じゅじゅさんぽ・大呪災編
呪霊 『オレサマ オマエ マルカジリ』
ショタ乙「イヤダー! 死にたくなーい!」
模倣術式「生存本能が最適解を導き出す──僕と強い術師の人格の模倣!」
栗鼠 「で、僕が産まれたってワケ」
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↙︎2006年〜2017年
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余りにも最悪な崩壊だった。
「ッ!」
「いッ!!?」
「──っ!?」
「!!?」
五条、夏油、九十九、甚爾。
全員が一斉に同じ方角を見て、冷汗を流す。
暴走していた甚爾の縛りが解け、夏油が取り込んでいた呪霊の力が1000倍に膨れ、五条の視界一面に、遠くに呪霊の気配が広がり、星漿体として九十九が天元の死を察知する。
「全員私から離れろッ!!!」
最初に夏油が叫んだ。
これまで1000年以上結界により抑え込まれていた呪霊という存在が、その分の反動で通常より凶暴化した為だ。
夏油は数十万の……特級呪霊すら四桁は取り込んでいる。
それが一斉に千倍の負荷を与えればどうなるか。
先ず身体が持たないのは自明の理だろう。
「──空眼」
「ッ〜〜〜ガ……ィ…!!……ハァ! ハァ!……助かったよ、悟」
幸いだったのは、五条が敵味方を識別する領域展開を覚えていたこと。
夏油に対する凡ゆる攻撃の禁止の縛りを設けていたのもあるだろうが。
内側に居る呪霊のみを対象とした無量空処は、再度呪霊を掌握する為の時間を稼いで見せた。
「──この場はお開き! 私は除祓に行く!」
何かが、天元の身に起きた。
それを悟った九十九は僅かに惑い、それから近くの非術師を護る選択をした。
術式反転を用い、自身の重さを取り払って街に向かう。
例え全てを救えなくても、少しでもマシになるように。
「………」
「突っ立ってねぇで手伝え! この際さっきまで何やってたか関係ねぇ! このままじゃ人手が足りねぇんだよ!」
「悟! ソイツは置いておこう! 先ず私達が動かなければ!」
「……ッチ!」
遅れて、五条と夏油も都会へと向かう。
幸い高専周辺は霊地として天元の結界とは別に複数展開していた。
お陰で暫く放っておいても問題はなく、数少ない安地となる。
「……あほらし。なんの為に争ってたんだか」
気の抜けた声で、甚爾が投げ捨てる様に言った。
………最終的に、この「大呪災」は3日で終わりを告げる事となる。
天元とは別の……しかし同じくらいの強度の結界が誰かの手によって張られた為だ。
そして意外にも、この事件による非術師の死者数は0であった。
原因はかつて日本全国を工事して回った墓守の仕込み。
余程の事が起きた場合、周囲の呪霊と術師を無差別に取り込む結界を備えていた為である。
たった一度だけではあるが、天元の結界が消えようと被害を免れる。
発動しなければそれまでの、オマケ仕事の保険。
羂索すら想定してない、流されて得た仕事と巡り合わせの結果であった。
しかしこれは非術師の世界に限った話。
呪術界はこの悪夢の3日間により、派閥関係なく術師の8割が死亡する事となる。
その中で墓守の生徒で生き残ったのは僅か数名。
「ごめんね、悟
みんなを お ねが 」
楽厳寺、夜蛾、九十九、家入、五条……他数名。
「……なんでお前が死ぬんだよ、傑」
その中に夏油傑は居なかった。
…………
………
……
…
それから時は過ぎ、2017年。
「大呪災」による甚大な被害は未だ癒えないまま11年が経とうとしていた頃。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……」
或る学校の、教室の、ロッカーの、前。
一人、踞り謝り続ける細身の男の子が居た。
名を乙骨。術師としての能力があるが故に小学に入る前に巻き込まれた「大呪災」を運良く生き延び、今日に至るまで社会の隅で生きてきた者である。
