呪具:一族列伝   作:何処にでもある

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 呪いとは。

 愚かさを繰り返すこと。




2005年 イツモシヅカニワラッテヰル・再転

 

 

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 ↙︎2005年《伏黒津美紀》

  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 

 

「えっと……初めてまして。恵の母です。……津美紀ちゃんだよね? 押しかけて悪いんだけど……何か手伝わせてくれませんか?」

 

 死者が化けて出た時、大抵の人はどういった反応をするのだろう。

 驚くだろうか、それとも泣いて逃げるのだろうか。

 私はどちらでも無かった。

 相手が恵の母で、私の知らない人だったのもあるんだろうけど……。

 

「えっと……せーるすおことわりです!」

「あー違うの! 待って! 弁明させて!」

 

 余りにも胡散臭かったから、思いっきり扉を閉めようとした。

 でもこれ、私は悪くないと思う。だってもう考えても怪しい宗教勧誘か詐欺師だったから。

 

 

 ………。

 

 

「改めて、津美紀ちゃんの前に出て守ろうとしてる恵の母です。今日はあの世から化けて出てきました」

「なにからつっこんでほしいですか?」

「津美紀ちゃんは立派だね。4歳でボケとツッコミがなんたるか分かってる。将来は絶対人気者よ」

「ばけてこないでください」

「ごめんね。でも育児放棄とか許せなかったから……伏黒さんに変われたらよかったんだけど、あの人まだ何処かで生きてるみたいで……」

「それはいいです。きにしてません」

「ほんと? ほんとのほんと? アイス食べる?」

「たべます」

 

 本当に乱暴な話だったと、思い返してつくづく思います。

 死んでるのに居なくなる直前の母さんよりも生き生きとしてて、話す事もやる事も滅茶苦茶で。

 でもいつの間にか仲良くなってて……今にして思えば、これが詐欺だったらと思うと怖くて仕方なくなります。

 

「ねぇちゃん、それはダメだよ」

「アイスおいしいのに?」

「しらないひとならたべものもらったらダメって、おおやさんもいってたろ?」

「やだ…! ウチの子が立派…! まるで聖人の見本市だわ…!」

「それに、このおばさんうざいし」

「恵ぃ? 初対面の女性にはお姉さんって呼ぶのよー? 私はお母さんだけどねー?」

「はぁ? おれのねぇちゃんはねぇちゃんだけだ」

「めぐみ……」

 

 それと、恵がデレた時に複雑そうな顔をしていたのも忘れられません。

 まるで「そこら辺のデレのきゅん度合いはお父さん似なのね…」みたいな顔をしていましたから。

 あそこまで分かりやすい大人も早々居ないと思います。

 

「真面目な話ね、私は死んでるから偶にしか来れないんだ。

 だから来てる内は色々面倒を見てあげたいなーって。

 だから津美紀ちゃん、教えて欲しいことがあったらなんでも聞いてください。

 恵の世話を任せちゃってるのはとっても不甲斐ない話だけど……だからこそ、私は出来るだけ色々な事を伝えたいと思ってます」

 

 そしてあの真剣な顔を見れば、どれだけ私に託している現状が不服なのか伝わるんです。

 本当は恵を自分の手で育てたかった。だけどもう出来なくて、それが悔しくて悔しくて……化けて出る程悔しいんだと、全身で物語ってましたから。

 一緒に見ていた恵も、思わず眼を逸らすくらい、大人としてみっともなく涙を堪えて頭を下げてて。

 なんだか信じないのが申し訳なくなって、つい、絆されちゃったんです。

 

「……じゃあ、りょうりをおしえてください」

「……! 分かったわ! よーし! お母さんの本気見せちゃいます!」

「ねぇちゃん」

「だいじょうぶだよ、めぐみ。このひとはきっといいひとだから」

 

 それ以降、あの人は偶に来ては家事を手伝ったり、私や恵と他愛もない話をしたりしました。

 恵のパパや私の母さんの話になると口篭ってたけど……それも私達が傷付かない様に一生懸命言葉を選んでるって分かったから、途中から私達も話題に出さなくなって。

 

