考えれば現世の結界に関しては機械的に処理しなければならない。
 傀塚白はこれを利用し、自らの術式と天元の結界を接続。
 "招虎の使用に当たって天元が嫌だと思う使い方をしない"縛りで全盛期は影響範囲を日本全土にまで拡張し……黒鬼の贄を捧げる事になって以来、縛り違反としてその範囲は年々縮小していった。

 傀塚白は適正は低いものの、星漿体候補の1人だった。
 それはなんの因果か子孫に天元の血が混ざる事で最有力にまで躍り出ることとなる。
 その才の恩恵は凄まじく、四核三重大結界を筆頭に数多の式神術や結界術、幾つかの呪物が封印出来たのは天元という存在があってこそ。
 個人の意見はともあれ、傀塚家としては星漿体に指定されて断れるような恥知らずにはなれなかった。

 傀塚当主が引き継ぐ一族列伝は、それら恩義を子孫が忘れることを決して許さない。
 全てが記録されて閲覧が出来るとは、そういうことだ。




1000年 天人五衰・上

 

 

 1000年。

 天元の肉体を交換する為に術師が動き、それを阻止する為に羂索が暗躍し、金や術師の世界に惹かれて呪詛師が蠢く混沌の年……の、一日前。

 

 暦が一月一日となり新年が始まる直前の深夜にて、傀塚家は一つの儀式を終えようとしていた。

 

「僕が経験した相伝の儀はそもそも、子供を産むに従って障害となる縛りがあったから行われた物。更に過去を辿ればこれは自己蘇生の為の縛りだ。そもそもが子孫を継ぐ為の設計ではない」

 

 地下深く。かつて相伝の儀を行った場所には、既に傀塚家の忌庫から取り出した呪具と呪物、それから隅々にまで金糸で張り巡らされた呪印と結界が構築されていた。

 

「縛りを解消して普通に子供を成すのが最も温厚な手段だが、生憎と僕は女の術師だ。婿を取れば最後、全ての遺産は食い潰されるだろう……それは、きっと先祖や姉妹らも望んではいない」

 

 実の所、既に傀塚家は家族間で結ばれた他者間の縛りならば解消出来る呪物を所有している。

 一級呪物「逆児蔵」。傀塚魔子がとある呪詛師から回収して来たそれを使えば、傀塚の悪因は消えるのだ。

 しかし、それでは此度の目的は達成出来ない。必要なのは術師として生きられる子供であり、産まれて直ぐに朗報と会話の出来る様な存在。

 共に死んでくれるような術師の旦那も時間も無い以上、傀塚当主に残された選択は二つだけとなった。

 

「縛りを一度消す。それは確定だ。しかしその後に関してはまだ選びようがある」

 

 一つは宿儺との契約で用意していた者に呪物で術師の才を与え、それを子孫だと偽ること。

 しかしこれは論外だ。術師として、主人として労役に反するような行いをしてはならない。

 

 故に選べるのはもう一つの方。

 

「傀塚魔子を産み直す。その際の父方の遺伝として適当な術師の肉片を使う。その際に必要な縛りを結び直す。これしか無い」

 

 呪具「一族列伝」の術式効果は所有者の情報を記録する事。

 傀塚家はそれを取り込む事で一定の知識と経験を積み重ねることが出来る。

 

 白金が考えたのは、呪術的な同一人物である双子なのを利用して「年齢の譲渡」を実行。

 胎児となった魔子を腹に納める事で呪術的に親と子の関係に再構築。

 儀式を安定させる為に父側に適当な者の血を仕立て、二つの遺伝を融合。

 先祖同様、死後に全てを子供に譲渡する縛りで急速培養して年齢を加速。

 

「蟷螂と蛹の縛りを融合し、今回に合わせて調整した形だな。僕のやり方になるが……産まれた様子を直接見せてやれば、この子が僕の子孫である事を否定出来ないだろう」

 

 問題点は幾つもある。

 白金の構築術式は魂、肉体、因果のどれにも干渉しない都合上、子を産む行為に呪術的な判定を載せられない。

 構築術式では、構築した黄金があの世に置かれようと出産に術式を絡められないのだ。

 

 しかしそれで諦めては傀塚の名が廃るというもの。

 白金は出産過程を長期に渡る構築であると定義し、"出産行為の拡張術式化"に挑戦した。

 結果は六年の試行錯誤を経て成功。感覚的な完成の実感を根拠として白金は拡張を完了させた。

 

