呪具:一族列伝   作:何処にでもある

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 前回のあらすじ
 三代目、天元と同化する。
 四代目、見た目だけ歳の差兄妹。
 宿儺「竈の火力上げろ! 生前葬だ!」




1000年 天人五衰・下

 

 

 

 

 

(フーガ)

 

 

 

 

 

 …………。

 

 

「あ、にいちゃんが笑ってる! ねえねえ、その手紙誰からの?」

「ふ…俺とお前の恩人からだ」

「へ〜ぇ。僕も見てもいい?……読めない」

「くは、お前にはまだ早い。知りたければ勉学に励め」

「…はぁ〜い」

 

 思えば、俺は女のことを少なからず好いていたのだろう。

 

 顔を合わせたのは僅かで、人となりは文通で知れたことだけ。

 

 それでも誰からも人として扱われてなかった俺を、最初に人として扱った奴であったし、弟を冥府から連れ戻した恩人でもあった。

 

「儀式は終わった。ほら、お前の兄弟だ。縛りの足し引きの都合で6歳程度まで老化したが、それまでに学ぶであろう知識は植え付けておいた。だが中身は純粋無垢だから、教育は慎重にするのだよ」

「……俺とそっくりだな」

「お前の親族だからな。……夕焼けか……晩ご飯を用意しよう。目覚めたら一緒に食べて、風呂に入って寝るんだ。今日は泊まっていくといい」

 

 何となく、一生を仕えて生きていく。

 そんな漠然とした予感を感じていた。

 今にしては幼稚なこと甚だしい。

 

 長い人生の中で10年間だけ、呪いとして生きるのではなく、人として歩んだことの何が、それほど恩を感じるに値するのか。

 

 今に思えば愚かしい。

 若さの至りだった。

 

 いつか弟と女と共に一緒に暮らす夢など……いや、俺は一度たりともそんな事を考えた事はない。

 

 さて、ズレたのはいつだったか。

 呪いの道に堕ちたのは、引き摺り落とされたのはいつだったか。

 

「子供はなあ…微妙なのが多いんだよなあ…

 あばら骨が浮き出て 肉が少ない

 食べるにも 犯すにも半端になる」

 

‭─‬‭─‬‭─‬‭─‬‭─‬‭─‬‭─‭─‬‭─‬‭─‬‭─‬‭─‬‭─‬‭─‬‭─‬‭─‬‭─‬‭─‬‭─‬‬‭─‬‭─‬‭─‬‭─‬‭─‬

 天元と女が同化した一年前。

‭─‬‭─‬‭─‬‭─‬‭─‬‭─‬‭─‭─‬‭─‬‭─‬‭─‬‭─‬‭─‬‭─‬‭─‬‭─‬‭─‬‭─‬‭─‬‬‭─‬‭─‬‭─‬‭─‬‭─‬

‭─‬‭─‬‭─‬‭─‬‭─‬‭─‬‭─‭─‬‭─‬‭─‬‭─‬‭─‬‭─‬‭─‬‭─‬‭─‬‭─‬‭─‬‭─‬‬‭─‬‭─‬‭─‬‭─‬‭─‬

「……ダイ"  タス  ニイ  チャ  」

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「ま、その分上玉はいい呪物になるから文句はねえけどよ」

‭─‬‭─‬‭─‬‭─‬‭─‬‭─‬‭─‭─‬‭─‬‭─‬‭─‬‭─‬‭─‬‭─‬‭─‬‭─‬‭─‬‭─‬‭─‬‬‭─‬‭─‬‭─‬‭─‬‭─‬

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 "蘇った弟が、通りすがりの呪詛師に殺された日"。

 

 

 

 

 

「……こんな所にいたか」

 

「何故だ」

 

 あの時も……丁度今のように土砂降りの雨が降っていたのだったか。

 

「何故死んだ」

 

「巡り合わせだ。巡る呪いが、偶然お前の兄弟を殺したんだ」

 

