呪具:一族列伝   作:何処にでもある

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 今作の1022年の羂索の術式ストック
 「脳換奪体」(クールダウン中)
 「呪言」(肉体に備わっている為無制限)
 :式神操術(常用型/業1/7、現在特級クラス一体)
 :龍頭荼毘(10分間呪力三倍)(発動型/業15/15)
 :有契再(他者間の縛りを有利にして結び直す)(発動型/業15/15)

 術式開示
 業を使い切るとストックした術式が消える。業は術式を使う事で消費する。
 ただし、常用型は出力40%以下なら消費判定にならない。
 ストックは3つまで。肉体に刻まれた術式は幾らでも使える。
 ストックの対象とするには、事前に術式開示をしなければならない。
 常用型か発動型かは術者が任意で選択可能。常用ならば7回、発動ならば15回が業数となる。




1022年 朱夏・四

 

 

「…あなたは誰ですか〜?」

 

「これは失礼、僕の名前は狗巻四牢。諸事情で平安京にやってきた術師だよ」

 

 1022年。

 平安京の結界が崩壊し、元の壊れた街並みと共に死者が蘇って行く中。

 加茂花子は狗巻四牢に口説かれていた。

 

「知らない名前ですねぇ…私、それでも術師界隈では顔が広いんですよねぇ…呪詛師の方ですか〜?」

 

「おっと、警戒させてしまったようだ。いやなに、僕は若いからね。君のお世話にならないのは当然さ」

 

「う〜ん…それもそうですかぁ」

 

 話の筋は通っているが、それは警戒を解く理由にはならない。

 花子はのんびりとしているが、決して愚かではない。

 自分が追われる立場なのは薄らと自覚しているし、賞金首を掛けられても可笑しくないという想定はしている。

 なにより、口元の「蛇の目」の模様。治療の患者の一人に同じ物を見た事がある。

 呪言の術式であるのは明白であり、その者が朗々と喋っている時点で臨戦態勢は必須。

 

 周囲に赤い花弁が舞い始めた。

 

「……ふむ、嫌われてしまったかな」

 

「呪言の人がそんなに喋ったら〜、みんな同じ事をしますよ〜?」

 

 何より最初の言葉。恋を云々には呪力が載っていた。

 挙句に耳に花弁を詰め脳を保護したとはいえ、洗脳紛いの事は既にされている。

 例え事故でも、そのような相手と関わるのは避けておくのが吉というもの。

 

(…ふむ、呪言の効果がないね。疑問系の言葉は相手の興味関心次第。根本に人恋しさはないな。完全に人に見切ってるから誰でも公平に助けられるタイプか。なら…)

 

「それもそうだ! では単刀直入に─‬‭─僕を、助けてはくれないか?」

「いいですよ〜」

 

 しかし……花子は助けを求めた相手を決して見捨てない。

 縛りではない。星療院に勤める際は確かに似た様な縛りを結んだが……花子は"縛りを若返りで無効化出来る"。

 多少の無茶を通せる立場にあり…花子にとって助ける人の善悪は興味の対象外だ。

 

「…これは断られると思ってたんだけどな」

「え〜? 困ってるんですよね? なら助けますよぉ? 困ってる人に違いはないので〜」

「それなら舞っている花弁を片付けて欲しいな」

「それはそれ〜これはこれですねぇ」

 

 本来の赤血操術ならば不可能な挙動。

 しかし彼女は縛りにより"若返りで縛りから抜け出す方法を作り出した"。

 縛りを結ぶ前の肉体に置き換える事で彼女は縛りから容易に脱せられ……代わりに、"縛りを結んだ当時の年齢を超すと、自動的に自分の立場がより不利になって縛りが復活する"。

 

「なにより〜…もう直ぐ捜索隊が来ると思いますから〜」

 

 無かった事に出来るからと無茶な他者間の縛りを結ぶほど、若く脆弱な童の肉体に追い込まれる……花子は今、星療院での縛りから逃れる為に5歳の肉体から前に進めない状態にあった。

 仮にそれ以上の年齢になったが最後、縛りは花子を若返る呪具にして殺すだろう。

 

「それで、要件はなんですか〜?」

「契約だよ。"君を未来に送る代わりに、殺し合いに参加して欲しい"」

「イヤですねぇ」

 

