じゅじゅヒント
えるしってるか はこぶだけならこうげきじゃない。
「"骸刃"」
手始めに繰り出されるは燕の死体を使った飛翔する刃。
事前に定めた鞭の如くうねって取り囲み、定められた形へと縮小し変貌していく。
刃の変形工程を定められるからこその生物的な攻撃。完全するまで止まらない惑わしの刃。
「"鷹" "鉄の鷹を召喚出来る"だけ!」
対するは鉄の鳥。殆どが鉄で出来ているからこそ行える斬撃への盾仕立て。
一点に放り投げ、阻害されて一歩遅れた変形箇所から難を逃れた。
単純な術式だからこそ行える、一瞬の術式開示による威力強化が功を奏す。
「俺の術式は"死体から刃を創る" "骸刃"!」
術式開示によってより強力に、変形速度の上がった刃で再度仕留めに掛かる。
単純な横払い。鳥の盾により防がれるも、その隙に先に使った方を燕へと戻す。ぼとりと呪詛師の近くに落ちた。
「"骸刃"」
横払いの方を燕の死体に戻し、今度は変形速度を載せた突きを行う。当然鉄鳥を盾に防がれ鍔迫り合うが──骸刃は呪核と死体さえ壊れない限り遠隔で発動する。
ヒュッ。
術式宣言無しの低速の刃。
足を切り払う刃が、呪詛師に向けて低く飛び迫る。
鳥は突きを防ぐのに使われている。盾はない。
「ッふん!」
しかしその程度で崩される程甘くもない。
飛んでくる刃の腹を蹴り──突きの威力に流されるまま吹き飛ばされ、空で姿勢を整え着地した。
刃を踏み台にした受け流し。それを見て二つの刃を手元まで飛ばし死体に戻す。
「これで無理なのかよ…!」
「その程度で殺される訳ねーだろバーカ! "大鷹"!」
"日下部の真横に鉄製の鷹が現れた"。
ザッ!
「デッ!!?」
風が乱れる音と共に嘴に咥え、日下部が掴んでいた燕の死体を振り落とし、空高く飛翔する。
挙句一つ掴むも、もう一つの燕に手は届かない。地面が遠くなっていく。
日下部を鼠のように咥え飛ぶそれは、鷹と呼ぶには余りにも巨大な図体だった。
「"栗骸 佐鶴の刃 蛹断ち"──"骸刃"!」
挙句に祝詞を最適化し、式神の中に燕の死体を入れて無数の刃に。鉄鷹を針鼠へと変える。
列伝に遺された知識を流用したそれは、日下部の理想通りに大鷹を殺してみせた。
鷹の死体が消え……既に日下部は空高く運ばれている。
ただ落ちるだけでも驚異となるそれは。
「〜ィ!?」
"間際まで迫った境界によって確実な死に変わる"。
「──雨鷹狩は中身が安全な代わりに結界の外縁に術式効果を付与してんだ。狭い程殺意が上がる都合、縮小はそのまま呪力消費の増加に繋がる。んでこの結界の攻撃の苛烈さ具合は"呪力の密度"次第! 縮小する程、消費が多い程、接触時の火力はあがんだ! つぅまぁりぃ…!!」
鷹は獲物を狩る際、急降下により瞬間的に時速190kmまで加速する。
そして鉄鷹の術式は一匹しか顕現出来ない代わりに、事前に調整しておいた姿を拡張術式として
"事前に研がれた鉄の爪先が、そのまま雨鷹狩の領域の火力へと化ける"。
「亜音速の1/5で三つの刀に同時に切り裂かれると同義!! サァ死に晒せや!!」
「──"骸刃"」
……領域の表層に触れた以上、避ける事は叶わない。
雨鷹狩の攻撃起点は体表……術師ならば体内領域の外縁。
どれだけの鎧を備えて居ようと、それらを無視して斬り裂く零距離の斬撃。
しかし──。
「"骸刃ァ"!!」
"それは盾を体内に食い込ませれば防げると言っているも同然である"。
骸刃で造られた呪具は壊れない。
それで皮膚の代わりとなる様に自身を覆えば、術式が許容可能な範囲までなら如何なる攻撃をも動けなくなる代わりに無効化する。
