呪具:一族列伝   作:何処にでもある

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 加茂家
 呪術師の名門。原作では御三家の一つ。
 赤血操術を代々安定して排出しており、呪霊討伐に特化している。
 反転術式が使えるようになると化ける一族No.1。(反転で増血出来るから)

 反転術式…難しい回復。他者を回復するのはもっと難しい。遠隔は更に難しい。
 術式反転…回復技で使う正の呪力で術式を使うこと。未対応で役立たずの効果しかない術式が大半。




1020年 四代目

 

 

 1020年。

 時代の移り変わり、動乱の黎明期。

 朝廷が平安の終わりから新たな一歩を踏みしめようとしていた頃。

 

「………あの〜」

「あ"? なんだ?」

「これって何処に〜…向かってるんですかぁ?」

「今更それ聞くのかお前…」

 

 平和な山村で暮らしていた加茂花子は今、簀巻きにされて旅商人に連れ去られていた。

 

「もう隠す意味ねぇから言うけど、東だよ。俺は西の調査に駆り出された間者(スパイ)だからな。これから武士が占領する場所に国かなんかないかって先んじて調べてたのさ」

「そうなんですねぇ」

「そこはなんで自分が攫われてるか聞くとこだろ」

「…そうなんですか〜?」

 

 話してると気が抜けると、旅商人改め間者の気が抜ける。

 今回調査に送り込まれたのは、呪霊が見れる程度の素質しかないほぼ非術師な者だけで構成されている。

 その為呪霊に会えば何が相手でも死にかねない状況であり……そんな歩けば呪霊が見える環境で過ごす緊張も、彼女は無縁であるようだ。

 

「お前が術師だからだ。今、日の国は呪霊が蔓延っている。今時低級は傀式が直ぐに祓うから、生き残りは先ず準二級以上は固い。調査を中止してでもお前みたいなのは直ぐに届けないとならんのさ」

 

「ほほぉ。単語の説明から〜お願い出来ますか〜?」

 

「おっと…そうかそこからか。んじゃ先ず術師ってのは‭─‬‭─…」

 

 一族列伝から言ってる意味は分かるが、だからと言ってこれで理解する方が不自然。

 そう判断して聞いた説明と記録を参照し、嘘や隠し事がないと判ずると、花子は間者の言葉の信用度を一段階上げる。

 のんびりとした口調に似合わない慎重さだが、誘拐されて数時間のんびりしていた時点で、手遅れな言える慎重さだった。

 

「…‭─‬‭─って感じだ。で、お前はこれから東の術師として働いて貰う。拒否すれば"印"付けられて呪詛師として討伐だ。逃げても、俺を殺してもそうなるからな?」

 

「ははぁ、余裕がないんですね〜」

 

「……ああそうだよ。だからここまで強引な手を使うんだ」

(想像以上に穏当で大人しいな……術師は皆他の人より強い都合上、自分勝手な奴が多いってのに……半ば呪詛師として(マーカー)を付ける為に死ぬ前提だったんだが、こら望外にも生き残れそうだ。うん、日頃の行いが良かったんだな)

 

「う〜ん…あ、お花摘みに言っても良いですか〜?」

 

 そうして間者が術師の誘拐で生き残れた事に神に感謝をしていると、簀巻きにされている花子が身をよじよじと悶え始めた。

 術師なら簡単に破けるだろうにと間者の思考に過ったが、控え目な性格なのは話していて分かる事。

 態々断りを入れるなんざご丁寧な事だと、荷車を止めて拘束を解く事にした。

 

「よし、今から簀巻きは外してやる。どの道、術もかかってねぇ縄だ。数分待つから逃げるんじゃねぇぞ」

「ありがとうございます。お陰で」

 

 "赤い"彼岸花の花弁を骨にした傘を何処からともなく取り出し、広げ肩に掛ける。

 空は青く未だ雨は降りそうもない。

 

 とん、とん、から、とん

 

『まるたけえびすに』『おしおいけ』『あねさんろっかく』『たこにしき』

 

「ひっ…! な、なんだ こ の  声  は   !」

 

 ……しかし、ここは平安京近くの隠れ村。

 山から一度(ひとたび)降りれば宿儺の怨みに満ちた呪霊の都。

 薄皮区切りの呪霊の空白。霊的に偶然隠れただけの危険地帯。

 

『しあやぶったかまつまんごじょう』

『せったちゃらちゃらうおのたな』

『ろくじょうひっちょうとおりすぎ』

『はっちょうこえればとうじみち』

 

 女の髪で編まれた手毬が、とん、とん、と降り注ぐ。

 目玉に黒歯、単の着物に焼けた骨粉。

 編まれ結ばれた怨みの歌が、彼岸の花傘に当たっては地面を跳ねる。

 

「    ひ     ぃ     ぃ     ぃ      !      」

 

 跳ねる度に、呪力の宿らぬものが次第に遅くなっていく。

 

『くじょうおうじでとどめさす』

 