 既に"構築術式を行使しない"縛りを結んでいるのにも関わらずの、術式の拡張。

 それでも拡張術式に組み込もうとするのは何故か。

 

「‭─‬‭─これは賭けだ。魔子は僅かだが十種の式神要素を持っている。つまり魔子に対してなら、出産を術式対象にするハードルが下がる可能性がある」

 

 狂気。

 構築の拡張術式を十種の残留を経由して行使し、縛りを乗り越えて拡張術式を行使する。

 成功するかは完全に未知数であり、仮に成功しても縛りを破り、あまつさえ過去に無くした術式を使った反動により死は免れない。

 

 失敗すれば滑稽な自殺。

 成功しても結果の分からない自殺。

 それでも挑むのはそこに浪漫を見出しているか……かつて子孫にあらゆるものを相伝する為だけに幾千万の魂を消費した傀塚墓守の血を継ぐに相応しい、理解し難い行動原理。

 

「……仕込みの儀式は終わった。魔子には契約に"はい"って言わせたし、絶命の縛りは二つ分しっかり発動する。後は父役の血を用意するだけだが…… 星漿体としてこの身体を渡す必要があるからな。取り込んだ一族列伝然り、出産後にしっかり使える様に調整しなければ……良い術師の男いないかな」

 

 縛りにより動きを阻害する大きさまで成長し停止した腹を撫で、白金は悩みを口にする。

 それは肉体を渡される側にとっては余りにも肉体の譲渡を拒絶したくなる所業であったが……技術に特化した一族である以上、渡される時には新雪のように一切の痕跡を消えている確信も感じていた。

 

「……あ、そういえばもう一つ、懸念すべきことが有ったな」

 

 果たして次の肉体がどうなるか、それは天元にすら想像の付かない事であった。

 

「兄弟を引き渡した宿儺の退職……ふむ、邪魔はしないでくれると助かるのだが……」

 

 

 

 ▲▽

 

 

 

「‭─‬‭─君が星漿体だね?」

 

 時は過ぎて六月。

 天元の肉体を交換する当日……より、3日前。

 平安の離れにある呪術師本部、鳥居の続く階段にて。

 本命の星漿体と護衛の前には、額に縫い目のある若い男が立ち塞がっていた。

 

「来い‭─‬‭─"四目四鬼"」

 

 掌印を結び呼び出されたるは四色四鬼。

 かつて平安で300を超える貴族を殺した怨霊と式神の融合体。

 その調伏条件を、持ち前の生得術式によって踏み倒した呪詛師による猛攻が始まった。

 

 白鬼が領域を展開し、青鬼が護衛を宙に浮かばせ、黒鬼が星漿体を破裂させんと眼を開け‭─‬‭─。

 

「……ふうん、お前が源信の言ってた天元を狙ってる呪詛師ってワケ」

 

 "永遠に終わらない処理落ちが、鬼達を襲う"。

 

「なッ‭─‬‭─‭─‬‭─」

 

 広がっていく歪み。空間の亀裂の先には満天の夜空が広がっている。

 鬼の領域と均衡したそれは瞬く間に押し広げ、術師本体にまで効果を届かせた。

 

領域展開 無量空処

 

 ‭─‬‭─かつて平安に居た術師・菅原道真は何人もの子供を作っていた。

 子供らは術師の才能の有無に分割され、次に継いだ力により名を変え、新たな家門として菅原家から独立していった。

 

「俺さあ、そういう…他人の力で粋ってるっての? ダッセェし、つまんねえカスだって思ってんだよね」

 

 そうして分割された家門の中に、真美しき眼と複雑怪奇な術式を継ぐ一族が居た。

 

 五条家

 

 特異体質「六眼」と術式「無下限術式」を併せ持って産まれた者こそ第一とする、御三家の一角となり得る術師の家門。

 此度の護衛は、その初代であった。

 

「死ねよ『─‬‭─‬ッガア!!』…っ!」

 

 五条が処理落ちし呆然と立つ術師の前に蒼の一撃を喰らわそうとしたその時、その背後に隠れていた赤鬼が叫び術師を後方へ投げ飛ばした。五条の領域から外れ、未だ押されてない白鬼の領域に着弾する。

 

(無量空処が効いてな‭─‬‭─"彌虚葛籠"! 本体じゃなくて式神の方に割り振ったのか! だがアレは‭─‬‭─)

 

 

 ……五条本人が否定したように。

 

