呪具:一族列伝   作:何処にでもある

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 じゅじゅさんぽ
幼脹相「ははうえ! おれはおとうとがほしいです!」
母「無理」

 2年後…。

母「……喜べ、弟か妹が出来るぞ…くそっ
幼脹相「ほんとですか!? やったー!」

 14年後…。

脹相「今にして思えば呑気に喜んでた自分を引っ叩きたい!」
母「お、そうか。孫の顔早く見せろよ」
脹相「……はっ! 頑張ります!」
母「そうか…言い淀む程に怖いか…婚活が…!」


 傀塚家、新しき日常より引用。




1884年 吹き出る過去・再発

 

 

 1884年。

 世間一般では憲法が擁立され、伊藤博文による新たな政治体制と共に不安と期待、興奮が混ざっている真っ只中。

 

「ふむ……この辺りのはずだが……」

 

 新潟のある山奥まで、脹相は術師の仕事で出向いていた。

 

「地図を読み間違えたか…? クソ、一度街に戻るのも手か…」

 

 依頼の内容は偶に来る封印の点検。

 本来地元の術師が済ませる物であるが、今回は突発的に担当が死亡し定期点検に行けず、そこで白羽の矢が立ったのが傀塚を名乗る一族の家長、脹相であり。

 

 端的に言えば面倒な雑務の押し付けであった。

 

「だがもうちょっとで見つけられる気がするし……粘るか」

 

 とは言え仕事自体は間違いなく重要な物。

 「宿儺の指の封印点検」を行わなければならないのだから、相応の期待が無ければ任される事もない。

 真面目な仕事ぶりも含めて一級になるだけはあるのか、脹相は日が暮れていく中、封印箇所を示す地図の暗号と格闘する事に決めた。

 

 ホー…ホー…がさり。

 

「獣……誰だ?」

 

 そうして空振りのまま街に戻っている最中の事である。

 提灯の光で先を照らしながら山を降っていると、何やら物陰で何かが動く音がした。

 鼠か何かかと始めは思えど、それにしては違和感がある。

 

「……なっ!」

 

 不思議に思いつつ、警戒しながら物陰を覗き込み……其処には酷く見覚えのある死体があった。

 

「"傀塚墓守"…!?」

 

 "一族列伝、二代目当主"。

 凡そ900年もの昔、自ら儀式の贄として消え去った筈の死体が、其処に転がっていた。

 触れてもすり抜け、魂を観れば確かに其処に居る……。

 

「"赤燐"!」

 

 飛び後退り、呪力と血を纏い周囲を警戒する。

 呪霊か術師の仕業か定かではないが、既に攻撃を受けた。

 候補に上がるのは幻覚、変化(へんげ)、時間の跳躍……降霊術。

 似た様な術式や領域は既に歴代達が出会っている。

 どれも最大限警戒をするべき現象であり‭─‬‭─闇の中、僅かな残穢の発生を脹相は見逃さなかった。

 

「"血装:花輪筒(かりんとう)" "穿血"」

 

 簡素な血の筒を八個具現化し、指の間に挟んで一斉射撃する。

 赤血操術固有の呪具である血装、限りなく人に近付いたとはいえ根本が呪霊である事を利用した呪力の血液転換。

 それらを組み合わせた朱い8発の鉄砲水が影を襲う。

 

「"舞台裏"」

 

 ばさりと影を切り取った様な布が広がり、砲撃を呑み込む。

 

「"表沙汰"」

 

 布が裏返される。反射と予想し追撃を放ち……"背後から自身の呪力を感知した"。

 

(発生位置は自由! 非幻影! だがまだ‭─‭─)

 

「"春踏む飛翔"」

 

 "背後の穿血の力が増幅し、「点」が「面」となる"。

 

(なっ‭─‭─)

 

 皮膚を灼く熱、衝撃。

 結界の守りが打ち破られ、呪力で強化した全身が炭へと変わる。

 一族列伝による肉体の再現を行い完治させ、下手人に接近し腕を掴んだ。

 

「何者かはどうでもいい。お前は今ここで殺‭‭─‬‭─ッ!?」

 

 掴んだ拍子に布で隠れていた顔がまろび出た。

 其処に居たのは、"額に縫い目のある若い女"。

 

(羂‭‭─‭─)

 

超人(アリス)。見立てを行えば本物以上の効果を引き出す。

 要するに‭─‭─ハッタリ、出まかせ、思い込み、嘘八百万が事実になる

 必要なのは僕自身の確信。それだけでいい」

 

 術式が開示される。

 実質的な万能の宣言にどれだけ嘘が混ざっているか定かではないが……。

 其処に脹相に理解させる縛りが無いのは、ハッキリとした事実だった。

 

「不幸な事故だったね。

 下準備をしてる僕と出会うとは。

 

 "永眠峠"」

 

 大禍大夜行。かつて存在した全ての術師、呪霊、呪具の36日間限定の黄泉返り。

 舞台裏。あらゆる物を呑み込む影の布を出現させる。

 表沙汰。影に呑み込ませた物を引き摺り出す。

 春踏む飛翔。相手の攻撃の増幅。

 永眠峠。一時的に死体に変じさせるタイムカプセル。

 

 全てが術式であり、儀式。

 全てが、羂索による出鱈目なでっちあげ。

 

「だが幸運でもある。君はこの時代の術師にしては骨があるようだからね。その力、僕の儀式で奮って貰おうか」

 

 意識が深く沈む。

 

(マズい‭─‭─何か……!)

