呪具:一族列伝   作:何処にでもある

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 第三回 誰が天元の肉体になるかグランプリ
 参加者:墓守、天内理子、九十九由基、他多数。
 墓守以外棄権により不戦勝。


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 ↙︎2006年《葬花》
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2006年 アラユルコトヲ・再会

 

 

 ミーンミンミンミンミーン。

 

 

「護衛任務ぅ?」

「ああ、五条と夏油のみで行って貰う」

 

 

 

2006年 夏

 

東京呪術高専学校

 

 

「500年に一度、天元様に肉体となる人物を捧げる必要がある…ねぇ」

「私達にはその日までの護衛を頼みたいと」

「そこまで長期ではないが……既に特級クラスの呪詛師の潜伏が確認されている。最大限警戒しろ」

「ふぅん。ま、大丈夫でしょ。だって僕ら、最強だし」

 

 

 

春過ぎの初夏

 

星漿体護衛任務 参加者二名

 

 

「襲い掛かる呪詛師は墓守の元生徒だ」

「あー…」

「あぁ…」

「どれだけ厄介かは自分達がよく知っている筈だ。決して油断するなよ」

 

 

 

五条悟 並び 夏油傑

 

四月二九日 護衛開始

 

 

「で、先生。肝心の護衛対象は誰?転移持ち相手に守り切るって相当難しいと思うんだけど?」

「既に避難も兼ねて連れて来た。お前達にやって貰うのはここから天元様が座す場所までの護送。分からない場所は神隠で行けない以上、此処から徒歩で向かう事になる」

「つまり、その扉の先にいる訳だ」

「どうぞお客様〜! 遠慮なく御入りくださ〜い!」

 

 ガラリと扉が開き、生徒二名は同時に息を呑む事になった。

 

「久しぶり。私は京都高専学校の墓守。この彼岸花がその証拠だ」

「お……」

「じょ……」

「なんだ、イタコが死者に元の肉体を奪われたのがそんなに珍しいか」

 

「「女/女性になってる〜〜〜!!!」」

 

 

 天元様の命日となる五月一日までの、期日上3日間に渡る護衛任務。

 呪詛師による妨害から防ぐ過酷な任務が、始まった。

 

「珍しい話ではない。降霊術の典型的失敗例、降ろした魂に好き勝手され、持って行かれただけだ」

 

「えー…そんな事あんだ」

「墓守先生がですか」

 

「性格が善良だからと繰り返し降霊したのは失敗だった。あの世の浅い場所に留まり、行き来する落差は魂が歪む。負の感情を受け易く、心が脆く歪になるんだ。不本意ながら悪霊になるのを促進してしまってな。お陰で随分と血迷った選択に振り回された」

 

「へぇ…おっぱいデカいな」

「こら悟、中身が男でもセクハラだよそれは」

「……は? 何も言ってねぇし。僕が心の声漏らしたとか1番無いから」

 

「コレでも二児の母、内一人は私が痛い思いをした身体だ。死者に出産させられたとはいえ、人妻の身体を狙うのは関心しないぞ」

 

「「はぁ!? 子供!?」」

 

「どうしても産みたかったらしい。肉体の主導権を取り戻す代わりに色々な」

「……墓守先生、そろそろ」

「ああ、話が過ぎたな」

 

 場が暖まった所で、夜蛾先生が本題へと移る。

 今回の任務は高専と天元様のいる場所までの護送。

 天元様の隠蔽が薄い場所で、星漿体を感知した呪詛師の襲撃を防ぐ事である。

 今は高専に掛けられた呪詛返しなどで侵入を防いではいる物の、何事も限度はある。

 

「室内と外ではどうしても結界の強度は変わる。通常高専の領域は天元様の結界で見つからないが……墓守の生徒であれば話は別だ。どれだけ短い距離だろうと呪詛師に見つかる」

「そこで白羽の矢が立ったのが……五条、夏油の両名。移動術(足切りライン)を習得した上で最も強く、天元の居る領域を知っても問題ない信用足る者。

 それと、今の私は戦闘能力は無いと考えてくれ。この身体は呪力が無いんだ」

 

