呪具「第二冥府」
三位一体のある呪具の一要素。長年封印され続けた事により分離した物。
あの世から切り取られた一部であり、術師の魂を取り込み転生させる性質を持つ。
中は一種の領域であり、理論上は領域の押し合いで破壊可能。但し破壊まで行くには無制限の呪力と相応の出力を要する。完全体の乙骨以外厳しい。
封印されていれば世界から少しずつ魂を集め、浮上していれば日本全土……今では東京区域を問答無用であの世にする。
この出力は不安定であり、上記の範囲はあくまで目安である事を留意する必要がある。
程度を調整して封印すれば世界の一部として、悪用する気なら幾らでも星を壊し得る。
そして「あの世の術師担当の部分」である事から、呪具として完全に封印すると"術師が転生出来ずこの世を彷徨い続けるハメになる"。
そして彷徨い続ければ怨霊になる。
正に千害あって
ある術師が理を崩した業の報い、その化身。
「──俺に呪力があればいいんだろ?」
2018年、或る六月の事だった。
周囲を無差別に呪い破滅に導く呪具、「宿儺の指」を喰らって器……否、檻として取り込めた者が現れた。
「素晴らしい 鏖殺だ───人の体でなにしてんだよ、返せ」
名を「虎杖悠
それまでは非術師として人外染みた力を持ちながらも、極々普通の高校生として生きた若者だった。
「君の秘匿死刑は決定した」
これに対し上層部は可能な限り宿儺の指を食べさせてからの殺害を決定。
「俺はとにかく人を助けたい」
「不合格だ」
「生き様で後悔はしたくない」
「合格だ」
五条の介入により呪術師としての教育も決定。
夜蛾校長に妥協点と看做され、東京呪術高専への転校を果たす。
『クキキキ』
「あ゛ーーー!!死にたくねぇ!!嫌だ!!嫌だぁ!!!
……でも…死ぬんだ…」
「……つくづく忌々しい
『──ッ"断"!』
「術師の俺を猿真似してどうして逃げられると思った? なぁ、虫けら」
特級呪霊の呪胎の報告から他四名の術師と共に討伐へ。
死者二名。虎杖悠香、十勝川下を犠牲に除祓。
遺体の解剖中に宿儺の手により虎杖が蘇生、表では死者二名、裏では虎杖に秘密の特訓を行わせる事となり。
「虎杖──ごめ パァン!
「「ゲラゲラゲラゲラゲラゲラ!!」」
(あ…分かった。コイツらとは絶対相慣れねぇ)
一月に及ぶ特訓により基礎を獲得した虎杖は京都校との交流会後、人の特級呪霊「真人」。
その呪霊が適当に選んで弄び殺した吉野順平の死を目撃し、呪霊と呪詛師がなんたるかを知る事となる。
そうして様々な経験と絶望を青春と共に駆け──十月三十一日。
「おい、でれねぇぞ!」
「なんだこの"黒い壁"!?」
「映画の撮影?」
「なんだよ帰らせてくれよーもー!」
渋谷にて。
「……騒がしいね、表通り。お祭りかな」
チチ。
「……特級呪霊だよね? やだなぁ、私は栗鼠と平穏に暮らすだけでいいのに」
フィフィ。
「……行くよ、事の中心に。自分の縄張りは守らないとだ」
裏路地から一匹、背丈が小さくて小汚い者が渋谷駅前に現れた。
その様相はまるで鼠のようであり、事実肩には鼠……よく見れば
かつて二度に渡った「大呪災」に不幸にも家族共々巻き込まれ、孤児に身を窶した者。
チチチチ。
「……そうだね、そろそろ死地だし。やっても良い頃合いかも」
そんなあぶれ者の、更に国家の保護から、呪術師の保護から、呪詛師の誘拐から、裏社会から、海外の人攫いから、全てからあぶれた正真正銘の徘徊孤児。
「"私は普段呪力を貯めている。そして特定の言葉を口にする事でそれを扱えるようになる"」
そんな社会のはみ出し者の中でもこの鼠が変わっている所があるとすれば、それは"額斜めに咲いた白い彼岸花"であろう。
──"チチ"
「──"変身"」
その意味を知る術師にとっては死の象徴であるそれは……。