「またね! 今度の遊園地の約束、とびっきりの思い出にするから! 期待してて!」

「はい、またきてください」

 

 バタン。

 

「……よし、行ったね。めぐみ、お留守番お願い。私、明日のゴミ出しに行くから」

「わかった」

 

 ……バタン。

 

 気付けば一年が過ぎて、ある日気になったんです。

 果たして、"あの人は本当に死んでるのだろうか"…って。

 だってそうじゃないですか。最初こそ勢いで信じちゃったけど、言ってる事はドラマみたいなオカルトだし、触れても温かくて……心臓の鼓動だって聞こえるんです。

 何か訳アリなのかな。複雑な人間関係とかどうなのかなって。

 

 きっとテレビに影響されたんでしょうね。丁度その頃、似た様な話を見てた気がするので。

 名探偵になったつもりの、ほんの少しの好奇心でした。

 

「今日も来なかったね」

「……俺に顔を見せる権利はないからな」

「なら約束。次は絶対来て。みんなで遊園地に行く約束したから」

「行かねぇ」

「行かなきゃ二度と降霊されてあげないよ」

「……それはズルだろ」

 

 そしえ見たんです。

 電信柱の影に隠れて、あの人が男の人と話してるのを。

 恵にそっくりの顔で……ああ、あの人の髪癖と合わせたら恵になるなって、一眼見て確信しました。

 

「じゃ、私は墓守さんに身体を返すから」

「待て……少し散歩しよう。近くに綺麗な桜が咲いてたんだ」

「…んー…分かった。後で墓守さんには謝るんだよ」

「ああ」

 

 それから……15分くらい歩いてたと思います。

 

「一年坊主はまずまずだな。体力がねぇが跳ねっ返りがある」

「甚爾に比べてかー。結構すごい子じゃない?」

「猪突猛進じゃ無ければな。すぐガス欠起こして気絶するなんざ殺してくださいって言ってるようなもんだ」

「心配してるんだ」

「……適当に見てるだけだ」

「あはは、照れてる」

 

 二人はその間他愛もない話をして……あの人が笑ったり驚いたり、コロコロ表情を変えて面白そうにしてるのに、男の人はぶっきらぼうに……でも居心地良さそうにふとした時に笑って……。

 なんだかいいなあって……私も結婚するならこんな感じなのかなって、思ったりしたんです。

 でも近所の桜がある公園に着いてから、段々話してる様子がおかしくなっていったんです。

 

「綺麗だね。うん、とっても綺麗」

「……もう行くのか」

「うん、終わりです。冷たくて寒い所に行きます」

「……なあ」

「ダメだよ、それは。結局私は死んでるから」

「……別れる度に、もう二度と会えない気がして苦しくなる」

「甘えてもダメ。別れが寂しくなるでしょ?」

「…………」

「そんな顔をしてもダメ。私だって寂しくて泣きそうなんだから」

 

 穏やかで、静かな死の語らい。私達の前では見せなかった、あの人の弱い場所。

 二人とも別れたくないのに、別れなくちゃいけないみたいに振る舞って。

 辛いのも涙も堪えて、あの人は桜の下で‭─‬‭─‬。

 

「またね、甚爾!

 パパも先生も頑張ってね!

 約束だよ!」

 

 パッと……桜吹雪に溶けて行ったんです。

 

「あ……」

 

 もう二度と会えない気がして、思わず手を伸ばして……それは男の人も同じで。

 手の中には桜の花びらが一枚だけ。

 見てるだけでとても悲しくて、胸が裂けそうなくらい辛いものでした。

 

「哀れに思うか」

 

 それから不意に、トンと肩を叩かれたんです。

 思わず悲鳴を漏らしそうになって、男の人に着けてたのがバレるのが気まずいから押し殺して。

 頭に白いお花を乗せた不審者は、何処を見てるかも分からない眼で、漠然と私を見つめてました。

 

「そう思うなら話してこい。あの者は自らの意思で私に囚われてるが、私の寝首を掛かる者でもある。引き取ってくれるなら止めないが」

「おじさんはだれですか?」

「墓守。死者をこの身に降ろせるイタコであり、先程までお前達の母に肉体を渡していた者だ」

「え……でも見た目が……え!?」

 