「お陰で、呪霊を祓えそうです」

(ははぁ〜、呪力が均等かつ繋がりがありますねぇ。全部で一個体で〜全部本体ですかぁ。一つでも逃せば復活可能〜それに詠唱…術式〜…ん〜焼死関連かな〜。手毬歌は縛りかつブラフですねぇ……でも群体系かぁ。私なら一つか二つは遠くに隠して保険にするけど〜…あ、あれだ〜! あっちにも花弁寄越しておきましょう〜)

 

 赤い花弁が周囲を舞う。

 

すくなのかまびまだたえぬ

 

 呪霊が火だるまの手毬となり、花子達に突撃し‭─‬‭─。

 

「"赤華(せっか)"」

 

 "彼岸の花弁に挿入されていた血が、斬撃として一帯に解放された"。

 

「  ァァ! 助けてくれぇ!」

「はい、もう大丈夫ですよ〜」

「へ? あ、あれ!?」

 

 舞い散った血が次第に花弁へと戻り、花傘に組み込まれていく中、花子が間者に終わりを告げた。

 

 赤血操術の拡張術式による、予め花弁に血を混ぜ解放する事で斬り刻む技。

 一見すると無作為に斬撃を解放しているように見えるが、赤血操術は自身の血に触れた物も操作が出来る。重さのほぼない花弁なら尚のこと。

 故に花弁の向きに関わらず解放される斬撃の方向は任意。囲まれていようと斬る相手を選ぶのは容易い。例え一つ一つ収納可能な血液が少なくとも、それは極限まで薄く鋭い線にすれば良いだけのこと。

 若干火力に欠ける代わりに広範囲の攻撃を可能にし、更には花弁の中で"血を生かす"事で長期間の保管、更に花弁への成分挿入の挙動を利用して血の再利用すらも可能にする技術。

 

 それが加茂花子の花弁操術の基本攻撃手段の一つであった。

 

「あ…あんたが祓ったのか?」

「はい〜。祓いました〜」

「そ、そうか…ありがとう。恩に着る。……そうだ、名前は? まだ聞いて無かったよな」

 

 31の肉体を一つの者として共有し、かつ非術師の遅延に飛翔能力、その上で火の玉となって突撃する術式を持った呪霊。

 そんな最低でも準一級はあるだろう存在を一瞬で葬った、血と花を操る術師。

 ず華やかさもさることながら、村人の姿にしては貴種のような上品さが垣間見える。

 血、術師、そして細目……それらから、間者は内心とある想像が浮かんでいた。

 

「"加茂花子"と言います。村から離れるのは不安ではありますが……困り事がありましたら、私に相談してください」

 

 術師には四つの名家が存在する。

 六眼と無下限を併せ持つ無敵の術師を筆頭とした最強、五条家。

 多数の術師を客将として招き、術師の政治的立場の保証に尽力する禪院家。

 三級以下の呪霊除祓を自動化し、洗練された四種の式神を無償で術師に与える傀塚家。

 

 そして呪霊を祓うのに長け、時には病すら祓う赤血操術の担い手、加茂家。

 

「あ、でもなんでも出来る訳じゃなくてぇ〜…病の治療や輸血とか〜…毒抜きと灰掃除に土壌の成分調整と…あ、四肢も千切れたばかりならくっ付けられますので〜…そういった事だったらお任せを〜!」

 

 その中でも特に優秀な血の申し子。

 かつての平安京焼失から生き残った者の子孫を前に、男の未来への展望は明るい物となった。

 

 

 

 ▲▽

 

 

 

「…つまり、その女は加茂家の生き残りだと?」

「はい。術式と容姿からして間違いないかと」

 

「こんにちは〜」

 

「……この腑抜けた面の女が?」

「はい。雰囲気はそうですが一級相当の呪霊を悠々と祓っております」

 

 時は暫し経ち数日後。

 花子は間者の案内により東京の西日本征圧軍の術師隊長……加茂家の当主と面会していた。

 のほほんとした顔ながらも内心は(わぁ、この人私に似てる〜)と、実際のほほんとしたことを考えていた。

 

「田んぼの管理出来ますよ〜」

 

「いや、血を疑う気は端から無いんだ。顔付きに母の面影がある。ただ、呪霊を祓えるような実力者には到底見えないの懸念でな」

 

「お茶淹れも得意ですよ〜」

 

「ほらな? どう見ても宮入りの生娘か何かだろうこれは」

 

 顎に指を添え、加茂家当主が思案する。

 宿儺の鏖殺から一族の大半が死んだ都合上、彼女が見つかったのは喜ばしい事に間違いない。

 呪力、術式も申し分なく、話によれば拡張術式も扱えると来た。

 一族の一員として迎えるのは前提として……それでも呪霊を祓った話との落差が喉をつっかえる。

 

 ありたいに言えば、一度実力を確かめてみたかった。

 

「よし、考えても埒が明かないし手合わせとしよう。怪我は跡が残らない範囲とする」

 

 と、来ればやる事は一つ。

 実際に撃ち合うに限るというもの。

 

「では‭─‬‭─()くぞ!」

 

