九十九
原作の年齢不詳。金髪の姉御。ボン、キュ、ボン。
夜蛾より歳上っぽい感じはする。少なくとも冥冥よりも上。
仮想の質量を付与する術式を持ち、式神を一体従える。
星漿体だが、贄にはなりたく無いタイプ。天元と確執がある。
今作では生誕時期がズレて2003年に16歳、高専入学と裁定。原作より若くなった。
2003年。
墓守が夜蛾達の卒業を見送り、また新たな生徒達に教え、教師となった夜蛾からの頼みで、東京高専へ定期的に臨時教師として向かったりする日々を過ごしていた頃。
「どんな女がタイプだい?」
「妻」
「ありゃ、世帯持ちか? まあまあそんな建前は置いてさ、性癖の話だよ」
「ケツがデカい
入学式にて墓守は心臓が一度停止し、吐血し、逸物が腐る事となった。
傀塚白による過去からの攻撃、問答無用の迫真の呪い。
冷静に一族列伝で肉体を治していく。
「大丈夫かい!?」
「問題ない。妻の不興を買っただけだ」
「あんた、女は良く選んだ方がいいよ…」
「時として運命の出会いとは存在するものだ。私は妻を選んだ事に一切の後悔はない」
「ヒュー…男だねぇ」
そんな一幕は置いておくとして、墓守は九十九由基という生徒を得る事になる。
元星漿体候補であり、2000年に一度天元と会話を交わした後の……自分の生き方を決めた術師であった。
「まあまあかな。悪くはないね」
「そうか。お眼鏡かなったなら良しとしよう」
そんな出会いを得た訳だが、なぜか九十九はそれから"まあまあ"と評した墓守に全て教えて貰いたいと言い出した。
普通なら通らない要望。しかし九十九は星漿体として現代最高適正の人間。
心変わりの期待を上の者はせずにはいられないが故、この願いは叶う事となる。
「基礎など私で無くても良い。何故か選んだか言え」
「アンタの噂を聞いてね。正直高専なんざ行かず海外でも周ろうかと思ったんだが……夜蛾が大層便利そうなもん使っててさー。いっちょ本家にご教授頂こうと思うわけ。じゃなきゃ、こんな陰気臭いとこに来ないよ!」
思巡、決定。警戒する必要なしと勉学に励むダシにする試み。
「つまり短期集中で鍛えたいと?」
「違う違う!──"アンタが何者か知りたいって話さ"」
「元平安時代の術師。蘇った。詳細を知りたければ勉学に励め。先ずは今教えた移動術を使い熟す所からだ」
「うっっわ雑〜。少しくらい隠そうと思わない?」
「過去は今に繋がるが、知っても変えようがないものだ。"偶然蘇った以上、私は長生きな術師でしかない"」
「つまりわる〜い事は考えてないってことね」
そんな訳で移動に使える術と呪具に式神も造らせた辺りで、もう十分だと九十九は東京高専に転校した。
呪力が有る術師ならば"神隠"は一日10回は使える術。
本拠地を京都にする意味を見出せなかったのだろう。
「ねえせんせー」
ある夏の……雨の日だった。
座学の最中に九十九が墓守に自分の悩みを相談したのは。
「先生は呪霊を、呪力から脱却するにはどうすればいいと思う? あ、除祓じゃなくてそもそも呪霊を出現させないやり方ね」
「ふむ、抜根的な話か……全人類を術師にする。その為の儀式をする権利を持っているからな。7日も有れば"出来る"」
ガタリと、九十九が座っているいた椅子が倒れた。
ジロリと、懐疑的に墓守を睨み付ける。
「……は? 嘘こけだったらなんで誰もやらねーんだ。パチこいてんじゃねーぞせんこーヨー?」
「"誰も誰かの為に死にたくなかったから"。少なくとも、代々この権利を継いできた術師は皆、我が身の可愛さでこの儀式をやろうとはしなかった。
だから儀式は断絶し、そして私と共に復活──」
黒板に拳がめり込み、亀裂が広がる。
間違いなく当たる軌道、移動術も加味しての一撃。しかし当たらない。
構わず、墓守は知識を板書し続けていた。
「やれよ。本当なら!! それで何人救われると……!!!」
「ならお前がやれ。教えれば誰にでも出来る様になるからな。下準備だけなら昔々に終わっている。手順さえ知っていれば後必要なのは術師の命、一つだけだ」
「……………」
「命が惜しいか。私もだ」
死にたくない。