 此度の襲撃を行った呪詛師は、彌虚葛籠を行使していない。

 そもそも、彌虚葛籠とは簡易領域の原型。起源を辿れば術師側が秘匿する技術であり、呪詛師であるその者が知れる範疇にない。

 

『"ンカア(反転術式→羂索)"!』

 

 では、どの様にして術式に耐えたのか。

 最初に言って置くならば、反転術式を自身に使い続けたからではない。

 

 五条が目の前に居る赤鬼を捻り潰しているのを観て、呪詛師が意識を取り戻す。

 

「…ふふふ、死ぬかと思ったよ」

(‭─‬‭─ハ! 何が…赤鬼の反転術式! 想定外だった。まさかこの様な術師が護衛に付いていたとは。領域も使える辺りかなりの実力。情報が出なかった辺り、今日に至るまでずっと隠されてたか……領域に踏み入れれば一向に進まなくなる思考…厄介だぞこれは)

 

 傀塚の部下が平安の呪詛師を雇い、それが更に別の呪詛師との繋がりを運ぶ草の根活動。

 それによる呪詛師の術師への転向に、純粋な人の手の不足と貴族による平安への封じ込めは五条家の秘匿を図らずも強固な物に昇華していた。

 結果、羂索は六眼と無下限術式の抱き合わせを知らずに真正面から襲撃。

 現在に至って窮地に追いやることに繋がったのだが……そこまでの因果関係を追える程、呪詛師に余裕はない。

 

「そうかよ。とりま回復役はこれでお終い。他の鬼も棒立ち。終わりだぜお前」

(不意を突かれたが回復は潰した……けど反転使える式神って何だよなんで呪詛師やってんだ。青色とか俺と似た様なことするし)

 

 棒立ちの3色が無下限の引力によって押しつぶされる。

 2mの図体は瞬く間にぐしゃぐしゃの手毬程度の大きさとなり、白鬼が消えた事で呪詛師を守っていた迷宮の領域もかき消えた。

 

 これで呪詛師は領域内。守りもなく詰みである。

 

「…きっしょ。なんで平然としてんだよ」

 

 しかし……。

 

「‭─‬‭─さて、説明する時間もないのでね。ここから本番って所かな」

 

 呪詛師は赤鬼と同じ様に平然と、宇宙の広がる領域内に佇んでいた。

 

 

 

 再三となるが、四目四鬼は術師の怨霊と式神が混ざり産まれた呪霊である。

 羂索は此度の始まりの天元の肉体交換の儀、星漿体暗殺の手段として「式神操術」を持った術師の肉体を手にし、傀塚領土に居るという黒鬼を確保したに過ぎない。

 

 そもそも四鬼丸ごと連れて来れた事自体が想定外であり、知っているのは基本動作だけ。

 呪霊という存在を心底見下している羂索にとって、鬼の内部に怨霊が宿っており、式神とは別個体として調伏した者の補佐をしているとは夢にも思っていなかったのだ。

 

《‭─‬‭─‬式神の内部から術式を拡張し、領域を中和するのは上手くいった。私は鬼の内部でしか活動出来ない代わりに理性と転移能力がある。問題は…順番。術師の目的に最も沿った解法でなければならない》

 

 術師の肉体内部は領域の一種である。この領域は基本的な呪力による干渉を防ぐ効果を持ち、身体内部に他者の術式効果を出現……例えば肺を遠距離で直接燃やすなど……といった現象を防ぐ。

 ただし、これらはあくまでも非術師の様に無防備ではないと言うだけで効果自体は然程の物。

 しかし怨霊はこれを式神を肉体と定義し、自分を守る領域として運用。

 動作不良を起こした式神を人力操作で動かすことにより、五条に認識されてないのと合わせて羂索を防ぐ事に成功した。

 

《今は常に術師の脳を反転術式で治してるから動けてるが、私が赤鬼の制御を手放した時点で術師は領域効果を受ける。敵が式神が死んだと誤認している間の命だ。だがこのまま回復し続けても術師は殴られて死ぬ‭─‬‭─いややっぱ術師は死んでいいか。調伏正式に達成した訳じゃないし》

 

 ……そして最も場の情報を持った上での決断は、星漿体の殺害を優先すること。

 領域効果を数秒受けた所で死にはしないという呪霊としての人命軽視の思考による物。

 

「私の術式は‭─‬‭─ッ……」

 

《‭─‬‭─けど、それは二流の思考。本物の術師は、例え死んでも定められた任務を遂行する!》

 

 その上で……怨霊はその一歩先、かつて名を馳せた術師として全取りの手段を選び取る。

 