『ゆーたぁ すきー』
「僕のせいです。僕がすぐに逃げなかったから…」
『ゆーた クルシイ?──ゆーた クルシメるやつ みんなしんじゃえ!!』
「ッやめろ やめ やめてくれ 里香ちゃん!!」
それは不幸でも、今となっては普通の話。
或る場所に幼くして「大呪災」に巻き込まれ、術師として覚醒した子供が居た。
その者は不幸にも車の後部座席で眠っている最中に交通事故に遭い、死亡。
怨霊として復活する際に或る者……乙骨との縛りの影響でその者に取り憑く事になる。
「"大人しくしろ"!!」
『ッア゛!……ごめんなさい ゆーた オコッタ? ごめんなさい』
「……いつになれば」
そこまでならば規模は違えど似た様な話は五万とある。
他と唯一変わっていた所は……死亡した子供が術師として覚醒を果たしていた事。
双方が本気で生涯を共にする縛りをしていた事。
その契約が反則的に無限の呪力を産み出した事。
「いつになれば……身体を里香に戻してくれるんだ。
"
「──僕にはどうしようもないよ。
僕だってしたくてやった訳じゃないんだから」
"それら一つ一つの要素が合わさり、里香の肉体に「もう一人の自分」を受肉させた事"。
「大呪災」で地上に現れ、現在は封印されたあの世の領域。そこから引き摺り出した別の自分。
幼い乙骨が術師の経験も無いのに生き残れた理由。
あの世で魂を溶かしていたとある術師の要素が混ざった別人格と入れ変わり、「大呪災」を乗り越えた。
模倣の術式を利用した自らの人格複製、複製人格を鶴瓶とした地表に出た第二冥府からの死者の汲み取り。
幼い頃の乙骨が行った、生きる為に犯した罪の証。
それが小学5年の時に、魂の髄まで深く契約していた里香の死亡の際、肉体を死なせない為に里香の身体に入り込んでしまった。
「何度も言うけど、僕はあの世で転生仕掛けていた術師と君が融合した人格だ。やれるのは君と、その術師が出来る事まで。代理は出来ても上位互換じゃない」
交通事故、生存者一名。
世間一般ではそう言う事になっている。
今、高校生にまで成長した里香の身体に入っているのはこの「もう一人の乙骨」で、里香ではない。
本物の里香はずっと、乙骨に束縛され続けている。
「それにさ、もうこのままでも良くない? だって11年だよ? 流石に無理だよ、里香ちゃんに身体を返すのは。もう僕が「折本里香」だった時間の方が長くなっちゃってるし……」
「黙れ!! お前が言っていい事は里香ちゃんを助けられるって言葉だけだ!!」
「……分かったよ、乙骨。もっと頑張って探してみるからさ…」
「……助けるんだ…絶対…大丈夫、大丈夫……」
仕方ないと、乙骨が落ち着いたのを見て教室に入った栗鼠がロッカーを開ける。
其処には乙骨をパシらせようとした男子高校生四名が鮨詰めになっていた。
「止められなくてごめんなさい。今助けます」
取り出し、反転術式……本人は癒すやり方としか覚えてない……力で治療していく。
どうやって覚えたかも記憶にないが、乙骨が抽出した人格由来の技術だ。
里香の肉体が優秀な術師のそれだったのもあり、瞬く間に男子達は傷一つない姿に戻っていった。
『ゆーたぁ オコられたー』
「よしよし、里香ちゃんは悪くないよ……帰ろうか、乙骨。ほら、立てる?」
「……要らない。自分で立てるから」
「僕も乙骨だけど…」
「や、
「…里香の手を借りたくない?」
「自分勝手に立ち位置変えるのやめなよ」
それがなんて事のない、一人と一体と一匹の日常。
日常になってしまった非日常。澱んでいて、少しずつ爛れていく良くない関係。
その内現実を知っていつかこの関係を受け入れてしまうような、そんな未来を考えて憂鬱になる袋小路。
「ッ里香!」
『──ゆーたをイジメるルナァ!!』
そんな表面だけが青々しく実った虫喰いの果実は……。
「……えっ?」
早々に剪定されるべきだろう。
『ガリ…復活して最初の食事がコレかい。一見、味は良いと思ったんだがね』