当代の元々の強さに関係なく最適な力の運用を導き出すそれは、今代に対し一つの結論を出した。
"呪力の貯蓄、及び体内領域を表面に貼り付けた展開"。
「……術式名
変身前を無力とする代わりの、爆発的な力の獲得。
家電店を外からチラリと見た"魔法少女をモデルとした術式運用"。
「…オマケ。術式から力を分けられたただのリス」
「オマケその2。式神in葬花」
……どちらも、不服そうな顔で人の身体に変わり名乗りを挙げた。
金髪のカナダっぽいアリスといった感じの白人少女と、大和撫子然とした容姿も山伏に似た格好の少女だ。
そして鼠は平凡な少年から銀髪の片目隠し包帯のツインテ黒ゴス姫といったアイドル風の姿へ。
「……いつ見ても二人の性格って似てるよね」
「何処がですか」
「否定」
「……そういう端的なところ」
そうして具体性を帯びた術式は縛りの重さから対象を自身からはみ出し、"三名まで契約を結んだ相手に呪力や人の身体を与える事が出来るようになった"。
生得術式「石棺」
本来ならば死者と契約し力を引き出すエジプト神話を由来とした術式。
それが現代の価値観と合体し出来上がったのが、ペットのリスと葬花に人の身体を与える現状である。
げに恐ろしきは現代日本のサブカルチャーであろう。死者と契約出来る術式が、こんな孤児の少年の見た目が華やかなものに変わるような……「魔法少女に変身する」ふざけた術式に化けたのだから。
『ヂヂヂヂヂ』
「あ、呪霊」
「破ッ!」
「"死ね"」
「……殺意がすごいね」
……何が恐ろしいかと言えば、ちゃんと強い事だろう。
片や殺意の化身、片や何故か術式の
本体が虚弱体質である事を除いても、それを補って余りある従僕なのだ。
間話休題。
ズッ──。
「ッ葬花」
「はい。そっちは着地を」
「ん? この音は…下で誰か黒閃し──」
ともあれ渋谷の異変を察知した鼠は群れて駅に潜り始めた。
沸いた呪霊を従者が殺し、いざ裏路地から出て入り口へ向かおうとしたその瞬間。
『撥体!!!』
──戦況は既に終盤開始。
遅れた参入は鼠に致命的な隙を露わにした。
地下から上方向に向けられた特級呪霊の大技。
その直撃となる場所に運悪く立っていた状況。
「……わ」
「僕が守りますか?」
「いえ同時に。二人同時の不意打ちで一発で祓います」
「了解」
鼠より先に察知した二人の従者の連携によって呪力を使わずに防御、吹っ飛ばされるのを利用しビルの上に着地、そのまま置かれて隔離された。
「……おーい……距離制限無いし…確かに1番強い運用だけど…」
がっくりと鼠を放置し戦場に向かった従者を眺めつつ、ビル上から地下から飛び出した術師三名を確認する。
一人は継ぎはぎの特級呪霊、一人は上半身を脱いだ大男、一人は宿儺の呪力を感じる男。
『アゲてけよ虎杖!!! 俺とお前‼︎ 最後の呪い合いだ‼︎』
継ぎはぎの呪霊が叫ぶ。
明らかな戦闘の終盤宣言に割り込むかどうか逡巡するも、二人の従者は一切躊躇せず不意打ちを放った。
「"動くな"」
「──"裂魂"」
魂すらまとめて左右に裂く観音開き。爪先で肉も骨も砕き割る暗殺術。
どんな死なずの体質であろうと殺す事に重きを置いた守りを貫く殺し。
かつて当代になれず死んだ或る子供と同じ気配を感じたが故の判断。
手応えの無さに、魂の扱いに慣れた者と判ずる。
『……はあ"?』
「"流"」
間髪入れずの追撃。
技の繋ぎ目無く十六の技が矢継ぎ早に行使され、その四肢を細やかに解体していく。
不条理である呪霊すら理不尽に殺す暴威は、正しく僅かな呪力の薄刃と共に真人を無数の粒へと変えた。
「"
真人と対峙していた二人の術師が思考を纏める間もなく、更なる追撃が真人を襲った。
隣に立つ葬花の術式の模倣が行使され、集まった真人の塵魂が正の呪力により瞬く間に祓われた。