 事前に道は教えられた。距離すれば3kmにも満たない護衛任務。

 されど危険度は五条等にとって一二(いちに)を争う修羅街道。

 

「うわ…モテモテだね、先生」

「雰囲気やべー」

「現代の高専出は全員が教え子の自負がある。その上、上層部目線でかなり益と地雷をばら撒いた。邪魔立てする者は数多と居るだろうな」

 

 高専校門前で3人が肩を並べる。

 普段通っている道が、墓守が隣に居るだけで茨の道かと錯覚する。

 

 いや……事実変わっていた。

 数日前、墓守が星漿体に選ばれたのが何処からか情報が漏れ、拡散されたらしい。

 それを知った各地の術師達が天元様に繋がる隠された入り口の最寄り……東京高専から出発すると考えるのは自然な考えだ。

 

「私から見て確実に来る呪師は最低2名。

 金髪女、仮想の質量を付与する術式。

 筋肉男、天性の肉体を与えられた天与呪縛。

 残りは知らん。何故こんなに居る。私の元生徒である事しか分からんな」

 

「無能」

「役立たず」

「知らんでも倒せる連中だろう。グダグダ言うな……っと」

 

 思慮に欠ける。仕掛けられた結界からして最低60人は居るのに、その内二名しか情報が出ないとは。

 来る理由なんて幾らでも想像付くだろうに。

 墓守は先生として40年近く指導して来た。

 他の教師と比べると圧倒的に分かりやすく、目に見えて効果的な手法で。親身になって。

 そんな恩師が天元様の贄として消費される。そんな出来事を前にして、呪術師の感情が動かない訳がない。

 そもそもが感情を武器にするのが術師。

 その上墓守の生徒は全員、今の術師界隈では力が有り余り、他が弱過ぎて全力を出しきれないのだ。

 

「罵倒をするなら、先ずそのワクワクした顔をやめてから言うように」

 

 それは、五条達も同じこと。先生に教えを頂いて以来、周囲との格差はより広がった。

 そんな中での、天元様の結界なんて無くても問題ないと判断する墓守の生徒……となれば、やってみたい事は一つ。

 

「んじゃ、やろうか」

「そうだね、OB(先輩達)を全員はっ倒してやろう」

 

 どれだけ自分達の実力が通用するか、確かめたい。

 墓守先生を天元様に捧げるかは別として、任務を聞いた時からここは絶対にやると決めていた。

 ニヤリと、生徒達が不敵に笑い合う。

 

「では‭─‬‭─護衛任務開始」

 

 一歩、墓守が踏み出した。

 

 

 

「生贄はんたーい!!」「先生やっと見つけた!」「痛い目に合って貰いますよ」「ん誰だオマエ?」「結構人来たな!?」「ははは! 面白い事になってる!」「まだ教えて貰いたい事が有んだの!勝手に死ぬな!」「"黒鳥操術"」「自分都合の退職は認めません」「すんません! 邪魔します!」「ノーガード戦法!?」「何処行ってたんだよ先生!」

 

 初手、"神隠"を行使した術師12名が虚空より出現。

 

「はいお通し」

 

 五条悟による"敵味方識別機能付き無量空処"により京都高専現生徒三名行動を無力化。

 これを領域展延で防いだ他9名の術師が反撃を開始。

 

『"御所御法度 二歩"』

「悪いけど、それは"禁じ手"だ」

 

 これを夏油の呪霊操術により取り出した呪霊により無効。

 10秒間のフリーズを強制。領域展延中は術式を行使出来ない処理能力限界を突いた連携。

 呪霊操術に取り込んだ呪霊は固定化され成長しないが、これは取り込んだ呪霊を解放出来ない事を意味しない。取り込んでる最中に他者間の縛りで望んだ成長と特訓以外を禁じ、その上で再度取り込まれる所まで契約に含めれば事実上の成長が可能。

 

「ご…うご……」「うごけ……」

「はいおしまい。先輩達も大したことねぇな!」

「ダメだよ五条、平等に教えられた以上、元から最強の私達が最強のままなのは仕方ないんだから」

「はら…たつ……」「こと…いうなぁ…!」

「あはは、つべこべ言ってる」

 