「………これが、呪いなのか?」

 

「ああ、呪いだ。呪いとは天災に近く、呪詛師の殺しは、呪霊が産まれ人を殺すのと大差ない。遺された者に出来ることと言えば、前を進むことだけなのだよ」

 

 単なる間の悪さが弟を殺した。

 まだ一年しか共に過ごしてなかった。

 まだ一年しか乾きを潤してなかった。

 

 水はずっと飲まぬより、水滴ほどに与えられた方が余計喉が乾く。

 

 女が俺に与えたのは、より苦しむ獄門番の裁きだった。

 

 気付けば呪いの道をふらついて、ふと女が天元と同化すると聞いた。

 良い機会だと思った。俺を苦しんだ分、女も苦しまなければ気が済まなかった。

 

 だから腹を抉り赤子を引き摺り出してやろうとした。

 そして嘆く女を嘲笑い、ずっと俺に復讐しに来ればいいと思った。

 一生俺を理由にして生きていればいいと思った。

 

「だが……俺の呪い(思い)より女の呪い(思い)の方がずっと悍ましく、執念深く、残酷で……どうしようもないものだった」

 

 呪いは相手も己も殺すものだ。

 穴二つ、最後に残るのは爪痕だけ。

 両者が呪いあったのなら、より大きな穴の方にまとめて放り込まれるだろう。

 

 居てはならないもの。

 

 それが(呪い)だった。

 

 

 

 ▲▽

 

 

 

 土砂降りの雨が降り注ぐ。

 辺り一面が瓦礫の山となり、一夜にして大都市は消えた。

 生き延びたのは僅かな術師と、運に恵まれた僅かな非術師のみ。

 

 唯一居たのは、後に呪いの王として呪術界の歴史に刻まれる、忌み名だけであった。

 

 

・西暦1000年・

両面宿儺により平安京消滅。生存者37名。

両面宿儺、活動開始。

 

 

 されど生きたものは前に進まなければならない。

 天皇と呪術師を筆頭に生き残った者らは呪術師の本拠地や各自安全な場所に避難を行った。

 それから一ヶ月の物理的政治の空白期間が発生。

 各地で謀反・独立の機運が高まるも、それは呪霊やいずれ訪れる両面宿儺を倒して漸く成し遂げられること。

 

「……いつまで着いてくる気だ」

「無論、何処までも」

「……氷の童、名は」

「裏梅。そうお呼びください」

「……次の村で俺に付き添うに相応しいか確かめる。さて‭─‬‭─"(だん)"」

 

 傀塚式結界術「影法」、その一つには現実に生得領域を一直線上に重ね、更に領域内の空間(スケール)を圧縮することで一歩で数百歩歩いたのと同じ結果を引き寄せる技術がある。

 両面宿儺はこの理論を自身の術式で再現。呪いとして生き方を定めたのと合わせ、宿儺の出現箇所は日本全土、全ての人が住む場所が対象となり‭─‬‭─例外なく、全てが鏖殺される事となる。

 

 皮肉にも、朝廷の立て直し期間を与えたのは両面宿儺による鏖殺であった。

 

 

・西暦1001年・

両面宿儺による推定殺害数(去年分合算):約15万人。

傀塚家と加茂家の主導で呪術師再編完了。

簡易式神と合わせ呪霊討伐を効率化。

 

 

 されど両面宿儺は積極的に人を殺し回っていた訳ではなく、その年は朝廷に被害は出なかった。

 朝廷にとって幸いな事に、その被害は上が消えて統治が及ばなくなった場所ばかり。

 1001年当時の支配下にあるのが傀塚氏と源氏の二つのみというのは差し置いて、寧ろ暴れれば暴れるほど今後の統治は容易となる。

 両面宿儺の活動により活性化した呪霊の対応体制の確立も相待って、朝廷は果報を寝て待つ姿勢となっていた。

 

 