(未来で私が役立つ保証はない。既に加茂家に極意の書は与えている。善行の余地が減るのは避けたいな〜)

 

「"なら、捜索隊から逃す代わりに死後にその身体を渡してくれ"ないか?」

「……ん〜、一回自力で逃げるのに挑戦してからなら?」

「無理だ。流石の僕もそこから助けるのは難しい」

 

 花子はこの時点で狗巻との契約は諦めた。

 死後に肉体を好き勝手されようとどうでもいいが、その過程で記憶を覗かれる可能性は十分にある。

 

(一族列伝は教えたくないな〜…この花は唯一私を助けた子ですし〜…長期間に渡る縛りが出来る人が、一族列伝みたいな乗り換えの何かを持ってないのは考えられない。ん〜…殺しますかぁ)

 

 結論は出た。

 花子は傘を構成する血を滾らせ、炎の性質を帯びた呪力で沸かした血の斬撃を放つ。

 

「"熱血旋‭─‬‭─」

 

 

 

「"龍頭荼毘" "同意しろ" "有契再"」

 

「なっ‭─‬‭─!!?」

 

 ……呪言の利点は、出の速さ。

 そして、"一考に値する内容は容易に通る"。

 

「ん"ッ!? "いいですよ〜"…〜〜ッチ! "赤躰"!」

 

 花子による肉体の逆行を実行。一年巻き戻し4歳にまで回春。

 "しかし、意味はない"。

 

「龍頭荼毘。10分間呪力を三倍にし、その後50分間呪力を1/3にする術式」

 

 これにより呪言の持つ呪力差による抵抗はなくなり、寧ろ圧倒的有利な立場で言葉が通る。

 術式を組み合わせた無敵の10分間が始まった。

 

「‭─‬‭─ッ!!? 縛りから抜け出せない!?」

 

「有契再。一度結んだ縛りをより自分有利な物にして結び直す術式」

 

 術式の開示が終了。

 これにより花子が縛りから抜け出す契機を失った。

 そして自分の死体を意図的に消す様な行為もまた、今後不可能となる。

 

「…上層部も馬鹿ではない。若返りを縛る為の縛りは結んでいる筈。

 ならば縛り抜け出す手段がある。あるならそれは若返りだろう。

 だから過去に送らせて貰ったよ。

 

 "縛りの締結日"を」

 

 縛りは本来結んだ日から有効となる。

 それを過去に送った所で過去は決して変わらない。

 しかし、若返りで抜け出せるならば話は別というもの。

 

「…それ、反則も良いところですね〜?」

 

「そっちもね。こっちも貴重なストックを切ったんだ‭─‬‭─有効活用させて貰うよ」

 

「そうですかぁ〜」

 

 既に、縛りは花子が産まれた瞬間にまで効果が及ぶ事となった。

 そして有利に結び直した事、若返りという縛りから抜け出そうとする行為により‭─‬‭─。

 

「それでこれから何をしますかぁ? "主様(あるじさまぁ)"」

 

 ‭─‬‭─契約は「加茂花子の羂索への生涯に渡る絶対服従」の一文に変わって締結された。

 

 羂索が各地を巡り手にした虎の子の組み合わせ。

 本来なら不可能な縛りから脱却の失敗。

 縛りの中身がどんな物であろうと、この二要素を利用する前提ならばなんでもいい。

 羂索の読みは見事に的中し、花子を縛りで雁字搦めにしてみせた。

 

 呪いは抜け出そうとすればより深く泥濘に堕ちるもの。

 契約の穴を突く行為は自動的に塞がれ、花子に反抗する意思を…呪術における立場を消し去った。

 

「そうだね…どうしよっか? 元々君を使って何かする予定は無かったんだよね」

「へぇ〜、そうなんですね〜」

 

 ……とはいえ、羂索は面白そうだから灰桜病を治した加茂花子を手にしただけの事。

 

 試し斬りの心理。

 苦労して完成させた強力な契約コンボを、折角なら初回は大物に使いたい。

 人間を道具として集められる契機なのだから、いい感じの者を手にしたい。

 

「ま、取り敢えず離れようか。蘇生された術師が起きる頃合いだし、捜索隊の影も見えたしね」

「はい〜」

 