 呪核を美味しく食べられる方法を教えたのも有るのだろうが。

 夏油の所有する呪霊はこれと墓守の指導を合わせ戦力として大きく成長。

 同時に"夏油の死後、共に死ぬ縛りを全ての呪霊と結ぶことで存在を底上げ"。

 その上で"従えた呪霊同士で低級呪霊は呪力源となる事を上の呪霊と契約させた"。

 その過程で等級が上がり術式を開花させた呪霊は凡そ300。

 特級クラスまで至ったのは7000体。

 

「領域効果の必要分のみの抽出と他者間の縛りの積極的活用。

 宜しい。両名共々与えた宿題は解けたようで何より。引き続き進むとしよう」

 

 墓守から見た呪霊操術の本質とは"従えた呪霊同士の関係を自由に構築出来ること"。

 単純な力としての運用ではなく、呪霊という「個体」の「関係」に注目した。

 そも、呪霊を従えるのは何も呪霊操術だけの特権ではない。

 他者間の縛りによる「調伏」がある。

 

「いや、先生のお陰ですよ。出なければここまで簡単に強くはなりません」

「発想が良ければ夏油一人でも出来た。私はそれを早めたまで」

 

 であればその二つを使い分ける事を覚えれば簡単に強くなれる。

 墓守が夏油に齎した物はそういったものであった。

 

「いや、先生の発想ってヤバいから。視界を領域にするなんて普通考えないって」

「五条なら可能だと判断した。前例は居たからな」

「どんな化け物だよ、それ」

「過去にインドの人口9割殺した呪術師」

「ド級の化け物だったわ」

 

 敵味方識別機能付き無量空処。

 その名を「空眼」

 効果は単純。五条の視界に入った敵だと判断した相手に無量空処を喰らわせる。

 掌印、祝詞不要、観るだけで発動条件が満たされる。代わりに普通に使う以上に疲弊する。

 領域となるのは五条から見た景色の手前100mまで。味方が多いほど識別に負担が掛かる欠点を持つ。

 見本として見せられた「閉じない領域」と「視界の領域化」を参考に五条が努力を重ねて習得したそれは、最大の利点として五条に仲間と共に戦う選択肢を与えた。

 即ち夏油との共闘を可能にする技。友人を作る動機を与える技。

 

「五条は単独の最強。しかし多様性に欠ける。

 逆に夏油は集団の最強。しかし突出した強さに欠ける。

 両名を併せれば自然と敵無しとなる。誰しも思い付く理論だ」

 

「それを可能にするのがすごいんじゃないですか? じゃなきゃこんなに襲撃されませんよ」

「素直になれよせんせー」

 

「なら、反証として次の相手と戦って貰おうか」

 

 気絶した襲撃班を踏み越え、道中劣兵として"神隠"で現れた盤星教の術師達を薙ぎ倒していると金髪の女性が立っていた。

 

「久しぶりだね、先生。随分と派手にイメチェンしたもんだ」

 

 当たり前の様に五条の領域効果を展延も無しに無効化する様子に、警戒を強める。

 五条等も観察し気付く。その顔はそう……天元様からの勅令で呪詛師に認定された人物、その写真と‭─‬‭─…。

 

「九十九か。例の呪具なら消える心配はない。私の子が次の当主になる」

「今はそんな事どうでもいい。……先生、天元の下に行くって本当かい?」

「ああ」

「アンタ、死にたくないってほざいてなかったか?」

「言った。だが、私がした最初の約束(けいやく)に関わる事なら別だ。義理という物がある」

「天元に拘らなくたって良いだろう? アンタはもっと根本的な所から解決出来る」

「九十九、時として人は非合理でもやらねばならないんだ。恩讐とはそういう物だからな」

「そうかい……‭─‬‭─なら力づくで貰っていくよ」

 

 二人は袂を分けた。これ以上の言葉は不要だとばかりに九十九の式神が蹴り出さられる。

 

「"蒼"」

 

 五条が無視して九十九に接近。式神の対処は夏油に任せられた。

 

「無重力、広域」

「はい」

『"反重力機構(アンチグラビティシステム)"』

 