 疑いの眼を向けると、瞬きの間に不審者があの人に変わったんです。でも雰囲気は不審者の人のそれで、余りにもチグハグで頭がくらくらして……。

 驚いて二度見した時には戻っていて、白昼夢か何かなのかと気が動転したのを覚えています。

 

「時に人は雰囲気を変えるだけで錯覚を起こす。演技ではない。事実として、先程までかの者の魂は私に宿っていたからな」

「わ……すごい。でも、なんでこんなことを?」

「死人を現世に持ってくる理由など「会いたい、会わせたい」ぐらいだろう。とは言え、ここまで寄り掛かられるとは思っても見なかったが」

「………」

 

 不審者に釣られて男の方を見ました。

 まだ何を考えてるのか分からない顔で、桜の前で呆然と眺めている男を。

 

「居候を追い出そうとコイツの妻をあの世から連れて来て以来あのザマで、女にも最近は憑依時間を延長されててな。この前など、女が私の身体で夜の相手など……まぁ、最近は兎に角酷いものでな。どうか引き取ってはくれないだろうか」

 

「……いえ、えんりょします」

 

 迷って、考えて、恵の顔を思い出した時には断ってました。

 この人達は可哀想だけど、私には抱え切れないものだろうから。

 

 ただ一つ。

 最後に言われた言葉は、今になっても心に残っています。

 

「そうか、なら2()()()は私の子として育てるとしよう」

 

 

「……えっ?」

 

 振り返った時には不審者の姿は無くて、前に顔を戻せば男はいつの間にか何処かに去ってました。

 一体2人目とは誰の事なのか。

 男なのに果たして()()()()()が起こるのか。

 

 何も分かりません。

 

 ただ一つ確かなのは。

 

 

 あの日以来、母を名乗るあの人は私達の前に現れなかったって事です。

 

 


 

 

 ある日の傀塚の家では、禪院甚爾とその妻の姿をした墓守が居た。

 ここ最近では連日で見られた光景。しかしこれまでとは大きな差異があった。

 

「対価は私の本来の容姿とお前の妻だ」

 

 産気付いた甚爾の妻の姿をした墓守が、布団の上で子を産もうとしていたからだ。

 これはその時に交わされた会話である。

 

「‭─‬‭─……は?」

 

「分からないか? "お前の妻は消滅した"。

 首から下に限定した降霊。人と成る命を敢えて殺す気はないからな。お前の妻と相談し、その魂を全て使う形で降霊中の呪力消費を補った。最後まで消えた時、私の顔も代償に持って行ってな。

 良かったな、愛と命の結晶がこれから産まれるぞ」

 

「何をほざいてる」

 

「やり過ぎだ。二重の意味で。

 未来を得てしまったなら、それ相応の対価は払わなければならない」

 

「……お前なら」

 

「専用の呪具を作れば呪力の消費は補えた。率直に言えばこれは不必要な犠牲だ。

 だが、その選択は彼女自身が断った。何故かは知らないが、頼まれたので他言無用の縛りを結んだ。呪詛師、お前に喋る事は特に念入りに。

 穴を突いて義理の娘である子に助けを求めもしたが断られたな」

 

「…………誰が悪い」

 

「全員。

 お前の妻が後ろめたさに自分の力だけで解決しようとしなければ、

 私がお前の妻との交渉で一杯食わされなければ、

 お前が父として息子達と仲良くなれば、

 義理の娘の生活がもう少し余裕があれば、

 お前の息子がもっと積極的に関わっていれば……、

 

 一つでも歯車が噛み合えば良かったのにな。

 私が腹を痛める必要も無かった」

 

 そろそろ甚爾にも手伝って欲しいと墓守が考えている最中ではあるが、解説するならば事の次第はこうである。

 

 段々調子に乗った夫妻が夜の営みを繰り返した結果妊娠。

 それを一族列伝により察知した墓守が妻と相談。

 まさか妊娠するとは思ってなかった妻が後悔と罪悪感に苛まれ血迷って自力出産を決意。

 交渉と縛りによる契約の末に墓守は秘匿と出産の協力を取り付けられる。

 出産などという教導の邪魔になる事は防ぎたい墓守、契約の穴を突いて津美紀を利用しようとするも失敗。

 