 

 何かないかと、必死に頭を回し……挙句に飛び出したのは。

 

「"そんな物はない"!!!」

 

 "呪力を乗せた否定の叫び"。

 闇雲な行動。決して確信も論理立った理論もない。

 余りにも苦し紛れかそれは……果たして、脹相を夢から引き揚げるだけの効果を発揮した。

 

 反動で喉が灼き潰れる。

 

「カヒュ…ヒュー…ヒュー……どうだ、見抜いたぞ」

 

「……ふむ、運がいい。苦し紛れに呪言の真似事をしたのか。すまない、侮っていた。

 生得術式を技術で再現出来る者は滅多に居なくてね。うん、大体17年振りかな」

 

(やはりだ! 出鱈目な効果だからな。嘘の実体化に他者を頼らないならば、術式の解除の方は他者も握ってなければ道理に合わない! 故に否定! 完全に賭けだったが見破る事は出来た!)

 

 列伝を使い喉を治す。

 初見の分からない殺しは突破したとはいえ此処までが前座。

 竜戦虎争/竜騰虎闘を経験した呪詛師の見せ札に過ぎない。

 

「そうか……その骨のある奴の顔を拝んでみたい所だな。乗っ取り呪詛師め」

 

「あら……バレちゃった! やっぱり初対面でもらしく振る舞わないとバレちゃうかぁ」

 

 話し合いの最中に撒いて置いた42個の花輪筒から超新星……極限まで圧縮した血の爆弾をコッソリと放つ。

 目視不可の小さな42の星が羂索に迫り……指弾きの一つで無に還された。

 

「ああ……ごめんなさい? 血生臭くて鬱陶しかったのよ。

 それと、"拝みたい顔は丁度あなたの目の前にあるわ"!

 どう? 私は南蛮の生娘で、殺すのには随分と骨が折れたの。

 でもそれだけの価値があってね? すっごく便利なの!

 

 だから僕も、"コレ"は気に入ってる方なんだ」

 

「ゲスが」

 

 重力が反転し、空に落ちる。

 空から無数の燃えた大剣が降り注ぎ、脹相諸共森を焼き払わんとした。

 術名の宣言を飛ばした"超人"の行使。脹相もまた否定を叫ぶ事すらなく解呪し、肉弾戦に移行する。

 単純な連撃、組み手、締め技、次いで投げ。

 受け流され、膠着し、瞬間移動で抜けられ、怪我を無かった事にされる。

 その合間にも空中では花輪筒と超人により出現した武器が交差し、飛び交い、引っ切りなしに死の魔の手が双方に迫り。

 

 両者同時に、死角からの攻撃を弾いた。

 

 羂索の頬にのみ、薄皮一枚の裂傷が走る。

 

「ダメね、万能も出力四割じゃジリ貧。貧血の気配も無いし、持久戦はよろしくなさそうね」

 

「だったらどうする?」

 

「"こうする"」

 

 掌印。呪力の濁流。広がる異空間。

 歪んだ落とし穴、お菓子の小屋、あべこべの薬、煙臭い森、狂った帽子屋、トランプの国、鏡の世界、不思議な夢の支配者。

 

 

 

"領域展開"

 

 

「‭─‬‭─生憎、それは叶わん」

 

 脹相の宣言と共に"呪詛師の肉体が崩壊する"。

 

「……それは、加茂花子の!!?」

 

 "崩蠱弁"。

 かつて存在した加茂家の神稚児が終ぞ使い損ねた花弁の再現。

 あらゆる呪霊の残穢を詰め込んだそれは、脹相の血を混ぜた事で人体を数秒足らずでぐずぐずに溶け崩す力が込められている。

 それは反転術式を含んだあらゆる術式による回復を叶えず、崩れた身体は術式を機能不全に陥らせる。

 

 故に、今。

 羂索の術式が全て封印された。

 

「なぜ……!?」

 

「さてな、何処かの誰かがこの呪いを受け継いで来たのだろう」

 

 僅かな頬の裂傷。それだけで脹相にとっては充分であった。

 全ての砲撃にこの毒を混ぜるその戦略は、呪力の消費が激しい代わりに全てが必殺となる。

 羂索と違い、端から長期戦など考慮などしていないのが勝敗を決めた。

 

「後悔の中で死ね。"穿血"」

 