 墓守の指示により適切な呪霊が現れ、夏油の内部にいる無数の呪霊の呪力を借りて術式範囲を拡大する。

 どれだけ重い物でも重さのない世界では無意味。

 つまり、術式が封印された。

 

「…ッチィ!」

「"神隠"しようたって無駄なんだよ! これは同じ術を持ってりゃ相殺出来んだからさぁ!」

 

 五条を前に術式が封印されるのは、何よりも致命的となる。

 蒼により自分に有利な重力を構成出来る環境、無量空処への対処、五条の強さ。

 勝敗は決した。九十九は此処で負ける。

 

 

「そりゃ俺が居てもか?」

「ああ、九十九と甚爾と……私が死ぬだろうな」

 

 

 "墓守の心臓が貫かれた"。

 甚爾。墓守の新たな肉体となった女の旦那。

 墓守に対し、明確な殺意を持った者。

 

「目標を前に殺される気分はどうだ?」

「……最悪だな。だが嬉しいとも思う。漸く、後悔出来るような人生を送れた」

 

 夏油と五条が振り向くまでの間に、続け様に頭部の花を、脳を、縦に一刀両断する。

 残酷なまでに合理的な損傷。怨根が無ければ出来ない残虐。

 なのに、墓守は安らかな笑顔のままに崩れていく。

 

「‭─‬‭─先生!」

「墓守先生!」

 

 まるでよく働いた日に心地の良い布団に潜り込んで、明日を思うように。

 そんな細やかな幸福は……ぐちゃりと、甚爾の足に踏み抜かれて潰れた。

 

「………はぁ……もう、何もかもどうでもいい」

 

「"蒼"」

「とっておきの‭─‬‭─」

 

 五条達の矛先が甚爾へとズレる。

 ふざけたぼやきに対する最大限の反抗。本気で殺すつもりの一撃。

 

「‭─‬‭─…が、死ぬ理由もねぇ」

 

 引き寄せられ、それを逆に利用した乱撃。墓守より教授された無量空処を無力化する戦闘法。

 縛りを利用した肉体の強制駆動。呪力を一切外に出さない天与呪縛でも内側は術師のそれ。

 成立した縛りは純粋な暴力に置換され‭─‬‭─縛りにより意識が途切れる寸前、"殺した筈の墓守の死体がない事に気が付いた"。

 

(ああ…そういや有ったな、俺を騙せる囮が)

 

 "魂すら模倣する式神"。

 

(……まぁ、いいか)

 

 甚爾はまだ墓守を殺していない。

 果たしてそれが良い事なのか定かではないが……どうあれ、此処で逃した以上天元様の肉体になろうがなるまいが二度と会うことは無いだろう。

 そういう意味では、一生の別れなのに違いはない。

 

「じゃあな。精々(もが)けよ、クソガキ共」

 

 落胆なのか安堵なのか。

 甚爾は自分がどう感じているかも分からないまま、縛りによる肉体の暴走に全てを委ねた。

 これが永遠の眠りとなるかは五条達次第である。

 

 

 

 ………。

 ガタンと、下降していた乗り場が止まる。

 どうやらここが終着点であるらしい。

 

「さて、先に進もう」

 

 所変わって天元様の御座す薨星宮にて。

 予め居場所を聞いていた墓守は一人で先に進んでいた。

 道中立ち塞がる呪師は既に五条等に倒された以上、最後の二人さえ足止めしてくれるなら一人で先に行っても支障はない為だ。

 

「ここがそうだな」

 

 ここで不意打ちされたら面倒だが、幸いにも肉体が奪われる前に用意した囮の式神は後2体居る、それさえあれば意地汚く生き残るくらい訳ない。平安の山育ちは伊達でも酔狂でもないのだ。

 

 墓守は地下深くの巨樹の前に立ち、かつて目指した平安京を想起する。

 天元との同化。これ以上に育て親との約束を果たしたと看做せる物は無いだろう。

 自認が呪具だった生前の若き時代に交わした約束だが、これでも他者間の縛りを用いて結んだ物。

 ずっと、蘇った後も墓守の自動的な行動原理として機能し続けていた。

 