 早速合図は不要と、加茂家当主が赤燐躍動(身体能力向上バフ)を行使しながら鳩尾を殴りにかかる。座った姿勢から無拍子で行われる真正面からの奇襲。

 

「"華楽傘(からかさ)"!」

 

 対抗して開かれるは血と花弁を押し集め創り上げた呪いの傘。

 只の血と花と侮ってはいけない。

 赤血操術で行使され、呪霊を祓った血と花弁で固まった傘はそれだけで自身が受ける赤血操術の効果を数倍に飛躍させる。

 

 故に一級術師の打撃ならば、例え動きを向上させていても完全に防ぎ切れる。

 

「‭─‬‭─っ! 自分の血で作った呪具! 独学でその大きさ、なるほど随分と丹念に創り上げたな!」

「はい〜頑張りました〜!」

 

 その秘訣は傘、其の物に製作者である花子本人の生死と共にする縛りを結ばせたこと。

 

「では私から〜…"旋朱(せっこう)"!」

「ウオッ!?」

 

 これにより呪具「血装:華楽傘」は材料も相待って花子の手足と相違なく使えるようになり‭─‬‭─「一族列伝」に積み重なった呪具制作の知識が、呪具を手足の延長から"術式効果の増幅器"にまで押し上げた品物。

 

 即ち、"放出する血液に呪力を与え、一時的に質量を増幅させる呪具"。

 

 余りの血の量に想定外だったのか、回避し切れずに当主の腕が切り飛んでいく。

 誰が見ても、決着は容易につく事となった。

 

「‭─‬‭─降参だ。驚いたぞ、あんなに大きな血の刃が飛び出て来るとは。しかし、腕が取れて」

「あわわわ…! 今治します〜!」

 

 取れた腕を見た当主が自分の実力不足で一線を退くことになったかと達観していると、花子は慌てた様子で腕を拾い、砂を払って当主の斬口にくっつけると…。

 

「"赤結(せっけつ)" "癒着弁"」

 

 自身の血を糸にして瞬く間に縫い合わせ、接合部に何処からか取り出した花弁を血を糊にして貼り付けた。

 

「私の拡張術式、花弁操術は花弁に対し自在に成分を入れたり出したりも出来ます。今回貼り付けたのは血液にある人体の自己治癒能力を加速させる成分が中心です。この傷口なら骨も含めて全部治る範疇ですね」

 

 自身の血液型がO型だからこそ成立する、血の適合を無視した治療。

 術式開示により治癒効果を高め、そこ以外の傷口が無いか検査する。

 

「なので数分はそのまま、可能なら10分は様子を見てください。痒くても我慢すること。そうすれば赤い線の跡が残るだけで完治しますので……すみませぇん…腕切っちゃってぇ…!」

 

 早口に術式開示を終えると、他に傷が無いのを理解してか涙目で謝罪する。

 罪悪感からか、先ほどののんびりな様子から打って変わってしょぼくれて縮こまっていた。

 

「いや、僕から言った試合だ。気にしなくていい。寧ろ、これから君のような頼りになる子が家族になるのは喜ばしい。だから、これから頼りにさせてくれないか?」

 

「はい〜…」

 

 「一族列伝」は彼岸花の呪具である。

 それと生来一体化している花子は、血の延長で彼岸花に流れる成分を操作出来た。

 花弁操術とは、その感覚から派生したもの。しかしそうするに至った理由は、村人の傷や病を治そうとする試行錯誤の結果である。

 一族列伝で反転術式こそ使えるが、他者には使えないからこそ重ねた工夫の産物。

 

(‭─‬‭─擬似的な他者への反転術式! それも赤血操術の拡張! 更には血を増幅させる加茂家専用の呪具を創れると来た! 逃してはならない、なんとしても囲い、その技術を一族のものにしなければ! この子は僕以上の…いや、一族で1番の天才だ!)

 

 即ち、加茂家ならば喉から手が出るほど欲しい術式の方向性。

 決して尽きぬ事のない医学関連の需要を補う特記人材。

 腕が取れた痛みや将来への絶望など一瞬で吹き飛ぶ奇貨の出会い。

 

(ほ…良かったぁ〜加茂叔父さんが優しい人で……よぉ〜し、失敗した分、これから頑張ろ〜!)

 

 そんな事もつゆ知らず……花子は村の外、新たな場所で困ってる人を助けようと気合いを入れていた。

 既に村に隠蔽の結界を張っているからこそ出来る呑気な思考であるが……果たしてこの善意が何処まで広がるか、それはこの場の誰も想像付かないことであった。

 

 






 呪霊「逢延頭」
 31の女性の頭部の怨霊呪霊。一体でも残っていると残りも復活する。
 禪院家の女術師の頭部が2つ混ざっており、その二つを潰さない限り炎化と呪力のない物体への遅延(スロー)がおこなわれる。

 宿儺は竈で平安京を燃やし尽くしたが、その火は少しでも人々が苦しむように呪力の宿らない炎へと変えていた。呪術師は呪力に関わらない死を迎えると呪霊へと変ずる。
 これはその産物。圧倒的な炎で灼かれた二人の術師を核とした、三十一の怨念であった。

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