相手の生死に関わらず問答無用で魂を引き寄せる術式は、反転術師が使えるものにとっては即死技へと昇華された。
その手の才が無く本来の持ち手には決してできない芸当も、乙骨のコピーには関係ない。
「……先ず、真人を祓ってくれてありがとうございます。
けど……誰なんだよ、あんたら」
アッサリと無駄口一つ言えず祓われた真人を見て、大男が対応を決めあぐねてる間に虎杖が訊ねる。
真人と会う前の呪詛師との戦闘、地下にて五条悟が羂索と争っている中の強者の乱入。
味方か、敵か。見た目こそ可憐な……それこそ
状況との差異に異物感は感じれど、同時に肌に纏わり付く呪力と立ち振る舞いも恐ろしい程術師のそれ。
「"式神"」
「身体は渋谷住まいのある術師の式神。中身は術式の関係で死人の魂です」
無闇に警戒を解くことは出来ない手合い。
それはアッサリと答えられても同様のこと。
特に式神のデザインからしてクッッソッツマんねぇ奴なのは間違いない。
そう東堂はより警戒を強め、対して虎杖はこの答えが友好的な物であると受け止めた。
「そっか。ならその術師と話がした『待て、小娘』──
話がしたい。
そう持ちかけようとした虎杖を中から様子を見ていた宿儺が止める。
一眼見て理解した。あれは間違いなく傀塚家の体術、動き方である。
であればその正体にも概ね掴めるというもの。
そして開示された「死者の魂を込めた式神」という点……。
顔は式神のデザインに依るものなので似ても似つかないが、その振る舞いには「傀塚魔子」という大層覚えがある存在が重なっていた。
「なんだよ宿儺。態々領域に引き込んでまで何しようってんだ」
『アレと会話するな。西洋人形の方は知らんが、日本人形の振る舞いには覚えがある』
「は? なんで従わなきゃいけねぇんだよ」
『まぁ聞け。俺が珍しく忠告してやってるのだ。本来なら頭を下げて咽び泣くほどの有難い事態だぞ?』
傀塚魔子は……マズい。
宿儺は想起する。
アレはどうやったか伏黒恵と同じ術式の奥義を、人間に転じて創り上げた自称式神の全身適応人間。
謂わば十年単位で稼働を続けた魔虚羅。その適応範囲を思えば先ず勝てる道理がない。そんなものと小娘が協力すれば一生この檻の中で死ぬのを待つ事になる。
宿儺は途中で傀塚家を退職したので詳細は知らないが、聞けば当主が自殺を指示するまで生涯無敗を貫いた傀塚家の
呪具として数百年暇潰しがてら術式や技術を磨いた今でも自分が勝てる姿は思い浮かばないのだ。ここは小娘をどうにかこうにか騙すのが吉である。
『あれは平安で相当暴れ回っていた術師の一人だ。現代で呪いの王は俺だとか何とか言っているが、真に厄災と言うのであれば彼方の方。俺が幾度となく挑んで倒せない相手だ。小娘など一瞬だろうな』
「つまり、宿儺を上回る呪詛師ってことか?」
『呪いの業としての深さであれば、彼方が数倍は上だ。俺が突然変異とすれば奴は一族代々の業其の物。濁りも心の歪さも何もかも違う』
余裕綽々とした振る舞いで、上目線で嘘を垂れ流す。
小娘の返答がいつもの事ながら癪に障る言い方だったので、思わず本当の事を言いそうで少々危うかったが……呪術師は騙される方が悪いもの。
信用はされないだろうが、それでも簡単に協力する事は無くなったのであれば問題はない。
「……うし、お前の言葉より、俺は真人を倒してくれた結果を信じたい。これ以上話がねぇならサッサと戻せ」
『はぁ……ならば精々足掻けよ、小娘』
これまでの関わりが悪くなって返ってきた事に呪いの因果を感じつつも、宿儺はこれ以上の話は無駄と見て小娘を戻した。
どこか隙を見て"伏黒恵に乗っ取りに行く"か、はたまた……宿儺は遊覧気分から気分を落とされたのを不愉快に思いつつも、何処か懐かしさに半笑いで術師としての思考を回し始めたのだった……。