「順序はバラバラになったが……生徒に私の術を教え広める知恵の"繁栄"、歴史に傀塚の名を刻んだ"名誉"、実質朝廷と言える天元との同化(お仕え)……ここまで、本当に長かった」

 

 山の長が意図した物とは違うが、とは言え蘇った時代が時代である。

 朝廷である天皇は象徴となったし、子を沢山設けるには死体の身体も女の身体も不向き。

 教員として過ごす間に平安京に踏み込んだが、時既に観光名所。国家を支配する実務能力は消えている。

 名誉は生前に果たしたので達成済みとしても、この二つはどうにか屁理屈を捏ねなければ達成出来ない。

 

「そこに転がったのが教員勧誘と星漿体適正。流れのままに得たが成程、確かに契約の代用物として相応しい」

 

 繰り言であるが、墓守は思考能力を喪失している。

 それは降霊術の失敗で死体からより生きた肉体に変わっても同じこと。

 そもそも魂が欠けてるのだ。肉体のみで、辛うじて一族列伝に宿った歴代の残留意思を汲んで動いている。

 

「実質、葬花こそが自分の意思であるとも言えそうだな。皮肉か? 自認が呪具だった生前より人らしいのに、本当に呪具其の物が意思となるとは。

 

 あなたもそう思わないか? 天元様」

 

 全面が真っ白な袋小路に入り、見上げた。

 護衛のお陰で猶予は有り余っている。天元様が死んでる筈がない。

 姿こそ見えないがいる筈だと声を挙げる。

 

「………ふむ」

 

 …………反応がない。

 可笑しい話だ。漸くとして新たな肉体が届いたと言うのに姿を露わさないとは。

 もしや宮の入り口から離れてるのかと更に先に進む。

 重なった結界に干渉して解き、別の位相に展開された結界を順繰りに見渡し……歓迎されてない事を悟った。

 攻撃された訳ではない。ただ、お前は星漿体に相応しくないと言外に言われているのだ。

 

 つまり。

 

「肉体だけでは欠けている訳か。成程、魂も用意せねばならぬと見た」

 

 同化する理由は概ね分かる。

 人間は過剰に生きて老化を重ねると成長の果てに呪霊に似た物へ進化を遂げる。

 これは葬花として半端に呪具化した初代の魂の変化から判明した事実だ。

 その後歴代が様々な手段を用いて更に改造を重ねたとは言え、これはある程度呪力を意識を拡散させる。自然と同化すると言えば良いか。

 

「ならば持って来るとしよう。なに、魂を引き寄せる事にかけては1番の得意分……いや問題ない。呪力は列伝を使えばいい」

 

 天元様はコレにより日本の結界が破綻するのを防ぎたいのだろう。

 このレベルの結界術を使えるなら予め人の形をした結界の()を創り定着するまで待てば良いだけに見えるが、安全策を取るに越したことはない。選択において実績と信用は何よりも重いのだ。

 

「さて、この結界を超えるほど私と縁があり、その上で星漿体適正のある魂……魂が無くても問題ない者……可能なら死んでも問題ない……ああ、丁度一人居たな。よし」

 

 であれば用意すべき者は明瞭。

 "最近産んだ娘の魂を持ってくればいい"。

 親族の縁に、産む際に天元の血を持つ白金の要素。間違いなく適正があるだろう。

 

「よし、では無い」

「……ああ、天元様。何処へ行っていたのですか?」

 

 そうして引き寄せていると、天元様が魂だけの姿を現した。

 どうやら墓守の存在に気が付いたようで、老婆にも関わらず背良く腕を組み立っている。

 

「この奇貨をどうするかと考えてる間に、このままだと必要のない死人が出そうだったからな」

「私の娘の事ですか」

「お前もだ。はぁ……平安の価値観で命を使いよって…」

「昔の人間ですので。しかし、星漿体を求める内はあなたに咎める権利は無いのでは?」

「要件はその件についてだ、墓守……否、"一族列伝 二一代目当主"」

 

 三代目を取り込んだ天元様はそれを知っても殺す必要がない。

 そのまま、飄然と話を続ける。

 