・西暦1002年・

両面宿儺による推定殺害人数:1.5万人。

二年前の両面宿儺の「█」の余波により桜島噴火。

その後二年間に渡り西日本で降灰が断続的に続く。

その範囲凄まじく、当時の朝鮮にもこの影響も思われる記録があったとか。

 

 

 ……その年は地獄の釜が開いた年であった。

 かつて平安京で貴族十万人を焼き尽くした火柱は地上を焼き払うに飽き足らず、その地下深くのマグマの活動にさえ影響を及ぼしていた。

 即ち、桜島の大噴火を400年早回しにした大災害。

 

「……おい、稲が枯れてるぞ!」

「灰が水を吸って、日を遮ってるのか……水田が全滅しちまう…!」

「大変だ! 井戸水を飲んだ奴が病に……!」

 

 大飢饉が始まった。

 

 

・1002年同年・

「長保の大飢饉」

事態に収集が付いたのは18年後。

それまで餓死者、灰に由来する肺病が続出する。

大飢饉による推定死者数:約30万人。

 

 

 大飢饉。

 幸いであったのは、それが東日本にまで届かなかったこと。

 聳え立つ山脈が片っ端から病と灰雲によって禿山へと変わるのを代償として、傀塚領土や江戸の水田ではすくすくと育ち、病は治せずとも本土の人々を飢えから救う事となった。

 しかしそれは九州、四国までには届かず……宿儺の足取りもまた、朝廷は見失うこととなる。

 

 

・西暦1003年・

特級自然呪霊「疒火狼」および特級呪霊「飢餓鬼」除祓。

大飢饉による推定死者数:約17万人。

 

 

 しかし、悪い事が起きればいい事もあるのが世の定め。

 大飢饉の結果発生した2体の特級呪霊が呪術師の活躍により早期討伐に成功。

 また、この際に二次被害を食い止める活躍をみせた傀塚家の簡易式神の量産が決定。

 四種の式神の名を「傀式」と改め、奉る神名も「土地神」から各地の土着神の名前を拝領。

 呪術師名門らは生産拠点となる分社を土着神の神社として各地に広げる事を決定。

 

 また、この頃に朝廷の指示の下、遷都地候補の調査が行われる事となる。

 

 

・西暦1005年・

遷都地確定。

比較的降灰被害が少ない江戸に移る。

東京の建設開始。

大飢饉による推定死者数:約11万人。

 

 

 二年後、江戸の都心開発が決定。

 源氏を中心に動員され、この頃に朝廷の者と源氏の娘が婚約。

 慢性的に何もかも足りないながらも、再び国家が蘇えろうとしていた……。

 

 

・西暦1008年頃・

羂索と宿儺が契約。

宿儺が呪物として封印される。

二十の宿儺の指の影響が各地で確認され始める。

 

 

 更に時は経ち、人が死んだ結果飢饉の被害も収まり始めた三年後。

 東京建設予定地と平安京跡地にて宿儺の指を確認。

 禪院家及び五条家、源信らが協力し封印に成功。

 これをもって両面宿儺の死亡を断定。

 特級仮想怨霊に「両面宿儺」を新たに連らせる。

 

 

・西暦1010年・

宗家最後の生き残りである老人が死亡し、平家、藤原の家門消滅。

平安の時代が終わりを迎え、これにより"傀塚墓守と白による政敵呪殺"の負債返済完了。

一連の出来事は傀塚家で「他者間の縛りの危険性」を伝える物として記録され、纏められる。

 

 

 そして1010年。

 遂に日本に宿儺を始めとした大災害を齎した元凶である、藤の一族の呪い(招虎の反動)は目的を達し、消え去った。

 約100年分の繁栄期の短縮と、より凄惨な末路。

 本来より3年早く頂点へと達した対価は、日本全土を巻き込んで高くつく事となった。

 悪しき流れから脱した影響は果たして、少しずつではあるが良い方向へと世間を転じ始めた。

 