雨除けとして着込んでいた最後の燕を、死体を経由せずに自身に食い込ませた。
無理矢理変形させたことにより、より深く肉が抉れる。
「──ッハ! 正気かよテメェ!」
雨に赤い点が混ざり、赤子の様に
全身の薄皮一枚を剥がす代わりに全域からの攻撃を防ぐ。
理屈は単純でもそこで生まれる苦痛を思えば躊躇するのが普通の感性。
この状況に追い込んだ呪詛師ですら同じ状況であれば一瞬の迷いが生まれる選択を、この男は最速最短で実行してみせた。
(思考に呪術師キマり過ぎだろ! 暫く痛いで済むやり方じゃねぇ! いいぜノッた、メテェはもうその蓑にしてた武器しかねぇが!! 結界を崩壊させて境界の接触判定の雨を降らせる! 俺の奥の手! その漢気に免じて魅せて──)
呪詛師は直撃する角度で落ちる日下部をバックステップで回避し……"眼が合った"。
「──俺の術式は死体と呪核の両方が揃って初めて効果を発揮する。面倒な条件だが、その代わり"呪核の使い回し"は可能なんだ」
先ほど結界の境目と触れた瞬間、日下部は"二度"術式を発動した。
死体に戻す際は宣言が無くとも1〜2秒で戻り……或いは無理矢理変形させる事も可能。
故に飛び道具の無詠唱を除けば叫んだ術名の数だけ刃は存在する。
「そんで"一度揃えれば遠隔だろうと骸を刃に出来る"。呪核が俺の意思を受信して動くんだ」
しかし日下部の手元にある死体は"装備にしていた燕一匹"。
一匹は空まで運んだ大鷹を殺すのに使ってバラバラになり、もう一匹はそもそも掴み損ねた。
一回は装備を皮膚下に食い込ませる分。ならばもう一匹は……。
「知ってるか? 燕は刃になっても飛ぶんだぜ? ──"骸刃"」
"掴み損ねた燕の骸刃は、既に呪詛師の後頭部で待機している"。
斬
▲▽
雨が止んだ。
いや…元々降ってなど居なかったのだろう。
風は乾いた空気を運んでおり、どちらかと言えば打ち水がされたような清涼な山風が頬を撫でる。
「あ〜ぃっテテテ……一族列伝、俺の皮膚やら何やらを再現して貼っつけろ。呪力は好きなだけ食っていい」
全身から血を垂らす真っ赤な人型が、花の香りと共に次第に皮を被って人間に戻っていく。
目の前には綺麗に左右に割れた死体が転がっており、勝負の明暗は決定した。
「はぁー…ぶねぇ。何回か死に掛けたわ」
日下部は術師の討伐に当たって一つの作戦を立てた。
燕の骸刃の真骨頂は意識外からの暗殺。飛べる力にある。
最良は初撃必殺。しかしこれは道中唯一日下部に気付き襲って来た呪霊により破綻した。
討伐による脅威の探知。日下部も想定しない筈もなく、次善として選んだのは"自身を囮にした不意打ち"。
「相手の一撃を派手に防いで、消えたと思わせた骸刃の変形斬で斬る……痛い思いした甲斐があって良かった〜マジで」
手筋は複数有った。
戦場に死体は事欠かない。それらにフリーの呪核を燕の骸刃に運ばせて創り出す。
そうでなくとも事前に人の死体に呪核を嵌めた物もあるし、呪霊を討伐した際に呪核を嵌めようとした感覚から呪霊の骸刃は可能だと見ている。
土壇場の挑戦になるが、それに賭ける事も日下部には出来た。
しかし現実は第二の案が通じた。燕の変形斬の暗殺で終わったのだ。
「んじゃこれもこの先生きる為だ。お前の仏様を刃にさせて貰うぞ。そうだな…刀か…いや、鷹の爪を模した暗器にしよう。付け爪みたいなの」
左右に別れた死体を合わせるついでに心臓辺りに呪核を埋め、鷹の爪が如き刃へと変わる。
「ほい…おっ出た出た。うーん…カッコいい鳥だ」
ザッ!