そう運命が嘲笑っているように。
ある日突然、それは現れたのだ。
人間で、死者で、呪詛師で、
かつて江戸に潜み術師を喰らい荒らした不定の獣。
「……誰ですか、あなた」
『あ? お前さん術師か。運が無かったね、私の食卓に挙がっちまうなんて』
乙骨を投げ飛ばした里香を無遠慮に掴み、肉体の半分を抉り喰らった。
その後真っ先に反応した栗鼠の上半身を反応する暇もなく吹き飛ばした。
「ちゃんと答えてください。
あなたは、誰だ」
黒板に叩き付けられた乙骨がその事実を噛み締める。
里香との繋がりがまだ感じられる以上、里香はまだ生きているのだろう。
身体が半分無くなっている以上再生には時間がかかるが、その内復活する。
「…………っ」
だが栗鼠は死んだ。長年育てて来た希望を、里香の身体と共に奴は壊した。
それは……とても許せる事ではない。
里香が蘇るかも知れないと希望を抱いてきたものが崩れたのだ。
『呪詛師。呪いを我が身の為に使ってるだけの人間さね』
「そうですか。死んでください」
乙骨は身体から無限の呪力を解放し……それを感じるや否や獣は即座に逃亡を開始した。
「ッ! 逃げるな!」
所詮獣の価値観で生きるもの。命の危機が訪れれば容易く尻尾を巻いて逃げ去る。
慌てて追うも……教室を出た時には残穢の欠片もなく、其処は平和な学校が残るばかり。
「クソッ逃げられ──」
「はい、捕まえた」
ぐわりと、乙骨は意識を刈り取られ気絶する。
背後からの不意打ち。肩を叩いただけにも関わらず気絶させる技巧。
「やーすごく濃い残穢だ。まともに撃ち合ってたら面倒だったかも」
かつての「大呪災」以来の無限呪力の解放。
乙骨が怒りのままに行使した力は、現代最強の術師を緊急出勤させるのに足るものだったらしい。
こうして乙骨は術師に拘禁され、その後事情を聴き取って処刑が決定。
「特級過呪怨霊「里香」の暴走の危惧。無限呪力が完全未知数である事から乙骨憂太を──」
「はいその結論ちょい待った。
肝心の逃げた呪詛師の姿を見たのこの子だけじゃん。
唯一の手掛かりを捨てるつもりか?」
そんな上層部の結論の結論に五条悟が待ったをかけた結果、処刑は保留。
五条悟の監視の元、蘇った呪詛師「鵺」の討伐まで猶予が設けられる事になる。
「すみません……僕がもっと強ければ」
「いいよいいよ。大人が子供の青春も守れないとかクソだし。
監視の為、独学で使っている力をしっかり制御させる為にも。
乙骨憂太、東京呪術高専への転入が決定。
折本里香(栗鼠)の葬式後、同学年の生徒達と友情を育んだり共に任務をこなし、改めて栗鼠がどれだけ強かったかを再認識したりしつつ、それを見本とし一ヶ月で特級に相応しい実力を身に付けた頃。
「……予知、ですか?」
「そ。天皇様が代々受け継いでる呪具に
来るらしいよ、鵺。大量の呪霊と一緒に1週間後の京都と東京の大通りに」
「両方に…?」
「まぁ昔の人だし転移くらいするよ。呪いの技術って大半が昔に途絶えてるから。昔の人の方が好き勝手やるんだよねー」
そんな訳で乙骨は京都に待機。
未だ傷が癒えず封印用の指輪で眠る里香と共に湧いた呪霊を任される事になる。
そして共に出現するらしい呪霊の対策も兼ね、各地の術師が二つの
そして当日。
「……来た!」
『ああ来たさ。蘇らせる代わりにこうしろって契約だからね』
「何を──ッ!!」
『ヒヒ…地獄の釜茹での始まりだよ。じっくり煮込まないとねぇ…?』
天元に代わり展開された結界に不備はない。
しかし、それは第二の冥府を開かない理由にはならない。
『この世だ…蘇ったのだ…!』
『武器を待て…稲穂を刈れ』
『ゼンインコロセ!!』
「何…っ!」
「嘘だろ…おい…"また"なのか!?」
「逃げ……構えろ! 最早逃げ場など……何処にもない!!」
東京と京都。数少ない第二のあの世の入り口から、この世ならざる者達が溢れ出した。
後に「百鬼夜行事件」と呼ばれるかつての"大災害の再演"。
大饗宴が始まった。
最悪から最高を掴め。