 具体的にこうという意思は無く、偶然面白そうな事になりそうな事態が目の前に来たからやった。

 改めてどう使うと考えも、既にメインプランの天元と日本人の同化は待ちの期間。

 暇つぶしがてらにサブに走らせた病気もご破産となった。

 

 やらせられることと言えば、自分の計画が楽に進むよう取り計らせるくらいか。

 

「そうだなぁ…花子ちゃんって加茂家を乗っ取れそう?」

「え〜? そうですねぇ…出来ると思いますよ〜?」

「なら任せようか。いい感じに呪術界が腐るように取り計らってくれ。特に傀塚家は厄介だからね。何年掛けてもいいから取り潰しといてくれ」

 

「はい。分かりました〜」

 

 花子は足を止め、そのまま立ち去っていく羂索を見送っていく。

 その背中が見えなくなると、踵を返し捜索隊の方へと向かい始めた。

 

「…う〜ん、それなら子供は必要になるでしょうから〜…"華楽傘" "私を20歳の身体まで老化させて"」

 

 ……他者間の縛りが矛盾する場合、行動として優先されるのは先に結んだ方で、それはそれとして縛り違反はそれ相応の災いが降り掛かる。決して上書きなどのチャラになる挙動にはならないのだ。

 この場合花子の行動を縛るのは契約の締結日を過去に送った羂索の方となり、星療院は出来る限り回避しつつ、時には躊躇なく違反をする事になる。

 

「‭─‬‭─えっ? なんで…」

 

 "呪詛師と契約を結んだ時点で、花子は星療院縛りを違反している"。

 そして老化すれば、より相手有利となって結ばれた縛りの報いが花子へと降り掛かる。

 

 ではその報いとは何か?

 

「一族列伝の支配権が…私から消えた…?」

 

 "違反者が最も後悔する、呪術的な災難が発生する"。

 

 花子の頭に咲いていた白い花が枯れ、一族列伝が次の所有者の元へと芽生え始めた。

 

「待ッ…!」

("追いかけられない"…! 主様との契約が優先されているんだ! けど何処に…私以外に所有権のある人なんて……っそうか! 傀塚家の当主!)

 

 星療院の縛りは一族列伝を剥奪した。

 その次の後継者は傀塚家。

 

(傀塚白金の後継者! 余りの私の、本物の…っだめ、それだけは…それだけは取らないでよ…私の…お花(友達)を…!)

 

 ‭─‬‭─ではない。

 呪具「一族列伝」は"自身に触れた全てを所有者の候補と看做す"。

 そもそもが使い手の選ばぬ生きた呪い武器。

 傀塚家がこれまで独占していたからこそ候補者は限定されて来たが、本来ならば球根による株分けすら必要とせずに候補者の誰かに宿る事が出来た。

 

 敢えて誰にでも使える事を縛りとし、相伝術式の学習加速を困難にする。

 封印の難易度を上げる事で呪具として成立させた、初代7級呪霊の縛り。

 

(………許さない)

 

 球根はあくまでも現在の所有者が好きに後継者を選ぶだけの物。

 加茂花子が所有権を喪失した以上、次の世代は無作為な物となる。

 

(……絶対に取り戻してみせる。アレは私の…加茂家の物。捨てたお前らの物じゃない)

 

 "花弁を利用されたその全てが候補者"。

 

 加茂花子は3万人以上を治療し、その上平安京の全住民を一族列伝で蘇生した。

 そして羂索の命令に最大限精神が従うように誘導される以上、正しい推測に至る契機を加茂花子は失った。

 

「…ふ…ふふふ」

 

 ここに在るのは、羂索の思惑を叶える為の生き人形。

 

「待っててくださいねぇ…傀塚家の当主様〜…全部、台無しにしてあげますからぁ」

 

 もう、人間嫌いの善人は何処にも居ない。

 呪いに堕ち錆びた歯車でしかない。

 

「……ふふ」

 

 また一つ、呪いが巡り始めた。

 

 

 

 ▲▽

 

 

 

「…は? 頭に花咲いてんだけど…うわキモっ」

 