 迷いも構えも溜めも必要ない。一切の助かる猶予を与えない全方位からの絨毯爆撃。

 凡そ三分間絶え間なく続いた跡には、呪詛師の肉片一つ残っていなかった。

 余りにも呆気ない終わりだが、こうしてある呪詛師の目論見は途絶する事になる。

 

「……"逃げたか"」

 

 "などということにはならない"。

 羂索は一族列伝を知る機会に恵まれなかったが、代わりに一族列伝をキッカケに引き起こされた術師界隈の底上げの恩恵を十全に受けて来た。

 超人(アリス)を筆頭に、体系化された新たな結界術、式神の運用、縛りの活用法……一族列伝から派生した呪術文化は余りに多く、各地に広がっている。

 

「"一族列伝候補の種"。その繋がりを利用した分けた魂の本体化。奴め、保険を作ったか」

 

 その際たる例。

 一族列伝が新たな候補者に宿る為に構築された「呪力ネットワーク」。

 既に全ての日本人に加え世界の9割以上に構築された繋がりは、ある時から他のあらゆるものが相乗りする様になった。

 繋がりを利用した念話、設定地点までの魂の移動、負の感情の行き先誘導……その用途は多岐に渡り、この発見は呪術師に新たな強みを齎した。

 

「これを消すなら本体である一族列伝を消す必要があるが……最短でも30年を要する。それならば羂索を叩く方が早いか……全く、先祖め。余計な事を……はぁ、まさか‭─‬‭─」

 

 人類の負の感情。呪力の繋がり。

 それを踏まえてこう名付けられた。

 

「"人類の集合無意識"なんてものを創り出すなんて……面倒な事をしてくれる」

 

 人として産まれれば決して逃れる事の出来ない無意識の繋がり。

 負の感情のみで出来たそれは、一族列伝の猶予が少ないのもあってか、奥底で死の恐怖を集めた呪霊が呪胎する程に、腐り澱んでいる。

 

 仮に天元が呪霊となれば確実に溶け沈む程、致命的に。

 

(だが……次はない。作り手である一族列伝でも20年分存在を削って行う「魂の移動」をした。奴の魂は既にボロボロな筈。そうなってはあらゆる能力が弱体化する。次はより易く勝てるだろう)

 

「……まぁ、こうなればトドメを刺すのは俺で無くても良いだろう」

 

 故に倒す事は叶わなかったが……これにより羂索は計画の変更を余儀なくされた。

 呪術界全てを巻き込んだお祭りが不可能になった反省点として、次の計画はより狡猾に、慎重に、コンパクトに進める事になる。

 

 がさ。

 

「ん?……そういえば此処に倒れていた筈の先祖の死体は……」

 

 

 

 ▲▽

 

 

 

 それからの話となるが。

 その後脹相は無事に宿儺の指を確認し帰還。

 戦争により幾度か困難が降り注ぐも、全て跳ね返し幾年を経て遂に婚約相手を見つける事になる。

 

 嫁の姓を氷見と言い、非術師の家系ではあるが互いに好意を持って血を結ぶ事となった。

 三つ子を設け列伝を継がせようとするも、"自然と花が枯れた"為に断念。呪力を持つ子供は居らず、そのまま一代術師として終わりを迎える。

 

「されど、一族列伝……いや、"葬花"は滅びず…か」

 

 パキリと枯れ枝が折れる音と共に、美丈夫な男が山奥に進んでいた。

 名を傀塚墓守……否、今となってはただの墓守か。

 

「随分と長い寄り道になったし……こうして戻れるとは思いもしなかったな。

 だが蘇ったのも何かの縁。あの日、白に取り上げられた旅を再開するとしよう」

 

 彼は二代目であり、死体であろうと継承は初代に継いで優先される。宣言すれば今代から取り戻すなど造作もない。

 彼は脹相に妻を迎えさせた後に一族列伝の所有権を取り戻し、かつての再現の様に京都へと足を進めようとしていた。

 そうする理由はただ一つ。依然として育て親から渡された命令を果たせてないが故。

 脹相が妻を娶るまで待ったのは単に気を遣ってのこと。

 元は山の民、それまで山に籠るなど訳もなく、様々な偶然が重なり超人(アリス)の術式が停止する契機を失った以上、歳を取ることもない。

 

「さて……千年経ったのこの国で、あなたと私でどれだけやれるだろうか」

 

 頭に咲く白い彼岸花を撫で、この時代に合った服を再現し身に纏う。

 それは醜悪な死体が徘徊する様であり……まるで或る白虎によって歪められた運命が、本来の形を取り戻そうとする懸命な足掻きの様にも見えた。

 

「楽しみだね、"葬花(母さん)"」

 

 

 1945年。

 墓守と葬花といふ者が山河を降り(みやこ)へと旅立ちけり。

 かの者、決して一族を忘るる事無く我らの元へ歩み寄らん。

 

 






 じゅじゅさんぽ
 Q.なんで今更墓守なんですか?
 A.コイツと初代だけ一片も良い意味の後悔も悪い意味の後悔もせず/出来ずに死んだから。

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