「──っと、ごめんふらついた。
改めてそっちの術師と話がした……」
そうして宿儺の領域から戻った時、目前の景色は随分と変化を遂げていた。
宿儺による領域内の時間の流れ方の調整、敢えて外よりも遅くする事による虎杖の会話機会の奪取である。
「マイシスター! 気を取り戻したなら構えろ! 変態野郎をぶちのめすぞ!」
「指示を」
「あっはは…嫌われちゃいましたね」
「……タイプってなにそれって言っただけなのに」
「そんな女児趣味でリアルネカマやってる奴が惚けてんじゃねぇ‼︎ リアバ美肉クソチン野郎!」
「……私、もしかして悪口言われてる?」
理解、拒絶、逃避、そして受け入れ。
虎杖の5秒間に渡る情動の動きであった。
「よし分かんないけどわかった!
東堂! 多分こっちが悪いから落ち着け!
あれだ……五条先生手伝いに行こ! ね!?
あの反応的にあの人達悪い人じゃねーから!」
こうして話し合いはなあなあで解散し、虎杖と東堂は五条先生の方へ助けに行く事になった。
それを見て鼠達もその場を解散。二人とは別の戦場に行く事になる。
その後鼠は一族列伝を失うような出来事に会うのだが。
……さて。
この終盤まで、可能な限り裏路地で日々を過ごしていた鼠の視点に立ち、ほぼ全ての話を省略した。
この後も鼠等の動向を追い続けて渋谷事変を、それに伴う一族列伝の顛末まで終えても良いのだが…それではこの余りにもこの変わった流れは読み難いだろう。
本来ならばこの事変だけでも五条の封印、魔虚羅の調伏開始、宿儺の大虐殺、真人との決戦であった筈の渋谷事変、その後に続く筈だった死滅回遊……。
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↙︎2018年10月31日
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ギリリ…。
ここではこの事変で全ての決着が付くが、このままでは余りにも味気ない。
であれば全てが変わった分、虎杖達の視点で、最初から。
ガコン。
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↙︎2018年6月中旬
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一族列伝の話が945年から始まったように、虎杖悠仁の話も2018年6月から話さなければ道理ではない。
しかしそれでは話を一新するようなもの。
であれば……これまでの話は壮大で悠長な序詞であったと思い、改めて読み進める必要があるだろう。
なので、この先に進むならばこの一文を読み
"この話は虎杖悠仁が女として産まれた世界であった場合の、迂遠で最大な
"この条件を宜しいと判断したならば、先を読む事を契約の承諾とみなし、波及に同意したとしてこの空想未来を閲読する契約を締結とする。"
1804年 一族列伝 十八代目当主 フーチェ・リテラチャーより。
1804年 宿儺の指 二十分割の魂の一つへ。
預言書
今作独自の予言が齎す混乱が元となった術式。
本を出現させ、これに書き加える事で未来に攻撃を設置出来るが、戦闘中にそんな余裕はないのでほぼ産廃。
縛りを幾つか結ぶことで「あり得る未来の一つ」を元にした
中身は未来の一つなので先ず一致しない。が、参考には出来る。
今話の最後の文は1804年当時に宿儺と契約した際の縛り内容。
結果として偶然にも宿儺が契約してない以外は完全一致した。
別に今作の全てがこの預言者に書かれた空想話という訳ではない。預言書の方は全て年表みたいになってる。
存在するだけで物事をややこしくするが、無いものとして扱ってよい術式。