 

・西暦1011〜1019年・

窶れ細れ死が間際であるが、争いのない平和な日々が続く。

 

 1013年:特級呪霊「地獄僧」除祓。

 

 1016年:傀式製造及び管理拠点の各地分社設立完了。天元の結界と併せて低級呪霊の自動除祓体制確立。

 

 1017年:源信死亡。巨星堕つも呪物「獄門疆」に変じる。

 

 

・西暦1020年・

東京建設完了。

この頃から元々藤原が治めていた北の地を拝領して統治していた源氏が台頭。

それに伴い未開の地と化した西日本の調査、再統治を開始。

征西大将軍「源為義」を中心に軍隊と術師の調査隊が組まれる事となる。

 

 

 

「日の本の眠る世が漸く過ぎ去に、我らはありし栄華の京に足踏み入るるついでを得き。

 これよりは武士の世。かつて貴族の地を治め、我らの物にす。こはその先駆けなり。

 集へ! 武士(もののふ)よ! 民草よ! 我らの道を拓かむぞ!」

 

 

 

 

‭─‬‭─鎌倉時代 開幕‭─‬‭─

 

 

 

 ▲▽

 

 

 

「ふ ふん ふん…♪」

 

 西の……偶々降灰があまり降らなかった或る小さな山村にて。

 蝉の鳴く中、今年で二十を数える小さな女子(おなご)……鴉の羽のように黒い髪に糸目の、白磁色の肌を持った一層麗らかな者が、川辺に座り機嫌を良さそうに鼻歌を歌っていた。

 頭に飾られた一輪の白い彼岸花が目に付く女だった。

 

「おーい! 花の子やーい!」

 

 荷車に引く旅商人を案内する、偶然その者を見かけた村人が片手を振って声を掛けた。

 

「…ん」

 

 女はそれに気付くと立ち上がり、手元に何処かから花弁で出来た傘を造り開いて、穏やかに村人に軽く手を振りかえす。

 

「へへ、今日はいい日になるかもな!」

「……おい、あの女は何者だ? 俺が見た限りだと何処にもあんな傘は無かった筈が」

 

 それに機嫌を良くした村人に、その隣で様子を見ていた旅商人が尋ねた。

 

「村の宝ですよ。あの子が傘をヒュッとすると灰が片付いて、水は綺麗になって、作物は元気になっちまうんです。きっと神の子なんでしょうね。花舞い散る場所に彼女ありってもんで」

「……ほう。それはそれは」

 

 機嫌良く話す村人を横目に、旅商人は面白い事を聞いたとばかりにニタリと笑った。

 

 チーッ

 

「……あ、カワセミ」

 

 一族列伝四代目後継者

 加茂花子

 生得術式「赤血操術」

 拡張術式「花弁操術」

 呪力特性「焔延焼」

 

 かつて平安京を生き残った加茂家、その内の石女だからと避難時に見捨てられ、この村に拾われた者から産まれた赤子。

 

 平和な村で暮らしていた彼女の世界に、変化が訪れようとしていた。

 

 






 赤血操術
 原作で加茂一族が使っていた術式。
 自分の血を操って発射したりバフったり出来る。
 血は呪霊にとって毒なので除祓向き。
 但し術式で増血は出来ないので長期戦に不向き。
 体質含めて極めるとビームや血の津波を出せる。

 花弁操術
 今作独自の赤血操術の拡張術式。
 自身の花弁を操る。葉っぱも頑張れば操れる。
 花弁や葉っぱに含まれた成分を抽出したり挿入したり出来る。
 毒性を強めると術式対象外になる。効果の薄い薬しか作れねぇ。
 なので紅茶や緑茶はとっても美味しく創れる。
 術式反転だと根っこを操れる。茎や幹は無理だった。
 なので花子は操作性や薬物作成やお茶造りに特化させている。本人曰く何かと便利らしい。

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