 加茂花子は一族に尽くし、呪術界を腐らせる毒花へと堕ちた。

 では、そこ元から離れた一族列伝は誰に宿ったのか。

 直ぐに芽吹いた訳ではない。球根を直接授けたり構築するのとは訳が違い、接触時の残穢から芽吹くには時間が掛かる。それこそ……候補者の、その子供の、更にその子供に至り、漸く花を咲かせるのだ。

 

「ん〜んー? あー…成程…? ほー…呪具ね……なんか便利そうだし……うん、なんか、ご先祖の隠し財産見つけた気分だわ」

 

 時は1()2()1()0()()

 鎌倉政権188年目の春。

 

 蘇った平安京、桜灰病により急増した術師、西日本の統治で不安定な政権、世代を重ね本格化した新潟米の倍増、人口爆発、景気の急上昇……ここまで50年。

 

 反動とばかりに減少し弱体化した呪霊、呪術界の保守派の結成、推進派との対立、武士による鎌倉政権への反逆及び国の乱立、呪術師の戦場投入による呪霊の活性化……ここまで20年。

 

 再び訪れた大飢饉、大地震・大地震・大地震・大地震…津波を超えた前代未聞の海の壁。4つの震度6弱の地震が共鳴した‭─‬‭─特急呪霊「大鯰」「大百足」「海龍」「大蛇」による、呪霊生を賭けた日本沈没の決行。

 禪院家一族が総出で四体の呪霊を討伐。更に傀塚家との共同儀式により津波からの防衛に成功。されど犠牲者も多く、禪院家は小康状態となり呪術界が割れることとなる。……ここまで5年。

 

 傀塚家の次代が呪術師の才無し。呪術的技術が断絶した事で傀式は全ての稼働を停止。

 呪術界はその権威を多いに堕とす事となる……ここまで3年。

 

 その後110年間、狭義の朝廷に仕える呪術師は規模を縮小。

 鎌倉政権は乱立する国家の鎮圧に失敗し、小さく纏まり死んでないだけの状態。

 政治的な統制が消えた術師は次々と地元の国へと帰属し、別国の術師、呪詛師という概念が誕生した。

 皮肉にも世間は常に争う事で安定した状態へと縺れ込む。

 

 餌となる低級呪霊により増加した上級呪霊。

 別れた国家と絶えない争い。

 統制機能を無くした呪術界。

 

 武士の立場が向上した結果、武士達が幾つもの国に別れて争う時代。

 殺しに美学が生まれ、争いに誇りが蔓延し、術師が互いに呪詛師と罵り合う。

 数多と生まれ、数多と死ぬ。あらゆる物が強者必衰の理に取り込まれ巡る時代。

 

「で…お、これか呪力かあ」

 

 後継者が記録を頼りに呪力を練り上げ、咲いた時に脳に刻まれた術式を発動した。

 一族列伝は花開いた時、所有者が非術師ならば呪力と術式を目覚めさせる。

 危険はあるが、やる気さえあれば脳を弄りこれまでの所有者の呪術的才能を再現する事も出来る。

 花弁を増やすばかりに使われた再現の、本来の機能だ。

 

「ふぁ……知識と経験の閲覧。感覚の憑依。かつての天才共の才能の再現……うんうん、楽に強くなれそうで良いじゃないの。こういうの俺大好き」

 

 掌から湧いた骸に使える呪核を弄び、その者は機嫌良く言った。

 

 日下部新一 満十九歳。

 乱世の世を生きる西田舎の貧乏武士が一人。

 子孫の名前を日下部篤也、簡易領域を扱う術師の先祖。

 

 最近のいい事は、戦場に使えそうな力に目覚めた事である。

 

 






 一族列伝
 色々な活用法が出たが、初めからここまで利便性が高かった訳ではない。
 世代を重ねる度に所有者が利便性を高め続けた結果。中にはいつの間にか生えた機能もある。
 相伝する一族変わると世代ジャンプする仕様もそう。今回で初めて世代ジャンプした。
 これからも地味にサイレントアップデートされていく。

 日下部篤也
「はー待て待てなんも分かっちゃいねぇ 頼むぜガキ共」
 原作キャラ。
 術式がない術師で一級まで上り詰めた実力派。
 日々を健やかに過ごせればそれでいいタイプ。
 今回はそのご先祖の一人に宿り、先祖に術式に目覚めた。それが彼にどう影響するかは不明。

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