それは生きる者ならば……生き物なら当然の常識。
九十九も例外ではない。他人に命を差し出せと平然と言えても、自分は助かる側で居たい。
知恵と若さは、未来を捨てる選択をいつだって踏みとどまらせるものだ。
仮に未来で考えが変わったとしても、この瞬間の九十九は惜しいと口を閉ざしていた。
「幸せになりたい。当然だ。その為に見えない場所で何人死のうとどうでもいい。
術師に限らん。人にも限らん。生き物も呪霊も、なんだってそう思う。
だからこの儀式は使われなかった。興味も持たれなかった。態々他人に時間を割く気が無かった。
九十九、私は別にいつやりたいと言っても──」
「それは……」
ただ一つ。
「……どうした?」
ただ一つ、
「それは天元でも出来るか?」
「出来る。信じるんだな」
「先生はこういう時に嘘を言わないから」
「パチこいたと言った側から虫のいい話だな」
「それはごめん。余りに都合が良くて、悪い話だったから」
"呪霊が居なくなれば天元は必要ない"と結論を出したのだろう。
無表情のまま、瞳孔が開いた目で墓守を見つめる。
「先生、端的に教えるアンタがそういう言い回しをする時は縛りで言えない時だ。
だから出来るだけでいい。その方法で起きる詳細を教えてくれ。必要だろ?」
……墓守が言い方を逸らしているのは、一族列伝を利用する方法である為だ。
そもそも必要な呪具が秘匿項目。この項目を知らせず教えるのは効率的ではない。
しかし、墓守はその手の言い回しに慣れている。然程時間を必要とせずに伝え──。
高専卒業後、天元による勅令で九十九由基を呪詛師に認定。
天元に接近出来ないよう指名手配が下される事となる。
▲▽
「ついにやったね、見損なったよ悟」
「やってねーって! ドアの上に黒板消し挟んだだけだし!」
「その後投げたじゃん」
「いつかやると思ってました」
「ア"ァァン?」
2005年。五条悟が高専に入学した年。
いつも通り東京に臨時教師として教室に入った時の事。
墓守は現代最強の異名を持つ五条悟のイタズラに引っ掛かり、頭部を真っ白に染めていた。
扉を開けた際の落下を回避し、直後に正面から投げられた黒板消しとキスを交わす形で。
「元気で宜しい。授業を始める」
「「ぎゃー! 死体が喋ったー!?」」
「死体なのは元からだ。ある術式で一時的に蘇ったはいいが、その後術式が停止する契機を失ってな。かれこれ200年はこうして活動している」
「思ったより愉快だこの先生!」
「どうもすみませーん、止めても無駄だったので仕方なかったんです」
京都高専から来たのもあるのだろう。
全体的に舐め腐った雰囲気を隠しもせず、机に座るわ携帯を弄るわで好き放題やっていた。
「席に着け」
墓守が暗転を使い全員を着席させた。
急な視点の変化、触られた様な感触、遅れて高速移動だと理解する。
その上で五条は別の術の存在に気が付いた。"無下限が突破されている"。
(……無下限を展開してたのに触れられた!? 空間……いや結界か!)
「今から"コレ"を覚えさせる。発展系を覚えたいなら夜蛾先生に聞け。元は私の生徒だからな。予定を説明した事だし表に行くぞ」
一時間後、五条、夏油、家入の三名は術師として新たなステージを駆け上がる事となる。
(……感覚としちゃ一歩先に領域を置いてるが、実際は体表ギリギリに広げた体内領域を利用した簡易領域…の一歩前。いや複合? 単純なのに複雑。成程、移動に便利だがこれの本質は──)
それだけ移動に革命を起こす傀塚の術の出来が良いのもあるが……この術式は領域展開のキッカケとしても機能する設計をしている。
癖が混ざりその人個人に最適化する性質が、そのまま領域展開に繋がるのだ。
「──領域展開 "無量空処"」
そして授業中に突如として行使したのが五条悟である。
暗転の要領で条件を整え、神隠の要領で現実と領域を重ね、追従六面の要領で展開する。
基礎で完成している術と天性の才が噛み合わさり、成る。
「情報処理を完結させない領域だな。直ぐ到達したのは流石と言うべきか」
近くに居た生徒の身代わりに巻き込まれた墓守が言う。