「当主として何かやって欲しい事でも?」

「単刀直入に言う。"その呪具を破壊しろ"。無理ならば最悪、全人類に波及した候補者としての繋がりを抹消するだけでいい」

 

「理由を」

「ここ数百年で呪詛師界隈で候補者剪定用の繋がりの悪用が広まっている。

 それだけではない。それがある影響で星漿体で防いでいた"魂の昇華"、その真の克服が出来ないでいる。それさえ出来れば星漿体など必要無いのに、現状では私が昇華した途端魂が一族列伝に呑まれる」

「ふむ……失礼、情報の咀嚼時間を。追加情報があるならば説明をお願いします」

 

 候補者剪定網。

 断絶した際に新たな血族の元に咲く為の「種蒔き」。

 それが近年別用途に使われている事は知っていた。

 大した事でも無いと放っていた物だが、それが問題であると天元様は言う。

 

「これまでは呪霊操術の対象になるのが問題だったが、それは貴様……葬花に施された改造を参考に自力で解決した。

 だが、肝心の昇華をすればそちらの網に溶けるのが問題だ。私にも埋められたこの「種」は、そのまま私の死になってしまう」

「……理解しました。一族列伝は呪霊を祓う為に特化した呪具、呪霊に近い形態になれば自動的にその「種」は天元様を効果的な手段で攻撃してしまうと」

 

 ある時から、一族列伝は呪霊の存在を断つのに特化した。

 呪霊の当主を受け付けず、それは候補者も例外ではない。

 呪霊に埋められた「種」は自動で呪霊を負の感情へと還元する。

 その仕組みが500年老いた天元様にも特効となった訳である。

 

「理解。しかし懸念が一つ」

 

 では何故「種」が天元様に埋められたか。これは1500年目の星漿体が原因であろう。

 呪力を最も発生させる丹田と術式の宿る脳の両方の、術師として成立する要素の一部として紛れ込むのだ。

 

 反転や物理で取り出せる類いではない。

 「物」ではなく「構造」。

 ただの「成長」である為に。

 

 要求は道理。しかしそれをやるには果たさねばならない約束が一つ、邪魔立てする。

 

「九十九由基。知らない訳ではないでしょう。

 彼女はこの繋がりを利用し全人類の術師化を目指している。

 転じて呪霊のいない世界。天元様を不要とする世界。

 この理想への解答は如何に?」

 

「可能ならば素晴らしい事だろう。だが"人類を滅ぼす"。

 呪力のない術式……禪院甚爾のようなあり様ならば人類絶滅まで行かないだろう。

 全人類の身体能力が飛躍するだけだからな。

 

 だが、ただの術師にするならばダメだ。

 手段の問題だ。一族列伝は最低限"術式を保証する"。

 それを全人類。約60億以上の術式持ち。

 しかも、一族列伝に蓄えられた全術式が起源となる。

 まずこの世とあの世の境は消えるだろう。

 そうなればこの星は滅茶苦茶だ」

 

「……ふむ。

 降霊術、招虎、構築術式、赤血操術……一応、淦掬の六眼、魔子の適応体質、花子の焔延焼。

 骸刃、呪霊操術、潜伏期間の薄い縁だが転移窓。

 海外のも簡単に言えば周囲を夏に変える、証明を現実に反映する、視界ジャック、雷の雲を創る、非生命の破壊に特化した呪力放出、薄い縁だが吸血鬼に進化する、星を操り占いで運を良くする、依頼中の者を一時的に術師に変える、遊戯の再現、結果の逆処理、文字の式神化……一応、呪胎体質。

 確かに、どう組み合わせてもマズい物ばかりですね」

 

「待て、体質と呪力特性が後の代で出る可能性があるのか?」

「これまで一度も出なかったので一応ですが、体質が1%、特性が3%程度の確率です」

「……初代の殺しの才はどうだ?」

「あれが呪力が関わった体質かはなんとも。関わっていれば対象です」

 

 天元様が絶句していたが、確かに考えてみれば人類全体に渡すのはマズい術式が揃っている。

 潜伏中の親の代が持っていた術式は出る確率は低いが、数が数だ。

 60億も居れば要素として出て来る者も居るだろう。

 