「急に効い……?  シマッ!!」

 

 五条が振り返った時には既に赤鬼は黒鬼を最低限治し終え、黒鬼は星漿体を"観て"いた。

 

「……え?」

 

 星漿体が、黒鬼の術を受けた。

 

 

 

 その後の刹那の攻防において。

 五条は瞬時に領域を解消。蒼を利用し遠くに避難していた星漿体の下に到着。

 羂索が情報処理に呆然としている間、赤鬼が石像化…自身を残機として変換開始。

 黒鬼は既に対象の眼の中に転移している。拡大開始、星漿体死亡まで猶予0.00……2秒。

 

(〜〜ッィガア!!!)

 

 五条、この土壇場で六眼による式神の分析を完了。怨霊(呪核)の存在を確認。

 眼の中に居る黒鬼丸ごと怨霊を除祓し、救助する。五条はイチバチ(大博打)でこれを実行。

 間に合わなければ任務失敗。間に合えば星漿体の両目が消えるだけで済む賭け。

 

 

(どっちみち護衛に失敗するなら‭─‬‭─ッ!)

 

 

 

 かつて平安京を脅かした特級仮想怨霊「両面宿儺」との戦いで、今の平安京に他者を癒せる反転術式の使い手は居ない。

 天元に捧げる都合星漿体は五体満足でなければならず、"眼中に黒鬼が転移した時点で、女は星漿体として詰み"となった。

 

 故に五条が選んだのは、その命だけでも助けんとする術師としての選択。

 

 

『‭─‬‭─っカアァァン(引き寄せ→術師 引き離し→術師)!!!』

 

 

 "怨霊は、それを見込んで黒鬼を捨て駒にした"。

 

 再度言おう。

 

 "怨霊は鬼の内部に限定し、自在な転移を可能とする"。

 

 黒鬼の術式効果を発動した時点で怨霊は残機中の赤鬼を潰し、貯めた復活能力を青鬼に集中。

 復活した青鬼へ移動後、手動操作で術式効果を高めつつ呪詛師を手元に引き寄せ、絶命の縛りで術式反転を行使。

 

 "式神の命を使い潰しての、反転した術式効果を乗せた投擲"

 

 今後二度と青鬼を呼び出さないのを対価に投げ飛ばされた呪詛師はその後、音速を超えて九州に不時着する事となる。

 羂索からすれば目覚めた時には式神を喪失し、何故か九州で死体と化しているのだ。

 状況から襲撃に失敗したのだと今後誤解し続ける事になるが、それは一旦置いておこう。

 

「‭─‬‭─ッッシ! 間一髪!」

 

 五条家初代、黒鬼の討伐に成功。

 これにより怨霊は宿れる四鬼を全て喪失し、転移を可能にする為の縛りによって死亡。

 本命の星漿体は両眼を喪失。星漿体としての役割もまた喪失する。

 

「……なんて、ことを」

「あー…ごめんな? けどいいだろ生きてるし。きっといい事あるって。それにほら、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 四目四鬼と呪詛師 対 星漿体と五条家初代‭

 ─‬‭─両者敗北。

 

 

 

 所変わって星漿体予備兼囮役。平安京入り口にて。

 護衛……加茂家、禪院家、他多数の術師家門総員183名、非術師の武芸者一万強。

 

 

「……何者だ、お前は……何故"両面宿儺が再び現れている"!!」

 

「なんだ、俺と似た奴と会ったのか? なら‭─‬‭─これは"呪い"だろうなぁ……アレが相手だ。誰一人食べ残しはしない」

 

 

 "両面宿儺 平安京襲撃"

 

 非術師死亡者‭─‬‭─10,370名、全滅。

 術師死亡者‭─‬‭─175名、壊滅。

 

 

 その後五条及び生存者18名の証言から、朝廷は以下の任務を決定。

 

 

 傀塚家当主を星漿体候補から正式に任命。

 残存戦力を総動員し復活し天元への道を塞ぐ両面宿儺の討伐。

 及び傀塚家当主を送り届けよ。

 

 






 じゅじゅさんぽ
 Q.なんで異形の子供に宿儺って名付けたんですか?
白金「四手、腹口、四目、宿儺、八百善から選ばせた。僕は八百屋とお膳を掛けた最後の奴が良いと言ったな」
宿儺「ダサい、安直、適当、妥協点……小っ恥ずかしい。つまり消去法だ」
白金「八百善の方が書きやすいのに……」

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