「おおぉ!? 翼広げて喜んだ! え、お前意思あるんだ!?」
鉄の三つ爪となったそれを振るえば鉄の鷹を召喚された。
無事に呪詛師の術式を宿す呪具へと変わったのを確認すると、日下部は鉄の鷹を空に飛ばし、周囲を探らせる。
程なくして鉄鷹から情報が送られて、戦場の霧が払われた。
「ふむふむ…うわーこりゃ…」
味方の死亡者……950名、負傷者大多数。
領域「雨鷹狩」の縮小により肉片となる。
「呪霊が契約の関係か全滅したのは良いが……やべーな」
敵の死亡者……2300名、呪霊73体。
全滅。
「第三勢力の伏兵かよ。何処にいたんだマジで」
敵陣後方より黒丸を八つの黒点が囲んだ旗印ありけり。
兵の数凡そ5千、一級以上の術師100名で組んだ術師分隊。式神700体以上。
目的…領土略奪。問答無用の鏖殺。
一切の勝ち目……無し。
(道は二つ。逃げるか降るか。一応俺は術師、降ると言えばそこそこの待遇はある……と思いたいが。既に数が揃っている以上希望的観測だ。仮に入っても使い捨てが関の山だろう)
細川家。かつて桜灰病による人口減、西日本を襲う災難を被りながらも生き延びた猛者の一国。
その影響か生き延びた彼らの子孫は術師として目覚める者が多かった。
その割合なんと……"一割"。
通常が一桁台である事を考えれば、従来の十倍の術師が西日本では誕生しているのだ。
その影響は凄まじく……国が戦う時代背景もあり、術師の蠱毒は一層加速した。
「逃げるか。流浪の侍とか正直ごめんだが……背に腹は変えられねぇ」
その結果言われているのが術師の量は西、質は東。
その上で蠱毒の結果、術師の最低ラインは今殺した呪詛師が最低限クラスという高次元な領域で拮抗している。
日下部の判断はそれらを知らないで下した物であったが……結果として戦から生き延びる功となった。
それから数日後。
あの合戦の地より離れた、人々が賑わう尾張の城下町に日下部は辿り着いていた。
「──さぁて、何して身を立てるか」
戦から逃げ出した以上前の身分は使えない。
しかし名前を変えるほどの罪ではない。
今時その手の輩は珍しくもない。
人生をこれほど手軽に再出発出来る時代もそう無いだろう。
「改めて破竹の勢いの所で足軽から成り上がってよし、
商人の真似事をしてよし、術式の都合鍛治もやれるし、
山賊海賊忍者剣豪……趣味人として生きるのもそう悪くはなさそうだ。
列伝があれば医者として振る舞うのもそう難しい話じゃないか」
立身に興味が無くとも、日下部はこの数日の旅で自分に示された道は存外多い事に気が付いた。
術師として大成するのが碌な事ではない以上、非術師として生きるのは十分に有りだ。
どれを選ぼうとこの術式と呪具ならば何かと役に立つ。
「術師はダメだな。あんな戦い命が幾つ有っても足りねぇ。修羅の道だ」
日々を穏やかに過ごせればいい。
日下部の日常に求めるものとはそういう類いのものだ。
遠い未来ならいざ知らず、戦国の現代で求めるのは土台無理な話。
しかし一度これまでの全てを捨てて見えた数多の道筋が、人生のちょっとした刺激として日下部の興味を引いた。
有り体に言えば、遊戯感覚に少し上に挑戦してみようと考えたのだ。
「……うっし、医者とー出来れば商人の真似事でもするか! 白金と花子の奴の知識を拝領すりゃ楽勝だろ」