「……そういう訳だ。確かに呪霊は著しく減るが、それも上手く行った場合のみ。

 そも術師は自然死すれば呪霊になる。それが公然となるまでどれだけ呪霊が産まれるかは完全に未知数。その上この術式どもだ。呪霊以上の死人が出る。碌な事にはならないだろう」

「故にやらない方がいいと。受諾。候補者網は九十九との契約と共に破棄とします」

「ありがとう。災難の警戒は怠らないように」

「承知の上です」

 

 他者間の縛りは破棄した側に厄災が訪れる。

 それはいつ何処で、どんな形かわからない。

 しかし契約が果たされた時に人類が滅ぶなら、墓守だけが死ぬ方がマシというもの。

 

「列伝、候補者を全て廃棄しろ」

「受諾」

 

 墓守は列伝を用いてこれまで培った候補者の種をバラバラ破綻させ、全ての繋がりを絶った。

 これで一族列伝は断絶すればそこで終わる事になる。

 背水の陣。墓守の子供が唯一の後継者となる。

 

「では‭─‬‭─これより魂の昇華を開始する。墓守はその補助を務め上げよ」

「‭─‬‭─はっ」

 

 結界の奥へと進み、天元様と日本の結界を繋げる大木の根本に辿り着く。

 根の洞には包帯が巻かれた人間が赤子のように丸まっていた。

 今の天元様の肉体だ。今まで会話した天元様の魂を入れる器。

 

 それを見た途端。

 

「時に天元様。一つ、お話をしても宜しいでしょうか」

「なんだ?」

 

 "突如として墓守と葬花の繋がりが途絶えた"。

 

「この肉体は余りにも変質しましたが、元を辿れば術式で創り上げた仮想の物」

 

 これまで思考のない墓守を導いていたのは一族列伝の葬花である。

 それが途切れ、しかし墓守は依然として動いていた。

 つまり、"誰かが仕込んでいた挙動(プログラム)が発動している"。

 

超人(アリス)によって産み出された死体。それが何故産み出されたか……誰が作ったか、お忘れのようだ」

 

 この身体にその様な物を仕込めるのは三名のみ。

 葬花と、甚爾の妻と……肉体を創り上げた羂索。

 

 "墓守の額に縫い目が出来ていく"。

 

「ッ!!………!?」

 

「呪力が練れないだろう、天元。私が「繋がり」を利用し仕込んだ()さ。墓守の肉体が君の前に来た時に発動する様仕込んでいたんだ」

 

「羂索‭─‬‭─何故貴様がッ!!」

 

「無駄に生きてる訳じゃ無いからね。あれだけ派手にやっていれば傀塚の名を聞きもするし、その秘奥を見つけ、長い時間を掛けて独占する事も出来る。長い事海外にご執心だったみたいだからね。私も呪霊や術師との契約拡大を辞めて、こそこそした甲斐があったよ」

 

 「総限結界」

 呪力の回復を禁ずる結界術。傀塚家の秘奥。

 ある時期に平安京に漏れ、いつの間にか消えていた物。

 それをどうやったか、羂索は呪力の発動を掻き消す領域まで練り上げていた。

 

 そして違和感。言い回しの不自然さ。

 

「君なら必ずこの繋がりを破壊すると睨んでたよ。だからここまで上手く行った。

 未だ私が一億総呪霊に拘っていると思ってたのかな?

 ま、その通りなんだけどさ!‭─‬‭─やり方は変えてたんだ。

 だから天元、君はもう必要ない。だって「繋がり」がある。破壊されても跡が残り、一瞬だけ修復し、各自10年寿命を対価にすれば最低限術師のそれに変えられる物が」

 

 墓守の手刀で天元様の本体の首が刎ねられ、宙を飛ぶ。

 肉体が消えた以上、天元様は魂だけの存在。いずれ消え去る者となった。

 

 

 ‭─‬‭─‬‭─‬‭─‭─‬‭─-‭─‬‭─‭ ̄‬‭─‬_______‭─‬‭-─ズッ。

 

 

 世界がずずりとズレていく。天元様の結界が崩壊を始めた。

 

 

「さぁさぁ! 私が掻き集めた呪いの真髄、全人類よどうぞご照覧あれ!