蒼い宇宙の広がる空間を歩み、自身の術式の核心を掴みハイになりながら揺蕩う五条を見上げた。
掛けられた声に、五条が現実に引き戻される。
「……いや、なんで普通に動けてんだよ。流石にキメェが勝つわ」
「生前なら兎も角、今や思考で動いてないからだ。
今の私は操り糸で動いている人形と同じ。
そして糸元にいる筈の術師は死亡した。
本来ならただの死体となる所だが……生前に思考を介さず肉体を動かす術を用意しててな。
今私を動かしているのはそれ。縛りを利用し事前に設定した動作を行う「低性能な動作」だ。
言っただろう。私は死体で、止まる契機を失ったと。でなければこうして200年も活動出来ん」
「あー…そういや言ってたな、あれマジなのかよ……」
冷や水を掛けられた五条が領域を解いていく。
多少トラブルは起きたものの、今回も墓守による教導は順調に終了した。
その際に交わされた会話で墓守が動けている理由が判明したが……これ自体は大した事では無いだろう。
どの道壊せば死ぬのと変わりない、ただの呪骸擬きに不老の価値はなく……。
「「──領域展開」」
「ふむ、五条が見本になったか」
「あー…見たら出来るってこういう事か……」
「安易に同格相手の戦いで使うと覚醒を促してしまうのがこの術だ。癖が付くまで敵前で晒さないように……とはいえ、全員既に元の形で使えないだろうが」
五条の領域から出た直後に核心を掴んだ二人の領域に巻き込まれた事に比べれば、本当に大した問題では無かった。
真似し易く領域に導く技。安易に乱用すればそれだけで厄介な呪詛師を量産する。
しかし領域展開を覚えれば癖が付き二度と元の形で使えず、模倣される心配もない。
よく出来た仕組みに五条が関心するも、そこで一つ違和感を覚えた。
「……で、先生。これ無下限バリア突破したの別の技だよね?」
「領域展延。空白の領域に相手の術式を取り込むか、注いで中和する。今回は取り込んだ上で無限で無限を相殺した。なに、せせこましい呪力の節約だ。大した事では無い」
「はぁ〜!? アッサリ教えるのが逆にむかつく! んだよそれ! ミジンコ並みの呪力量の癖にさぁ! 何食ったらそんなの出来るワケ!?」
「人間」
ざらりと、空気が澱み殺意の混ざった警戒心が墓守を纏う。
返してやる必要は無いと、自然体のまま答えを出した。
「……今のは笑えねぇよ、墓守先生」
「死体を暴かれる前は平安の時代を生きていた。
生まれ故郷は流行り病で滅び、飯を用意出来る人も居ない中では病死体も貴重な食料だ。
私は村で唯一の生き残りとなった。他は食人を拒食したからな」
「……もしかしてアンタの墓守って名前、墓を守ってる人じゃなくて……」
「元は"墓を住処とする程死体を喰らった屑"という意味だ。
とはいえ成長し山で狩りが出来るようになった後は掘って焼いて埋めて、墓を作り守っていた。
それ以外にあの村に返せる物が、もう無かったからな」
淡々と五条に当時の事を語る。
親の死体を、そこに咲いた花を最初に食べて以来。
それ以上に数多を喰らい、今も昔も変わらずゾンビの様に喰らっては彷徨っている。
墓守はただの事実として、過去の乾いた記録として当時の話を口にしていた。
「五条に限った話でも、私個人に限った話でもないが……。
昔から相伝されて来た術はそうした犠牲の上で創り上げた物。
話を聞いたからと選り好みするなよ。それは食人以上に、罪深い」
果たしてこの話がどれだけ彼の心に響いたのか定かでは無いが……その後墓守が帰るまで真面目に授業を受けていた辺り、何か思う所が有ったのだろう。
「授業は以上だ。全員がどれだけ成長したか、交流会で楽しみにしている」
「じゃあせんせー、連絡先交換しようーぜ」
「あ、賛成。私も色々聞いてみたい」
「僕もいいかな。過去の呪霊操術の話を最後まで聴きたんです」
「既に板書している。後で掛けて来たら登録しておく」
生徒の惜しむ声に構わず教室から退出し、公共機関を利用して京都へと戻っていく。
窓を見れば景色が高速で後方へと流れ、墓守に時代の進歩を如実に伝えていた。
刃物の反射光が窓にチラつく。
「……全く」
ギィン──!