そうと決まれば話は早い。
骸刃の刃を織り込んで茶色の……しかし立派な生地に見立て、髪を剃って丸坊主……にすると一族列伝が目立つので辞め、笠を被って代用。
薬剤を持ち歩いている風に見せる為適当な商人から薬箱を買い取る。
金は無いので本当にボロく捨てる寸前だった物。薬を保管するにはあまりにも頼りない。
しかし手に入ったのは運が良かった。こうなればこちらの物。
『ぐえ…ぐえ…ぐえ』
「けほ…げほげほ」
「後は病系の呪霊の残穢を追えばあら不思議。具合の悪そうな
強引に声を掛け、治れば金を払えと脅し、適当に列伝で創った滋養効果のある花弁を再現し適当に粉状に。
服用と同時に呪霊を祓えば、忽ち病人は元気になった。
「あんさんありがとな! 近所の奴に教えとくよ!」
「ああ、是非広めてくれ。腕の立つ医者が来たってな」
列伝による歴代の術師の特徴の再現。
初代(呪霊の方)の呪力を感知し見分ける感覚、加茂花子の花弁。
程度が低過ぎるが故に僅かな残穢すら感知する呪霊の眼と、花弁の元となる血液の再現は日下部に医者の才を授けた。
「腰が痛くて…」
「腰痛なら接骨と…この花弁か。ふぅ…我慢しろよ? 暫く痛いだろうが直ぐによくなる」
「息子が病に…」
「うわ桜灰病の進化版! はぁ〜200年前と比べると随分症状が軽くなって…その分感染力が上がったな。あ、よく効く血清出しときまーす」
「腕が腐って…」
「刀傷が化膿してんな。足軽で…順番待ちで金創医に掛かるのが遅れたと。安く払って腕を落とすか、値は張るが綺麗に治すのどっちがいい?──了解、金は絶対払えよ」
『この恨み…晴らさでおくべきか』
「気分が悪くて…」
「眼ぇ瞑ってろ。一眠りしてる間に治しとっから」
日下部という名医がいる。
そう噂が立つのに時間は必要としなかった。
風邪も骨も戦場の傷も、呪霊由来の病すら治すのだ。
どの病も彼に掛かれば覿面に治るとあれば、人は自分から噂を広めるもの。
直ぐに農民から商人、職人、武士と金払いのいい人々の所まで赴くようになり……。
「今日来て貰ったのは他でも無い。俺の妻を治して欲しい」
『もういい…私は…もう…ダメだ…』
「諦めるな! あの名医に来て貰ったんだ! もしやするとあるかも知れぬだろう!」
「あー…ははっ取り敢えずやるだけやってみます」
(……やっべ。医療で治せるもんかな、呪霊化の呪いって。あーいや、骸刃を使えば或いは……)
当時最も金払いのいい存在……術師の世界に再び踏み込むのも、そう遅い話でもなく……。
「おお……これは奇跡か?」
「ありがとうございます! お医者様!」
「まーじで治せちゃったよ。びっくらポンだぜ」
(いえいえ、治って良かったですね)
1211年。
当時その悪名を轟かせていた術師による"呪霊化の病"。
それを治した事を皮切りに、彼は再び術師の世界に引き摺り込まれる事となる。
呪霊操術
原作では傑・サマーオイルが使っていた術式。
格下、若しくは負かした呪霊を呪核にし、飲み込む事で取り込み操れる。
数に制限はなく、呪霊相手ならば幾らでも取り込み操る事が可能。
今作の1200年代もこれを持つ術師が京都に現れた。悪名高いらしい。
原作と違い術師の呪霊化という芸当を成立させている。