 

 世界を最っっ高に面白くしようじゃないか!!

 "私はこの一度でストックを使い切る"!

 

 "不特定多数と強制契約する術式" "封古将(ロック・ロー)"

 "運が絡む場面で必ず成功する術式" "因幡の兎(さめわたり)"

 "指定した対象に引き寄せられる術式" "舟網龍引(りゅうをおう)"

 

 オールインだ! "運良く"繋がりが一瞬復活し、全人類は"運悪く"私と契約する!

 そして引き寄せるのは‭─‬‭─地底深くに封じ込められた"第二冥府"!! いつか何処かの術師が抉り取ったあの世の一部!! "術師のみ惹き寄せる特性を持ったあの世を地上に晒す"!!!」

 

 話した内容で悟る。羂索は未だ"一族列伝を認知していない"。

 そして私達の話は一切認知していない。

 これはあくまでも事前に仕込んだ通りに喋っているだけ。

 「種」を「繋がり」といい、第二冥府の制作者である白金の名前を言っていない。

 ならばここは次の世代に継承を手早く済ませるが吉。

 

 "その上で呪具として主人の墓守に代わり、朝廷(天元様)に仕える契約を果たす義務が私にはある"。

 

「地上まで上がれば後は勝手に第二冥府に術師の死者が溜まる!

 この死後の世界を壺とし、転生を封じれば、一億の術師が溜まれば呪霊の蠱毒を!

 完成だ! 私の計画は最終段階に入った! 一年での世界の総死者数は最低5000万!

 転生を封じ、2年も待てば完成する! なんなら何もせずとも12年待てば転生の待機列が1億になる! そんなもの、千年の臥薪嘗胆と比べれば一瞬に過ぎない!」

 

 行うは降霊術。

 第二冥府に引き寄せられた天元様の魂を花で包み、その状態で墓守の娘の中へ向かう。

 魂は重なればそれだけで破綻するが、一族列伝は呪具で、物理的に花の上に座らせれば問題ない。

 問題は魂のみでは天元様の術式は発動せず、3日後には500年を経た昇華が待っていること。

 そして外に出したままでは自然と空に溶けてしまうこと。

 

「アッハハハハ!!! 最っ高の気分だよ、楽しみだなぁ、本当!」

 

 だがこれは奇貨でもある。

 逆を言えば3日、この状態を保持すれば一族列伝の中に天元様を納められる様になる。

 3日間結界で溶けるのを防ぎ、昇華した天元様を内側に納める。

 呪力の制限のない呪具ならば決して不可能ではない。

 そう決まった。

 

「アッハハ‭─‬‭─第三者を感知」

 

 後は‭─‬‭─行動に移すだけ。

 

「"一族列伝 強制継承 最高難度 対象:墓守"

 降霊術 "急急如律令‭─‬詠唱後述" "対象:天元"

 "結界術 魂封 擬骸結界"」

 

「誰かは知らないけど、折角最後の大詰めなんだ‭─‬‭─無様に死んで貰おうか」

 

「私語ですが、仮にも息子。尻拭いはしてあげます。

 ……不埒者、3日間私と踊る準備は良いですね?」

 

 彼岸花である一族列伝の形態では結界術は行使不可。

 であれば葬花として、墓守に対し継承儀式を執り仕切る。

 天元様の薄れていた魂を掴み、仮死状態にして封じる結界を展開。

 これにより"天元様は呪力から見てまだ死んでない扱いとなり、昇華までの3日の期日が動き出す"。

 

 後は可能な限り儀式の最中の時間を外と同期させてやればいい。

 そうすれば3日間戦い続け、その後に殺すだけで良くなる。

 

 最易一殺。

 最も簡単な方法で殺せる1番のやり方を。

 

「‭─‬‭─状況開始」

 

 片手に魂を、片手に糸切り鋏を。

 こうして、悪しき縁を斬る為の儀式が始まった。

 

 






 3日後、葬花は息子を殺した。

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