殺気を辿り爪で武器を弾く。
爪が剥がれ落ちた。
「無理か」
「誰からの依頼だ。呪詛師」
「これはどうだ?」
呪詛師が会話に応じずに鉾を取り出して呼吸する間もなく狂刃で斬り掛かる。
呪力を無効化する呪具、呪力を感じないに肉体、
踏みつけた地面からの反動すら利用するバクサーの様に、呪詛師が振り上げた鉾で空気を叩きより加速する。
「その顔は禪院の血族だな」
「だったらなんだ」
「何も。後で詫びの菓子折りを用意する必要が出来ただけだ」
呪詛師、名を禪院甚爾。
呪力と術式を奪われる対価に超人的な肉体を得た天与呪縛の術師。
「そうかい」
呪詛師が真横に跳んで車両を殴り──衝撃で走行中の新幹線がくの字で脱輪した。
荒れ狂う内部、飛び交う物、人、悲鳴──呪霊。
力のある術師ならば何を優先するか理解した人質戦法。
数多とある選択を前に──全て無視する。
「"内なる衝動 砕ける器"」
衝撃で砕けた窓から飛び出し、宙を舞う新幹線の窓縁を掴む。
背後の窓が割れる音。背筋に呪詛師の刃が触れる。
「"追想 破局 受刑せよ"」
行うは式神の作成。費やすは一族列伝に保管されていた骸刃の珠核。
死体は此処に。背後から心臓を貫かれた姿で刃と成るのを待っている。
「"栗骸 佐鶴の刃 蛹断ち"」
「黙っとけ」
呪詛師が顎を掴み上へ、上へ。下へ、下へ。
首を折って目を合わす。"まだ生きている"。
「──なんで死んでねぇんだ?」
元から死んでいるからこそ、簡単には死なず壊れない為。
「"骸刃"」
平然と、呪詛は紡がれた。
墓守の全身から刃がまろび出て、呪詛師を襲い、新幹線を押し戻し、空いた窓から侵入しあらゆる物を、人を掴んで抑えて呪霊を切り払う。暴走に見間違う勢いで全てを戻していく。
音響による周囲の把握。一族列伝による刃への変化計算代行。外に出てトドメを刺しに来た呪詛師の──。
(直前に手放したってのに追いかけて来やがる。追尾か? いや、にしては明後日の方に行く刃がある──事前設定した動作か)
外に逃げる選択肢を優先させ、想定外の動きを減らす打ち手。
追従六面を構築した開祖に三次元の逃亡は分かり易い物。
被害を抑える目的もあるが、最も大事なのは開けた場所と接敵までの距離。
「っ!」
新幹線や瓦礫の片付けが終わると共に、呪詛師を追跡していた刃が消える。
これにより稼いだ墓守と呪詛師の間の距離、およそ500m。
「縛りで制限時間を設けた。実に予定通り。
さて──呪力が使えない相手ならば解禁としよう」
暗転。距離3kmまで延長。事前に距離を稼いだのは仲間の術師や監視カメラへの警戒が故。
それが消えれば一切の遠慮は不要となる。
圧倒的な速度による逃走、事前準備の時間稼ぎ。詰みへの確実な一手。
「だが──俺には"観えた"」
全て、問題なし。
空を蹴り上げ、3kmの距離を一瞬で縮める。
圧倒的に早くとも、それ以上に速ければ何一つ支障はない。
捉えた姿に"武器庫"から取り出した鎖と特級呪具「
繁華街に大木が倒れても出来ないような破壊痕が形成され……"そこに墓守の死体はなかった"。
「術師と同じ見た目になる式神。魂すらも模倣するが故、どれだけ観えてようと騙される」
(……今度は幻聴。俺と同じく呪具を使うタイプか? 一眼見て楽な依頼だと思ったが…存外面倒な手合いだったな)
墓守の声が木霊する。式神に事前に組み込んでいた術式開示の録音。
見渡せど"人は居ない"。既に人払いを済ませたかと思うも、殴り掛かるまでの数秒でそこまで出来る筈がない。幾ら高速移動出来ても限度がある。
であれば……。
「"生得領域"。呪霊なら定番の奴か。いいのか? 馬鹿みたいに呪力食うだろ」
「空から高速で飛来するもの限定の領域。その上で殆どを現実の物で代用。
期待させて済まないが、ただの「無限に広がるだけの空間」だ。二分も持たないだろう」
五条悟から抽出した無限の呪力。普通他者の術式を……それも無下限を扱うなど無謀な試み。
だが、一族列伝に納められた傀塚の歴史には「五条家の血を持った傀塚家の当主」が居る。
呪詛師の前に傀塚が現れた。
「血を辿り、コツを掴み、残していた無限を領域に付与した。所詮借り物、使い熟せてない。だが役に立った。良い生徒を得た自負があるよ」
降霊術で子孫の姿になって。
(見た目が違うが、中身は同じか)
こうなっては小細工を弄すより殴った方が早いと判断。果敢に殴り吹き飛ばすも衝撃を全てぶつかった建物に押し付けられる。
構わず連撃。小波程度では決して揺るがない剛の攻撃。
しかし躱される。柔を制し暗転も併せ、当たる気配を見せない。
次いで呪具の鎖による薙ぎ払い。端を見せねば無限に伸びる性質を利用した広域一閃。
跳び、潜り、鎖による衝撃波すら加速する為の足にする。
(よく躱す。が、それだけだ。守りは厚いが攻撃がてんでダメなタイプ。面倒だが一当てさえすれば──いや、違うなこれ)
何処からか薫る血生臭さに、死の気配を感じ取った。
呪詛師の攻撃目標変更。術師から対象を"領域"へ。
手段、術式を無効化する鉾。地面に突き立てた事により領域に付与された無限が崩壊し──同時に、"赤血操術の術式"を破壊。
禪院甚爾の心臓に形成されていた"栓の拡大及び鎮痛作用"が停止する。
「カハッ──!」
(不整脈! 野郎心臓にデケェゴミ作ってやがった!)