「つまり私としては不本意であり、甚爾には人肌のお湯やタオルを用意して欲しいと考えているが、どうだろう。切実に協力を願いたい」

 

 墓守、出産の為に男の姿を捨てさせられ、今後甚爾の妻の容姿と呪力量で生きていく事が確定。

 術式と一族列伝の所有権に問題は無くとも、今後は戦闘が困難な物となった。

 

「…………」

「求められた故説明したが、余りの衝撃に思考が止まったか。暫く使い物にならないだろう。実に困ったな。この身体は現代の医療設備があって尚出産と同時に死亡した。病院に行けない環境で単独出産は確実に命を堕とすぞ」

 

 痛みが脳を、全身を苛む中で生きる道筋を探る。

 可能ならば歴代の肉体再現で安産出来る肉体に変えたい所だが、甚爾の妻となった墓守には呪力がない。完全に非術師の肉体である。

 時間が経てば一族列伝により術師の身体となるが、それは決して今ではないのだ。

 

(他者間の縛りは死人の魂が消滅した時点で完了した。呪具の一つでもあればそれを使って再現が‭─‬‭─…)

 

 こうなってくると元凶である甚爾とその妻を恨みたくもなるが、墓守にそういった思考はない。

 そのおかげだろう。唯一の活路が、口を開けて茫然とした甚爾の口から這い出てきた。

 

『まま…まま……』

「‭─‬‭─私がママだよ。ほら、おいで」

 

 甚爾が調伏していた、体内に呪具を保管する能力を持った低級呪霊が現れる。

 普段は胃の中に居る呪霊だが、甚爾の受けた衝撃が強かったのだろう。

 自力で脱出し‭─‬‭─その中に保管された呪具は、一族列伝を動かす呪力として活用できる。

 

『ママ……帰りたい……』

「良い子だね。ごめんね、なんでも良いから呪具出してね」

 

 不幸中の幸い。少しでも呪霊の警戒を解く為に本来の肉体の人格を模倣しつつ、唖然としている甚爾の手を引っ張り適当に一つ取り出す。

 現れたのは万里まで伸びる鎖。先端が見えなければ無限に伸び続ける特級呪具。

 これ幸いにと歴代から最も適した肉体を……かつて戦国の時代を生きた日下部の妻、呪霊操術の姫と、自身の息子であり娘でもある白金を選び取る。

 

「‭─‬‭─フンッ!」

 

 ………かつて6つのややこに恵まれた肉体は確かだったらしい。

 先程までの苦しみが嘘の様にするりと、墓守は赤子を抱き抱えてみせた。

 

「おぎゃあ! オギャア! オギャア!!」

「よし、よし、良い子だ。よくぞこの世に産まれてくれたな、我が()。次の葬花を担う者」

『ママ…まま……』

「お前もありがとう。恩に着る。実質この子の兄だな、お前は」

 

 人も呪霊も分け隔てなく愛するそのサマはある種聖母の様でも有ったが、ともあれ墓守はこうして一児の()となった。

 ……天元を再現した、白金の血(星漿体として最高適正)を取り込んで。

 

 2006年。

 夏になれば天元()が遂に限界を迎える瀬戸際……春の出来事であった。

 

「オギャア! オギャア! オギャア!!」

 

 






 甚爾くん
 その晩、墓守達を置いて失踪した。

 墓守
 星漿体。天元に新たな肉体を与えるのは‭─‬‭─。

 伏黒恵の実妹
 今回産まれた子。名を「此岸(しがん)」。一族列伝の継承権を持つ。
 禪院甚爾(天与呪縛)その妻(非術師)墓守(殺しの鬼才の息子)白金の血(天元の遺伝)呪霊病の化身(呪霊操術の姫)の要素を全て併せ持つ。
 オマケで出産過程で呪術的に墓守-白金のラインが近親相姦と同等の出力結果になった。
 人の業、呪いの申し子。
 2018年頃(原作開始時)は12歳となる。

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