自ら心臓を……"助骨を砕く程に叩きつけて"無理やり栓を粉々にする。
空気中に散布された血。それを吸い込むと心臓に集い血の塊を形成する単純な効果。
「テメェ──」
「終わりだ。既に脳内に血を侵入させた。
私がお前に殺されると同時に血が爆発する他者間の縛りも結び終えた。
締結方法は心臓の血栓を壊すこと。その条件を満たした以上、私を殺すには自分の命を道連れにしなければならない」
事前に歴史を調べてあるのを危惧した、降霊術による「傀塚淦掬」の皮と「加茂花子」の肉体情報のみの再現。
二つの肉体を多層上に再現した事で二つの術式を無理やり所有し成立させた領域は、見事呪詛師の無力化を成し遂げた。
「……降参降参。アンタが上手だった。で、どうすれば見逃してくれる?」
「2つ条件を満たせ。
"依頼主を正直に教え、今後私が許可を出さない限り高専の生徒に手を出さない"。これも他者間の縛りだ」
「"分かった"。依頼は匿名、報酬は先に2億、後に10億……お前、何やった?」
「理論上一分以内で世界中の政治家を殺し尽くせる術師を40名育て上げた。日本に限定すれば204名。恐れられる筋合いはある」
「普通、術師殺しにこんな大金は動かねぇ。他の呪詛師に依頼を出したかは知らねぇが、額が額だ。
有象無象は来ねぇだろうが、俺並みの奴が何人か来る前提で動け。末端に億を渡せる相手がもっと用意してない保証はない」
何処から恨まれているか、考えるまでもなく口に出ていた。
非術師の政治家ならば、知れば殺しに来るくらい想定していたから。
平然とし過ぎて逆に呆れたか、呪詛師もそれだけ言うと口を閉ざして考え込む。
条件は満たした。そしてこれから見逃されるとなると、後の事が目に入ってくるもの。
「……最近は休んでたが、決めた。二度と呪詛師なんざやらねぇ」
「そうしろ。最近では全国の術師を集めた"大祓"……掃討作戦で呪詛師という存在が虫の息まで乾涸びた。残ったのはお前のような、世情から暫し離れていた様なロートルだけだ」
「そうか。最悪だ。最悪ついでに頼まれてくれないか?」
「なんだ」
そうして、呪詛師による人生を賭けた博打が始まった。
「一年でいい。お前の家に上がりこませろ。逃げた先で殺されるなんざごめんなんでな。
頼む、もうお前だけが頼りなんだ」
禪院甚爾の二十何年間に渡る人生初の、同性のヒモになる試みが始まる──。
「禪院じゃねーのか。良かったな」
原作の人。妻が死んだのでヤケを起こしている。
ヤケを起こしてるから伏黒さんと再婚した。なんか違うなって捨てた。
ついでに実の息子と義理の娘も捨てた。捨てたので伏黒ではなく禪院の名前に戻った。
最近は禪院の名前も捨てたのでただの甚爾になった。
ヒモの才能がある。この後口説き倒して墓守への寄生に成功した。代わりに息子と娘の居場所を吐かされた。
墓守
降霊術は得意な方。ミルフィーユみたいに多重で降霊も出来る。
同棲して一月で甚爾の制御に死んだ妻の魂を持ってくることを覚えた。
暫くして妻の魂が勝手に甚爾を体術の教師として働かせ始めた。
仕事に支障はないので放置しているが、取り敢えずお礼として子供達に会いに行かせてる。